生殖補助医療民法特例法―やる意味あった?

今回成立した生殖補助医療民法特例法についてのメモ。この改正、やる意味なかったよね?

 

報道

三者から精子卵子の提供を受けることによって生まれた子どもの親子関係を、民法で特例的に定める法律が、衆議院本会議で可決・成立しました。

法案は、第三者から精子卵子の提供を受けるなどして行われる生殖補助医療をめぐって、国内に関連する法律がないことから、議員立法の形で提出され、4日の衆議院本会議で自民党立憲民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

“第三者から精子や卵子の提供” 生殖補助医療法 衆院で成立 | NHKニュース

民法で特例的に定める」は、正確には「民法の特例を定める」です(単行法)。

 

条文

2条(定義)

1項 この法律において「生殖補助医療」とは、人工授精又は体外受精若しくは体外受精胚移植を用いた医療をいう。

2項 前項において「人工授精」とは、男性から提供され、処置された精子を、女性の生殖器に注入することをいい、体外受精とは、女性の卵巣から採取され、処置された未受精卵を、男性から提供され、処置された精子により受精させることをいい、体外受精胚移植とは、体外受精により生じた胚を女性の子宮に移植することをいう。

(カジュアルに「医療」という言葉が出てきており、医師法の「医療」概念(医業の一要件としての医療関連性における「医療」)に批判的な立場としては、いやそれ医療なのかよと思うところですが、それは置いておくこととします。なお、最決令和2年9月16日裁判所website(タトゥー医師法違反事件上告審)

 

9条(他人の卵子を用いた生殖補助医療により出生した子の母)

女性自己以外の女性の卵子(その卵子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産をした女性をその子の母とする

 

10条(他人の精子を用いる生殖補助医療に同意をした夫による嫡出の否認の禁止)

が、夫の同意を得て夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、は、民法第七百七十四条の規定にかかわらず、その子が嫡出であることを否認することができない

 

感想

条文は特に目新しいものではなく、平成15(2003)年に中断された法制審の部会の中間試案の一部を条文化したものです(法務省:法制審議会 - 生殖補助医療関連親子法制部会)。「分娩者=母」という定式が生殖補助医療との関係でも貫徹されることは、その後の判例で確認されており(最決平成19年3月23日民集61巻2号619頁卵子提供者を母とするネバダ州裁判所の裁判が我が国の公序に反し承認されないということの前提として)、嫡出否認の訴えについても訴権の濫用として十分に対応できると考えられるため(一般法理ですが、子の利益が関わるので比較的容易に適用されるでしょう)、立法は極めて確認的なものです。

前回の法制審の部会から17年が経過し、生殖補助医療も進歩し、また、法制審で検討の対象とされていなかった紛争も生じているいるので、それを考慮に入れて改めて規律を考えるというなら分かりますし、国民的な合意が必要なテーマなだから議員立法でやるというなら分かるのですが(前掲平成19年最高裁決定、死後認知に関する最判平成18年9月4日60巻7号2563頁凍結した受精卵を妻が無断移植して出産した子と父子関係があるか?参照)、どちらというわけでもなく、正直なところ、なぜ今さら議員立法でこんな立法をしたのかよく分かりません。ありうるとすれば、首相が不妊治療を推進しているからでしょうか(不妊治療、早期に保険適用 菅首相:時事ドットコム)。

現在法制審では家族法の改正の議論が進められており、そこでは生殖補助医療も議論の対象とされていますが(法務省:法制審議会 -民法(親子法制)部会)、それを待ってからのほうがマシな議論ができたのではないかと思います。