Googleアンチトラスト法訴訟

日本の報道がいまいちだったのでDOJとGoogleのプレスリリースを見てみましょうというメモ。

 

報道

米司法省は20日、米IT大手グーグルを独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いで連邦地裁に提訴した。複数の米メディアが報じた。司法省は、グーグルがインターネット検索事業などで市場支配力を利用して不当に競争を妨げているとして違法行為の差し止めを求めたとみられる。米司法省の独禁法訴訟としては、1998~2002年の米IT大手マイクロソフト(MS)訴訟以来、約20年ぶりの大型訴訟となる。

米司法省、グーグルを独禁法違反で提訴 米メディア報道 MS以来20年ぶり大型訴訟 - 毎日新聞

 

 

シャーマン法2条

シャーマン法2条は、日本でいう日本の独占禁止法における「私的独占」の禁止(同法3条・2条5項)に相当するもので、独占化行為monopolizationを禁止しています。

Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of a felony….

禁止されているmonopolizeとは、ざっくり言うと、競争(サービスの価格や品質)によらない、人為的な独占化行為です。

monopolizeという語感から直ちに想起されるのは、これから独占monopolyを形成しようという場面だと思いますが、既にmonopolyある企業が、それを維持maintainしようという場面も含まれます(そして今回はこっち)。

日本の独占禁止法もそうですが、monopolyをmaintainすると言えるためには、行為者が既にmonopolyにあると言えなければならず、また、行為が実際にmonopolyをmaintainする=競争を制限するものでなければなりません(競争制限効果)。 

そして、前者との関係では、monopolyが市場における一定の状態を指すものであることから、その前提として、どこが市場なのか=どの範囲で競争が生じているのか=取引相手にとって代替可能な事業者はどこまでなのかを判断する必要があります(市場画定)。

Competition And Monopoly : Single-Firm Conduct Under Section 2 Of The Sherman Act

 

司法省のプレスリリース

As alleged in the Complaint, Google has entered into a series of exclusionary agreements that collectively lock up the primary avenues through which users access search engines, and thus the internet, by requiring that Google be set as the preset default general search engine on billions of mobile devices and computers worldwide and, in many cases, prohibiting preinstallation of a competitor. In particular, the Complaint alleges that Google has unlawfully maintained monopolies in search and search advertising by:

  • Entering into exclusivity agreements that forbid preinstallation of any competing search service.
  • Entering into tying and other arrangements that force preinstallation of its search applications in prime locations on mobile devices and make them undeletable, regardless of consumer preference.
  • Entering into long-term agreements with Apple that require Google to be the default – and de facto exclusive – general search engine on Apple’s popular Safari browser and other Apple search tools.

Googleスマホ・コンピューターメーカーとの独占契約で、Googleをデフォルトの検索エンジンに設定してもらう行為を問題としています。

特に問題とされているのは、

  • 他の競争関係にある検索エンジンのプリインストールを禁止する合意
  • 消費者の選好に関わらず、モバイルデバイスの重要な位置に検索アプリをプリインストールし、削除できないようにする合意
  • Apple(名指し!)と長期の合意に基づき、GoogleSafariなどのデフォルトの検索エンジンとすること

です。

 

Generally using monopoly profits to buy preferential treatment for its search engine on devices, web browsers, and other search access points, creating a continuous and self-reinforcing cycle of monopolization.
These and other anticompetitive practices harm competition and consumers, reducing the ability of innovative new companies to develop, compete, and discipline Google’s behavior.

