付郵便送達による判決騙取と不法行為・再審

報道

 大分市の女性が、自身が訴えられたことも知らず、判決書さえ受け取らないまま敗訴判決の確定を知り、銀行預金を差し押さえられる被害に遭った。女性は訴えた男性が裁判所をだまして被害を与えたとして、大分地裁に賠償を求める訴訟を起こし、同地裁は10日、女性の請求を認めた。伊藤拓也裁判官は「虚偽の事実を主張して裁判所をだまし、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得した」と男性を批判した。なぜ、こんな事態が起きたのか。

(中略)

 大分地裁の判決などによると、女性は飲食店を経営しており2019年6月、元従業員の男性から金銭の支払いを求める訴訟を熊本簡裁に起こされた。

 熊本簡裁に係属する訴訟で、女性が住む場所と異なる、女性とは全く関係のない大分市内の住所を、男性は訴状の送達先に指定した。これを受けて熊本簡裁はその住所に訴状を送ったが、女性は住んでおらず、居住者もいないため、返送され、送達ができなかった。

 このため熊本簡裁が男性に確認を取ると、男性は「夜に電気がついている」「水道メーターも動いている」などと、送達先の住所に女性が住んでいると思わせる虚偽の報告書を提出したという。

 また、住民票記載の住所や職場である飲食店についても、男性側が「住民票の住所に女性は住んでいない」「店は閉店し、もう働いていない」などとうその報告をしたという。

 このため、熊本簡裁は「付郵便送達」という送達方法を決めた。

(中略)

 送達が完了したとみなした熊本簡裁は、司法手続きを続行。女性は男性から訴えられたことを知らず、反論の機会もないまま男性の訴えが認められる判決が言い渡された。

 男性は20年8月、熊本簡裁の確定判決に基づいて大分地裁に女性の債権の差押えを申し立てた。確定判決に基づいて大分地裁は20年9月、女性の銀行口座の預金を差し押さえた。

 銀行の預金通帳を見て女性がようやく気付いた。女性は被害者は自分だとして大分地裁に賠償請求訴訟を起こす流れとなった。

 10日の判決で伊藤拓也裁判官は「著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性を考慮しても容認できないような特別の事情がある」と男性の不正行為を批判した。

知らぬ間に敗訴、差し押さえ 原告が虚偽主張で裁判所だます - 毎日新聞

 

訴え・訴訟係属・送達

大事な部分が条文に書いてないので分かりにくいですが、訴え・訴訟係属・送達の関係は、次のようになっています。

「訴えの提起」とは、原告が裁判所に判決を求める意思表示のことで、「訴状を裁判所に提出して」行います(民事訴訟法133条1項)。訴えの提起があると、裁判長は訴状を審査し、瑕疵があれば補正を命じ(137条1項)、それに応じなければ却下します(137条2項)。

訴状審査をクリアした訴状は、被告に送達します(138条1項)。送達は職権で行い(98条1項)、送達に関する事務は、裁判所書記官が取り扱います(同条2項)。送達がされると、訴訟係属が生じます。

時効の完成猶予(民法147条1項1号)は訴えの提起に、二重起訴禁止(民事訴訟法142条)は訴訟係属に結び付けられた効果です。

 

付郵便送達について

付郵便送達とは、一般的な送達(通常送達(民事訴訟法103条1項)、就業先送達(103条2項)、補充送達(106条1項)、差置送達(106条3項))ができない場合に行われる送達方法です(107条1項)。

付郵便送達は、法文上は「書留郵便等に付する送達」と呼ばれており、の最大の特徴は、発送時に送達があったものと擬制されることです(107条3項)。これは、送達は受送達者に書類を交付してしなければならないという原則(101条)を修正するものです。

同様に一般的な送達ができない場合に行われる送達に、公示送達がありますが、付郵便送達が優先します(110条1項2号)。

なお、記事に「例外的に相手がずっと不在である場合などに書留郵便(付郵便送達)を送った時点で、住所が分からない場合に裁判所の掲示板に一定期間、公示することで送達が完了したとみなされる」という記述がありますが、付郵便送達と公示送達を混同するものです。付郵便送達は発送時に、公示送達は初回は掲示から2週間(外国においてすべき送達については6週間)、2回目以降は翌日に効力を生じます。

 

不法行為について

付郵便送達がされたが被告が事実上手続関与の機会を奪われたという事案として、最判平成10年9月10日集民189号743頁があります。

事案は、妻が夫(被告)のクレジットカードを利用し、立替金支払請求訴訟が提起され、通常送達不奏功、書記官が原告に就業場所を照会したところ、原告が誤解に基づいて被告は就業場所不明、家族は訴状記載の住所にいる旨回答し、書記官が付郵便送達(配達不能で返還)をし、裁判官が判決をし、妻が訴状を受領したものの被告に渡さなかったためそのまま確定したというものです。被告は、再審請求しましたが、補充性なしとして却下されたため、国とクレカ会社(=前訴原告)に対する損害賠償請求訴訟を提起しました(本件)。

対国請求については、就業場所の認定に必要な資料の収集に書記官の裁量を認め、それについての裁量の逸脱・収集した資料に基づく判断が合理性を欠くかを審査し、結論として適法としています。

対前訴原告請求については、次のように述べています。

 当事者間に確定判決が存在する場合に、その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく、当事者の一方が、相手方の権利を害する意図の下に、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものと解するのが相当である…。

