令和2年6月10日LEX/DB25571019(八ツ橋創業年表示事件)

京都らしい事件。

 

報道

京都銘菓「八ツ橋」をめぐり、老舗和菓子店「聖護院八ツ橋総本店」(京都市左京区)が根拠なく「創業元禄2(1689)年」を掲げているとして、ライバル社の「井筒八ツ橋本舗」(同市東山区)が表示差し止めや600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、京都地裁であった。久留島群一裁判長は井筒側の請求を棄却した。

(中略)

井筒八ツ橋本舗の津田佐兵衛オーナー(96)は「創立の年月日は重要で、うそをついてまでお客さまに提供するのは非常に恥ずかしいことだ」と話した。一方、聖護院八ツ橋総本店鈴鹿且久代表取締役は「裁判所に当社の主張を全面的に受け入れていただき、適切に判断された結果と受け止めている」とコメントを出した。

「八ツ橋」表示めぐり「井筒」敗訴 「1689年創業」不当と損賠請求―京都地裁:時事ドットコム

 

適用条文

不正競争防止法2条1項20号。

[1]商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信に [2]その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について [3]誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

八ツ橋が「商品」で、被告が八ツ橋の広告等に創業年の表示をしていることは明らかなので、問題は[2]要件と、[3]要件のうち「誤認させるような」という部分です。

なお、誤解されやすいですが、不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争…を確保する」ことを目的としているので(同法1条)ため、需要者の誤認によってその判断が歪められることそのものではなく、それによって競争者が不当に取引の機会を奪われることを問題としています(それに対して、景品表示法は、判断が歪められることそれ自体を問題にしています)。

 

争点1:[2]要件は限定列挙か?/仮にそうでも創業年は品質等に関係するのでは?

原告

 20号の立法経緯などを踏まえると,その規制対象は20号に列挙された品質や内容などの表示事項に限定されず,来歴や製造者の歴史など需要者が商品の選択において考慮する商品の属性等の表示も含むもので,20号に列挙された上記表示事項はいわゆる例示列挙されたものと解するのが相当である。 
 また,仮に,上記表示事項が限定列挙されたものであるとしても,20号の商品の「品質」及び「内容」に関する表示には,品質,内容を直接的に示している表示のみならず,これらを示唆する間接的な表示も含まれる

 

被告

 原告が,20号を例示列挙と解する根拠としている証拠(甲4ないし6)の各記載は,いずれも改正前の当時の問題意識が述べられた部分に過ぎず,同号に記載されている表示事項が例示列挙であると解する根拠とはならない。むしろ,平成3年度「知的財産政策に関する調査研究」委託調査結果報告書(不正競争防止法に関する調査研究)には,企業の歴史や取引先などの事項に関する誤認惹起行為については,内容などに関するものと同様に不正競争防止法上の不正競争行為と位置づけ,差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないと記載されている。
 これらを踏まえると,20号の表示事項は限定的な列挙事由と解するのが相当である。

 

裁判所

(1)20号の規制対象の範囲に関する立法経緯として,証拠(甲9,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 平成4年3月付けの財団法人知的財産研究所による平成3年度「知的財産政策に関する調査研究」委託調査結果報告書(不正競争防止法に関する調査研究)には,不正競争防止法上新たに追加すべき規制対象を検討する場合に踏まえる点として,当時の不正競争防止法上,疑義のある「価格」,「在庫量」及び「表彰等の有無」なども読み込み得る形での明確な規定が望ましいと考えられる旨が記載されている(甲9)。
イ 平成5年に改正された不正競争防止法の基礎となった,平成4年12月14日付け産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止法の見直し方向の審議では,判例の中には,当時の不正競争防止法上明記されていない「価格」及び「規格・格付」を「品質,内容」に含まれると解したものがあるところ,「価格」及び「規格・格付」のうち解釈上「品質,内容」に含まれないものについて規制する必要があるかどうかについては,我が国の経済取引社会の実態を踏まえれば,少なくとも現段階において,内容等に係るものと同様に不正競争防止法上の不正競争行為として位置付け,差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないものと考えざるを得ず,今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ検討することが適当である旨の結論が出された。また,同審議会では,当時の誤認惹起行為規制の対象とすることを検討すべき事項として挙げられるものは,供給可能量,販売量の多寡,業界における地位,企業の歴史,取引先,提携先等極めて多岐にわたるところ,これらの事項に係る誤認惹起行為についても,我が国の経済取引社会の実態を踏まえれば,少なくとも現段階において,内容等に関するものと同様に不正競争防止法の不正競争行為として位置付け,差止請求による民事的規制の対象とする社会的コンセンサスは形成されていないものと考えざるをえず,今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ,検討することが適当であるとの結論が出された(乙2)。
(2)以上の立法経緯に加えて,不正競争防止法では,20号の不正競争行為に対し,事業者間の公正な競争の確保という観点から,民事上の措置として事業者による差止め及び損害賠償の請求を認めるだけでなく,不正の目的又は虚偽のものに限って刑事罰を設けているなどの強力な規制を設けているため(同法21条2項1号,5号),不正競争行為となる対象についての安易な拡張解釈ないし類推解釈は避けるべきであるといえることも併せ考えると,20号の規制対象となる事項は,同号に列挙された事項に限定されると解される。原告の,例示列挙との主張は,採用できない。
 もっとも,20号に列挙された事項を直接的に示す表示ではないものも,表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については,品質,内容等を誤認させるような表示という余地が残ると解するのが相当である。それは,取引の実情等,個別の事案を前提とした判断といえる。原告の主張は,この限度では,採用することができる。

