最判令和2年11月25日裁判所website(地方議会の出席停止と司法権の限界)

最判令和2年11月25日裁判所websiteについて。判決自体の評価はよくわからないので(板垣先生のツイートなどをご参照ください)、主にこれまでどんな判決・議論がされてきたか(=本判決はどのような文脈でなされたものか)について整理したものです。

 

前提

法律上の争訟

訴えが適法であるためには、その訴えが「法律上の争訟」に当たるものでなけれなならないとされています。

裁判所法3条1項 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

「法律上の争訟」とは、判例上、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争で、②法令の適用により終局的に解決することができるものを指すとされています。

裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」、すなわち①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(判例引用省略)。したがつて、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であつても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえない、というべきである。

最判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁[板まんだら事件]。番号は筆者)

①は「法律上の争訟」という文言上当然の形式的要件であり、それに対して、②は、当該事案(創価学会の教義に関する錯誤を前提に、信者が寄付金の返還を請求した)が①を満たすにもかかわらず「法律上の争訟」に当たらないとするために持ち出された実質的要件です。

①によって「法律上の争訟」に当たらないとされた例として、次のものがあります。

このうち、宝塚パチンコ事件については、強力な批判があります。

〔法律上の争訟の〕定式は法律上の争訟が法律関係の存在法的解決の可能性を内容とすることを述べている。そして、本件の場合、当該地方公共団体と相手方の関係が法律関係でないということはいえない(これを否定することは、行政上の法律関係の存在を否定することになり、一挙に絶対君主制の時代にさかのぼる一挙に絶対君主制の時代にさかのぼる。さらにこの関係の法律関係性を否定すると、命令の相手方からの取消訴訟、さらにおよそ取消訴訟は法律関係に関する訴訟ではなく、取消訴訟制度がなければ、相手方には義務の不存在を争う手立てもないということになるが、そうだとすると、現行取消訴訟制度は本来の司法権の作用を超えたものとなる。最高裁判所がここまで考えているかどうかは、この判決からは明らかではない)。また、法令の適用により終局的解決ができないかといえば、本件などは、まさに条例の適用(当該条例が違法で無効であるかどうかは別として)により、義務の存在・不存在が確定し事件は解決するのである。
塩野宏行政法II 行政救済法 第5版補訂版』281頁(有斐閣、2013))

一方、宗教上の地位等が法律上の地位にも結びついている場合には(この判断は極めて個別具体的です)、①要件を満たすことになります。

②によって「法律上の争訟」に当たらないとされた例として、板まんだら事件以外に次のものがあります。いずれも代表役員の確認や建物としての寺院の所有権に基づく明渡しなど、請求自体は法律上のものであるものの、その前提として教義・信仰に立ち入らざるをえず、法令の適用によって解決できないとされたものです(これも個別具体的な判断になります)。

ただ、これらについては、裁判を受ける権利や実体的権利の保護との関係で批判があります(本案の問題とすればよく、不適法とする必要はない)。

 

司法権の限界

司法権の限界については、例えば次のように説明されています。

法律上の争訟に当たるが,事柄の性質上裁判所の審判に適しないと認められるものを,司法権の限界という。もともと事件性を充たす争訟については,裁判所は司法権を行使すべきなのが原則である。したがって,司法権の限界はその原則の例外として,憲法が明文で認めたものか,憲法の解釈によって導かれる場合でなければらない。たとえば国会議員の資格争訟の裁判(55条)や裁判官の弾劾裁判(64条)は憲法の明文が定める司法権の限界に当たる。

(安西文雄ほか『憲法学読本 第3版』(有斐閣、2018)325頁〔宍戸常寿〕)

判例が判断を差し控えたもので、「司法権の限界」と整理されているものとして、次のものがあります(自律的団体(地方議会、大学、政党)の内部事項については、富山大学事件、共産党袴田事件で使われた「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題」にとどまる限り審判の対象とならないというフレーズが有名です)。

