離婚訴訟の国際裁判管轄の例外原理は何か?

学部ゼミの今年の合同ゼミの国際民訴グループのテーマ判例東京高判平成30年7月11日判タ1470号93頁(離婚無効確認訴訟の国際裁判管轄。上告棄却・不受理で確定)で、その検討に4か月程度にわたって参加していたのですが、それにあたって考えたことのメモ(ほんとは丁寧に書きたいんですが、その余力がないので…)。

 

目次

 

前提

我が国の裁判をすべきなのはどのような場合かという問題があります(国際裁判管轄)。実際的には渉外的な事件で問題になりますが、理論的には全ての事件がクリアしなければならない要件です。

我が国の民事訴訟法・人事訴訟法には長らく国際裁判管轄の規定があり、判例法理によっていましたが、平成23年民事訴訟法3条の2以下に、平成30年に人事訴訟法3条の2以下に規定が置かれました。

判例としては、次のものがありました。

  • 最大判昭和39年3月25日民集18巻3号486頁…離婚事件。被告住所地原則を確認した上で、日本に被告住所地がない場合でも、①被告による遺棄、②被告の行方不明、③これらに準ずる場合には管轄を認めるとした。当該事案で適用されたのは②。
  • 最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁(マレーシア航空事件)…財産関係事件。規定がないので当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に従い、土地管轄規定を類推適用して決するとした(「逆推知」)。
  • 最判平成8年6月24日民集50巻7号1451頁…離婚事件。在日の夫が原告、在独の妻が被告。ドイツで妻が離婚訴訟を提起し、離婚を認める判決が確定したが、公示送達によったため日本で効力を生じず(手続開始文書についての承認要件欠缺。民事訴訟法118条2号かっこ書)、改めてドイツで離婚訴訟を提起しようにもドイツでは婚姻関係が消滅しているのでそれができないという事案。上記理念が離婚訴訟にも妥当することを確認した上で、管轄判断にあたっては「原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮」すべきとし、当該事案ではその障害があるとして日本に管轄を認めた。
  • 最判平成9年11月11日民集51巻10号4055号(ファミリー事件)…財産関係事件。逆推知によれば管轄があることとなる場合でも、管轄を認めれば上記理念に反することとなる「特段の事情」がある場合には、例外的に管轄を否定するとした。当該事案では、土地管轄規定によれば日本に義務履行地管轄があることとなるはずであったが、契約における履行場所・準拠法の合意に基づく被告の予測可能性、証拠方法の偏在、原告が外国で訴訟を提起することの負担を考慮して、特段の事情を認めた。

平成30年改正人事訴訟法には、3条の2に国際裁判管轄規定が置かれました。1号〜4号が被告住所地原則(昭和39年大法廷判決の原則ルール)、5号が国籍管轄、6号が婚姻住所地管轄、7号が包括規定(昭和39年大法廷判決の例外ルール)です。もっとも、特に包括規定である7号が概括的であるため、従前の判例や立法過程を参照する必要性が強いです。

 

判例法理

昭和39年大法廷判決

本件は朝鮮人(韓国人)夫婦間の離婚訴訟であるが、上告人の主張によると、妻たる上告人はもと日本国民であつたところ、昭和一五年九月当時中華民国上海市において朝鮮人である被上告人と婚姻し、同市において同棲をつづけた後、昭和二〇年八月終戦とともに朝鮮に帰国し被上告人の家族と同居するに至つた、しかし上告人は慣習、環境の相違からその同居に堪えず、昭和二一年一二月被上告人の事実上離婚の承諾をえて、わが国に引き揚げてきた、爾来被上告人から一回の音信もなく,その所在も不明である、というのである。
思うに、離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたつても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることではある。しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によつても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例一六条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。
本件離婚請求は上告人が主張する前記事情によるものであり、しかも上告人が昭和二一年一二月以降わが国に住所を有している以上、たとえ被上告人がわが国に最後の住所をも有しない者であつても、本件訴訟はわが国の裁判管轄権に属するものと解するを相当とする。それ故、本件訴を不適法として却下した第一審判決を是認した原判決には、判決に影響をおよぼすこと明らかな法令の違背があり破棄を免れず、論旨は理由がある。

外国人どうしの離婚訴訟について、被告住所地原則を確認した上で、①遺棄、②行方不明、③その他これに準ずる場合に限定しています。

なお、この判決は、いわゆるマレーシア航空事件判決(最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁)が出るのものです。

 

平成8年判決

離婚請求訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素であり、被告が我が国に住所を有する場合に我が国の管轄が認められることは、当然というべきである。しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても,原告の住所その他の要素から離婚請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであり、どのような場合に我が国の管轄を肯定すべきかについては、国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である。そして、管轄の有無の判断に当たっては、応訴を余儀なくされることによる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが、他方、原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し、離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、ドイツ連邦共和国においては、前記一3記載の判決の確定により離婚の効力が生じ、被上告人と上告人との婚姻は既に終了したとされている(記録によれば、上告人は、離婚により旧姓に復している事実が認められる。)が、我が国においては、右判決は民訴法二〇〇条二号〔現行法118条2号〕の要件を欠くためその効力を認めることができず、婚姻はいまだ終了していないといわざるを得ない。このような状況の下では、仮に被上告人がドイツ連邦共和国に離婚請求訴訟を提起しても、既に婚姻が終了していることを理由として訴えが不適法とされる可能性が高く、被上告人にとっては、我が国に離婚請求訴訟を提起する以外に方法はないと考えられるのであり、右の事情を考慮すると、本件離婚請求訴訟につき我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうというべきである。この点に関する原審の判断は、結論において是認することができる。所論引用の判例判例引用省略。昭和39年大法廷判決を含む〕は、事案を異にし本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。

