種苗法改正について―種苗法とは何か、改正関係条文

今回成立した種苗法改正について、そもそも種苗法とは何なのか、何が改正されたのか、条文ではどう書かれているのかのメモ。農業のことはよくわからないので政策論には立ち入りません。

 

報道

国に、新品種として登録された果物などの種や苗を海外へ無断で持ち出すことを規制する改正種苗法が、2日の参議院本会議で可決・成立しました。

種苗法の改正案は、2日の参議院本会議で採決が行われ、賛成多数で可決され、成立しました。

改正種苗法では、国に新品種として登録された果物などの種や苗が海外に流出するのを防ぐため、開発者が輸出できる国や国内の栽培地域を指定でき、それ以外の国に故意に持ち出すなどした場合は、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が科されます。

このほか、農家が収穫物から種や苗を採って次の作付けに使う「自家増殖」の場合も開発者の許諾が必要になることなどが盛り込まれています。

政府は、先の通常国会での成立を目指していましたが、新型コロナウイルスの対応などで十分な審議時間が取れず継続審議となる中、一部の農業関係者などからは慎重な審議を求める声が出ていました。

このため、衆参両院の農林水産委員会の付帯決議では、改正によって、農家が新しい品種を利用しにくくならないように、種や苗が適正価格で安定的に供給されるような施策を講じることや、農家に対して制度の見直しの内容について丁寧に説明することなどが盛り込まれています。

この改正種苗法は、一部の規定を除き、来年4月に施行されます。

(後掲・NHK

 

概要

種苗法について

種苗法については、さしあたり、次のことを理解してください。

  • 種苗法は、知的財産法の一つである。
  • 種苗法は、植物の新品種について(特許法における発明と同様に新規性が要求される)、品種登録制度を定める。
  • 品種登録出願人は、審査を経て品種登録を受けると、出願に係る品種について育成者権を取得する。
  • 育成者権者は、登録品種および当該登録品種と特性により明確に区別されない品種業として利用(定義語)する権利を専有し(cf. 商標法では同一または類似の商標)、これをこの権利を侵害する者に対して、差止請求損害賠償請求をすることができる(損害賠償請求について、損害推定・過失推定規定がある)。
  • 利用行為には、
    ①その品種の種苗を生産し、調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し*、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為、
    種苗について権利行使の機会がなかった場合**に、その品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為、
    種苗・収穫物について権利行使の機会がなかった場合に、その品種の加工品を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為
    が含まれる。

*特許権と異なり、輸出が利用行為に含まれています(特許権については、輸出は実施行為に含まれません。立法が検討されたことはありますが、海外における市場機会の独占は属地主義に反するという謎理論でそうしないこととされています。しかし、必ずしもそうとは言えないことは、種苗法が輸出を利用行為としていることからも明らかであるように思います。上記「謎理論」と同様の理論で解釈上輸出を実施行為とすることはできないとした裁判例がありますが、その結論自体は不当とは言えないものの、その理由は、立法が、その当否はさておき、輸出は実施行為ではないという判断をしたということに求めるほかないように思います。)。
**権利行使の機会がある場合の典型は権利者が適法に生産・譲渡した場合で、それがない場合の典型は、権利侵害による場合です。侵害品の派生品に段階的に効力を拡張するわけです。

 

改正法について

改正法は様々な規定を含んでいますが大きいのは、自家増殖の権利制限の廃止と、指定地国・地域制度の導入(輸出規制の強化)です。特に前者については激しい論争がされていますが、私は知的財産法は(多少)分かっても農業のことはよく分からないので、立ち入りません。指定地国・地域制度の導入がなぜ輸出規制の強化になるのかは、下で引用する条文を見ればわかると思います。

詳細については、さしあたり次のものをご覧ください。

なお、種苗法は知的財産法の一つなのですが、日弁連は改正に賛成する意見書を提出しています(日本弁護士連合会:令和2年種苗法改正法案に関する意見書)。

 

属地主義と指定国・指定地域制度との関係

知的財産権の効力は、原則として付与国の領域内にしか及ばないようになっているため属地主義、日本で育成者権を取得しても、海外での利用行為(生産、譲渡etc)についてはその効力は及びませんし、日本で登録が認められたからといって海外でも実質的な審査をパスして登録が認められるということはありません。そうすると、海外での利用行為を止めるためには、独自にその国でも出願し、改めて実質的な審査を受けて、権利を取得しなければなりません*。

 *ただし、UPOV締約国に出願した場合、12か月の間は、優先権が認められます(UPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約Union internationale pour la protection des obtentions végétales)11条)。つまり、新規性や先願(出願の先後)等との関係で、最初の出願国での出願時に当該外国でも出願したものとして扱ってもらえます。

ただ、実際には、日本で新品種を開発した人が外国での出願・審査に対応するだけの費用を出せないということが多いですし、仮に権利を取得したとしても、当該外国が十分な知的財産権の保護制度を持っているとは限りません*。

*まあ叩かれがちな韓国などは、日本と比べても見劣りしない制度を持っているので、日本の開発者が費用を出せなかっただけなんじゃないか(そうである以上権利取得していれば止められた行為を止められなくなったとしても仕方がない)という気がするわけですが…

輸出規制の強化は、属地主義の枠内で取ることができる次善の策、ということになります。

 

条文

ここからは、条文上それらがどのように実装されているかを見ていきたいと思います。

 

自家増殖の権利制限の廃止

種苗法21条は、育成者権の権利制限を規定していますが、今回問題になるのは、2項の自家増殖です。

現行法21条2項は、次のような条文になっています。

現行法21条2項 農業を営む者で政令で定めるものが、最初に育成者権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗を用いて収穫物を得その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる場合には、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。