ただ、これらについても、強い批判があります。学説は、例えば行政裁量について行われているのと同じように、全面的に司法審査の対象とした上で、地方自治の本旨(地方議会)、結社の自由(政党)、学問の自由(大学)などに配慮して裁判所がどこまで立ち入るかを考えればよいとしています(なお、かつては行政裁量も司法権の限界として位置付けられていました)。 

 

地方議会の懲戒処分

今回変更された最大判昭和35年10月19日民集14巻12号2633頁は、次のように判示していました(法律上の争訟と司法権の限界が区別されていない感がありますね…)。

思うに、司法裁判権が、憲法又は他の法律によつてその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法三条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争といら〔「いう」?〕意味ではない。一口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。(尤も昭和三五年三月九日大法廷判決民集一四巻三号三五五頁以下―は議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項としているが、右は議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らないからであつて、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしているのである。従つて、前者を司法裁判権に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである。)

 

事案

判決文より引用。〔〕内は筆者。「被上告人」(=一審原告)をXに、「上告人」(=一審被告)をYに置き換えた。

(1) Xは,平成27年12月20日に行われた市議会〔宮城県岩沼市議会〕の議員の任期満了による一般選挙において当選し,本件処分〔23日間の出席停止の懲罰〕当時,市議会の議員であった者である。
(2) 市議会の定例会の回数は,岩沼市議会定例会の回数に関する条例(昭和31年岩沼市条例第78号)により,毎年4回とされており,その会期は,岩沼市議会会議規則(平成7年岩沼市議会規則第1号)により,毎会期の初めに議会の議決で定めることとされている。市議会の平成28年6月に招集された定例会(以下「6月定例会」という。)の会期は同月14日から同月23日までの10日間,同年9月に招集された定例会(以下「9月定例会」という。)の会期は同月6日から同月28日までの23日間とされた。
(3) 本件条例〔議会議員の議員報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例。平成20年岩沼市条例第23号〕によると,市議会の議員の議員報酬は月額36万3000円とされ(2条),一定期間の出席停止の懲罰を受けた議員の議員報酬は,出席停止の日数分を日割計算により減額するものとされている(6条の2,3条3項)。
(4) Xと同一の会派に属するA議員は,海外渡航のため,平成28年4月25日に行われた市議会の教育民生常任委員会を欠席した。市議会は,同年6月14日,6月定例会において,A議員に対し,上記の欠席について,議決により公開の議場における陳謝の懲罰を科した。これを受け,A議員は,市議会の議場において,陳謝文を読み上げた。
(5) Xは,平成28年6月21日,市議会の議会運営委員会において,上記(4)のA議員が陳謝文を読み上げた行為に関し,「読み上げたのは,事実です。しかし,読み上げられた中身に書いてあることは,事実とは限りません。それから,仮に読み上げなければ,次の懲罰があります。こういうのを政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」との発言(以下「本件発言」という。)をした。
(6) 市議会は,6月定例会の最終日である平成28年6月23日,本件発言を問題として同月22日に提出されたXに対する懲罰動議を閉会中の継続審査とすることとし,懲罰特別委員会における審査を経た上,同年9月6日,同日招集された9月定例会において,Xに対し,本件発言について,議決により23日間の出席停止の懲罰を科する旨の本件処分をした。
(7) Yは,平成28年9月21日,Xに対し,本件条例に基づき,本件処分により出席停止とされた23日間の分に相当する27万8300円を減額して議員報酬を支給した。

XはYに対し、本件処分の取消しと議員報酬のうち本件処分による減額分の支払を求めた。一審は不適法として却下、二審は一審判決取消し・差戻し。Yが判例違反を理由に上告(先に引用した昭和35年大法廷判決)。

 

判旨

上告棄却。

5(1) 普通地方公共団体の議会は,地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科することができる(同法134条1項)ところ,懲罰の種類及び手続は法定されている(同法135条)。これらの規定等に照らすと,出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは,法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって,その性質上,法令の適用によって終局的に解決し得るものというべきである。

