著作権法上の利用権の当然対抗制度導入と許諾契約の帰趨

令和2年改正による当然対抗の影響について考えたメモ。

 

被許諾者の利用に係る権利の性質

著作権法には、利用許諾について、次の規定がある(令和2年改正の前後を通じて実質的な変更はない)。「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。」(63条1項)、「前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。」(同条2項)、「第1項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。」(同条3項)(なお、4項、5項は省略)。

この被許諾者の利用に係る権利は、特許権における通常実施権と同様に、著作権者との関係で利用を正当化する債権的な権利と解されている。特許法は、通常実施権とは別に、第三者に対する排他的効力を有する物権的利用権として専用実施権を用意しているが、著作権法においては、そのような包括的な物権的利用権は用意されておらず、出版行為(複製・公衆送信行為の一部である)を目的とする物権的利用権である出版権を設定することができるにすぎない。

 

被許諾者の利用に係る権利の第三者への対抗

著作権法には、令和2年改正により、次の規定が新設された。「利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。」(63条の2。令和2年10月1日に施行済み)。

「利用権」とは、上記の被許諾者の利用に係る権利に与えられた名称である(63条第3項かっこ書)。令和2年改正前、このような規定がなかった上に、登録制度もなかったため、被許諾者が第三者対抗力を獲得することは不可能であった。

特許法上の通常実施権(債権的利用権である)については、平成23年改正前、次のように規定されていた。「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。」(99条1項)。しかし、実際には特許権者の交渉上の地位が強いこともあって、登録がされることはほぼなかった(なお、専用実施権は物権的利用権であり、登録が設定の効力発生要件であるが、なおさら設定されることはなかった)。そこで、平成23年改正において、上記規定は次のように改められた。「通常実施権は、その登録をしたときは、その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。」。つまり、通常実施権は登録なくして常に特許権の譲受人や、専用実施権の被設定者・譲受人に対抗できることとなった(当然対抗)。

著作権法の上記規定は、この通常実施権に係る改正に倣って、利用権を当然対抗としたものである。

 

不動産賃貸借契約上の地位の移転

許諾契約上の地位の移転の解釈は、不動産賃貸借契約上の地位の移転に関する議論を参照して行われているから、まず、それについて概観する。

平成29年改正民法においては、次のような規定が設けられた。①不動産賃貸借が第三者対抗要件を備えた場合に、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人の地位は譲受人に当然に移転する(605条の2第1項)、②ただし、不動産譲渡当事者が、賃貸人としての地位を譲受人に留保し、譲受人が譲渡人に賃貸する(≒転貸関係を作り出す)旨の合意をしたときは、①の移転は生じない(同条2項前段)、③②の譲渡人―譲受人間の賃貸借が終了したときは、賃貸人の地位は、譲受人・その承継人に移転する(同項後段)、④①または②による賃貸人としての地位の移転は、所有権移転登記をしなければ、賃借人に対抗できない(同条3項)(なお4項は敷金に関する規定であるため省略)、⑤譲渡人=賃貸人と譲渡人が賃貸人としての地位の移転を合意したときは、その移転の効力が生じるためには、賃借人の承諾を要しない(605条の3)。

605条の2第1項(①)は、譲受人が賃貸借契約を引き受ける意思がない場合でも引き受けさせることにより、賃借人を保護しようとするものであり(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁、最判昭和39年8月28日民集18巻7号1354頁を明文化)、2項前段(②)はその趣旨を害しない限りで例外を認め、2項後段(③)はそれを補完するものである(特定の判例を明文化したものではないが、留保合意をもって直ちに賃貸人としての地位の移転を妨げることはできないとした最判平成11年3月25日判時1674号61頁を前提とする)。

同条3項(④)は、判例最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)を明文化したもので、典型的には賃料支払請求の場面で適用される。その理論的根拠について、判例は登記を得た賃借人は民法177条の第三者に当たるからとしていたが、学説上は、譲受人と賃借人は対抗関係になく、譲受人の新賃貸人としての資格要件として要求されるとするのが有力であった(中田裕康『契約法』453頁(有斐閣、2017))。いずれにしても、賃借人を二重払いの危険から解放するという実践的配慮に出たものと思われる。

605条の3(⑤)は、605条の2とは逆に、譲受人が積極的に賃貸借契約を引き受けようとする場合に、契約上の地位の移転に関する原則(相手方の承諾が必要。539条の2)を修正して、賃借人の承諾を不要とするものである(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁を明文化)。

 

