最決令和3年4月14日裁判所website(共同事務所所属弁護士が職務を行い得ない事件についての訴訟行為の排除―消極)

対象判例最決令和3年4月14日裁判所website

 

報道

利益相反を抱える弁護士と同じ事務所だった相手方弁護士を、裁判から強制的に外すことは可能か――。こうした点が争われた許可抗告審で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は16日までに、「具体的に禁止する法律は見当たらない」として、排除の申し立て自体ができないと判断した。

対象となったのは、エイズウイルス(HIV)の治療薬をめぐり特許権侵害があったとして、塩野義製薬などが米医薬大手、ギリアド・サイエンシズの日本法人に損害賠償を求めた裁判。塩野義で提訴準備に関わった社内弁護士が、別の法律事務所に移籍し、その事務所で同僚だった弁護士がギリアドの代理人を務めることの是非が問題になった。

塩野義側は「事務所内に利益相反を抱える弁護士がいた場合、対象事件を担当できない」とする日本弁護士連合会の規定に違反すると主張。社内弁護士の移籍先事務所がギリアドの代理人を務めるのは不当だとして地裁に申し立てた。

一審の東京地裁決定は「塩野義の社内弁護士だった人物について、移籍先事務所は対象の裁判での情報共有を防ぐ措置を講じていた。漏洩などの形跡もうかがえない」として、規定が適用されない例外事由にあたると判断。一方、二審の知財高裁決定は「情報交換の遮断には一定の限界がある」などの理由で塩野義側の主張を認めた。

第2小法廷は、利益相反を抱える弁護士本人については弁護士法に基づき裁判から排除するよう申し立てられるが、同僚弁護士については「(裁判への関与を)具体的に禁止する規定はない」と指摘した。知財高裁決定を破棄し、排除は認められないと判断した。

決定は14日付。裁判官4人全員一致の意見。裁判長を務めた草野裁判官(弁護士出身)は問題となったケースについて「いかなる条件で関与が禁止、容認されるのかを具体的な規則で規律することは日弁連に託された喫緊の課題の一つだ」とする補足意見をつけ、分かりやすいルールづくりを促した。

利益相反の同僚弁護士、裁判から「排除」できず 最高裁: 日本経済新聞

  

関係法令等

弁護士法25条

(職務を行い得ない事件)
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱つた事件
五 仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件
六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人(外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第三号の二に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
七 弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
八 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件
九 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

 

弁護士職務基本規程28, 29, 57条

(職務を行い得ない事件)
第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱った事件
五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件
(同前)
第二十八条 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件
二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件
三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
(職務を行い得ない事件)
第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
〔注:57条は7章「共同事務所における規律」中の規定。弁護士法人における規律については63条以下〕

 

先例

  • 最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1266頁:弁護士法第25条第1号違反の訴訟行為であつても、相手方がこれを知り又は知り得たにもかかわらず異議を述べることなく訴訟手続を進行させ、第二審の口頭弁論が終結したときは、相手方は、後日に至りその無効を主張することは許されないものと解するのが相当である。
  • 最決平成29年10月5日民集71巻8号1441頁
    • 弁護士法25条1号に違反する訴訟行為及び同号に違反して訴訟代理人となった弁護士から委任を受けた訴訟復代理人の訴訟行為について,相手方である当事者は,裁判所に対し,同号に違反することを理由として,上記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する。
    • 弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し,自らの訴訟代理人又は訴訟復代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者は,民訴法25条5項〔注:裁判官の除斥・忌避を理由がないとする決定に対する即時抗告〕の類推適用により,即時抗告をすることができる。
    • 弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対し,当該決定において訴訟行為を排除するものとされた訴訟代理人又は訴訟復代理人は,自らを抗告人とする即時抗告をすることはできない。

 

判旨

多数意見

 基本規程は,日本弁護士連合会が,弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため,会規として制定したものであるが,基本規程57条に違反する行為そのものを具体的に禁止する法律の規定は見当たらない。民訴法上,弁護士は,委任を受けた事件について,訴訟代理人として訴訟行為をすることが認められている(同法54条1項,55条1項,2項)。したがって,弁護士法25条1号のように,法律により職務を行い得ない事件が規定され,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為がその規定に違反する場合には,相手方である当事者は,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるとはいえ,弁護士が訴訟代理人として行う訴訟行為が日本弁護士連合会の会規である基本規程57条に違反するものにとどまる場合には,その違反は,懲戒の原因となり得ることは別として,当該訴訟行為の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
 よって,基本規程57条に違反する訴訟行為については,相手方である当事者は,同条違反を理由として,これに異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることはできないというべきである。

 

