金融法の基本書等と使用法(2020年12月最終更新)

目次

 

あなたが知りたいのは本当に金融法ですか?

金融法の文献を紹介してほしいと言われることが多いので(会社法や倒産法のところで紹介していた文献を寄せ集めるなどして)作ってみたんですが、そもそもそういうことを聞く人って、本当にやりたいことは実は「金融法」という特別な何かではないんじゃないかという気がしています。

間接金融(というか銀行取引)のほとんどは契約と債権総論・担保物権法・倒産法の議論ですし(同時に債権総論・担保物権法・倒産法の議論のかなり部分が銀行取引の話です)、直接金融(社債、株式)も会社法で画一的に規律されています。

間接金融については、資金のいわば結節点となる銀行がいい加減な経営によって潰れてしまっては困ることから銀行法が、直接金融については、間接金融における銀行とは対象的に、権利が市場で流通し、個々の力は必ずしも強くない不特定多数の投資家が関わることから金融商品取引法が、それぞれレギュレーション(行政規制法)として施行されていますが、レギュレーションはあくまでレギュレーションであり、「ファイナンスがやりたい」という人の一番の関心ではない気がします。

そういう人に役立ちそうなのは、金融論とかファイナンスと呼ばれる分野です。

 

内田・金融

金融

金融

  • 作者:内田 浩史
  • 発売日: 2016/12/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

経済学の応用分野としての金融論のテキスト。学部生向けの講義用テキストとして書かれたもので、ある程度民法会社法・倒産法をやったことがある人ならすぐ理解できると思います。

目次:金融 | 有斐閣

(2020年11月最終更新)

 

「専門家」以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書 

財務会計ファイナンス管理会計の3章構成。わりと数字が出てきます。章の初めの「ストーリー」・章の終わりの「まとめ」・2色刷り・図表・太字&下線でとても親切でした。

(2020年12月最終更新)

 

銀行関係

銀行取引の民事的側面は、主に民法(消費貸借契約、消費寄託契約、債権総論、担保物権法など)が規律しています。また、銀行法が、行政規制を規律しています(金融庁所管)。

 

金融法講義

金融法講義 新版

金融法講義 新版

  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

東京大学法学部における「金融法」の講義(みずほフィナンシャルグループ寄付講座)を再現」したもの。

伝統的銀行取引、銀行監督法、現代型金融取引の3部構成。1部は民法の復習プラスアルファという感じ。3部はシンジケート・ローン、デリバティブ投資信託社債LBO/MBO証券化、Fintechに言及があります。実務が先行している分野ですが、実務的な(≒ハイコンテクストな)本を読む自信がないという人によいのかも。

執筆者は基本的にみずほのグループ企業の人たち(神田先生・神作先生は1章のみ)。証券部の人たちも加わっているので、直接金融についてもそれなりに言及があります。

(2020年10月最終更新)

 

金融法概説

金融法概説

金融法概説

  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

「銀行を取り巻く金融制度や,受信取引,与信取引をはじめとする銀行取引を,理論・実務の両面にわたって簡明に解説する」もの。レギュレーションにも最低限の言及はありますが、直接金融についての記述はありません。

『金融法講義』の半分くらいの分量(なんとなく山本和彦・倒産処理法入門に近い雰囲気)。執筆者は編者の3人のほか、三井住友・みずほ・三菱UFJの法務関係者。

(2020年10月最終更新)

 

保険関係

保険の民事的側面は、かつて商事契約の一つとして、商法第2編第10章「保険」で規律されていたのですが、2008年に「保険法」が制定されました。保険法は、保険を損害保険(2章。傷害疾病損害保険、海上保険はその特別類型)、生命保険(3章)、傷害疾病定額保険(4章)の3類型に分けて規律しています。

また、保険業法が、行政規制を規律しています(金融庁所管)。

 

保険法入門

保険法入門 (日経文庫)

保険法入門 (日経文庫)

  • 作者:竹濱 修
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: 新書
 

保険法制定時の法制審幹事による入門書。薄くて便利。日経文庫なのでビジネスマン向きなのかと思いきや、どう見ても法律をある程度知っている人でないとわからない記述が唐突に出てきたり、位置づけがよくわからない感じではありますが、このページの読者のみなさんであれば、特に困ることはないんじゃないかと思います。

(2020年12月最終更新)

 

 

ポイントレクチャー保険法

ポイントレクチャー保険法〔第3版〕
 

多分今一番分かりやすいテキスト。15回の授業で使うことを意識して、各章の量がほぼ均等になるように構成されているのですが(ポイントレクチャーシリーズに共通)、通読する上でもそれが役に立ちます(読みやすい)。

(2020年12月最終更新)

 

支払・決済関係

支払決済法

支払決済法〔第3版〕

支払決済法〔第3版〕

 

何にでも手を出す商法学者というイメージがあるお二人による共著。廃れつつある手形・小切手法を、電子マネー・仮想通貨、銀行振込、電子記録債権、クレジットカードなどと並ぶ支払手段の一つとして位置付け、それらについて「機能的・統一的に解説」するもの。

(2020年6月最終更新)

 

実務解説 資金決済法

実務解説 資金決済法〔第4版〕

実務解説 資金決済法〔第4版〕

  • 作者:堀 天子
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: 単行本
 

資金決済法の立案に関わったMHMの弁護士による解説。資金決済法は、従来銀行法により銀行の独占業務とされてきた為替業務を一部、非銀行業者にも開放するもので、Line Payなどの(個人間送金が可能な)キャッシュレスサービスのバックグラウンドとなっています。

なお、資金決済法は銀行法の特別法として資金移動業という業規制を行うものです。資金移動業に相当するものは、資金決済法制定前は、為替業務として銀行業の独占業務でした。

