株主招集における株主によるQUOカード配布(プラコー臨時総会開催禁止仮処分申立却下・即時抗告棄却決定)

株式会社プラコーについて、興味深い仮処分(を却下する判断)がなされているのを見たのでメモ。

 

目次

  

株主による株主総会の招集

株式会社プラコーの株主が、裁判所の許可に基づいて臨時株主総会を招集しました。招集株主は、買収防衛策の廃止と経営陣の入れ替えを提案しています。

この度、当社は株式会社プラコー(以下「プラコー」といいます。)が、株主の負託に応えることのできる企業に発展成長してもらいたいという願いの下、本株主提案をさせていただきました。当社は、長年、プラコーの株主として、その動向を見守ってきましたが、これまで同社の経営陣から、株主が期待する企業価値の拡大に向けた具体的かつ実効的な経営計画が発表されることはなく、逆に、取締役や従業員らに株式を保有させる施策を積極的に実行しつつ、先の定時株主総会では、株主の自由度を制限し現経営陣の保身に繋がるような買収防衛策が提案、可決されてしまいました。このままでは、プラコーは、現経営陣によって支配され、株主のコントロール権が及ばない閉鎖的な企業となってしまい、株主共同の利益が害される可能性が高いと言わざるを得ません。

そこで、当社は、上記のようなプラコーの現状を踏まえ、企業価値・株主共同利益の向上のため、買収防衛策の廃止及び経営陣の刷新を図るべく、本株主提案を行うに至りました。(後略)

株式会社プラコー臨時株主総会 | rinkabuplaco

 各種申立書・裁判書は株主のページで公開されています。後で引用する仮処分申立て却下決定・即時抗告棄却決定も、そこから引用しました。

 

仮処分申立て

これに対して、監査役が臨時総会の開催禁止の仮処分を申し立てました。招集株主によるクオカードの配布が争点となっています(今までの事件と異なり会社によるものではない)。

 

会社のプレスリリース

本申立ては、本臨時株主総会に関して、本株主により行われている招集手続及び行われようとしている決議方法に、複数の法令違反又は著しい不公正があり、かつ、それにより当社に著しい損害が生ずるおそれがあることを理由になされたものです。
とりわけ、当社は、本株主が、本臨時株主総会に係る委任状を本株主に返送した株主の皆さまに対し2,000円のクオカードを提供することとしていることは重大な問題であると考えております…。
すなわち、会社と議案を提出している株主との間で対立関係が生じている場合において、会社が株主に対してクオカード等の財産上の利益を供与することは、株主の意思決定をゆがめること等から、会社法上禁止されております(会社法120条1項)。
本株主は、裁判所の許可を得て当社に代わって株主総会を招集している以上、会社と同等の立場にあるというべきであり、また、2,000円分もの高額のクオカードを提供して得た委任状が株主の皆さまの本来のご意思を適切に反映しているとは到底いえません。したがって、当社は、本株主により行われようとしている本臨時株主総会の決議方法には法令違反又は著しい不公正があると考えております。

(会社プレスリリース「当社監査役による臨時株主総会開催禁止の仮処分の申立てに関するお知らせ」)

 

手続的事項

なお、異議申立て・審級関係ですが、民事保全は、申立てが却下された場合と認容された場合で異なります:

  • 申立てを却下する決定に対する不服申立ては、即時抗告です(民事保全法19条1項)。なお、「却下」という名前になっていますが、本案上の理由による場合でも「却下」です。
  • 申立てを認容する決定(=保全命令)に対する不服申立ては、保全異議(同一の裁判所に対して行う)で(同法26条)、保全異議に対する決定に対する不服申立ては、保全抗告です(同法41条1項)。

 

一審決定(申立て却下)

招集株主に対する差止請求権について

少数株主が裁判所の株主総会招集許可を受けている場合,招集株主は,単なる株主としての地位にとどまらず,当該株主総会における決議が法831条1項1号所定の取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催すべき善管注意義務を負うと解されるところ,それに違反し,又は違反するおそれがあるときは,監査役は,当該株主総会の開催について,法385条の類推適用により,同条に定める差止請求権を有すると解することが相当である。

385条は主体を監査役、相手方を取締役としているのですが、相手方を提案株主とする場合にも類推適用できるという判断です。

差止対象行為の審理には影響しないので重要ではないのですが、同条が監査役差止請求権を与えているのは、会社と取締役の利益相反状況を考慮したもので(なお、請求の相手方以外の取締役は、取締役会を通じて請求の相手方たる取締役をコントロールできるのであり、それにもかかわらず差止請求対象行為が行われようとしているということは、他の取締役は通常それを容認していると考えられる)、提案株主が請求の相手方となる場合には取締役が主体になってもいいんじゃないかと思います。

 

