令和2年 予備試験 論文式 再現答案(?) 民事訴訟法

この答案は、法務省による問題の公表後に、制限時間内に六法のみを見て作成したものです。

 

1 設問1
(1) 前提
 本件の処理に関わる判例法理として、次のものがある。
ア 黙示の一部請求がされた場合、訴訟物は残部を含めた債権全体であり、それについて既判力が生じ、請求が棄却された場合の残部請求は、既判力に抵触する。一方、明示の一部請求がされた場合、訴訟物は当該一部に限定され、それについてのみ既判力が生じる。ただち、請求の一部または全部が棄却された場合、裁判所は債権全体を審理し、認められない額を債権全額から控除した上で、なお認められない額があったということだから(外側説)、残部請求は信義則に反して不適法である(以上を判例Aという)。
イ 交通事故により不法行為に基づく損害賠償請求権が生じる場合、それは、訴訟物としても一個のものであり、費目ごとに異なる訴訟物を構成するものではない(以上を判例Bという)。
ウ 債務不存在確認訴訟に対する反訴として、同一債権の給付訴訟が提起された場合、反訴は訴訟物および当事者が(原告・被告の入れ替わりを除いて)同一であり、二重起訴として不適法となりそうであるが(142条)、確認判決と給付判決を比較すると、いずれも既判力がある一方、後者(請求認容のもの)にのみ執行力があり、紛争の解決のために後者のほうがより有効であるから、本訴が訴えの利益を喪失し、裁判所としては、本訴を却下し、反訴について本案判決をしなければならない(以上を判例Cという)。
(2) 検討
 本件において、反訴は、現在までに顕在化した治療費と慰謝料を請求するという一部請求だから、将来の治療費については既判力が生じない(判例A)。そのため、反訴判決の紛争解決機能が本訴のそれを包含する関係を前提とする判例Cは全面的には妥当しない。そこで、500万円の限度で訴えを却下し、それを超える部分について本案判決をすることが考えられる。しかし、現在までに顕在化した損害と将来の損害で訴訟物は同一であり(判例B)、それを分断するかどうかを決定するのは原告の権限だから(判例A、246条参照)、裁判所が訴訟物を分断することは認めるべきでない。
 そこで、全部につき本案判決をすることが考えられる。この場合、判例Cと異なり、二重起訴が問題となるように思われる。しかし、二重起訴の規制は、既判力の矛盾の予防と司法資源の効率的分配から要請されるものであるところ、反訴の場合には、これらは妥当しない。反訴は原則として単純併合の一形態であるから、反訴が維持される限り上記の弊害が潜在的であるだけで、弁論が分離された場合にはそれが顕在化するようにも思われるが、反訴という併合形態によることにより特別に適法と認められた訴えを分離し、142条に違反する状態を作出することは、裁判所の裁量を逸脱すると解するべきである。そして、このように解しても、本訴と反訴で紛争の実体は同じだから、当事者間の衡平を図り、あるいは迅速な裁判をする上で不当な権限の制約となることはないと考えられる。
 したがって、裁判所は本訴についても全部につき本案判決をすべきである。
 この場合、裁判所は、支払われるべき損害額はないとの心証を有しているから、判決の内容は請求の全部棄却となり、既判力はYのXに対する本件事故に係る損害賠償請求権の全部の不存在である。
2 設問2
(1) 反訴請求についての判決効との関係
 判例Aを前提とすると、Xは明示をしているが、反訴請求は棄却されているから、残部請求は信義則に反して不適法であるようにも思われる。しかし、残部請求が信義則に反するのは、先に述べたとおり、前訴裁判所が債権全体を審理しているからであり、このことは、量的一部請求の場合には妥当しても、損害の内容が異なる、いわば質的一部請求の場合には妥当しない。本件でも、Xが主張している手足のしびれは、前訴では審理されていない。そうすると、前訴における反訴請求についての判決との関係では、後訴は信義則に反するとはいえず、適法である。
(2) 本訴請求についての判決効との関係
ア 前訴判決基準時後に生じた損害であるとして、既判力が及ばないという主張が考えられる。しかし、実体法上、不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為に当たる事実が発生したときに全部が発生し、いわゆる後発後遺症は、それが顕在化したものにすぎないと解されている。このことからすれば、基準事後の損害とはいえない。
イ 本訴請求について現在までに顕在化した損害に限るとの明示はなかったが、それがあったと評価できるとの主張が考えられる。判例も、確かにそのような処理を認めている。しかし、それは被害者の請求についてであるところ、加害者たる前訴原告Xとしては、むしろ顕在化していない損害も含めて不存在の確認を求める趣旨と考えるのが合理的であり、上記のような評価は擬制的に過ぎ、先に述べた処分権主義との関係でも認めるべきでない。
ウ そこで、期待可能性の欠如あるいは177条1項の類推適用による既判力の縮減が考えられる。既判力は訴訟の紛争解決制度としての本質から要求されるものであるが、それが正当化されるのは、当事者が当事者として主張・立証の機会を保障され、それにもかかわらず敗訴したからである(手続保障を前提とする自己責任)。しかし、口頭弁論終結時に顕在化していなかった損害については、主張・立証は不可能であるから、主張・立証の機会が保障されたとはいえず、既判力による拘束を正当化できない。これに対しては、再審を極めて厳格な要件の下にのみ認める我が国の民事訴訟法の下では、解釈によってそのような例外を認めることはできないという批判がありうる。しかし、既に述べたとおり、原告の救済の必要性があり、被告としても、再度の応訴という負担はあるものの、主張・立証を尽くして獲得した勝訴判決が無意味になるというわけではない以上、やむを得ないと考えられる。
(2442字/3枚目の5行目/48分)