令和3年 司法試験 再現答案 知的財産法

再現答案

(第1問=特許法
1 設問1
(1) 特許権の侵害には、原則として、業として特許発明の実施をすることが必要である(68条本文)。
 A製品は、樹脂製の針を用いており、金属製の針とする構成要件αを充足しないから、文言侵害は成立しない。
(2) そこで、均等侵害を検討する。
 特許発明の構成の一部を置換した場合でも、①置換されたのが発明の本質的部分ではなく、②置換によっても同一の効果を奏し、③置換が侵害時に当業者にとって容易に推考でき、④置換後の構成が出願時の公知技術と同一かそこから当業者が容易に想到できたものではなく、⑤置換後の構成を意識的に除外したなどの特段の事情がない場合には、特許発明と均等なものとして、侵害が成立する。①〜③の場合に侵害を認めなければ、先願主義による時間的制約の下で出願しなければならない特許権者に酷である一方、相手方は容易に侵害を免れうることとなり、公平に反し、発明のインセンティブを阻害して特許制度の目的(1条)に反する。一方、④の場合には、その技術は特許を受けることができなかったものであり、また、⑤の場合には禁反言に反するからである。
 ①は、構成要件を分節するのではなく、同一の技術的思想の範囲に属するかによって判断すべきである。⑤は、単に出願時同効材があったというだけではこれに当たらないが、明細書に記載するなどした場合には、これに当たる。
 A製品は、樹脂製の針を用いているが、X発明の効果を奏し、そのことに当業者が容易に想到できたから、①〜③を満たす。④にあたる事情もない。⑤について、明細書にその他の硬い針を用いてもよいとの記載がこれに当たるかが問題となりうるが、樹脂製の針が硬い針であることは当業者にとって自明だったから、禁反言の前提である第三者にとっての信頼が生じうるといえ、これを満たす。したがって、均等侵害が成立しない。
 以上から、侵害が成立しない。
2 設問2
(1) Bは、X製品を分解・再組み立てしているから、業として実施としての生産(2条3項1号)を行っている。
(2) もっとも、消尽の成立が問題となる。
ア 特許権者が国内で特許製品を譲渡した場合には、特許権はその特許製品につき消尽し、もはや権利行使をすることはできない。①特許製品の流通の安全を図る必要があるし、②特許権者は対価回収の機会があり、二重の利得の機会を与える必要はないからである。
 Bが販売しているのはX製品の使用済み品を処理したものであるから、原則として消尽が認められる。
イ もっとも、当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたといえる場合には、消尽は成立しない。このような場合には、上記趣旨①②が妥当しないからである。新たな製造に当たるかは、特許製品・特許発明の性質に照らした加工の態様および取引の実情を総合的に考慮して判断すべきである。
 Bは、部品交換を行っていないが、分解・洗浄・組み立て・滅菌処理により、X製品の技術的特徴を再現しているし、医療用器具として最も重要と思われる衛生を確保している。また、添付文書には再使用禁止と明記されており、再使用が容認されていたという事情はない。これらを考慮すると、Bの加工は新たな製造に当たり、消尽は成立しない。