(2020年6月最終更新)

 

信託法

信託の民事的側面は、「信託法」(2006年制定)が規定しています。なお、新信託法は公益信託を対象としていないので、旧信託法は「公益信託ニ関スル法律」として残存しています(法制審では2018年に「公益信託法の見直しに関する要綱案」が決定されていますが、法案提出には至っていません)。

また、信託業法(2004年制定。1922年の旧法を全部改正)が、行政規制を規律しています(金融庁所管)。

 

信託法について

信託法は、アメリカでは多くの州で司法試験科目になっているくらいなのですが、日本ではマイナーであり、信託に関する重要判例というとほぼ1件です(最判平成14年1月17日民集56巻1号20頁[倒産判例百選51事件])。しかし、その法理は委任や会社役員、破産管財などについて応用可能であり(岡伸浩『信託法理の展開と法主体』。潮見先生も潮見・基本講義 債権各論Iでそのような議論に言及されています)、また、プライバシー・個人情報の規律についても信託法理を活用しようという動きがあるので、勉強しておくと何かの役に立つかもしれません(何の?)。

さて、信託においては、委託者が契約や遺言などによって受託者に財産を移転しますが、受託者は委託者の指示(信託の目的)に従ってその財産を管理し、受益者の定めがある場合には信託の目的に従って受益者に一定の授益行為をしなければなりません。いわば法人格のないSPCを作るようなもので、委託者が資産を出資する株式引受人、受託者が資産の運用を任された取締役、受益者が株主みたいなものだということになります(実際、資産流動化法では、特定目的会社と特定目的信託ができる限り整合的に規律されています)。

株式引受人は自動的に株主となり、配当を第三者に取得させたければ株式を譲渡する必要があるのに対して、信託の場合、委託者と受益者を最初から別人とすることも可能です。信託は、今は投資に使われたりしますが、もとはイングランドで相続による課税の回避のために発達した制度で、信託の成立時には委託者が死んでいるのが一般的だったという沿革によるのではないかと思います。

さて、信託には、①財産管理機能、②転換機能、③倒産隔離機能があります。信託がなされると、信託財産は、財産の移転が生じている以上委託者の責任財産に含まれなくなる一方、受託者のもとでも受託者の固有財産と異なる責任財産を構成することとなります。したがって、受託者の債権者は信託財産に強制執行をすることができず、受託者が破産しても信託財産は破産財団に含まれません。これが倒産隔離機能です。

なお、この倒産隔離機能は、会社に法人格を認めることで同様の状態が実現されていると言えます。株主からも取締役からも独立した、会社自体の法人格を認めることで、その財産は当然に株主の債権者の引当財産にも、取締役の債権者の引当財産にもならなくなります(なお、株主代表訴訟と信託も参照)。

 

道垣内・信託法入門

信託法入門 (日経文庫)

信託法入門 (日経文庫)

 

道垣内先生による入門書。本書は日経文庫なので薄く、しかも道垣内先生なので読みやすいです。学部で信託法の講義を受講した際に読みました。

道垣内先生は、法学教室331号(2008)〜354号(2010)に「さみしがりやの信託法」という連載をされており、また、『担保物権法』のシリーズで『信託法』を出されています。

『信託法』は「信託法について,わかりやすく簡潔に解説するものではないし,実務における信託についてヴィヴィッドに叙述するものでもな」く、「日本における現行の信託法について,条文の文言・論理構造に注意しながら,解釈論を示すもの」であり、現時点での最先端の研究なので(新井誠先生による書評も参照)、「信託法についてある程度の理解を得たい」といったレベルであれば、本書(『信託法入門』)を読んだ上で、「さみしがりやの信託法」を読むというのがよいように思います。

(2020年10月最終更新)

 

樋口・入門 信託と信託法

入門・信託と信託法 第2版

入門・信託と信託法 第2版

  • 作者:樋口 範雄
  • 発売日: 2014/04/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

英米法の名のもとに何でもされる樋口先生による入門書。ぱらぱらと見た感じだと、道垣内先生のものが日本の信託法を説明しているのに対して、樋口先生のものはイギリス・アメリカの判例法理を多く引用しています(当たり前…)。

(2020年10月最終更新)

 

金融商品取引法

有価証券の典型は株式であり、その民事的側面は会社法で規律されているのですが、金融商品取引法は株式以外にも、国債、信託受益権など様々な証券を(「証券」が発行されていない場合でもその性質に着目して「みなす」こととして)「有価証券」としてまとめて規律し、さらに、性質上も有価証券とはいえないデリバティブを合わせて規制しており、もはや「資本市場の秩序を定めたもの」という以上のことは言えない感じになっています。

金融商品取引法は、大きく次の3つから構成されています。

 

黒沼・金融商品取引法入門

金融商品取引法入門〈第7版〉 (日経文庫)

金融商品取引法入門〈第7版〉 (日経文庫)

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2018/03/16
  • メディア: 新書
 

体系書も書かれている(金融商品取引法 | 黒沼 悦郎 |本 | 通販 | Amazon)黒沼先生による入門書。薄いのでさっと読めますが、淡々としていて、なかなか眠かったです。不公正取引のあたりは独禁法と似ている感じがして面白かったかも。 

(2020年6月最終更新)

 

新・金融商品取引法読本

新・金融商品取引法読本

新・金融商品取引法読本

 

金商法が眠いのは、そもそも金商法自体が無味乾燥だからというのがある気がするのですが、本書はその中で頑張って柔らかく(?)書いてくれている貴重な一冊です。インターン先でゴリゴリの経営権争いをやっている先生が勧めてくれたのも本書だったので、中身は信頼できます。

(2020年6月最終更新)

 

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