限定列挙だが、「表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示」は品質等を誤認させる表示となりうるとしています。

 

争点2:創業年は商品の優位性と結びつき、商品選定に影響するか?

「表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示」になるかという話。長いので裁判所の判断のみ。

(1)被告各表示による品質,内容の誤認について
ア 被告各表示の性質,意味及び商品の品質,内容との関係
(ア)被告各表示の性質
 被告各表示は,いずれも創業時期や被告又は被告が製造販売する八ッ橋の成り立ちに関するもので,これ自体は,被告菓子の品質,内容を直接表すとはいえない
 (中略)
 以下,被告各表示が,需要者にどのように理解されるか,本件の事案を前提として,商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するか,品質,内容等の誤認を招くかを検討する。
(イ)被告各表示の意味
 被告表示(1)には,「創業元禄二年」との表示がされ,また,被告表示(2)には,「since 1689」との表示がされている。
 創業とは,一般的に,事業を新しく始めることを意味すると解されるから,需要者が,被告表示(1)を素直に読んだ場合には,被告の事業は,被告が当該事業を甲Aからの営業譲渡ないし現物出資により引き継いだとしても,そうした経緯を含めてそもそもの起源にまで立ち戻れば,少なくともその事業自体は元禄2年(1689年)から始まったと認識する可能性がある。また,需要者が,被告表示(2)を素直に読んだ場合には,同様に,被告の事業自体は西暦1689年,すなわち元禄2年から始まったと認識する可能性がある。
 したがって,被告表示(1)及び同(2)は,被告の八ッ橋の製造販売という事業自体が前記のような意味で元禄2年(西暦1689年)から始まったことを表示するもので,需要者にそのように認識される可能性がある。
 被告表示(3)は,その内容からみて,被告の事業及び八ッ橋の製造販売が元禄2年に始まることを含め,被告検校説を表示するものといえる。
 また,被告表示(4)も,その内容からみて,被告の事業による八ッ橋が元禄2年から製造販売されていることを表示するものといえる。
 被告表示(3)及び(4)とも,需要者が上記表示のように理解する可能性があるといえる。
 なお,被告各表示からは,誰が創業時の事業主であるかが明らかとはいえない。本件全証拠によっても,被告各表示が,創業者を被告の現経営者の祖先であると表示したものとは認められない
(ウ)八ッ橋の来歴,需要者の行動等に関する認定事実
 (省略)
(エ)本件各表示の需要者への影響
 確かに,被告自身,味は伝統という表示も用いているほか,被告各表示,とりわけ被告表示(4)は,八ッ橋が元禄2年から作られていると明言しているから,300年以上にわたる長い伝統を有することが商品の優位性を推認させる事情であるようにもみえる。
 しかし,そもそも,江戸時代におけることがらが,特段の資料なしに,正確にはわからないことは,全国の一般消費者である需要者にとっても,経験則上,推測できるといえる。前記(ウ)a,b,d,eのとおり,八ッ橋の起源につき,江戸時代にさかのぼるという説があるが,三河説の中にも複数の説があり,原告検校説もあるほか,昭和五十年代の調査では,明治時代以前の創業とされるのは,2社であるが,現在,江戸時代に創業したという八ッ橋の製造販売業者は,少なくとも4社(原告,被告,甲Aの子が興した会社2社)あることになる。そもそも,これまで認めた事実(前提事実を含む。)によれば,八ッ橋が,明治時代中期に博覧会等で受賞するなどして社会的に認知され,昭和11年ころには,京都府下の菓子生産額の10%を占めるに至ったが,明治初期以前の生産量は少なく,江戸時代における八ッ橋の製造販売状況を客観的に明らかにする的確な証拠はない。このように,創業時期や来歴に関する説も様々で,創業元禄2年3月と特定する業者もあるが,八ッ橋の来歴や創業時期に関し,需要者から虚偽の表示として苦情が述べられたことがあるという証拠はない