 以上から、侵害が成立する。
3 設問3
(1) 小問1
ア C製品の一体化同時穿刺が文言侵害となることは明らかであるが、C製品は一体化機構を備えていないから、Cにおいて文言侵害は成立しない。
イ そこで、間接侵害(101条)が問題となる。
(ア) 1号について。
 物の生産に「のみ用いる物」とは、その物の生産以外の経済的・実用的用法がないことをいう。
 C製品は、本来独立して使用するものであるから、これに当たらない。このことは、一体化同時穿刺が行われているのが全使用症例数の3割にすぎないことからも明らかである。
 したがって、1号に該当しない。
(イ) 2号について。
a 生産に用いる物でその課題の解決に「不可欠なもの」とは、それによって初めて課題が解決できるような構成をいう。
 製品Cは、固定部材によって一体化されていない点を除いてX発明の構成要件を充足するが、固定部材のみで課題を解決することはできないから、「不可欠なもの」に当たる。一体化同時穿刺が行われているのは全使用症例数の3割にすぎないが、本号の要件は「用いるもの」であり、「のみ用いるもの」ではないから、結論を左右しない。
b 「知りながら」とは、その発明が特許発明であることと被疑侵害品が特許製品の生産に用いられていることについての悪意であり、重過失を含まない。もっとも、差止請求との関係では、口頭弁論終結時までに充足すればよい。
 Cは、Xの調査結果を含む警告書を受領しているから、悪意である。
c 非汎用(広く一般に流通しているものではないこと)について、これに当たる事情はない。一体化同時穿刺に用いられているクリップは汎用品だが、汎用品であってはならないのは被疑侵害品であり、組み合わせる物ではない。
d CはC製品を業として生産・譲渡している。
 したがって、2号に該当する。
 以上から、差止請求は認められる。
(2) 小問2
ア 推定覆滅事情の主張が考えられる。
 102条2項は、all-or-nothingを回避し、柔軟な解決を可能にするものであり、効果も推定にとどまることから、同項の「利益」とは、限界利益(売上原価は控除するが、サンクコストである販売管理費は控除しない)の全てをいうと解するべきであり、相当因果関係を阻害する事情を主張・立証してこれを覆滅できると解するべきである。
 推定を覆滅する事情として、①市場の非同一性、②競合品の存在、③ブランド、営業などの努力、④侵害品の他の特徴が考えられる。このうち、①は認められず、④もX製品・C製品が実用品であり、また、需要者が医療機関であることからすれば、考えがたい。②③については、問題文からは直ちに明らかでないが、そのような事情があれば、それを主張することが考えられる。
イ 悪意となった時期に関する反論が考えられる。
 101条2号においては、悪意が侵害の要件となっているから、損害と評価されるのも、悪意となって以降のものに限られる。
 Cは、添付文書に一体化同時穿刺を行わないように記載していたから、警告書の受領によって初めて悪意となったものであり、それ以前の利益については、102条2項の推定は及ばない。
(2669字)