クオカードについて

一般論

法120条1項は,株式会社は,何人に対しても,株主の権利等の行使に関する財産上の利益の供与をしてはならない旨を規定している。同項の趣旨は,取締役は会社の所有者たる株主の信任に基づいてその運営にあたる執行機関であるところ,その取締役が,会社の負担において,株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許容することは,会社法の基本的な仕組みに反し,会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため,これを防止することにあり,会社財産の浪費を防ぐとともに,取締役が株主の意思を歪めることを防ぐことを目的とするものと解される。
上記のような同項の文言と趣旨に照らせば,裁判所による株主総会招集許可に基づいて株主総会を招集した少数株主について,同項を類推適用又は準用することは困難である。
もっとも,法120条1項の上記の趣旨のうち,株主の意思を歪めるような利益供与が禁止されるべきであるという点は,少数株主により招集される株主総会における株主の権利行使についても等しく妥当するといえる。そうすると,招集株主が,他の株主に対して,株主総会における権利行使に先立って,財物の贈与を行うことを表明し,又はそれを実行した場合において,贈与の目的,その条件,その財産的価値,議決権行使に係る議案の内容等に照らし,それが株主の権利行使に不当な影響を及ぼすと認められるときは,当該株主総会における決議の方法が著しく不公正なものとなるというべきである。
そして,当該株主総会が開催される以前の段階であっても,株主の権利行使に不当な影響を及ぼすおそれがあると認められるときは,当該株主総会における決議が取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催することに関して招集株主が負担している善管注意義務に違反するおそれがあるものとして,差止めの理由となると解される。

会社法120条1項は、会社財産の浪費と、株主の決定を執行する立場にある取締役が株主の決定に介入することを問題にしているのだから(だからこそ「当該株式会社又はその子会社の計算においてするもの」に限定されている)、株主がやる場合には関係ないんじゃないかと思ったんですが、それはそれとして、決議の方法の著しい不公正(同法831条1項1号後段に決議成立後の取消事由として規定されている)の予防のために、差止めができるという流れです。

不公正になるというのはよく分かりません。仮にQuoカードが自己への賛成票獲得を目的としていたとしても、株主は好きな相手に議決権を含む株式そのものを売却することもできるわけで(TOBの場合はその最たる例でしょう)、3000円で1回分の議決権を売ることを認めてもよいのでは、という気がします。

 

当該事案への適用

…債務者は,株主に対し,株主総会の招集通知に関する書面と併せて,株主が事前に委任状を債務者に対して返送することを条件として2000円相当のクオカードを贈与することを記載した書面を送付したものであるが,同書面においては,「株主提案に賛成の場合〔中略〕はもちろんのこと」といった表記はあるものの,それに続けて「反対の場合〔中略〕や,中立のお立場で棄権を選択される場合(委任状の分かりやすい箇所に「棄権」とご記載ください。)」にも,クオカードを贈与する旨の記載があり,当該贈与と債務者の議案への賛意とを強く結びつけると評し得る記載はなく,返送を求める委任状(本件委任状)には,議案に対する賛否を記載する欄が特に優劣を付けることなく設けられていること(甲5)に照らすと,上記の書面による贈与の表明は,少数株主に対する委任状の返送を促し,もって議決権行使の促進を目的とするものであると評価し得ないものではない。また,贈与されるクオカードの金額は,上記の目的を達成する手段として,直ちに社会通念上許容される範囲を逸脱しているとまでは断じ難い。
他方,前記のとおり,プラコーの役員と債務者とは,取締役の選解任や本件買収防衛策の導入をめぐり対立関係にあり,本件臨時株主総会に関しては,その対立を反映した議案が提案され,それに関して双方が委任状勧誘を行っていることがうかがわれるところ,このような状況の下において,債務者のみがクオカードの贈与を表明したことは,株主の議決権の行使に関し何らかの心理的な影響を及ぼす抽象的な可能性は否定できないところではある。しかしながら,本件において,上記の表明を受けた株主が,本件委任状の送付や記載内容に関していかなる行動に及ぶのかなど,その具体的な影響の程度を推認し得るような具体的な事情についての疎明はなく現時点において,株主の権利行使に不当な影響を及ぼすおそれがあると認めるまでには至らない
そうすると,債務者が上記の事情の下でクオカードの贈与を表明したことは,本件臨時株主総会を開催することに関して債務者が負担していると解される善管注意義務に違反するおそれがある行為に当たるということはできない。したがって,この点に関する債権者の主張は採用することができない。

適用は会社法120条1項の直接適用の事案であるモリテックス事件(東京地判平成19年12月6日判タ1258号69頁)に類似しています。比較にあたっては、モリテックス事件は取消訴訟で、本件は開催禁止の仮処分であることも考慮に入れる必要があります。

モリテックス事件判決は、一般論として、①目的が権利行使に影響を及ぼすおそれがなく、かつ、②金額が社会通念上許容される範囲にとどまる場合には例外的に適法としたうえで、当該事案では、②'金額は適法と認めたものの、①'目的について、次の事情を考慮して会社提案への賛成の獲得を目的としていたと判断しました。

