知財高判令和2年10月6日裁判所website(同人誌無断転載事件)

判決が引用判決で、一審判決を見つけられていないので、雑ですがメモ。

 

目次

 

事案

  • Xは、紙媒体で同人誌を販売している同人誌作家である。なお、侵害に係るXの著作物は、判決文末尾の「別表」にリストアップされている。
  • Yは同人誌無断転載サイトの運営会社、Y1はYの現在の取締役、Y2はYのかつての取締役Y3(死亡によって退任)を相続した配偶者である。
  • Yは、Xの同人誌(「本件各漫画」)を、Yの運営するウェブサイトに無断でアップロードし、無料で閲覧できるようにした。
  • Xは、Yの上記行為が著作権公衆送信権*)を侵害するとして、民法709条**および著作権法114条1項***に基づいて、Yに対して1億9324万3288円のうち1000万円****および遅延損害金の支払いを求めた。
  • Xは、また、Y1, Y2に対して、Y1, Y3が法令遵守体制整備義務(会社法348条3項4号参照)に違反し、上記行為を行うことを許容としたとしても、会社法429条****に基づき、Yと連帯して同額の支払いをすることを求めた。
  • 一審は、Yらに219万2215円と遅延損害金を連帯して支払うことを命じ、その余の請求を棄却した。両当事者が控訴。
  • 控訴審で、Yらは、①本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されており、原著作物の著作権を侵害すること、②本件各漫画はわいせつ文書であることから、損害賠償請求が権利濫用に当たり、請求は棄却されるべきと主張した。
  • 控訴審は、両当事者の控訴を棄却した(損害額も含めて一審の判断を維持)。

*著作権法23条1項「著作者は、その著作物について、公衆送信自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」/2条1項7号の2「公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」/同項9号の4「自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」/同項9号の5「送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。」「イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。」「ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」

**民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

***著作権法114条1項は損害額推定の規定。後で見る。

****一部請求なので全部認容されない限り残部請求は信義則に反して不適法。

*****会社法429条1項「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

 

同人誌の原著作物の著作権侵害

前提:ポパイネクタイ上告審判決

最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁。原告はポパイ著作権を有すると主張し、ポパイを載せたネクタイを販売している被告に対して、その差止めを求めた。原作のポパイは連載漫画だったので、保護期間(著作権の存続期間)との関係で、原告の主張する著作権はどの時点で成立していたのかが問題とされた。つまり、判決(引用部分には含まれていない)でいう「第1回作品」の時点で成立しているなら既に消滅しているが、ある時点以後の連載の時点で成立しているなら存続しているという状況だった。

本件と関係があるのは以下の1, 2。【】内はメモ。

1【連載漫画の著作権は分析的に成立する】著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない

2【先行する漫画と後続の漫画の関係】このような連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。そして、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法二条一項一一号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。

なお、次のような判示が続く。

  • 3…保護期間。「後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべき」。
  • 4…複製の内容。ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー事件(主観:依拠、客観:内容・形式を覚知させるに足りる再製)を引用した上で、複製は「その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる」。
  • 5…当該事案への適用。被告のネクタイの図柄は「第一回作品」のポパイの絵の複製に当たる/「第一回作品」の著作権は平成2年5月21日の経過をもって消滅した/上記図柄は「第一回作品」は後続作品の著作権を侵害するとはいえない。

 

判旨

一審被告らは,本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されている旨主張する。

しかしながら,漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない最高裁判所平成4年(オ)第1443号,同9年7月17日第一小法廷判決,民集51巻6号2714頁)。したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。

また,原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(上記最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである(なお,一審被告らは,東京地裁昭和51年5月26日判決(判例タイムズ336号201頁)に基づいて,登場人物等に関しては,登場シーンを特定する必要はないという趣旨の主張をするが,上記最高裁判所判決に照らし,採用することはできない。)。

この観点から検討すると,一審被告らの主張のほとんどは,原著作物のどのシーンに係る著作権が侵害されたのかを特定しない主張であって,主張として不十分であるといわざるを得ない。そして,原著作物の特定のシ ーンと本件各漫画のシーンとを対比させた乙10の1~7(もっとも,「アニメ版」として掲げられているシーンについて,第何回のどの部分という具体的特定までがされているわけではない。)の内容を検討してみても,原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず(なお,乙10の1~7の中で,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べているのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),また,基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。