(2)ア 憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として,その施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用しており,普通地方公共団体の議会は,憲法にその設置の根拠を有する議事機関として,住民の代表である議員により構成され,所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどの権能を有する。そして,議会の運営に関する事項については,議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきであるところ,議員に対する懲罰は,会議体としての議会内の秩序を保持し,もってその運営を円滑にすることを目的として科されるものであり,その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成する。

イ 他方,普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項,地方自治法11条,17条,18条),議会に議案を提出することができ(同法112条),議会の議事については,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,同事務に関する調査を行うことができる(同法98条,100条)。議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。

ウ 出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能において科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない
そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。

(3) したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。

 

宇賀補足意見

私は,法廷意見に賛成するものであるが,地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の司法審査について,補足して意見を述べることとする。

1 法律上の争訟
法律上の争訟は,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,②それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られるとする当審の判例最高裁昭和51年(オ)第749号同昭和56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁〔注:板まんだら事件〕)に照らし,地方議会議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えが,①②の要件を満たす以上,法律上の争訟に当たることは明らかであると思われる〔注:cf. 宝塚パチンコ事件〕。
法律上の争訟については,憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されており,また,法律上の争訟について裁判を行うことは,憲法76条1項により司法権に課せられた義務であるから,本来,司法権を行使しないことは許されないはずであり,司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは,かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。

2 国会との相違
国会については,国権の最高機関(憲法41条)としての自律性を憲法が尊重していることは明確であり,憲法自身が議員の資格争訟の裁判権を議院に付与し(憲法55条),議員が議院で行った演説,討論又は表決についての院外での免責規定を設けている(憲法51条)。しかし,地方議会については,憲法55条や51条のような規定は設けられておらず,憲法は,自律性の点において,国会と地方議会を同視していないことは明らかである。

3 住民自治
地方議会について自律性の根拠を憲法に求めるとなると,憲法92条の「地方自治の本旨」以外にないと思われる。「地方自治の本旨」の意味については,様々な議論があるが,その核心部分が,団体自治〔注:地方自治が国から独立した団体としての地方自治体によって行われること〕と住民自治〔注:地方自治が住民の意思に基づいて行われること〕であることには異論はない。また,団体自治は,それ自身が目的というよりも,住民自治を実現するための手段として位置付けることができよう。
住民自治といっても,直接民主制を採用することは困難であり,我が国では,国のみならず地方公共団体においても,間接民主制を基本としており,他方,地方公共団体においては,条例の制定又は改廃を求める直接請求制度等,国以上に直接民主制的要素が導入されており,住民自治の要請に配慮がされている。
この観点からすると,住民が選挙で地方議会議員を選出し,その議員が有権者の意思を反映して,議会に出席して発言し,表決を行うことは,当該議員にとっての権利であると同時に,住民自治の実現にとって必要不可欠であるということができる。もとより地方議会議員の活動は,議会に出席し,そこで発言し,投票することに限られるわけではないが,それが地方議会議員の本質的責務であると理解されていることは,正当な理由なく議会を欠席することが一般に懲罰事由とされていることからも明らかである。
したがって,地方議会議員を出席停止にすることは,地方議会議員の本質的責務の履行を不可能にするものであり,それは,同時に当該議員に投票した有権者の意思の反映を制約するものとなり,住民自治を阻害することになる。
地方自治の本旨」としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付けながら,住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので,これにより地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付けることはできないと考える。

4 議会の裁量
地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象としても,地方議会の自律性を全面的に否定することにはならない。懲罰の実体判断については,議会に裁量が認められ,裁量権の行使が違法になるのは,それが逸脱又は濫用に当たる場合に限られ,地方議会の自律性は,裁量権の余地を大きくする方向に作用する。したがって,地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象とした場合,濫用的な懲罰は抑止されることが期待できるが,過度に地方議会の自律性を阻害することにはならないと考える。