早稲田大学法科大学院 定期試験 2020年秋学期 倒産法IIB

期末試験と併せてA+。素点は24/30。レポート形式で、1日程度かけて検討した。

1 本件解除条項による解除の可否(設問1)

 契約によって解除原因を定めることは、原則として有効である(民法540条1項はそのことを前提としている)。もっとも、倒産手続開始申立てがされたことを原因とする解除特約(以下「倒産解除特約」という)は、倒産手続との関係でその効力が制限されうる。

(1) 判例(所有権留保およびファイナンス・リース)との関係

 判例は、動産(機械)の所有権留保売買の倒産解除特約を会社更生手続との関係で最判昭和57年3月30日民集36巻3号484頁)、また、フルペイアウトのファイナンス・リースの倒産解除特約を民事再生手続との関係で最判平成20年12月16日民集62巻10号2561頁)、それぞれ手続の趣旨・目的を害することから無効とする。

 もっとも、両判決は、目的物が担保としての意義を有することを前提としている。すなわち、所有権留保売買契約における売買目的物およびファイナンス・リース契約におけるリース物件は、担保としての意義を有しており、本来担保権実行中止命令(民事再生法31条、会社更生法24条1項2号)や担保権消滅請求(民事再生法148条以下、会社更生法104条以下)などによるコントロールの対象となるべきところ、倒産解除特約は、そのコントロールの可能性を奪ってしまう。

 これに対して、本件契約は請負契約であり、Yは本件解除条項によって工事未完成部分についての履行請求権を失い、報酬債務を免れ、違約金請求権を取得するにすぎず、Xに引き渡した物の返還を請求できるなど、何らかの方法で債権を回収できることとなるものではないから、上記趣旨は妥当しない。

 したがって、担保権実行中止命令、担保権消滅請求等との関係で本件解除条項を無効とすべきとはいえない。

(2) 双方未履行双務契約の解除権の保障との関係

 もっとも、倒産解除特約が担保としての意義を有しない場合であっても、再生債務者に与えられる双方未履行双務契約の解除権(解除または履行・履行請求の選択権。民事再生法49条)を保障するため、無効とすべきではないかとも考えられる(伊藤眞『破産法・民事再生法 第3版』357頁以下(有斐閣、2014)、三木浩一「判批」別ジュリ216号(倒産判例百選第5版)153頁(2013))

 しかし、リース契約、賃貸借契約、フランチャイズ契約におけるユーザー、賃借人、フランチャイジーと異なり、工事請負契約における請負人は、①倒産解除特約を無効としたとしても、報酬請求をするために必要な履行の能力を失っていると考えられること(請負人は先履行義務を負う。民法633条)、②請負契約を請負契約たらしめているのは、注文者が有する履行請求権であり、請負人は金銭債権としての報酬請求権を有するにすぎないことからすれば、選択を保障する必要は小さく、注文者の契約の拘束力からの解放(平成29年改正民法542条は、債務者に帰責事由がないことを抗弁として認めない)が制約されてもやむをえないとまではいえない。

 したがって、担保権実行中止命令、担保権消滅請求等との関係で本件解除条項を無効とすべきとはいえない。

 以上から、倒産手続開始申立てがされたことのみを理由に、Yが、本件解除条項によって契約を解除することは、可能である。

2 α/β債権による相殺の可否(設問2)

(1) 原則としての相殺可能

 相殺権について、再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合において、債権および債務の双方が債権届出期間満了前に相殺に適するようになったときは、再生債務者は、当該債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺ができる(民事再生法92条1項)。再生債権の意義は同法84条、相殺適状は民法505条に規定されている。

 α債権は、再生債務者Xに対し、再生手続開始前の原因たるP棟に係る請負契約の本件違約金条項に基づいて生じた財産上の請求権であり、再生債権である。また、β債権は、再生債務者Xに対する財産上の請求権であり、R棟に係る請負契約上の履行請求権が、その不履行によって損害賠償請求権に転化したものであるから(民法415条1項)、再生手続開始前の原因に基づいて生じたものといえ、再生債権である。Q棟に係る報酬債務(5000万円)は、Q棟に係る請負契約に基づき、再生手続開始当時既に負担されていた。そして、α債権、β債権、報酬債権はいずれも金銭債権という同種の債権であり、再生手続開始時すでに弁済期にあった。

 したがって、相殺は認められるのが原則である。

(2) 例外としての相殺禁止

もっとも、再生債務者に対して債務を負担する者は、支払停止後に再生債権を取得した場合で、その取得の当時、支払停止を知っていたときは、支払不能でなかった場合を除き、相殺が禁止される(民事再生法93条の2第1項3号)。

 本件で、支払停止は平成30年3月31日になされている。α債権は、同年4月15日、支払停止のためP棟の完成は不可能であるとの報告を受けたYが、本件解除条項に基づきP棟に係る請負契約を解除したために、本件違約金条項に基づいて生じたものであるから、支払停止後に悪意で取得した再生債権であるといえる。Xが支払不能になかったとする事情は認められない。