(第2問=著作権法
1 設問1
 Aは、複製権(21条)に基づき印刷の、譲渡権(26条の2)に基づき売却の差止め(112条1項)を請求し、侵害の予防に必要な措置(同条2項)としてデータの廃棄を請求することが考えられる。その前提として、著作物性および職務著作が問題となる。
(1) 著作物とは、①思想又は感情を②創作的に③表現したもので、④美術等の範囲に属するものをいう。①は何らかの精神活動の産物であればよい。②は何らかの個性が発揮されていればよい。③はアイデアを、④は緩やかな要件による独占による弊害に着目して産業財産権法に委ねるべきものを除外する趣旨である。
 丙が撮影した写真は、丙が写真の構図、最高、露光、シャッタースピード等を調節して撮影したものだから、①〜③を満たす。④について、写真は作業に参考とするために撮影されたが、鑑賞の対象となりうるから、これを満たす。このことは、丙が売却を申し出を申し出ており、そうしたのは鑑賞の用に供する需要があると考えたためと考えられることからも推認できる。
 したがって、著作物性が認められる。
(2) 職務著作は、①法人等の発意に基づき、②その業務に従事する者が、③職務上作成する著作物で、④プログラムの著作物でなく、⑤特段の定めがない場合に成立する(15条1項)。
 丙はAの従業員だから、②を満たす。丙が写真を撮影したのは、Aの企画したαの制作のためだったから、①、③を満たす。④、⑤に当たる事情はない。
 したがって、職務著作が成立し、写真の著作者はAとなる。
(3) 複製とは、有形的再製をいう(2条1項14号)。印刷は紙という有形物に写真を再製するものだから、これに当たる。
(4) 譲渡とは、著作物を化体する有体物たる原作品または複製物の所有権を移転することをいう。上記印刷物の売却はこれに当たる。
 公衆とは、不特定または特定多数の者をいう(2条5項参照)。不特定多数者が閲覧できるホームページを通じて行われる売却の相手方はこれに当たる。
(5) 甲はいまだ上記侵害行為を行っていないが、ホームページ上でそれを行う告知をしているから、「著作権〔を〕侵害するおそれがある者」に当たり、「侵害の…予防」として差止めを請求できる。
(6) データの保持は侵害を構成するものではないが、差止めの実効性確保に必要であり、丙はデータをAの持ち出し禁止・廃棄命令に違反して持ち出したものであり、被写体との関係でも、甲はAの従業員としてその企画するαの制作のために肖像の利用を許諾したにすぎないと考えられるから、丙は何らデータを適法に利用しうる地位にないから、「専ら侵害の行為に供され〔る〕機械…の廃棄」に準ずる「侵害の…予防に必要な措置」として廃棄を請求できる。
 以上から、Aの請求は認められる。
2 設問2
(1) 小問1
ア 頒布権侵害(26条)について。「映画の著作物」は劇場用映画に限定らず、映像を利用した著作物をいう。コンピュータ用ゲームソフトであるαはこれに当たる。その複製物の中古販売はは、頒布(2条1項19号)に当たる。
イ もっとも、消尽が成立しないか。
 著作権者が国内で著作物の複製物を譲渡した場合、①流通の安全を図る必要があるし、②著作権者は対価回収の機会があり、二重の利得の機会を与える必要はないから、もはやその複製物には権利を行使できないと解するべきである。頒布権については、配給制度の対象となっている劇場用映画については、多額の投資がされること、個別の権利行使が困難であることから、消尽が成立しないが、そうではない、公衆に対する提示を目的としない家庭用メディアの譲渡については、消尽が成立すると解するべきである。譲渡権に関する26条の2第2項は、確認規定にすぎず、反対解釈すべきでない。
 Bが販売しているのはAが販売したαの中古品だが、αは公衆に対する提示を目的としない家庭用メディアだから、消尽が成立する。
 以上から、Aの請求は認められない。
(2) 小問2
 Bの割賦販売サービスは、6日間に返品することを解除条件とする売買契約であると解される。もっとも、このような特殊な売買が消尽の対象となるかは、上記消尽の根拠①②に照らして実質的に検討すべきである。
 まず、①については、売買である以上、妥当する。もっとも、②については、コンピュータ用ゲームソフトは6日間あればある程度遊び尽くすことができること、頭金は新品の価格よりも特に安価と考えられ、獲得できる需要者はより多く、その増加分だけ新たな複製が行われたのと同等の経済的打撃を競合品の販売者であるAにもたらすこと、ゲームはリセットが可能であり、容易には消耗しないことからすれば、対価回収の機会があったとはいえない。したがって、消尽は成立しないと解するべきである。
 以上から、Aの請求は認められる。
3 設問3
 丁はAに著作権を譲渡しているが(特掲につき61条2項)、著作権著作者人格権は別であるから(50条参照)、直ちに同一性保持権の行使ができなくなるものではない。また、不行使の合意がなされたと評価できるとしても、それは丁A間においてであり、乙を当事者とするものではない。
 しかし、①翻案・二次的著作物の著作権が特掲により譲渡されており、翻案は通常改変を伴うから、翻案のみを許諾することは合理的でなく、そうしたとの特段の事情もないから、黙示的に同一性保持権の不行使特約がされていたと評価できること、②丁がβ'を編曲したのは、αの続編ソフトのためであり、ゲーム内での使用態様も、βと同様にBGMとしてであり、十分に予測可能であること、③丁による改変は、乙の意に反するにせよ、名誉声望を害するようなものではないこと(113条11項参照)、④丁は不行使特約の当事者たるAから依頼を受けて、Aが企画するαの続編ソフトのために編曲をしており、A自身が編曲を行うのと同視できることからすれば、乙の請求は権利濫用である。
 したがって、乙の請求は認められない。
(2489字)