今回の改正では、この規定が廃止され(丸ごと削除)、原則どおり自家増殖にも育成者権が及ぶ=権利侵害となるようになります。

 

消尽の権利制限―指定国・地域制度の前提

指定国・地域制度は、育成者権の効力についての例外としての消尽の権利制限について、さらに例外を規定する(=原則に復する)という構造になっているので、指定国・地域制度を理解するためには、消尽の権利制限について理解する必要があります。

消尽による権利制限を規定しているのは、改正法21条2項です。

改正法21条2項 育成者権者、専用利用権者若しくは通常利用権者の行為又は前項各号に掲げる行為により登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗、収穫物又は加工品譲渡されたときは、その譲渡された種苗、収穫物又は加工品の利用には及ばない
ただし、①当該登録品種等の種苗を生産する行為、②当該登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国に対し種苗を輸出する行為及び③当該国に対し最終消費以外の目的をもって収穫物を輸出する行為については、この限りでない。

その趣旨については、特許法に関する判例*の中で分かりやすく説明されているので引用されています。

*特許法には消尽の規定がないのですが、解釈上認めるべきだと考えられてきました。この判例は、それを最高裁として初めて正面から認めたものです。

特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。この場合,特許製品について譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が既に保障されているものということができ,特許権者等から譲渡された特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである…。このような権利の消尽については,半導体集積回路の回路配置に関する法律12条3項,種苗法21条4項において,明文で規定されているところであり,特許権についても,これと同様の権利行使の制限が妥当するものと解されるというべきである。
最判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁[インクタンク事件上告審])

 

指定国・地域制度

指定国・地域制度は、繰り返しますが、育成者権の効力についての例外としての消尽の権利制限について、さらに例外を規定する(=原則に復する)という構造になっています。

21条の2は、1項〜6項で指定やその公示の方法等、7項で消尽の要件を満たす場合でも指定国・地域への輸出等には権利が及ぶことが規定されています。

改正21条の2 品種登録を受けようとする者は、次の各号に掲げる場合において、当該品種登録に係る育成者権の適切な行使を確保するため、農林水産省令で定めるところにより、品種登録出願と同時に当該各号に定める事項を農林水産大臣に届け出ることができる
一 出願品種の保護が図られないおそれがある国への当該出願品種の種苗の流出を防止しようとする場合 次に掲げる事項
 出願者が当該出願品種の保護が図られないおそれがない国として指定する国(前条第二項ただし書〔=「当該登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国」〕に規定する国を除く。以下「指定国」という。)
 前条第二項ただし書に規定する国以外の国であって指定国以外の国に対し種苗を輸出する行為及び当該国に対し最終消費以外の目的をもって収穫物を輸出する行為を制限する旨
二 出願品種の産地を形成しようとする場合 次に掲げる事項
 出願者が当該出願品種の産地を形成しようとする地域として指定する地域(以下「指定地域」という。)
指定地域以外の地域において種苗を用いることにより得られる収穫物を生産する行為を制限する旨
 前項の規定による届出をした者(その承継人を含む。次条第一項及び第二項並びに第二十一条の四第一項及び第二項において同じ。)は、次項の規定による公示(第十三条第一項の規定による公示と併せてされたものに限る。)前に限り、当該届出に係る指定国又は指定地域の指定の全部又は一部を取り消す旨を農林水産大臣に届け出ることができる。
3 農林水産大臣は、第一項の規定による届出があった場合には、第十三条第一項又は第十八条第三項の規定による公示の際、これらの公示と併せて、それぞれ第十三条第一項第一号から第四号までに掲げる事項及び当該届出に係る事項(前項の規定による届出があった場合には、当該届出に係る変更後の事項。以下この項及び次項並びに第二十一条の四第三項において同じ。)又は第十八条第二項第一号から第三号まで及び第六号に掲げる事項並びに当該届出に係る事項を公示しなければならない。
4 農林水産大臣は、前項の規定による公示(第十八条第三項の規定による公示と併せてされたものに限る。)をした場合には、品種登録簿に第一項の規定による届出に係る事項及び当該公示をした年月日を記載するものとする。
 登録品種の種苗を業として譲渡する者は、農林水産大臣が前項に規定する公示をした日の翌日以後は、当該公示に係る登録品種の種苗を譲渡する場合には、その譲渡する種苗又はその種苗の包装に、第五十五条第一項の規定による表示に加え、農林水産省令で定めるところにより、その種苗が第一項第一号ロ又は第二号ロに規定する制限が付されている旨及び当該制限の内容について当該公示がされている旨表示を付さなければならない。
 登録品種の種苗の譲渡のための展示又は広告を業として行う者は、農林水産大臣が第四項に規定する公示をした日の翌日以後は、当該公示に係る登録品種の種苗の譲渡のための展示をする場合にはその展示をする種苗又はその種苗の包装に、当該公示に係る登録品種の種苗の譲渡のための広告をする場合にはその広告に、第五十五条第二項の規定による表示に加え、農林水産省令で定めるところにより、それぞれその種苗が第一項第一号ロ若しくは第二号ロに規定する制限が付されている旨及び当該制限の内容について当該公示がされている旨の表示を付し、又はこれらを表示しなければならない。
 農林水産大臣が第四項に規定する公示をした日の翌日以後は、前条第二項本文の規定にかかわらず、育成者権の効力は、当該公示に係る登録品種等についての第一項第一号ロ又は第二号ロに規定する行為(以下「輸出等の行為」という。)には及ぶものとす る。