 一方、β債権は、P棟の工事の履行請求権の不履行を原因として、民法415条1項の規定に基づき生じたものであるから(工事には多額の資金を要することを考慮すると、支払停止はそれ自体が社会通念上履行不能と評価できるし、履行拒絶の意思の明確な表示(同条2項2号)として社会通念上の履行不能と評価することもできる)、遅くとも支払停止と同時に生じたものであり、支払停止後に生じたものとはいえない。なお、Yは「R棟の契約を解除せざるを得なくなったことから生じた」損害賠償債権としているが、解除と損害賠償は別個の制度であり(民法545条4項参照)、解除によって損害が新たに生じるものではないし、Yの発言も、Yが法律の専門家ではないことからすれば、厳密なものではなく、日常的な意味においてR棟に係る工事が完遂されなかったことを指すものと解釈できる。

 したがって、民事再生法93条の2第1項3号によれば、β債権に基づく相殺は認められるが、α債権に基づく相殺は認められない。

(3) 例外の例外としての相殺禁止の適用除外

ア 「前に生じた原因」

 もっとも、再生債権の取得が支払停止を知った時より前に生じた原因に基づく場合には、相殺禁止規定の適用が除外される(民事再生法93条の2第2項2号)。α債権が支払停止時(本件では平成30年3月31日)より「前に生じた原因」といえるかを検討する必要がある。

 本号の趣旨は、「前に生じた原因」に基づく場合には、相殺の担保的機能に対する相殺権者の期待は合理的なものであって、これを保護するとしても、債権者平等原則を害することがないことによるものである最判平成26年6月5日民集68巻5号462頁。再生債務者Xが、銀行YからMMF受益権を購入し、同行の口座で管理していたところ、Yが、Xの支払停止後に、債権者代位権に基づき信託会社に対して解約実行請求をし、解約金返還債務(解約金は信託会社からY経由でXに交付される)を別口の保証債務履行請求権で相殺した事案。最高裁は、①受益権は全ての再生債権者が等しく責任財産としての期待を有しており、解約金は実質的に同等の価値を有すること、②解約実行請求が支払停止後になされたこと、③受益権はYの口座で管理されていたが、別の口座に振り替えることもできたこと、④解約実行請求のためには他の債権者と同様に債権者代位権によるほかなかったことを挙げて、合理的が認められないとした。)。すなわち、再生債権者は原則として個別に権利を行使できないが(民事再生法85条1項)、担保権者は原則として別除権者として個別に権利を行使でき(同法53条1項、2項)、相殺の担保的機能に対する合理的期待が認められる場合には、相殺権の行使は、別除権の行使と同視することができる。そうすると、「前に生じた原因」が「前に生じた原因」といえるためには、単に時間的に「前に生じた原因」であるだけでなく、相殺の担保的機能に対する合理的期待が生じていたといえるのでなければならない。参考判例最判令和2年9月8日裁判所WebsiteおよびXの反論(参考判例の原審(福岡高判平成30年9月21日金法2117号62頁)の判断に依拠するものと考えられる)は、この合理的期待の有無に関わる。

イ 参考判例・その原審について

(ア) 事案の概要

 参考判例の事案は、次のようなものであった。福岡県が建設業者である破産者と、4件の工事請負契約(いずれについても違約金条項があった。締結された順に「第*契約」と呼ぶこととする)を締結した。破産者は、第3契約に係る工事を完成させたが、第3契約について報酬未払い、第1, 2, 4契約について工事未完了の間に破産した。破産管財人が福岡県に対して、第1, 2, 4契約の出来高報酬および第3契約の報酬の支払いを求めたところ、福岡県は、違約金債権および第4契約(前払金が出来高報酬を上回っていた)の前払金返還請求権等を自働債権とする相殺を主張した。

(イ) 参考判例原審

 参考判例原審は、各報酬債権を、それぞれそれと同一の契約に基づいて生じた違約金債権で相殺することについては、合理的期待が認められるとしたが、異なる契約に基づいて生じた違約金債権で相殺することは、対価的牽連関係がないことから、直ちには合理的期待は認められないとした上で、第1, 2, 4契約(いずれも工事未完了)について、報酬債権・違約金債権が相互に引当てとされた事情がないこと、第3契約(唯一引渡し済み)について、その報酬債権が他の契約に基づく違約金債権の引当てとされた事情はないこと、他の契約について解除権の行使による違約金債権の発生の蓋然性が高かったという事情はないこと、相殺ができたのは資金繰りに関して相談を受けたことによるものであること(判決ではこのことが摘示されているにすぎないが、偶然の結果にすぎないという趣旨であると考えられる。前掲最判平成26年6月5日(特に注4にいう③の事情)を参照)を述べて、やはり合理的期待が認められないとした。

(ウ) 参考判例

 これに対して、参考判例は、「本件各違約金債権は,いずれも,破産会社の支払の停止の前に上告人と破産会社との間で締結された本件各未完成契約に基づくものであ」り、「本件各未完成契約に共通して定められている本件条項は,破産会社の責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないこと及び上告人が解除の意思表示をしたことのみをもって上告人が一定の額の違約金債権を取得するというものであって,上告人と破産会社は,破産会社が支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を自働債権とし,破産会社が有する報酬債権等を受働債権として一括して清算することを予定していた」として、同一の請負契約に基づいて発生したものであるか否かにかかわらず、各請負契約締結時に違約金債権による相殺について合理的期待が認められるとした。