  • 「被告〔注:会社〕が議決権を有する全株主に送付した本件はがきには,「議決権を行使(委任状による行使を含む)」した株主には,Quoカードを贈呈する旨を記載しつつも,「【重要】」とした上で,「是非とも,会社提案にご賛同のうえ,議決権を行使して頂きたくお願い申し上げます。」と記載し,Quoカードの贈呈の記載と重要事項の記載に,それぞれ下線と傍点を施して,相互の関連を印象付ける記載がされている」
  • 「被告〔注:会社〕は,昨年の定時株主総会まではQuoカードの提供等,議決権の行使を条件とした利益の提供は行っておらず,原告との間で株主の賛成票の獲得を巡って対立関係が生じた本件株主総会において初めて行ったものであることが認められる」
  • 「株主による議決権行使の状況をみると,本件株主総会における議決権行使比率は81.62%例年に比較して約30パーセントの増加となっていること…,白紙で返送された議決権行使書は本件会社提案に賛成したものとして取り扱われるところ,白紙で被告に議決権行使書を返送した株主数は1349名(議決権数1万4545個)に及ぶこと…,被告に返送された議決権行使書の中にはQuoカードを要求する旨の記載のあるものが存在すること…の各事実が認められ,Quoカードの提供が株主による議決権行使に少なからぬ影響を及ぼしたことが窺われる」

 

他の違法事由・保全の必要性

会社は、他に違法事由として、

  • 本件基準日公告記載の総会開催日及び公告方法
  • 本件総会検査役(会社が選任申立て)に対し総会開催日等を回答しなかったこと
  • 本件臨時株主総会の日時・場所等を1 か月以上非開示とし、プラコーや他の株主に総会開催日等を回答しなかったこと、
  • 招集通知への議決権行使書面の不添付

も主張していますが、いずれも認められていません。

保全権利(保全の理由)が認められなかったことから、保全の必要性については判断されていません。

被害がまだ現実化していないことを被保全権利で考慮すると、保全の必要性の判断とオーバーラップするなあと思ったんですが、抗告審もそう思ったようであり、抗告審はむしろ保全の必要性で考慮しています。

 

会社のプレスリリース 

(前略)したがって、本申立ては却下されましたが、裁判所には、招集株主による財産上の利益の供与により株主総会の決議方法がしく不公正なものとなり得るとする当社監査役の主張が認められました。そして、上記のとおり裁判所の判断はあくまでも現時点の状況を前提としたものにとどまることに鑑みますと、株主の皆さまにおかれましては、事後的に臨時株主総会の決議方法にしい不公正があったと評される可能性がある点にご留意いただきますようお願い申し上げます。
なお、2020年10月29日、本株主が、一部の株主様に対して、提供するクオカードを3,000円に増額する旨の書面を発送している事実が確認されております…。

(会社プレスリリース「当社監査役による臨時株主総会開催禁止の仮処分の申立ての却下決定に関するお知らせ」)

 

抗告審決定(即時抗告棄却)

クオカード以外の点については、基本的に一審を引用しています。 

本件臨時株主総会は,裁判所の許可を得た少数株主である相手方が招集するものであり,本件臨時株主総会の開催を禁止することは,本件臨時株主総会において当該少数株主である相手方を始めとするプラコーの株主の権利行使の機会を一方的に奪うことになる一方,上記のようなクオカードの贈与の表明によって本件臨時株主総会の招集又は決議の方法に瑕疵が生じるのであれば,株主総会決議の取消しを求める訴えによってその是正をすることが可能であり,この訴えの提起と共に,民事保全法23条2項に基づき,本件臨時株主総会の決議で選任された取締役等の職務の執行を停止し,その職務を代行する者の選任を求めるなどの仮処分命令を求めるなどの方法も可能であって,救済手段に欠けるところはない。そして,一般に,株主総会開催禁止仮処分の申立てにおける保全の必要性は,当該株主総会の開催を許すと,違法若しくは著しく不公正の方法で決議がされるなどの高度の蓋然性があって,その結果,会社に回復困難な重大な損害を被らせ,これを回避するために開催を禁止する緊急の必要性があることが求められる。これらを踏まえて検討すると,相手方が他のプラコーの株主に送付した本件当初書面及び本件追加書面において行ったクオカードの贈与の表明が,本件臨時株主総会の決議に影響を与えるものであるか否かは,議決結果の全体状況によるものであり,現時点で確定し得るものとは認め難く,その他,抗告人が当審において追加して提出した疎明資料を含む一件記録を精査しても,相手方が他のプラコーの株主に送付した本件当初書面及び本件追加書面において行ったクオカードの贈与の表明によってプラコーに回復困難な重大な損害を被らせるとの疎明があったとは認められない
そうすると,委任状による議決権行使をする株主に対する相手方のクオカードの贈与の表明を理由として,保全処分として本件臨時株主総会の開催禁止を求める旨の抗告人の申立てについては,保全の必要性を認めることはできないから,被保全権利について判断するまでもなく理由がない。

事後的救済でいいじゃないかということをよりはっきりと書いています。組織再編だと逆に差止めができたからという理由で事後的救済が 否定されたりするんですが、それは組織再編のほうが特殊なのであって、こっちが原則なのだろうと思います。