(合計5158字)

 

ノート

第1問 - 設問1

1 設問1
(1) 特許権の侵害には、原則として、業として特許発明の実施をすることが必要である(68条本文)。
 A製品は、樹脂製の針を用いており、金属製の針とする構成要件αを充足しないから、文言侵害は成立しない。
(2) そこで、均等侵害を検討する。
 特許発明の構成の一部を置換した場合でも、①置換されたのが発明の本質的部分ではなく、②置換によっても同一の効果を奏し、③置換が侵害時に当業者にとって容易に推考でき、④置換後の構成が出願時の公知技術と同一かそこから当業者が容易に想到できたものではなく、⑤置換後の構成を意識的に除外したなどの特段の事情がない場合には特許発明と均等なものとして、侵害が成立する。①〜③の場合に侵害を認めなければ、先願主義による時間的制約の下で出願しなければならない特許権者に酷である一方、相手方は容易に侵害を免れうることとなり、公平に反し、発明のインセンティブを阻害して特許制度の目的(1条)に反する。一方、④の場合には、その技術は特許を受けることができなかったものであり、また、⑤の場合には禁反言に反するからである。
 ①は、構成要件を分節するのではなく、同一の技術的思想の範囲に属するかによって判断すべきである。⑤は、単に出願時同効材があったというだけではこれに当たらないが、明細書に記載するなどした場合には、これに当たる。
 A製品は、樹脂製の針を用いているが、X発明の効果を奏し、そのことに当業者が容易に想到できたから、①〜③を満たす。④にあたる事情もない。⑤について、明細書にその他の硬い針を用いてもよいとの記載がこれに当たるかが問題となりうるが、樹脂製の針が硬い針であることは当業者にとって自明だったから、禁反言の前提である第三者にとっての信頼が生じうるといえ、これを満たす。したがって、均等侵害が成立しない。
 以上から、侵害が成立しない。

均等侵害の一般的な問題です(ボールスプライン事件、マキサカルシトール事件控訴審、同上告審)。

ボールスプライン事件はだいたい書けましたが(第2要件と第3要件の「容易に想到」「容易に推考」を逆にしてしまいましたが、あの違いに意味はあるんでしょうか)、マキサカルシトール事件の例外規範(「客観的,外形的にみて,同製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえる」)はよく覚えていなかったので適当に書きました。あてはめ中で「信頼を生じさせる」っぽいことを書いてるから加点してくれたりしないかなという感じです。

 

第1問 - 設問2

2 設問2
(1) Bは、X製品を分解・再組み立てしているから、業として実施としての生産(2条3項1号)を行っている。
(2) もっとも、消尽の成立が問題となる。
ア 特許権者が国内で特許製品を譲渡した場合には、特許権はその特許製品につき消尽し、もはや権利行使をすることはできない。①特許製品の流通の安全を図る必要があるし、②特許権者は対価回収の機会があり、二重の利得の機会を与える必要はないからである。
 Bが販売しているのはX製品の使用済み品を処理したものであるから、原則として消尽が認められる。
イ もっとも、当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたといえる場合には、消尽は成立しない。このような場合には、上記趣旨①②が妥当しないからである。新たな製造に当たるかは、特許製品・特許発明の性質に照らした加工の態様および取引の実情を総合的に考慮して判断すべきである。
 Bは、部品交換を行っていないが、分解・洗浄・組み立て・滅菌処理により、X製品の技術的特徴を再現しているし、医療用器具として最も重要と思われる衛生を確保している。また、添付文書には再使用禁止と明記されており、再使用が容認されていたという事情はない。これらを考慮すると、Bの加工は新たな製造に当たり、消尽は成立しない。
 以上から、侵害が成立する。

消尽の一般的な問題です(インクタンク事件)。

だいたい書けました。「新たな製造」の考慮事情は最高裁のものは未整理な感じがして覚えにくかったので、田村先生の整理を参考にしています(百選解説、プラクティス特許法)。結局消尽の2つの根拠が妥当するかを見ているんだということも含めて、とても参考になります。

 