 そして,これまで認めた事実からは,需要者は,複数の事業者の店舗が並ぶのを見て,あるいはインターネットのホームページを見て,八ッ橋の発祥年や来歴につき,複数の業者により異なった説明がされていること,どれが正しいかの決め手もないことを簡単に知ることができると推認できる。前記のとおり,京都において,生八ッ橋など,八ッ橋よりも歴史が新しい菓子もまた,よく売れている。このことも,京都の老舗であるからといって,長い伝統が,需要者にとって当然に大きな意味を持つわけではないことを,推認させるといえる。
 そうすると,被告各表示も,需要者にとっては,被告が江戸時代に創業し,被告菓子の製造販売を始めたようであるとの認識をもたらす程度のものにすぎないと推認できる。
(オ)本件で提出されたアンケート及び乙意見書
 乙意見書や原告が提出したアンケート調査(甲12)の中には,原告の主張に沿う部分がある。
 しかし,上記アンケート調査の結果には,菓子を自分・自宅用又は観光地などで友人,知人へのお土産,贈答品として購入する場合に,どのようなことを考慮するか,価格(値段),味や香りなど,容器,包装の美しさ,商品の賞味期限,商品の材料,製造方法,製造者の知名度,評判,製造者の創業時期や製造開始時期及びその他などの選択肢の中から当てはまるものを全て選択してくださいという質問に対し,創業時期を選択した者は,自宅用に購入する場合は5.0パーセント,贈答用に購入する場合7.0パーセントであった。分母となる回答者総数は,1108名である。同じ質問の中で,価格(値段)を選択した者は,自宅用で74.9パーセント,贈答用で67.1パーセント,味・香り・見た目を選択した者は,自宅用で79.8パーセント,贈答用で75.4パーセントであった。創業時期に関する数値は,かなり小さく,このことは,無視できない。
 また,上記アンケート調査の結果においては,値段,味及び量などがほぼ同じA社とB社の八ッ橋のいずれかを購入しないといけない場合に,A社が1689年に創業して八ッ橋を売り出し,B社が1805年に創業して八ッ橋を売り出したと宣伝しているときに,どちらの八ッ橋を購入するかという質問に対し,A社の八ッ橋を選ぶ又はどちらかといえばA社の八ッ橋を選ぶと回答したのが全回答者の29.5パーセントで,B社を選ぶ又はどちらかといえば選ぶと回答した2.5パーセントよりも上回るものとなっている。しかし,これはあくまで値段,味及び量がほぼ同じであることが前提となっている。実際には,本件全証拠によっても,被告菓子と原告の製品につき,味など,上記の各要素がほぼ同じとは認められない。また,上記質問に対し,どちらともいえないと回答した者が62.8パーセントとなっていることも認められる。
 そうすると,これらの回答内容を踏まえると,製造者の創業時期や創業開始時期などの事情が,八ッ橋において商品の品質及び内容に関連するとは考えにくい。そして,創業年の古いA社の八ッ橋を選ぶ理由についての質問をみても,その質問は,同様に上記のような前提に立ったものであると解される上に,信頼性や独自性に加えて,ネームバリューがあるからなどと回答しているものもあり,その回答と商品の品質等との関連性も明らかとはいえない
 なお,被告が提出する証拠,とりわけ意見書(乙19)の内容が,明確に不当ともいえない。
 以上によれば,原告の前記アンケート調査及び乙意見書によっても,被告各表示は,商品の優位性に結び付いて消費者の行動を左右するとまでは認めがたい。
イ 小括
 上記のような需要者の認識を踏まえれば,被告各表示に接した需要者が,歴史の古さが被告菓子の品質及び内容の優位性を推認させると受け取ることがあるとしても,それが,必ずしも需要者の行動を左右する事情であるとはいえない被告各表示は,いずれも商品の品質及び内容の優位性と結びつき,需要者の商品選択を左右するとはいえないから,品質等誤認表示とはいえない需要者の認識を考えれば,被告各表示は,もともと,創業が320年前のようであるという程度の受け止められ方になると推認され,これが実際と大きく異なるともいえず,誤認を招くとはいえない
ウ その他の主張について
 (省略)
(2)役務に関する不正競争
 (省略)

結局、 商品の優位性にはつながるかもしれないが、そんなにみんな信用しないし、伝統があったとしてもそれで選ぶわけではないから、商品選定に影響せず、結局、誤認させるような表示ではないということです。