許諾契約上の地位の移転と著作権譲受人=新許諾者の権利行使

不動産賃貸借契約上の地位の移転のアナロジー

以上を前提に許諾契約上の地位の移転について検討する。

まず、利用権が当然対抗とされた以上、許諾契約上の許諾者の地位は、賃貸借契約におけるのと同様に、当然に移転するものと解するべきである(①')。許諾契約上の許諾者の地位の留保と著作権譲渡人―譲渡人間での許諾契約が合意された場合についても、賃貸借契約におけるのと同様に解してよい(②'、③')。①'の場合、新許諾者は、権利行使要件として移転登録を要すると解するべきである(④'。なお、著作権の移転は登録が対抗要件である〔著作権法77条1号〕)。

以上に対して、著作権譲渡人=許諾者と譲受人が許諾者としての地位の移転を合意したときは、その移転の効力が生じるためには、被許諾者の承諾を要しないと解するべきである(⑤')。

 

ピクトグラム事件判決とそれに対する批判との関係

著作権法令和2年改正前の裁判例で、(a)著作権譲渡から直ちに許諾者としての地位の譲渡を認め、(b)許諾者の義務(権利不行使が主)の没個性性から前掲最判昭和46年を参照して被許諾者の承諾を不要とした上で、(c)前掲最判昭和49年を参照して登録を必要とし、それがないとして請求(許諾契約の終了に基づく原状回復請求)を認めなかったものがある(大阪地判平成27年9月24日判時2348号62頁[ピクトグラム])。

(a)は、⑤'を前提にやや強引に契約解釈したものと思われるが、①'のように解すれば、そのような強引な契約解釈をする必要はなくなる。

(b)は、⑤'と同旨であり、妥当である。

(c)は、④'と同旨であるが、「昭和49年最判は賃借人が不動産賃貸借につき登記を備えていた事案であったが,著作権の使用許諾契約については登録の術がない。登記という対抗要件を具備した不動産賃貸契約の賃借人と著作権使用許諾契約の被許諾者とを同じに解してよいのだろうか」という批判がある(渕麻依子・著作権判例百選第6版203頁(2019))。しかし、次の2点からこの批判は妥当しない。

第1に、この批判は、昭和49年最判を、①不動産賃貸借登記がされていた事案において、②賃借人にそのように特に保護に値する事情があることを前提に、賃貸人にも一定の権利保護要件を課したものと理解しているようである。しかし、まず①について、昭和49年最判の事案で賃借人が備えていたのは、建物保護法による登記(借地借家法上でいう賃貸借契約たる借地契約における地上建物の登記)である。また、②について、地上建物の登記は、賃貸借契約の登記と異なり、借地権者=地上建物所有者がその意思によって行うことができ、土地賃貸人との交渉によって勝ち取るものではないことからすれば、特に保護に値する事情とはいえない(このことは、同判決の射程が建物賃貸借契約にも及ぶと考えられてきたことを考えれば(平成29年改正民法ではそれが確認された)、なおさらそうである。地上建物所有者が登記をしないことはありうるが、建物賃貸借の賃借人が引渡しを受けないことはほとんどありえない)。したがって、上記批判はその前提を欠く。

第2に、実質的に見ても、そもそも昭和49年最判の趣旨である二重払いの危険から解放する必要性は賃借人・被許諾者の登録等とは関係がない。また、令和2年改正著作権法は、利用権を当然対抗とする令和2年改正著作権法は利用権を強く保護する趣旨を含むと考えられるから、そのような立法を前提とすれば、被許諾者の保護に傾きすぎた解釈ということもない。移転登録は実際にはほとんどされていないようであるが、かつての特許法上の通常実施権の登録などと異なり、移転登録は譲受人の権利と考えられるから、そのような実態に配慮する必要はないと考えられる。

 

許諾者倒産時の処理

令和2年改正前により、被許諾者は、許諾者の倒産からも保護されることとなる。

倒産時において、破産管財人・再生債務者等は、双方未履行(双方履行未完了)の双務契約を任意に解除することができるが(破産法53条1項、民事再生法49条1項)、使用・収益を目的とする権利を設定する契約について、相手方が第三者対抗要件を備えた場合には、適用除外とされている(破産法56条1項。民事再生法51条で準用)。前者は財産関係の清算あるいは倒産者に有利な契約のみを残存させる手段を与えるものであり(議論がある)、後者は不動産賃貸借や知的財産権のライセンス契約がしばしば賃借人・ライセンシーの生活や事業の基盤となっていることを念頭に、彼らが賃貸人の倒産という自己とは関係のない原因によってその生活や事業の基盤を奪われることのないようにするものである。

著作権の利用許諾契約は、双方未履行(履行未完了)の双務契約であり、使用・収益を目的とする権利を設定する契約に当たるが、令和2年改正前は、第三者対抗要件を備えることができないことから、解除の適用除外を受けることができなかった。令和2年改正後は、当然対抗とされたことにより、常に第三者対抗要件を備えたものとして扱われ、したがって、常に適用除外を受けることができることとなった。