第1問 - 設問3

3 設問3
(1) 小問1
ア C製品の一体化同時穿刺が文言侵害となることは明らかであるが、C製品は一体化機構を備えていないから、Cにおいて文言侵害は成立しない。
イ そこで、間接侵害(101条)が問題となる。
(ア) 1号について。
 物の生産に「のみ用いる物」とは、その物の生産以外の経済的・実用的用法がないことをいう。
 C製品は、本来独立して使用するものであるから、これに当たらない。このことは、一体化同時穿刺が行われているのが全使用症例数の3割にすぎないことからも明らかである。
 したがって、1号に該当しない。
(イ) 2号について。
a 生産に用いる物でその課題の解決に「不可欠なもの」とは、それによって初めて課題が解決できるような構成をいう。
 製品Cは、固定部材によって一体化されていない点を除いてX発明の構成要件を充足するが、固定部材のみで課題を解決することはできないから、「不可欠なもの」に当たる。一体化同時穿刺が行われているのは全使用症例数の3割にすぎないが、本号の要件は「用いるもの」であり、「のみ用いるもの」ではないから、結論を左右しない。
b 「知りながら」とは、その発明が特許発明であることと被疑侵害品が特許製品の生産に用いられていることについての悪意であり、重過失を含まない。もっとも、差止請求との関係では、口頭弁論終結時までに充足すればよい。
 Cは、Xの調査結果を含む警告書を受領しているから、悪意である。
c 非汎用(広く一般に流通しているものではないこと)について、これに当たる事情はない。一体化同時穿刺に用いられているクリップは汎用品だが、汎用品であってはならないのは被疑侵害品であり、組み合わせる物ではない。
d CはC製品を業として生産・譲渡している。
 したがって、2号に該当する。
 以上から、差止請求は認められる。

間接侵害の一般的な問題です(医療用器具事件)。事例は同事件のものがベースになっています。

小問1については、同事件のことは知っていたのですが、専ら「知りながら」要件のことが頭に残っており(百選のタイトルが「15 知りながら」なので…)、「用いる」要件の規範を(そもそもそれで一つの論点なのだということも含めて)忘れていました。同判決は、「〔当該製品〕の使用態様として格別特異なものではなく、通常行われる〔当該製品〕の使用態様の一つである」場合には、「用いるもの」に当たるとしています。論点だということがわかっていれば「のみ用いるもの」(こっちを知らない人はいないでしょう)の規範からなんとか導けた気もします。

(2) 小問2
ア 推定覆滅事情の主張が考えられる。
 102条2項は、all-or-nothingを回避し、柔軟な解決を可能にするものであり、効果も推定にとどまることから、同項の「利益」とは、限界利益(売上原価は控除するが、サンクコストである販売管理費は控除しない)の全てをいうと解するべきであり、相当因果関係を阻害する事情を主張・立証してこれを覆滅できると解するべきである。
 推定を覆滅する事情として、①市場の非同一性、②競合品の存在、③ブランド、営業などの努力、④侵害品の他の特徴が考えられる。このうち、①は認められず、④もX製品・C製品が実用品であり、また、需要者が医療機関であることからすれば、考えがたい。②③については、問題文からは直ちに明らかでないが、そのような事情があれば、それを主張することが考えられる。
イ 悪意となった時期に関する反論が考えられる。
 101条2号においては、悪意が侵害の要件となっているから、損害と評価されるのも、悪意となって以降のものに限られる。
 Cは、添付文書に一体化同時穿刺を行わないように記載していたから、警告書の受領によって初めて悪意となったものであり、それ以前の利益については、102条2項の推定は及ばない。

小問2は、最初何が聞かれているのか分からず混乱しました。102条2項なので、とりあえず損害推定覆滅事情について書いてみましたが(二酸化炭素含有粘性組成物事件)、事情があまり挙がっていなかったので出題趣旨に含まれているのかどうかはわかりません。需要者が医療機関だから〜というくだりは令和元年経済法第2問を解いたときに、市場画定(競争が行われている範囲の認定)の関係でそんなことを書いたような気がします(は?って感じですよね。趣味なので書けなくて大丈夫です)。限界利益説はとりあえず書きましたが蛇足ですね。

後半の悪意と損害額の関係は、少なくとも主たる出題趣旨となっているものと思います。問題文に「これまでに販売した…全数量」とあり、わざわざこう書く意味は何だろうと考えたらわかりました。なお、悪意要件の機能については、医療用器具事件の百選解説に説明があります。

 

