役員の対第三者責任と債権者優先原則

雪印食品損害賠償請求事件は、役員の対第三者責任における株主の第三者性を原則として否定したものですが、これを理解するためには、債権者と株主の関係や、責任財産というものの意味を考える必要があって面白いので、同事件を素材にそれらについて書いてみます。

 

目次

 

雪印食品損害賠償請求事件

東京高判平成17年1月18日金判1209号10頁(雪印食品損害賠償請求事件)は、次のように判示しています([]内は筆者)。

株式が証券取引所などに上場され公開取引がなされている公開会社である株式会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど、全株主が平等に不利益を受けた場合、株主が取締役に対しその責任を追及するためには、特段の事情のない限り、商法267条[会社法847条]に定める会社に代位して会社に対し損害賠償をすることを求める株主代表訴訟を提起する方法によらなければならず、直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできないものと解すべきである。その理由は、〔1〕上記の場合、会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること、〔2〕仮に株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると、取締役は、会社及び株主に対し、二重の責任を負うことになりかねず、これを避けるため、取締役が株主に対し直接その損害を賠償することにより会社に対する責任が免責されるとすると、取締役が会社に対して負う法令違反等の責任を免れるためには総株主の同意を要すると定めている商法266条5項[会社法424条以下]と矛盾し、資本維持の原則にも反する上、会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになるほか、株主相互間でも不平等を生ずることになることである。以上のことを考慮して、株式会社の取締役の株主に対する責任については、商法266条[会社法423条]が会社に対する責任として定め、その責任を実現させる方法として商法267条[会社法847条]が株主の代表訴訟等を規定したものと解すべきである。そして、その結果として、株主は、特段の事情のない限り、商法266条の3[会社法429条]や民法709条により取締役に対し直接損害賠償請求することは認められないと解すべきである。

また、株式が証券取引所に上場されるなどして公開され多数の株主が市場で株式を売買している公開会社においては、株主は、特段の事情のない限り、いつでも自由に市場において株式を処分することができるので、取締役の過失により株式会社の業績が悪化して株価が下落しても、適時に売却することにより損失を回避ないし限定することができるから、株主に個別に取締役に対する損害賠償請求を認める必要も少ない。もっとも、株式が公開されていない閉鎖会社においては、株式を処分することは必ずしも容易ではなく、違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には、実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから、このような場合には、前記の特段の事情があるものとして、株主は民法709条に基づき取締役に対し直接株価の下落による損害の賠償をすることもできると解すべきである。

司法試験受験生的には、不法行為というよりは、「役員の対第三者責任における株主の第三者性」として知られている(ほんと?)問題です*。なお、念のため、会社法429条1項を引用しておきます。

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

*対第三者責任と不法行為責任との関係は、それはそれで一つの論点です。最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁参照。

 

資金提供者としての債権者と株主

会社の資金調達の方法には、借入れ*と新株発行があります。

*借入れの方法には、金融機関との相対による借入れと、社債の発行があります。いずれも法的には消費貸借契約の締結ですが、社債の発行は不特定多数の投資家を相手方とするため、権利関係を集団的に処理する必要性から、会社法が特別の扱いをしているものといえます。

借入れは、返済の必要があり(=他人資本)、かつ、事前に決められた利息を払う必要があります。新株発行は、返済の必要がなく(=自己資本)**、代わりに毎年決められる配当が受けられます***。

**投資家が資金を必要とするときは、お金を返してもらう代わりに株式を売却することになります。

***配当は基本的には年1回の定時株主総会で決められますが、株主総会決議の授権に基づき、それ以外の機会に取締役会決議により中間配当をすることもできます。

法的には、借入れに応じた資金提供者は(貸金)債権者となり、新株発行に応じた資金提供者は株主となります。債務をデットdebt、株式(を含む持分)をエクイティequityと呼ぶので、借入れをデットファイナンス、新株発行をエクイティファイナンスと呼ぶこともあります。

債権者は、債務者が倒産しない限り元本と利息が保証されています。しかし、逆に言えば、それ以上のものを受け取ることはできません。それに対して、株主は、元本は保証されませんし、配当も保証されません。しかし、分配可能額規制を除いて配当に上限はありません****。一般に債券はローリスク・ローリターン株はハイリスク・ハイリターンと言われるのはそのためです。このことをグラフに表すと、次のようになります。