草野補足意見

 本件に関する私の見解は法廷意見記載のとおりであるが,これは阿部弁護士らがA弁護士の採用を見合わせることなく本件訴訟を受任したことが弁護士の行動として適切であったという判断を含意するものではない。
 ある事件に関して基本規程27条又は28条に該当する弁護士がいる場合において,当該弁護士が所属する共同事務所の他の弁護士はいかなる条件の下で当該事件に関与することを禁止または容認されるのかを,抽象的な規範(プリンシプル)によってではなく,十分に具体的な規則(ルール)によって規律することは日本弁護士連合会に託された喫緊の課題の一つである。日本弁護士連合会がこの負託に応え,以って弁護士の職務活動の自由と依頼者の弁護士選択の自由に対して過剰な制約を加えることなく弁護士の職務の公正さが確保される体制が構築され,裁判制度に対する国民の信頼が一層確かなものとなることを希求する次第である。

 

ノート

  • 先例の整理
    • 弁護士法・弁護士職務基本規程の「職務を行い得ない事件」の規律のエンフォースメントは、第一次的には弁護士会による懲戒に委ねられるが、それが訴訟行為である場合、訴訟行為としての効力を制限すべきではないかという問題がある。
    • 絶対的無効説、有効説、追認説なども主張されたが、昭和38年大法廷判決は異議説(相手方が異議を述べ、その訴訟行為の排除を求めることができる)を採用した。学説もこれを支持している。
      • なお、当該事案では事実審口頭弁論終結後に無効を主張しており、そのような主張は許されないとした。いわゆる責問権喪失による瑕疵の治癒と整理されている)。
    • その後の平成29年決定は、これを前提に、異議(訴訟行為排除申立て)の手続について、①相手方当事者(≒旧依頼者)は訴訟行為を排除する裁判を求める権利(申立権)を有すること、②排除の決定がされた場合、その訴訟代理人の行為を排除するとされた当事者(≒現依頼者)は、その決定に即時抗告をすることができる(根拠は裁判官の除斥・忌避を理由がないとする決定に対する即時抗告に関する民事訴訟法25条5項)、③その訴訟行為を排除するとされた訴訟代理人は、自ら即時抗告をすることはできないことを判示した。
  • 本判決と先例の事案の違い
    • 先例はいずれも弁護士法25条1号違反(「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」)の事案であった。
    • これに対して、本件は、弁護士職務基本規程57条違反の事案であった。
      • 弁護士職務基本規程は、法律の委任に基づく法規命令としての性質を有しない、「弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため」の「会規」である(本判決)。
    • 弁護士職務基本規程27条1号は、弁護士法25条1号と同一文言であるから、これに違反する行為は、弁護士法違反行為とも構成できる。しかし、弁護士職務基本規程57条に相当する規定は弁護士法にはないため、同条違反の行為は弁護士法違反と構成することはできない。
    • 本判決は、弁護士法(による職務執行制限)違反は訴訟行為の瑕疵(異議により排除可能)をもたらすが、弁護士職務基本規程違反は瑕疵行為の違法をもたらさないと考えているものと思われる。
      • これに対して、一審・抗告審は弁護士職務基本規程違反が訴訟行為の瑕疵をもたらすと考えたものと思われる。両決定の判断が分かれたのは、それを前提としたときの、弁護士職務基本規程57条ただし書の「職務の公正を保ちうる事由」の適用においてである。
  • 草野補足意見について
    • 草野補足意見は、当該弁護士の行動が「弁護士の行動として適切であったという判断を含意するものではない」とした上で、日弁連に「十分に具体的な規則(ルール)によって規律すること」を求めている。
    • 報道に接した段階では、①弁護士法違反の改正を提案するように要求しているのか、それとも、②職務基本規程違反が排除事由になることを前提に弁護士職務基本規程の改正を要求しているのかと考えたが、いずれでもなく、③単に弁護士職務基本規程の規定の明確化を要求しているようである。訴訟行為の瑕疵をもたらすのが弁護士法違反のみであり、したがって、単なる弁護士職務基本規程違反のエンフォースメントは弁護士会の懲戒によるほかないことは、草野裁判官を含む多数意見が前提とするところなので(前述)、排除とは関係なしにあるべき規律を語っているのだと思われる。
    • 一審と抗告審の判断が分かれているので、弁護士職務基本規程57条が明確性を欠いていることは明らかであるとはいえ、そのように決定の本筋とはかなり遠いこと(本判決からすれば無意味な判断であった)を草野裁判官が語ったのは…?

 

文献

  • 昭和38年大法廷判決の解説として、手賀寛・民事訴訟判例百選第5版46頁(2015)、平成29年決定の解説として同・平成29年度重要判例解説144頁(2018)。
  • 仲裁人の開示義務(仲裁法18条4項)に関するものであるが、共同事務所の利益相反に関わるものとして、最決平成29年12月12日民集71巻10号2106頁。解説として山田文・平成30年度重要判例解説140頁(2019)。
  • 弁護士職務基本規程57条について、日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程(第3版)』(2017)163頁〜175頁。