Googleは、独占契約によって増加したトラフィックを広告収入につなげることで利益を上げ、その利益を資金としてさらなる独占契約を締結するという、独占の自己強化的サイクルを作り出すことができます。それによって、競争相手が発展し、競争し、Googleの行動を規律する能力を削ぎます

競争法の発想は特殊なので、初見だとそれの何が問題なのかよくわからないかもしれません。ありていに言えば、競争者がいることでGoogleは常に顧客から選ばれるよう努力し続けなければならないことになりますが、競争者が現れないようにしておくことで殿様商売でよいことになる、ということです。

 

The Complaint alleges that Google’s anticompetitive practices have had harmful effects on competition and consumers. Google has foreclosed any meaningful search competitor from gaining vital distribution and scale, eliminating competition for a majority of search queries in the United States. By restricting competition in search, Google’s conduct has harmed consumers by reducing the quality of search (including on dimensions such as privacy, data protection, and use of consumer data), lessening choice in search, and impeding innovation. By suppressing competition in advertising, Google has the power to charge advertisers more than it could in a competitive market and to reduce the quality of the services it provides them. Through filing the lawsuit, the Department seeks to stop Google’s anticompetitive conduct and restore competition for American consumers, advertisers, and all companies now reliant on the internet economy.

特に第2文、第3文が実質的です。

Googleの行為は、検索市場における競争を制限することにより、検索の品質を低下させプライバシー、データ保護、消費者データの使用などの側面を含む―競争にさらされていればGoogleももっと努力するはずだし、プライバシー等についても消費者に配慮するはず)、検索の選択肢を減らし、イノベーションを阻害することにより、消費者の利益を害しています。

Googleは、広告市場における競争を抑制することにより、より競争的な市場でできたよりも多くのチャージを広告主に請求する力を有し、また、彼ら(=広告主)に提供するサービスの質を低下させています。

Googleが競争しているのは、検索市場と(検索)広告市場という2つの取引相手のグループが登場する、いわゆる二面市場です(プラットフォームビジネス)。そこでは、検索市場におけるシェアの獲得が広告市場における自己の地位を高める(広告主はトラフィックがほしいので、より多くのユーザーを獲得している検索エンジンに広告を出したい)という関係があります。そうすると、競争制限効果はその2つの市場で問題になることになります。

Justice Department Sues Monopolist Google For Violating Antitrust Laws | OPA | Department of Justice

 

Googleの反論

  • モバイルにはAT&T, Verizon, Samsung, LGがいて、Appleが全てではない。デスクトップはMicrosoftが支配している。
  • Appleのデスクトップデバイス(e.g. MacBook)ではワンクリックで検索エンジンを変更できる。WindowsではEdgeがプリインストールブラウザで、そのデフォルト検索エンジンはBingである。
  • AndroidではGoogleとのプロモーション契約に応じることによってメーカーはOSのライセンス料を下げることができ(無料)、携帯の本体代金を下げることができる。それに、プロモーション契約があっても競合アプリをプリインストールすることはよくある。
  • (ソフトウェアをCD-ROMで購入しインストールしなければならなかった時代とは異なり)Googleを使わないことはとても簡単で、それなのにそうしないのは人々がGoogleを選んでいるから。Spotify, Instagram, Snapchat, Amazon, Facebookは世界で最も人気のアプリだが、プリインストールされていない。FirefoxにはYahoo! FirefoxというYahoo!がデフォルトのバージョンがあったが、ほとんどのアメリカ人はすぐにGoogleに切り替えた。
  • 競争相手は一般的な検索エンジンではない(法的には市場画定が間違っているという主張)。人々は今やTwitterでニュースを、カヤックとエクスペディアでフライトを、OpenTableでレストランを、InstagramPinterestで好きなものを探す。何かを購入したければ、アメリカ人の6割はAmazonから始める。

A deeply flawed lawsuit that would do nothing to help consumers

 

メモ:アンチトラスト法

アンチトラスト法は、シャーマン法、クレイトン法、FTC法からなる。

シャーマン法Sherman Actは、合衆国法典Title 15 (Commerce and Trade), Chapter 1 (Monopolies and Combinations in Restraint of Trade)のうち§1-7の部分で、実体規定は§1, 2。§1が取引制限、§2が独占化行為を禁止している。概ね§1が日本の「不当な取引制限」、§2が日本の「私的独占」に相当するが、垂直的共同行為も§1がカバーするなどの違いがある*。