****実際には、経営者がその期の利益の全てを配当に回すことはなく、多くを投資に回します。いわゆる内部留保とは、株主に配当されず、再投資に回された分のことを言います。

f:id:Haruwas:20180624064744p:plain

この点線部分が、資産額と負債額の一致する点です。言い換えれば、それより左側が債務超過、右側が資産超過ということになります。

 

平時の債権者優先原則—分配可能額規制

投下資本回収の場面では、債権者と株主では、債権者のほうが優先されます。借りたものは返さなければならないのに対して(仮に「債権者優先原則」と呼ぶことにします)、会社は株主のものである以上、株主が(取締役を通じた)経営に失敗して配当を受けられなくなるのは自己責任だと言えるからです。

債権者優先原則を平時において反映したのが、分配可能額規制です。法律の一つとして会社法を勉強している人なら、

[分配可能額]=[その他資本剰余金]+[その他利益剰余金]

という定式自体は一応知っているのではないかと思います*。この計算式こそが、債権者のために積み立てておくべきお金を差し引いた残りを株主に配当できる、ということを意味しています。

*会社法446条がいろんな項目を足したり引いたりしているように見えますが、7号の委任を受けた会社計算規則149条がそれを骨抜きにしており、差し引きすると結局のところ本文に書いたような式になります(第7回:分配可能額の算定|会社法(平成26年改正)|EY新日本有限責任監査法人)。

 

倒産時の債権者優先原則—「株式が紙くず同然になる」

では、会社が倒産した場合はどうでしょうか。倒産にもいろいろありますが、ここでは一番わかりやすい破産を考えましょう。会社における破産開始原因は、「支払不能債務超過です。支払不能の定義はいろいろ複雑なのですが、債務超過と比べてより深刻な状態なので、さしあたりは会社は債務超過になると倒産すると考えておいてよいでしょう。

さて、債務超過にあるということは、最初にグラフで確認したように、債権者が満額の返済を受けられないことを意味します。そうすると、債権者優先原則からすれば、当然に株主は配当を受けられません。

これこそが、会社が破産すると「株式が紙くず同然になる」と言われていることの意味です(かつておよそ株式会社は株券を発行しなければなりませんでした)。

 

株主に第三者性を認める意味―債権者優先原則のバイパス

ここで雪印食品事件に戻ります。役員が違法行為を行って破産した場合、会社は当該役員に対して損害賠償請求権を取得します*。

*実は雪印食品は破産手続ではなく、会社法清算手続により処理されているのですが(雪印牛肉偽装事件 - Wikipedia)、単純化のため破産時を考えることにします。

もっとも、ここでいう会社というのは、まさに清算されようとしているわけなので、利害関係を調整するためのただの箱にすぎません(実は平時もそうなのですが)。では賠償されたお金が実質的に誰のもとに行くかというと、債権者です。先に確認したとおり、破産した会社というのは債務超過にあり、債権者優先原則の帰結として株主は配当を受けられないからです(賠償されたお金は破産管財人の管理する破産財団に入り、そこから債権者に対する配当が行われます)。

ところが、会社が役員に対して損害賠償請求権を取得し(会社法423条1項を根拠とする)、個々の株主も役員に対して損害賠償請求権を取得する(同法429条1項を根拠とする)とした場合、どうなるでしょうか。役員が両債務を弁済して余りある資産を有しているなら別ですが(そういうことは普通はないでしょう)、そうでない限り、役員も債務超過ということになるため、パイの取り合いになります。具体的には、次のようになります。

  1. ある株主が破産管財人より先に債務名義を取得し、めぼしい財産を差し押さえた場合、その株主は会社(ひいては債権者)に先んじて弁済を受けることができます。雪印食品事件判決のいう「会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになる」というのは、そのような意味だと考えられます。
  2. ほぼ同時だった場合、配当加入や二重差押えにより、強制執行手続の中で配当が行われることになりますが、債権者平等原則により、比例弁済になります(例えば会社法423条1項に基づく損害賠償請求権に一般の先取特権がついているなら話は別ですが、そのような規律にはなっていません)。
  3. 役員が破産した場合、やはり債権者平等原則により、比例弁済になります。

