早稲田大学法科大学院 定期試験 2020年秋学期 知的財産法応用演習

(素点:不明, 評価:A+)

答案はWordで提出。

1 設問1

(1) 考えられる主張

 AはQの削除請求(112条1項)の根拠として、自己がQの著作者であることを前提に、公衆送信権(23条1項)および公表権(18条1項)の侵害を主張することが考えられる。

 これに対して、Bは、著作権に関して、Aは映画製作者たる自己に製作への参加を約束したとして、自己に著作権が帰属すること(29条1項)を主張し、それを前提に、公表権に関して、同意推定(18条2項3号)の適用があり、それを覆滅する事実はないことを主張することが考えられる。

 Qの著作物性(2条1項1号)およびAの著作者性(16条)に争いはないと考えられる。

(2) 公衆送信権侵害

 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む)を行う権利を専有する(23条1項)。公衆送信は2条1項7号の2、自動公衆送信は同項9号の4、送信可能化は同項9号の5で定義されている。

 Qのアップロードは、公衆によって直接受信されることを目的とした無線通信または有線電気通信の送信を可能にする行為で、同項9号の5イに当たると考えられるから、公衆送信権の侵害となる。

(3) 公表権侵害

 著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、または提示する権利を有する(18条1項前段)。公衆とは、特定多数者を含むとされ(2条5項)、その前提として不特定者を含むと解される。公表は、発行され、または上映権、公衆送信権等を有する者もしくはその許諾を得た者にとって上映、公衆送信等されることをいう(4条1項)。発行とは、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、複製権者またはその許諾を得た者によつて作成され、頒布されることをいう(3条1項)。

 Qは、Pの製作のために撮影された映像であるが、Pには使用されなかったから、特定多数者または不特定多数者に上映、公衆送信等されたとはいえない。また、Qの複製物が作成・頒布されたこともない(このことは、著作権が29条の適用によりBに帰属するかどうかに関わらない)。したがって、Qは「まだ公表されていない」著作物である。

 Qのアップロードは、不特定者であり、したがって「公衆」であるBのブログ閲覧者に、有体物を媒体とせずにQを享受することを可能にするものだから、「提示」に当たる。

 したがって、Qのアップロードは、公表権の侵害となる。

(4) 映画製作者への参加約束

 映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する(29条1項)。

ア 映画の著作物

 「映画の著作物」とは、映像により創作的に表現したものを物に固定したものをいうと解され、また、映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(2条3項)。

 Qが通常の意味での「映画の著作物」に当たることに争いはないと考えられる。

 もっとも、29条との関係で、未使用フィルムは同条にいう「映画の著作物」に当たるかという問題がある。ある裁判例は、完成しなければ同条にいう「映画の著作物」に当たらず、したがって29条の適用はなく、映像著作物として独自に保護される余地があるにすぎないとする。しかし、29条は「映画の著作物」という、10条1項7号、16条、26条等と同様の概念を明示的に用いており、「映画の著作物」の意義を別異に解する理由はない。そして、例えばiPhoneで風景を撮影した映像にも「映画の著作物」性が認められることからすれば、未使用フィルムであっても、「映画の著作物」性が認められないと解する理由はない。したがって、未使用フィルムについても29条の適用はあると解するべきである。

イ 映画製作者

 映画製作者とは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう(2条1項10号)。29条1項の趣旨は、とりわけ劇場用映画における巨額の投資を回収する必要と、映画製作には類型的に多数の著作者の関与が予想されるところ、その共有(共同著作)とした場合に円滑な利用が阻害されるおそれを回避することにある。ここから、「責任」とは、製作に関する権利義務の帰属主体であって、経済的な収入支出の主体となる者をいうと解される。また、「発意」とは、製作の意思をいうと解される。

 Bは新作映画の製作を企画しているから、製作の意思(発意)があると考えられる。また、2000万円に及ぶ製作資金全額を負担しているから、製作に関する権利義務の帰属主体であって、経済的な収入支出の主体となっていたといえる。

 したがって、Bは映画製作者である。また、Aがこれに参加約束したことに争いはないと考えられる。

 以上から、29条1項により、Qの著作権は、映画製作者であるBに帰属し、Aには帰属しない。

 したがって、公衆送信権侵害は成立しない。

(5) 公表の同意推定

 29条により映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合には、当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供し、または提示することについて、同意が推定される(18条2項3号)。

 29条により映画の著作物の著作権が映画製作者Bに帰属することは先に述べたとおりであるから、推定の覆滅が問題となる。しかし、Qを含む未使用フィルムについて、Aが公表に同意していなかったと見られる事情はうかがわれず、推定は覆滅されない。

 以上から、公表権侵害は成立しない。

 以上から、Aの請求はいずれも認められない。

2 設問2

(1) 考えられる主張

 Aは行為①②の差止請求(112条1項)の根拠として、①について複製権侵害、②について公衆送信権侵害を主張することが考えられる。これに対して、Bは、①に関して私的複製(30条)および情報解析の非享受利用(30条の4第2号)を、②に関して引用(32条)および電子計算機による情報処理の結果の提供に付随する軽微利用(47条の5第1項2号)を主張することが考えられる。

 Aの小説10冊の著作物性(2条1項1号)およびAの著作者性に争いはないと考えられる。

(2) ①について

ア 複製権侵害

著作者は、その著作物を複製する権利を専有する(21条)。複製とは、有形的に再製することをいい(2条1項15号前段。印刷等は例示であり、効果との関係で区別する必要はない)、「公に」(22条以下)との同視可能性から、将来反復して使用される可能性が必要である。

