令和2年 予備試験 論文式 再現答案(?) 民法

この答案は、法務省による問題の公表後に、制限時間内に六法のみを見て作成したものです。

 

1 設問1
(1) AはBの代理人として本件消費貸借契約を締結したが、代理権を有しなかったから、同契約は、本人たるAが追認しなければ、Aに効果が帰属しないのが原則である(113条1項)。
(2) 後見が開始した場合、被後見人は行為能力が制限され(9条本文)、後見人が財産管理・代表権を有し(859条1項)、追認は後見人がしなければ効力が生じない(124条1項、2項1号)。本人が追認するか拒絶するかは自由であり、このことは、後見開始後の後見人においても同様であるのが原則である。もっとも、本件では、無権代理人が後見人となった場合に、追認拒絶が制限されるべきではないか。
 まず、この場合であっても、契約の効果が当然に本人に帰属するものではない。仮にそう解するとすれば、相手方から取り消すかどうかの選択権(115条)を奪うこととなり、不当である。
 その上で、拒絶が信義則により制限されるかを権等すべきである。後見人は、被後見人の機関として(843条以下)、被後見人の利益のために行動すべき地位にあるから(858条(意思尊重・身上配慮義務)、860条・826条(利益相反規制)、869条・644条(善管注意義務))、自己の立場で無権代理行為をした者が、後見人の立場で追認を拒絶することは、直ちに信義則に反するとはいえない。他に本件で追認拒絶が信義則に反すると見るべき個別的事情もない。そうすると、本件で追認拒絶が信義則に反することはない。
 したがって、Aに対する本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求は認められない。
2 設問2
 本件売買契約について、債権者代位権に基づいて、錯誤または詐欺に基づく取消権を代位行使し、さらに原状回復請求権を代位行使することと、詐害行為取消権に基づく現物返還請求をすることが考えられる。
(1) 債権者代位権構成
ア 錯誤の要件充足
 Aが誤認したのは、本件不動産の価値が300万円を超えないことであり、本件売買契約の代金が300万円であること自体は認識していたから、意思不存在型錯誤(95条1項1号)ではなく起訴事情型錯誤(同項2号)を検討すべきである。
 上記誤認は、代金300万円に直接に反映されているといえるから、基礎事情(同項2号)であり、表示されており(同条2項)、代金は売買契約の根幹をなすものであるから重要といえる(同条1項柱書)。Aの誤認はEが様々な虚偽の事実を並べ立てたことによるものであったから、Aに重過失はない(同条3項)。Eはその相手方であるから、主観を考慮するまでもなく取消しを対抗できる(同条4項)。
 したがって、錯誤の要件を満たす。
イ 詐欺の要件充足
 詐欺とは、意思表示に係る重要事項について虚偽を述べ、表意者を錯誤に陥らせ、表意者がこの錯誤に基づいて意思表示をした場合をいう。Eは様々な虚偽の事実を並べ立てることにより、本件不動産の価値が300万円を超えないとの錯誤に陥らせた。この錯誤は、代金300万円に直接に反映されているといえるから、重要事項であり、Aはこれに基づいて意思表示をしたといえる。
 したがって、詐欺の要件を満たす。
ウ 原状回復請求権
 錯誤または詐欺により意思表示が取り消された場合、行為が遡及的に無効となり(121条)、相互に原状回復義務が生じる(121条の2第1項)。原状回復という性質上、現物による返還が原則であるが、Eは登記名義を保持しているから、その抹消を請求できる。
 契約を構成する意思表示が取り消された場合、原状回復という性質上(545条1項本文参照)、同時履行の抗弁を類推適用すべきであるが(546条・533条)、Eは本件売買契約の代金300万円を支払っていないから、これを主張されることはない。
エ 債権者代位権
 錯誤・詐欺に基づく取消権者は、120条2項に規定されているが、Cはいずれにもあたらないから、債権者代位権(423条)による。原状回復請求権も、原則どおり権利者しか行使できないから、同様である。
 債権者が「自己の債権を保全するため必要がある」(同条1項)とは、債権者代位権が債務者の財産管理権に介入するものであることから、被保全権利が金銭債権である場合には、債務者の無資力を要する。Dは本件不動産以外にめぼしい財産がないから、これを満たす。
 「債務者に属する権利」(同条1項)について、形成権たる取消権も、財産権である以上含まれる。原状回復請求権は当然に含まれる。
 被代位権利たる錯誤・詐欺に基づく取消権および原状回復請求権は、一身専属権・差押禁止権利に当たらず(同条1項ただし書)、被保全権利たる貸金返還請求権の履行期は令和5年4月30日に到来済みであり(同条2項)、金銭債権だから強制執行に適する(414条)。
 以上から、Dは、Eに対し、錯誤・詐欺に基づく取消権を代位行使し、さらに原状回復請求権を代位行使することで、本件登記の抹消登記手続を請求できる。
(2) 詐害行為取消権構成
 「債務者が債権者を害することを知ってした行為」(424条1項本文)とは、取消対象行為によって無資力に陥ることと、それについての債務者の悪意をいう。Aは本件売買契約によって無資力に陥った。Aは本件不動産の価値が300万円を超えないと思っていたから、悪意ではないようにも思われるが、500万円の債務を負っており、他にめぼしい財産がなかったことからすれば、その認識を基礎としてもなお悪意であるといえる。
 受益者たるEは詐害性を認識していた(同項ただし書)。本件売買契約は財産権を目的とする行為である(同条2項)。被保全権利たる貸金返還請求権は本件売買契約がされた令和5年6月20日より前の令和4年5月1日に発生しており(同条3項)、金銭債権だから強制執行に適する(414条)。
 取消債権者は給付請求ができる。その原則は現物返還請求であるが(424条の6第1項)、Eは登記名義を保持しているから、その抹消を請求できる。
 以上から、Dは、Eに対し、詐害行為取消権に基づき、本件登記の抹消登記手続を請求できる。
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