第2問 - 設問1

1 設問1
 Aは、複製権(21条)に基づき印刷の、譲渡権(26条の2)に基づき売却の差止め(112条1項)を請求し、侵害の予防に必要な措置(同条2項)としてデータの廃棄を請求することが考えられる。その前提として、著作物性および職務著作が問題となる。
(1) 著作物とは、①思想又は感情を②創作的に③表現したもので、④美術等の範囲に属するものをいう。①は何らかの精神活動の産物であればよい。②は何らかの個性が発揮されていればよい。③はアイデアを、④は緩やかな要件による独占による弊害に着目して産業財産権法に委ねるべきものを除外する趣旨である。
 丙が撮影した写真は、丙が写真の構図、最高、露光、シャッタースピード等を調節して撮影したものだから、①〜③を満たす。④について、写真は作業に参考とするために撮影されたが、鑑賞の対象となりうるから、これを満たす。このことは、丙が売却を申し出を申し出ており、そうしたのは鑑賞の用に供する需要があると考えたためと考えられることからも推認できる。
 したがって、著作物性が認められる。
(2) 職務著作は、①法人等の発意に基づき、②その業務に従事する者が、③職務上作成する著作物で、④プログラムの著作物でなく、⑤特段の定めがない場合に成立する(15条1項)。
 丙はAの従業員だから、②を満たす。丙が写真を撮影したのは、Aの企画したαの制作のためだったから、①、③を満たす。④、⑤に当たる事情はない。
 したがって、職務著作が成立し、写真の著作者はAとなる。
(3) 複製とは、有形的再製をいう(2条1項14号)。印刷は紙という有形物に写真を再製するものだから、これに当たる。
(4) 譲渡とは、著作物を化体する有体物たる原作品または複製物の所有権を移転することをいう。上記印刷物の売却はこれに当たる。
 公衆とは、不特定または特定多数の者をいう(2条5項参照)。不特定多数者が閲覧できるホームページを通じて行われる売却の相手方はこれに当たる。
(5) 甲はいまだ上記侵害行為を行っていないが、ホームページ上でそれを行う告知をしているから、「著作権〔を〕侵害するおそれがある者」に当たり、「侵害の…予防」として差止めを請求できる。
(6) データの保持は侵害を構成するものではないが、差止めの実効性確保に必要であり、丙はデータをAの持ち出し禁止・廃棄命令に違反して持ち出したものであり、被写体との関係でも、甲はAの従業員としてその企画するαの制作のために肖像の利用を許諾したにすぎないと考えられるから、丙は何らデータを適法に利用しうる地位にないから、「専ら侵害の行為に供され〔る〕機械…の廃棄」に準ずる「侵害の…予防に必要な措置」として廃棄を請求できる。
 以上から、Aの請求は認められる。

著作物性・職務著作・差止請求および予防措置請求の一般的な問題です。

ミスりました。問題文には「新潟鐵工事件」というメモがあるのに、「法人の名義の下に公表するもの」要件について書いた覚えがありません。条文はちゃんと見ましょう。書くとしたら次のように書いたと思います。

 「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」は、創作後の事情によって左右されるのは不合理だから、公表するとすれば法人等の名義の下でするものを含む。
 写真は公表されていないが、Aは、写真の持ち出しを禁じ、αの完成後の廃棄を命じるなど写真を厳重に管理していたから、仮に公表するとすれば自己名義によったと考えられ、これを満たす。

差止請求・措置請求については、特許権に関するカリクレイン事件を参考にするなどして、明示的に規範を定立したほうがよかったかもしれません(要素は書いてありますが)。

 