以上の次第で,一審被告らの著作権侵害の主張は,それ自体失当であるし,現在の証拠関係を前提とする限り,仮に原著作物のシーンが特定されたとしても,著作権侵害が問題となり得るのは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られるものといわざるを得ない(なお,一審被告らは,本件各漫画で描かれた各シーン(ストーリー展開に関わる部分)は,原著作物の基本的設定に関わる部分の翻案に当たり,また,同一性保持権を侵害していると主張するかもしれないが,上記基本的設定に関わる部分は,主人公等の容姿や服装などの表現そのものにその本質的特徴があるというべきであって,ストーリー展開に本質的特徴があるということはできないから,本件各漫画に描かれたストーリー展開が,上記基本的設定に関わる部分の翻案に当たると解する余地はないし,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分に変更がない以上,同一性保持権侵害が問題になる余地もない。)。

以上によれば,本件各漫画が,原著作物の著作権侵害に当たるとの主張は失当であるし,仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても,それは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであって,その他の部分については,二次的著作権が成立し得るものというべきである(なお,本件各漫画の内容に照らしてみれば,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分について,オリジナリティを認めることは十分に可能というべきである。)。
そうすると,原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん,認められる場合であっても,一審原告が,オリジナリティがあり,二次的著作権が成立し得る部分に基づき,本件各漫画の著作権侵害を主張し,損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。

 

損害

前提:著作権法114条

本文

  • 【要件1:損害賠償請求】
    • 【主体】著作権者等が
    • 【相手方】故意又は過失により自己の著作権…を侵害した者に対し
    • 【請求】その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、
  • 【要件2:公衆送信行為・送信可能化行為】
    • その者が…その侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、
  • 【効果:受信複製物の数量×単位あたり利益額=損害額と推定。ただし著作権者の販売能力が上限】
    • …その公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物…(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、
    • 著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を
    • 乗じて得た額を、
    • 著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、
    • 著作権者等が受けた損害の額とすることができる。

 

ただし書

  • 【要件】
    • 譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を
    • 著作権者等が販売することができないとする
    • 事情があるときは、
  • 【効果】当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

 

判旨

一審原告の損害額が少ないという主張を排斥する文脈。

ア 公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合,「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく,ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。ところが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定することができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。

また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたものであり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違いがある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである(原判決27頁において認定されているとおり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが,有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである。)。

イ そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから,これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である

 

ノート 

  • 一審判決を見つけたら加筆したい。
  • 当該事案では被告はそもそも原著作物の著作権の侵害を主張できていないが、仮にちゃんと(?)主張・立証できても、侵害が成立するのは「主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分」に限られ、残りの部分にオリジナリティがあれば同人誌作家もそれに基づいて権利行使できる、という流れ。
  • 原著作物の著作権者―同人誌作家の関係
    • 複製権…判旨によれば侵害が成立しそう。
    • 同一性保持権…判旨によれば侵害が成立しなさそう。複製した部分だけで同一性を判断するのか、となった。
    • 著作者人格権のみなし侵害
      • 判旨は言及していないが、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」は著作者人格権を侵害するものとみなされる(著作権法113条10項(令和2年改正施行(令和2年10月1日)より前は7項))。
      • そもそも同人誌がなぜ問題になりうるのか。公式と同人誌というのはおそらく市場が違っていて(需要者から見て代替性がない)、需要者を奪い合う関係にはない。そうすると、むしろイメージを毀損する点こそが重要なのではないか。この観点からすると、名誉・声望を害する利用が一番問題になるのではないか。
      • 名誉・声望を害する利用と、被告が主張したわいせつは、前者が後者を含む関係にあると考えられる。被告としては前者を主張するほうがよかったのではないか。
    • なお、この問題(原著作物の著作権者―同人誌作家の関係)について考える場合、同人誌作家―同人誌の無断転載業者間の訴訟の争点として、同人作家―原著作物の著作権者間の権利侵害が判断されたという本件の特殊性は念頭に置く必要がありそう。

 

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