(エ) 分析・評価

 参考判例原審は、対価的牽連性を重視し、それがある場合には合理的期待を認めるが、それがない場合には、報酬債権を違約金債権の「引当て」とした事情がなければ、合理的期待を認めていない。そして、契約締結時の交渉経過まで検討しているわけではないことからすれば、「引当て」関係は、明文の契約条項から読み取れるものでなければならないとという立場であると考えられる。しかし、そのような明文の契約条項がない場合でも、当事者の合理的意思解釈から、「引当て」関係が認められ、合理的期待が認められる場合はあるように思われる(福井俊一「判批(参考判例原審)」新・判例解説Watch, Vol. 26, 234頁(2020))

 参考判例は、必ずしもはっきり述べているとはいえないが、そのような合理的意思解釈として、「本件各未完成契約」に共通して「本件条項」が定められているという事情から、「破産会社が支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を自働債権とし,破産会社が有する報酬債権等を受働債権として一括して清算する」との合意を読み取ったものと考えられる。

ウ 本件について

 本件では、Xが述べるとおり、α債権(P棟に係る請負契約に基づく違約金債権)と報酬債権(Q棟に係る請負契約に基づくもの)は、別個の契約に基づくものであり、対価的牽連性がない。もっとも、その場合でも、合理的期待が認められることはありうる。

 しかし、本件では、「本件解除条項」はP, Q, R棟に係る各請負契約の全てで合意されていたものの、「本件違約金条項」はP棟に係る請負契約でのみ合意されている。そうすると、参考判例における事案のように、「破産会社が支払の停止に陥った際には本件条項に基づく違約金債権を自働債権とし,破産会社が有する報酬債権等を受働債権として一括して清算する」との合意を読み取ることはできない。

 また、X, Yが他にQ棟に係る報酬債権をα債権の担保としたという事情は認められない。

 したがって、α債権をもってQ棟に係る報酬債務を相殺することについて、合理的期待は認められない。

 したがって、α債権は「前に生じた原因」とはいえず、相殺は認められない。

 以上から、α債権による相殺は認められないが、β債権による相殺は認められる。

3 S土地についての虚偽表示を理由とする所有権移転登記請求(設問3)

Aは、Xに対して、S土地所有権(民事再生法上、取戻権として保護される。同法52条1項)に基づく妨害排除請求権の行使として、移転登記請求をするものと考えられる。本件売買契約(民法555条)が抗弁、虚偽表示(同法94条1項)が再抗弁、Xが第三者(同条2項)に当たることが再々抗弁となる。請求原因から再抗弁までについては争いはないと考えられる。

(1) 第三者

Xは、「善意の第三者」に当たるか。「第三者」とは、虚偽表示の当事者およびその一般承継人以外の者で、虚偽表示の目的について利害関係を有するに至った者をいう。Xは、通謀虚偽表示によってなされた本件売買契約の当事者であったことから、少なくとも再生手続開始前はこれに当たらない。しかし、再生手続が開始されていることから、別異に解する余地がある。

破産手続が開始された場合、破産財団所属財産の管理処分権は、破産管財人に専属し(破産法78条1項)、破産管財人は、その権限の行使について、破産債権者その他の利害関係人に対して善管注意義務を負う(破産法85条)など、破産債権者の利益を代表する地位にある。そのため、破産債権者と同様に、民法94条2項にいう「第三者」に当たると解される。民事再生手続において、管理命令が発令され、管財人が選任された場合における管財人も同様に解される(民事再生法66条(管財人の専属的財産管理処分権)、78条・60条(善管注意義務)参照)。

もっとも、本件は、管理命令は発令されていない民事再生手続であるから、再生債務者がなお再生債務者財産の財産管理処分権を有している(民事再生法38条1項)。しかし、このような場合でも、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実にその管理処分権を行使すべき義務を負い、再生債権者の利益を代表する地位を併有するといえるから、管理命令が発令された場合の管財人と同様に、「第三者」に当たると解するべきである。

したがって、Xは「第三者」である。

(2) 善意

この場合、善意かどうかは、総再生債権者のうちの一人でも善意の者がいないかによって決するべきである。再生債務者としたのでは、常に悪意となって、上記の第三者性に関する解釈の実益が失われるし、再生債務者の第三者性を基礎づける公平誠実義務は、全ての再生債権者に対するものである以上、再生債権者の中に一人でも保護に値する者(=善意の者)がいる場合には、虚偽表示の無効主張は制限されるべきだからである。

債権者は通常虚偽表示がなされたとしてもそのことを知らないと考えられるところ、Xの再生債権者の全員が虚偽表示を知っていたという事情はないから、少なくとも一人は善意であったと考えられる。

したがって、Xは「善意の」第三者である。

したがって、再々抗弁が認められるから、Aの請求は棄却されるべきである。