マレーシア航空事件が出た後のものです。日本人―外国人間。昭和39年大法廷判決の射程外で別のルールを定立したものなのか、射程内で例外を認めたものなのかはよくわかっていません。

 

平成30年改正人事訴訟法

3条の2第7号

7号は次のようになっています。[1]が昭和39年大法廷判決の事案、[2]が平成8年判決の事案です。

[1]日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、[2]他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないとき[3]その他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。

この規定は、部会の後半で二転しています。

 

部会資料16(第16回資料)

[1]日本国内に住所がある者からの身分関係の当事者の一方又は双方に対する訴えであって,当該当事者が行方不明であるとき[2]その他当該当事者の住所…がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるとき。

当初案です。[1]が昭和39年大法廷判決の事案、[2]は平成8年判決っぽい包括規定です。この表現は、中間試案まで変わっていませんでした。

ところが、16回*の部会で、「著しく困難」は緊急管轄とイコールではないことを前提に、部会資料16までの書き方だと緊急管轄を一部認めたことになって、それ以外の解釈上の緊急管轄は認められないという読み方がなされうるという話が出てきました。

*議事録PDF版2頁〜10頁。内野幹事の「それと,(6)の規律について,検討すべき点があります」から高田部会長の「今回はこの辺りでよろしゅうございましょうか」までの箇所。

 

部会資料17(第17回資料)

日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって,他の一方が行方不明であるとき。 

上記の議論を受けて、事務局が「著しく困難」を外したのがこれです(17回の冒頭の内野幹事発言)。

ただ、今度は、それだと昭和39年大法廷判決を限定するという読み方がなされうるという指摘が出てきました*。遺棄、準ずる場合は認めないということです。

*議事録PDF版6頁の山本(弘)委員発言。「普通の理解は,昭和39年判決よりも狭まったのではないかと理解するのが恐らく自然だと思います」。

 

部会資料18(第18回資料)

日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって,他の一方が行方不明であるとき,他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り,又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。

上記の議論を受けて、事務局が「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り,又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる」を付け足したのがこれです(18回の冒頭の内野幹事の発言)。 民事訴訟法3条の9あたりをコピペして反転させたんでしょう(民事訴訟法3条の9自体、マレーシア航空事件が言った一般原理をそのまま書いたというだけなんですが…)。

これがこのまま法律になっています。

 

ノート

提訴困難と帰責性は異なる原理に基づく

昭和39年大法廷判決は、遺棄の場合に被告住所地原則の例外を認め、これは被告の帰責性に鑑みたものと理解されてきました。

ところが、原告の救済の必要性と帰責性は必ずしも関係がありません。被告に帰責性がある場合であっても、原告が被告住所地で訴訟を提起することに障害があるとは限らないし、原告が被告住所地で訴訟を提起することに障害がある場合、被告に帰責性があるとは限らないからです。

そうすると、遺棄は、平成8年判決や平成30年改正の当初案(被告住所地国における提訴困難)と異なる原理に基づくものということになります。最終的に成立した法律は帰責性を考慮するかのようですが(当事者間の衡平)、上に見た経緯からすれば、意識的な変更ではないでしょう。

 

遺棄は提訴困難の一場面として再構成できる

もっとも、遺棄は、学説は帰責性と構成してきましたが、同時に提訴困難としても構成できます。昭和39年大法廷判決は、被告が原告を置き去りにして外国に移住した場合(「被告出国事例」)を想定していると考えられますが、この場合には、被告の移住先の国(=被告住所地)と原告はつながりを持たないのが通常であり、(とりわけ昭和39年当時の海外渡航環境を考えれば)類型的に被告住所地国での提訴は困難と言えるからです。

ただ、このように解した場合、被告が原告のDV等により住所地国から日本に移住せざるを得なくなった場合(「原告出国事例」)、これを直ちに遺棄と同視することはできず(この理解は従来の学説や実務に反します)、被告住所地国での提訴困難性の実質的な検討を要することになります。原告出国事例では、被告出国事例と異なり、原告はそれまで移住元の国(=被告住所地)で生活していたのであるから、被告住所地と一定のつながりを持っているのが通常であり、類型的に被告住所地国での提訴が困難があるとまでは言えません

 

帰責性を考慮することもおかしなことではない(かもしれない)

もっとも、帰責性を考慮すること自体は(提訴困難とは異質だというだけで)必ずしもおかしなことではないように思います。「当事者間の衡平」という文言からもそうですし、財産関係訴訟では既に被告の帰責性を考慮しているように見える規定があるからです。

すなわち、「事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの」「当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき」には日本に国際裁判管轄が認められることになっていますが(民事訴訟法3条の3第5号)、これは「その地で業務を行う者は、その地で業務に関連して生じた紛争について、その地の裁判所に服さなければならない」という、帰責性に近い考え方(doing business jurisdiction不法行為の報償責任に似ているかも)を根拠としています。

追記2020/10/29:でもよく考えたら他国に本店があれば提訴は必ずしも容易でない一方、その地に事業所等を設置しているなら応訴も容易、とも言える気がしてきました。

 

帰責性は実体的判断に近いから考慮すべきでない?

当初案で遺棄を挙げなかった理由について、事務局は、「遺棄という言葉は、当事者の一方の有責性を含意する要件であつて、これを管轄原因としますと、管轄の有無を判断するに当たって離婚原因に関する実体的な判断に近い判断をする必要が生じるのではないかという観点から、これは適当ではないのではないかと考えられること」を挙げています(第2回部会での近江関係官発言)。ここからすれば、帰責性を考えるべきでないようにも思えます。

ただ、これに対しては、不法行為では客観的要件の証明まで要求しているではないか(最判平成13年6月8日民集55巻4号727頁)、という気がします。

 

難しいね。