令和2年 予備試験 論文式 再現答案(?) 商法

この答案は、法務省による問題の公表後に、制限時間内に六法のみを見て作成したものです。

 

1 前提
 甲社、乙社、丙社はいずれも取締役が1人であるから、取締役会非設置会社であり(326条1項、331条5項)、したがって、非公開会社である(327条1項)。
2 設問1
 利益相反取引(直接取引)についての任務懈怠責任(承認についての法令違反、善管注意義務違反)を多重代表訴訟(最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え)により追及することが考えられる。
(1) 責任の有無
ア 承認についての法令違反
 取締役は、自己のために会社と取引しようとするときは、株主総会で重要事実を開示し、承認を受けなければならない(365条1項2号)。承認機関は、取締役会設置会社においては取締役会であるが、乙社は取締役会非設置会社だから、原則どおり株主総会である。これを怠った場合、法令違反による任務懈怠責任が生じ(355条、423条1項)、かつ、任務懈怠が推定される(同条3項)。
 もっとも、株主が一人である場合、当該株主が承認している場合には、株主総会決議による承認は不要と解するべきである。利益相反取引は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ることを防ぐものであるところ、会社の利益は最終的に株主に帰属するものであり、その株主が承認している場合には、規制によって保護される利益が放棄されているといえるからである。
 Bは本件買取りにあたって、300万円で買い取らせたい旨申し出、Aはそれを承諾している。Aは、乙社の株式の100%を保有する甲社の代表取締役であり、上記承諾も、甲社の乙社の株主としての権限に係る事項に関するものである以上、甲社代表取締役として行ったと考えられる。この場合でも、重要事項の説明に相当する情報提供が行われなかった場合には、承諾があったものと評価すべきではないが、BがAに対して、本件ワインのリストと市場価格を示しつつ上記承諾を求めたことからすれば、その問題もない。
 したがって、承認についての法令違反はない。
イ 善管注意義務違反
 利益相反取引の手続的規制の違反がない場合でも、任務懈怠の推定が解除されるにすぎず、善管注意義務違反とそれによる損害がある場合には、任務懈怠責任が生じる。
 Bの本件買取りが適正な価格で行われたかは明らかでないが、Cは、適正な価格が300万円よりも高いことを立証すれば、300万円との差額の損害賠償を求めることができる。
(2) 追及の方法
ア 多重代表訴訟の対象適格
 「最終完全親会社等」(847条の3第1項)について、乙社の株式の100%を保有する甲社は「完全親会社等」であり(同条2項1号)、その株主としてA, B, Cがおり、完全親会社等がないから、これに当たる。
 「総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主」(同条1項)について、甲社の株式の30%を有するCはこれに当たる。なお、甲社は非公開会社であるから、6か月の継続保有要件は適用除外とされる(同条6項)。
 「特定責任」(同条1項、4項)について、最終完全親会社等たる甲社の株式の帳簿価額は1億円、完全子会社等たる乙社の株式の帳簿価額は3000万円であり、後者の前者に対する割合は30%であり、20%を超えるから、これに当たる。
 以上から、Bの乙社に対する責任は多重代表訴訟の対象となる。
イ 手続
 Cは、まず甲社に書面で提訴請求をしなければならず(同条1項)、甲社が60日以内に提訴をしない場合に、自ら提訴をすることができる(同条7項)。回復不可能な損害が生ずるおそれがある場合には、提訴請求を省略できるが(同条9項)、乙社の経営状態が悪化しているなど、そのようなおそれに関わる事情は認められない。
3 設問2
 甲社では、Cが保有する株式の取得について自己株式取得の手続、丙社株式の譲渡について子会社株式譲渡の承認手続、丙社では、株式譲渡承認手続を検討しなければならない。
(1) 甲社
ア 自己株式取得
 株主との合意による有償での自己株式取得をするためには、株主総会決議で取得株式数および対価の内容・総額を決定し(156条1項)、代表取締役であるAが具体的な取得株式数、対価等を決定する(157条1項)。その内容は株主に通知しなければならないが(158条1項)、その際に、上記株主総会決議でCのみに通知をすることを定めることで、Cのみに通知をすることができる(160条1項)。この場合、Cのみが譲渡の申込みができる(159条1項)。株主総会決議にあたって、他の株主は売主追加請求ができるが(160条2項)、Aは本件合意に加わっていることから、Bも対立するCがたもとを分かつために本件合意が締結されたという経緯から、請求をしないと考えられる。株主総会決議は、普通決議である(309条1項)。
イ 子会社株式譲渡の承認
 会社が子会社の株式を譲渡しようとするとき、子会社の株式の帳簿価額が親会社の総資産額の20%を超える場合(467条2号の2イ)、または、譲渡によって議決権の過半数を失うときは、株主総会決議による承認を得なければならない(同号ロ)。甲社による丙社株式の譲渡は、親会社たる甲社の株式の帳簿価額は1億円、子会社たる丙社の株式の帳簿価額は3000万円であり、後者の前者に対する割合は30%であり、20%を超えるから、同号イに当たる。また、100%子会社の株式の100%を譲渡するものであるから、同号ロにも当たる。この株主総会決議は、特別決議である(309条2項11号)。
(2) 乙社(株式譲渡承認)
 非公開会社では、株式の譲渡には、株主総会による承認を経なければならないのが原則である(136条以下)。もっとも、判例によれば、株式の100%を有する株主が株式を譲渡する場合には、この承認は不要である。譲渡制限制度は、非公開会社において会社(既存株主)にとって好ましくない者が株主となることを防ぐという利益を保護するものであるところ、そのような株主が株式を譲渡する場合には、それによって保護される利益が放棄されているといえるからである。甲社による丙社株式の譲渡は、この場合に当たるから、承認は不要である。
(2508字/3枚目の7行目/53分)

 

追記 

書き終わってから気づきましたが、Aの責任とその追及手続についても検討する必要があります。

Aは、甲社取締役として、甲社が有する乙社の100%株主としての権限(利益相反取引承認権限)を行使していますが、乙社株式も甲社の財産を構成する以上、その行使について、Aは甲社に対して善管注意義務を負います。そして、乙社における利益相反取引の承認は、乙社の財産流出→乙社株式の価値低下を通じて甲社の損害になるので、基本的にそれに違反します。それを引き受けても乙社ひいては甲社に得られるものがあるならよいですが、Bは改装祝いと言ってしまっているので、そんなものはないと考えられます。

ところで、本件では、承認をしたAと利益相反取引の当事者であるBが、甲社株式の70%を有する株主だという特殊事情があります。これについては、善管注意義務は株主の共同の利益を図ることを目的としているので(レックスホールディングス損害賠償請求事件参照)、マイノリティではあるにせよCも株式を有している以上、上記善管注意義務違反には影響しないことになります。

分かりやすく言うと、A/B「お祝いだからいいじゃん」→C「乙社の物は甲社の物、甲社の物は私たちの共有物なんだから、他人の金で勝手に祝うな」→A/B「甲社の半分以上は父さんと俺のものじゃん」→C「数の問題じゃない」ということです(本当に分かりやすいのかはさておき)。

なお、子会社管理義務については、百選111頁=53事件解説が参考になります(当該事案で問題とされたのは、子会社に対する融資であり、株主権の行使という典型的な子会社管理義務による規律の場面ではありませんが)。