第2問 - 設問2

2 設問2
(1) 小問1
ア 頒布権侵害(26条)について。「映画の著作物」は劇場用映画に限定らず、映像を利用した著作物をいう。コンピュータ用ゲームソフトであるαはこれに当たる。その複製物の中古販売はは、頒布(2条1項19号)に当たる。
イ もっとも、消尽が成立しないか。
 著作権者が国内で著作物の複製物を譲渡した場合、①流通の安全を図る必要があるし、②著作権者は対価回収の機会があり、二重の利得の機会を与える必要はないから、もはやその複製物には権利を行使できないと解するべきである。頒布権については配給制度の対象となっている劇場用映画については、多額の投資がされること、個別の権利行使が困難であることから、消尽が成立しないが、そうではない、公衆に対する提示を目的としない家庭用メディアの譲渡については、消尽が成立すると解するべきである。譲渡権に関する26条の2第2項は、確認規定にすぎず、反対解釈すべきでない。
 Bが販売しているのはAが販売したαの中古品だが、αは公衆に対する提示を目的としない家庭用メディアだから、消尽が成立する。
 以上から、Aの請求は認められない。

小問1は消尽の一般的な問題です(中古ゲームソフト事件)。設問1(特許法)と設問2(著作権法)は、ファーストドラフトの分担はあるのかもしれませんが、最終的には同じメンバーで話し合って作っているはずで、それなのに両方で消尽が出たのは少し驚きました。

(2) 小問2
 Bの割賦販売サービスは、6日間に返品することを解除条件とする売買契約であると解される。もっとも、このような特殊な売買が消尽の対象となるかは、上記消尽の根拠①②に照らして実質的に検討すべきである。
 まず、①については、売買である以上、妥当する。もっとも、②については、コンピュータ用ゲームソフトは6日間あればある程度遊び尽くすことができること、頭金は新品の価格よりも特に安価と考えられ、獲得できる需要者はより多く、その増加分だけ新たな複製が行われたのと同等の経済的打撃を競合品の販売者であるAにもたらすこと、ゲームはリセットが可能であり、容易には消耗しないことからすれば、対価回収の機会があったとはいえない。したがって、消尽は成立しないと解するべきである。
 以上から、Aの請求は認められる。

上記に対して、小問2は応用問題です。今年の知財で一番考えさせる問題だった気がします。消尽の根拠から組み立てましたが、譲渡と貸与の性質決定の問題として組み立てることもできたと思います(頒布権には譲渡と貸与が含まれ、貸与は消尽しません。もっとも、なぜそう解するべきなのかという文脈で、やはり根拠に言及することになる気はします)。

なお、田村先生のプラクティスシリーズは、特許法のほうだけ読んでいたのですが、消尽の例外(「新たな製造」)は根拠論の限界に当たるかの判断なのだということを、多くの具体例を挙げて説明してくれており、ここでもかなり役に立ちました。

 

第2問 - 設問3

3 設問3
 丁はAに著作権を譲渡しているが(特掲につき61条2項)、著作権著作者人格権は別であるから(50条参照)、直ちに同一性保持権の行使ができなくなるものではない。また、不行使の合意がなされたと評価できるとしても、それは丁A間においてであり、乙を当事者とするものではない。
 しかし、①翻案・二次的著作物の著作権が特掲により譲渡されており、翻案は通常改変を伴うから、翻案のみを許諾することは合理的でなく、そうしたとの特段の事情もないから、黙示的に同一性保持権の不行使特約がされていたと評価できること、②丁がβ'を編曲したのは、αの続編ソフトのためであり、ゲーム内での使用態様も、βと同様にBGMとしてであり、十分に予測可能であること、③丁による改変は、乙の意に反するにせよ、名誉声望を害するようなものではないこと(113条11項参照)、④丁は不行使特約の当事者たるAから依頼を受けて、Aが企画するαの続編ソフトのために編曲をしており、A自身が編曲を行うのと同視できることからすれば、乙の請求は権利濫用である。
 したがって、乙の請求は認められない。

著作者人格権の制限の一般的な問題です。

翻案権を譲渡した著作者が著作者人格権を行使してきた場合、黙示の不行使合意が認められるという方向に持っていくのが一般的だと思いますが、今回は翻案権(を含む著作権)の譲受人から依頼を受けた者が翻案=改変行為を行っているので、もうワンステップ踏む必要があります。答案では権利濫用として構成しましたが、やむを得ない改変として構成することもできたと思います。

なお、権利濫用というと首里城事件(ひいてはApple v. Samsung事件)が想起されますが、β'の使用がαの製作にとって不可欠というわけではないので、事案が異なります。