 これを本件についてみるに、一審原告が前訴判決に基づく債務の弁済として一審被告に対して支払った二八万円につき、一審被告の不法行為により被った損害であるとして、その賠償を求める一審原告の請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であるところ、前記事実関係によれば、前訴において、一審被告の担当者が、受訴裁判所からの照会に対して回答するに際し、前訴提起前に把握していた一審原告の勤務先会社を通じて一審原告に対する連絡先や連絡方法等について更に調査確認をすべきであったのに、これを怠り、安易に一審原告の就業場所を不明と回答したというのであって、原判決の判示するところからみれば、原審は、一審被告が受訴裁判所からの照会に対して必要な調査を尽くすことなく安易に誤って回答した点において、一審被告に重大な過失があるとするにとどまり、それが一審原告の権利を害する意図の下にされたものとは認められないとする趣旨であることが明らかである。そうすると、本件においては、前示特別の事情があるということはできない。

一方、判決騙取に関わる事案として、最判平成22年4月13日集民189号743頁があります(ただし最高裁は否定。損害賠償請求を認めた原判決を破棄しています)。一般論として、上記平成10年判決と同旨を繰り返した上で、次のように述べています。

原審の上記判断は,前訴において当事者が攻撃防御を尽くした事実認定上の争点やその周辺事情について,前訴判決と異なる事実を認定し,これを前提に上告人が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したなどとして不法行為の成立を認めるものであるが,原判決の挙示する証拠やその説示するところによれば,原審は,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における信用性判断その他の証拠の評価が異なった結果,前訴判決と異なる事実を認定するに至ったにすぎない。しかし,前訴における上告人の主張や供述が上記のような原審の認定事実に反するというだけでは,上告人が前訴において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したというには足りない。他に,上告人の前訴における行為が著しく正義に反し,前訴の確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があることはうかがわれず,被上告人が上記損害賠償請求をすることは,前訴判決の既判力による法的安定性を著しく害するものであって,許されないものというべきである。

本判決は上記平成10年判決の下で損害賠償請求を認めた事案なのだろうと思います(報道だけなのでよくわかりませんが)。

ちなみに、記事には「伊藤拓也裁判官は「虚偽の事実を主張して裁判所をだまし〔注:おそらく原文は「裁判所を欺罔し」〕、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得した」と男性を批判した」「伊藤拓也裁判官は「著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性〔注:おそらく「の要請」を省略している〕を考慮しても容認できないような特別の事情がある」と男性の不正行為を批判した」と書かれていますが、これらのフレーズは別に被告を批判する趣旨ではなく(批判したい気持ちではあるのでしょうが…笑)、単に平成10年判決の「かさ上げ」された不法行為の要件を充足する旨を述べたにすぎません。

 

再審について

再審事由

送達が適切に行われず、手続関与の機会が実質的に与えられなかった場合、民事訴訟法338条1項3号の再審事由があると考えられます。

3号は、「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」という規定ですが、「主張・立証の機会を実質的に保障するために必要な手続を欠いたこと」くらいに拡張して解釈されています。再審は既に確定した判決について、既判力の排除を求める訴訟法上の形成訴訟ですが、既判力による拘束は、それを受ける者が、訴訟当事者として主張・立証の機会を保障されたことによって正当化されるため(手続保障を前提とする自己責任)、それを欠く場合には、排除されてよいという考えに出たものです。

判例も、通常送達で、7歳の娘に書類を交付した事案に関するものですが、次のように述べています(最判平成4年9月10日民集46巻6号553頁。旧法に関する判断)。

有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法420条1項3号の事由があるものと解するのが相当である。

 

補充性との関係

平成10年判決の事案では、それに先立つ再審請求が補充性により却下されています(再審請求は昭和62年)。しかし、その後の判例は、再審事由を現実に了知できなかった場合には、補充性は問題とならないとしています(前掲最判平成4年9月10日)。

民訴法420条1項ただし書は、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、再審事由を現実に了知することができなかった場合は同項ただし書に当たらないものと解すべきである。けだし、同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが上訴をすることができなくなった後の非常の不服申立方法であることから、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである。これを本件についてみるのに、前訴の判決は、その正本が有効に送達されて確定したものであるが、上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの前記再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、右判決に対して控訴しなかったことをもって、同項ただし書に規定する場合に当たるとすることはできないものというべきである。

 

訴訟係属はあるのか?

そもそも送達が適正に行われなかったなら、(送達は最も重要な手続保障の一つなのだし)訴訟係属は生じておらず、判決は再審請求するまでもなく無効なのではないか、不法行為においても、配慮すべき既判力(による法的安定性の要請)そのものがなく、要件を「かさ上げ」する必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、そうではありません。付郵便送達は発送時に効力を生じるからです。言い換えれば、付郵便送達が発送時に送達を擬制するからこそ、本人が知らないところで有効に送達がされてしまい、訴訟係属が生じるという現象が起こりうるわけです。

 

前訴判決が外国判決だった場合

完全に蛇足ですが、今回の前訴判決が外国判決だった場合、間接管轄を欠くこと(日本の民事訴訟法の国際裁判管轄規定を適用した場合に当該外国に国際裁判管轄が認められない。民事訴訟法118条1号)または手続開始文書の送達を欠くこと(同条2号)により、当該外国判決が承認されず、日本において既判力を有しないこととなります。また、外国判決に基づいて日本で強制執行をしようとする場合、執行判決を得なければなりませんが(民事執行法24条)、承認要件を満たさない場合、請求が棄却されることになります(同条5項は却下としていますが)。外国の機関の処分である外国判決を、日本国の機関である裁判所が取り消すことはありえないため、再審ではなく、その効力の承認を拒絶するというやり方で国民を保護しているわけです。