 Aの小説10冊をスキャナーで電子化しパソコンに保存する行為は、小説のスキャン画像に係るデータをHDD等に有形的に固定するものであり、HDD等はメインメモリ等と異なり一時的な記憶媒体ではないから、複製権侵害となる。

イ 私的複製

 著作権の目的となっている著作物は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、原則として、その使用する者が複製することができる(30条)。

 BはAの小説の分析結果を不特定多数者が閲覧できるインターネットで公開することを目的として複製を行っており、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的としているとはいえない(なお、①行為の時点で②行為を目的としていたとの事情は、直接には認められないが、Aの気が変わるかもしれないと考えて①行為に出ており、そのためにはインターネットを通じてAが①行為を認識しなければならないから、①行為の時点で②行為を目的としていたと推認できる)。

 したがって、私的複製の権利制限の適用はない。

ウ 情報解析の非享受利用

 30条の4第2号は情報解析の非享受利用を定める。

 「情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう…)の用に供する場合」(同条2号)について、①行為は、「多数の著作物」といえるAの小説10冊において、「当該情報を構成する言語…の要素に係る情報」たる単語を抽出し、出現頻度を計測するという「解析を行うこと」に当たる。

 「その必要と認められる限度において」(同条柱書本文)について、①行為は出現頻度の計測を目的としているところ、その目的のためには小説の全部を複製(スキャン)し、解析(OCR)する必要があるから(頻度はサンプルの範囲が広ければ広いほど信頼性が向上する)、これを満たす。

 「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(同条但書)について、Aの小説10冊の「著作物の種類」は言語の著作物であり、その本来的な(享受となる)「用途」はそれを読むことであるところ、①行為は解析を目的としており、その態様についても、Aに著しい経済的打撃を与えるものではないから、「著作権者の利益を不当に害することとなる」とはいえない。

 したがって、情報解析の非享受利用の権利制限の適用がある。

(3) ②について

ア 公衆送信権侵害

 公衆送信権の意義は先に述べたとおりである。

 ②行為は、Aの小説10冊の中から、不特定多数者が閲覧できるBのサイトにおいて、閲覧者が送信した検索ワードが登場する箇所を前後各2行の文章とともに表示することを可能にするものであり、公衆によって直接受信されることを目的とした無線通信または有線電気通信の送信を可能にする行為で、同項9号の5イに当たると考えられるから、公衆送信権の侵害となる。

イ 引用

 公表された著作物は、引用して利用することができる(32条1項前段)。引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない(同項後段)。

 「引用」は、その語義上、明瞭区別性と主従関係が必要である(パロディ第1次上告審)。

 「正当な範囲内」の判断にあたっては、利用目的、方法・態様、被引用著作物の種類・性質、被引用著作物の著作者への影響の有無・程度を考慮すべきである。

本条の趣旨は、新たな表現活動を促進する上で引用を認めることが有用であることにあると解されるところ、ここから引用物には著作物性が必要とする説があるが、旧法と異なり、条文上そのような限定はなく、解釈上そのような要件を課す必要はない。

 ②行為は、批評等を目的とするものではなく、専ら(機械的な解析の結果である)特定の検索ワードの出現頻度とその前後各2行の文章と共に表示することを可能にするものであり、「主」に当たるものが存在しないから、主従関係性を満たさず、したがって、「引用して」(32条1項前段)に当たらない。

 したがって、引用の権利制限の適用はない。

ウ 電子計算機による情報処理の結果の提供に付随する軽微利用

 47条の5第1項2号は情報解析の非享受利用を定める。

 「電子計算機による情報解析…の結果を提供すること」(同項2号)について、②行為は、特定の検索ワードの出現頻度とその前後各2行の文章と共に表示することを可能にするものであるから、これに当たる。

 「公衆への提供又は提示…が行われた著作物…(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)」(同項柱書本文)について、Aの小説10冊は、出版されているから、これに当たる。

 「当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、…軽微利用…を行うことができる」(同項柱書本文)について、前後各2行の文章とともに表示していることが問題となるが、そのような表示は、当該検索ワードがどのような文脈で用いられているかを理解可能にするという、「情報解析…の結果を提供する」という目的上の必要最低限の範囲にとどまっていると考えられ、「付随して」行う「軽微利用」といえる。立法趣旨からも、典型例として想定されたGoogle Booksは、当該ページの全体を表示できるのが通常であるから、前後各2行の文章とともに表示する程度であれば、この要件を満たすと考えられる。

 「当該公衆提供提示著作物に係る公衆への提供又は提示が著作権を侵害するものであること…を知りながら当該軽微利用を行う場合その他当該公衆提供提示著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、Aの小説10冊の「著作物の種類」は言語の著作物であり、その本来的な(享受となる)「用途」はそれを読むことであるところ、②行為は当該検索ワードがどのような文脈で用いられているかを理解可能にするという「情報解析…の結果を提供する」ことを目的としており、その態様についても、Aに著しい経済的打撃を与えるものではないから(前後各2行で小説を楽しむことはできない)、「著作権者の利益を不当に害することとなる」とはいえない。

 したがって、電子計算機による情報処理の結果の提供に付随する軽微利用の権利制限の適用がある。

 以上から、Aの請求はいずれも認められない。