*日本の「私的独占」については、東京高裁(審決取消訴訟の専属管轄裁判所で大合議なのでそれなりの権威がある)が水平的共同行為に限定する解釈を示して以来(東京高判昭和28年3月9日高民集6巻9号435頁[新聞販路協定事件]、東京高判昭和28年12月7日高民集6巻13号868頁[東宝・新東宝事件]。形式的には独禁法3条5項の「事業者が」の解釈)、公取委は垂直的共同行為には適用しなくなった。東京高裁は垂直的共同行為は「不当な取引制限」でカバーすればいいと思っていたのかもしれないが、必ずしも「水平限定解釈」を採用した場合に「私的独占」に該当する行為の全てが「不当な取引制限」にも該当するわけではなく、独禁法学者は一致して「水平限定解釈」は不当と批判している(「不当な適用制限」?)。東京高裁の刑事判決には、このような解釈に疑問を示したものがあるが、それをさておいて、当該事案における競争関係をゆるく(書面に書くなら「実質的に」)認定することで解決してしまった(東京高判平成5年12月14日高刑集46巻3号322頁[シール談合事件刑事判決])。

クレイトン法Clayton Actは、合衆国法典Title 15, Chapter 1のうち§12-27の部分で、実体規定は§2, 3, 7, 8。§2が価格差別、§2が排他条件付取引、§7が企業結合、§8が役員兼任を禁止している。日本の「不公正な取引方法」のうち、競争制限が公正競争阻害性の内容となっている類型に似ている。シャーマン法§2を具体化するために作られた(だから効果要件がシャーマン法よりもゆるいということはない。類型によって当然違法illegal per seと合理の原則rule of reasonが妥当するものに分けられるが、立証の問題)。ただし、実際に適用されている実体規定は§7だけ。

FTC法は、合衆国法典Title 15, Chapter 2 (Federal Trade Commission; Promotion of Export Trade and Prevention of Unfair Methods of Competition)で、実体規定は§5(a)(1)。前段が不公正な競争方法、後段が欺瞞的行為。日本の「不公正な取引方法」のうち、競争手段の不公正が公正競争阻害性の内容となっている類型に似ている。シャーマン法(とクレイトン法)が規制するような反競争行為をその萌芽的段階で規制するために作られた。

シャーマン法はDOJ(司法省)、クレイトン法はDOJとFTC(連邦取引委員会)、FTC法はFTCが執行している。執行方法は、DOJは民事での差止請求(いわゆる司法的執行。宝塚パチンコ条例事件で出てくるアレ)、刑事訴追(シャーマン法のみ)、FTCは民事での差止請求、排除措置命令(手続は平成17年独占禁止法改正前の公取委のそれとほぼ同じ)。

また、各州司法長官は、州民を代表して、州民の国親parens patriae(?)として、州の名において、損害賠償請求訴訟を提起することができる(§15c(a)(1)。父権訴訟parens patriae)。3倍ルールが適用される=懲罰的損害賠償賠償(§15c(a)(2))。損害の算定方法として、①統計的手法・サンプリング法、②違法な超過支払額の計算、③これら以外の個別の証明なしに総損害額を見積もる合理的なシステムとして裁判所がその裁量において認めるもの、④代表される州民が被った個別の損害の合計が規定されている(§15d)。損害賠償金は、裁判所の裁量で認める方法で分配されるか、裁判所によって民事罰civil penalty(課徴金みたいなもの、だったような)とみなされ州の一般歳入となる(§15e)。

なお、interstate/internationalは、連邦政府の立法管轄の限界からくる要件(合衆国憲法で州内の規律は連邦政府に授権されておらず、州政府に留保されている。Article 1, Section 8, Clause 3)。各州は留保された立法管轄権に基づき、それぞれのアンチトラスト法を有している。