いずれにしても、株主は「役員が会社に賠償→破産管財人が配当」という本来のルートであれば、債権者優先原則により配当はゼロのはずなのに、対第三者責任というバイパスを通じて(少なくとも一部)弁済を受けることができてしまうことになります。これを認めることは、株主の自己責任にも反します。

なお、雪印食品事件判決は、「株主相互間でも不平等を生ずる」とも述べていますが、これは、上記1,2の場合を想定したものと考えられます。弁済は、破産にならない限り先着順なので(破産の場合には一斉に債権を調査・確定します)、他の株主に先んじて役員に損害賠償を請求した株主だけが弁済を受けることができる、ということです(これも、役員が全債務を弁済して余りある資産を有しているなら別なのですが)。

 

閉鎖型の会社の場合

以上とはあまり関係がありませんが、雪印食品事件判決が認める閉鎖会社における例外について、その内容を見ることにします。

株式が公開されていない閉鎖会社においては、株式を処分することは必ずしも容易ではなく、違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には、実質上株主代表訴訟の遂行勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定し得るから、このような場合には、前記の特段の事情があるものとして、株主は民法709条に基づき取締役に対し直接株価の下落による損害の賠償をすることもできると解すべきである。

この場合、次のような状況になります(判決は主に平時を想定しているようなので、それに従います)。

  1. 少数派株主は、株主代表訴訟を提起することができる。
  2. しかし、株主代表訴訟においては、勝訴株主は弁済受領権を有しないから、役員から賠償金の支払いを受けることができない(また、仮に受けることができたとしても、株主は会社に対して当然には金銭債権を有しないので(配当請求権株主総会決議によって成立するが、少数派株主は株主総会決議を成立させることができない)、相殺により損害を回復することができない)。
  3. したがって、会社が支払いを受けることになる。しかし、会社は多数派によって支配されているから、会社は判決の執行を怠る可能性がある。提訴は株主ができるが(訴訟担当)、弁済受領権がない以上、執行を株主が行うことはできない(執行担当)。仮に弁済がされても、賠償金を含む会社財産の利用方法を決めるのは多数派であり、適切な利用がなされるとは限らない。
  4. そのような行為をする取締役は解任すべきだが、少数派は解任決議を成立させることができない。否決された場合、解任の訴えを提起できるが、仮に請求が認められても、後任は多数派が決めることができ、解任された者を再任することすらできてしまう(判決による解任の場合でも欠格事由ではない)。職務代行者選任の仮処分を申し立てることはできるが、会社の常務に属する行為しか行うことができず、最終的な解決にならない。
  5. そのような会社からは撤退すべきだが、そんな会社の株式を買ってくれる人はいないし、いたとしても譲渡承認がされない可能性がある。

こういう絶望的な状態から抜け出すことくらいは認めてよいのではないか、ということだと考えられます。

 

直接損害の例としてのMBO

最後に、雪印食品事件判決が認める例外について見ておきます。同判決は、間接損害・直接損害*という言葉こそ使っていませんが、「全株主が平等に不利益を受けた場合」について(原則として)株主の第三者性を否定しており、これは間接損害を指すものと考えられます。

*判例の表現によれば、間接損害とは「会社がこれによつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合」であり、直接損害とは「直接第三者が損害を被つた場合」です(最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)。

では直接損害にはどのような場合があるかというと、MBOの場合です(東京高判平成25年4月17日判時2190号96頁)。

取締役及び監査役は,善管注意義務の一環として,MBOに際し,公正な企業価値の移転を図らなければならない義務(以下,便宜上「公正価値移転義務」という。)を負うと解するのが相当であり,MBOを行うこと自体が合理的な経営判断に基づいている場合……でも企業価値を適正に反映しない買収価格により株主間の公正な企業価値の移転が損なわれたときは,取締役及び監査役善管注意義務違反が認められる余地があるものと解される。

この事案では、公開買付け・全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトがなされましたが、そこでは株主は株式が不当に安く買い取られたために損害を被ったにすぎず、会社が被った損害が株価に反映されるという形で損害を被ったわけではありません。そのため、東京高裁も今回書いたような問題を取り上げていません(なお、請求は棄却されました)。