2020年度国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)2次試験(筆記試験)

成績は6位(合格者127人、申込者428人中。ただし、筆記試験だけでなく全体の成績)。

 

目次

 

行政法

事例

株式会社Aは,住宅の建設・分譲を目的として,B県C市内の宅地造成工事規制区域内にある土地(以下「本件土地」という。)を購入した。しかし,令和元年6月28日から同月29日にかけて発生した大雨によって,本件土地で土砂崩れが起き,流出した土砂により,その下方にあるDらの住居等が倒壊した。C市長は本件土地の下方に居住する住民に避難勧告を直ちに発した。

B県知事は,災害防止上緊急の必要があると判断し,宅地造成等規制法(以下「法」という。)第17条第1項に基づき,同年7月2日付けで,Aに対し,避難勧告解除に必要な措置として土砂流出防止措置等の実施(履行期限同月9日まで)を命じた(以下「本件改善命令」という。)。しかし,Aは,B県知事に対し,本件改善命令に法の適用上の誤りがあること,本件改善命令で示された措置を早期に実施できないことを伝えた。B県知事は,Aから相談があれば履行期限についてある程度柔軟に対応する予定であったが,Aが法の適用上の誤りも主張していることから,Aによる履行は期待できないと考え,緊急の必要上,同月9日,行政代執行法に基づく代執行(以下「本件代執行」という。)に着手した。原因調査・工事に時間を要したが,本件代執行は同年10月1日に終了した。B県知事は,同月10日,Aに対し,行政代執行法に基づき,本件代執行に要した費用(1億円)を同月21日までに納付するよう命じた(以下「本件納付命令」という。)。

Aは,同年10月30日,B県知事に対し,行政不服審査法に基づき本件納付命令に対する審査請求を行ったが,B県知事は,令和2年2月28日,Aの審査請求を棄却する裁決を行い,Aに通知した。その後,Aが訴訟の提起を検討しているとの情報を得たB県の担当者Eは,弁護士Fにアドバイスを求めた。

 

議事録

F:まず,Aの審査請求の理由をまとめてください。また,行政代執行法に基づく手続や本件納付命令の金額には問題はないですね。

E:代執行手続や金額に関する点に問題はありません。ただ,審査請求の審理手続においてAが申し立てていた口頭意見陳述の機会を与えなかったというミスがあり,本件納付命令の法的評価への影響が気になっております。Aの審査請求の理由ですが,本件改善命令について,第一点目として,Aは,建設会社Gが法第8条第1項の許可を得て本件土地の宅地造成工事を実施したが,工事がずさんだったために本件土地から土砂が流出したこと,Gが改善措置を最も早く実施できること,これらはB県が調査すれば容易に明らかになるから,Gに対して本件改善命令を出すべきであったと主張しています。第二点目として,Aは,本件改善命令は大量の土砂の搬出等について短期間での完了を義務付けるが,それは技術的に不可能を強いるものであると主張しています。これらは本件納付命令に影響し,本件納付命令も違法であると主張しています。

F:Aがどのような訴訟を提起するかによって,主要論点が変わってくると思います。①口頭意見陳述の機会を与えなかったミスを争うためにAが提起し得る行政訴訟で,本件納付命令の瑕疵を主張することには無理があり.Aが勝訴したとしても,直ちに本件納付命令の効力に影響が及ぶことはないと思います。また,本件納付命令を争う行政訴訟において,その前提として,②本件改善命令について,先ほどのAの主張内容をどのような違法として評価するのかが重要になるので,この点に注意してください。さらに,本件納付命令の前に本件代執行が行われているので,③仮に本件改善命令に違法があるとして,それを理由に本件代執行が違法と評価されるのかを検討する必要があると思います。

E:ありがとうございました。アドバイスを参考にして検討してみます。

 

問題 

(1)下線部①について,Fはなぜ無理があると考えているのか,理由を述べなさい。

(2)下線部②について,Aは本件改善命令の違法をどのように主張すると考えられるか,論じなさい。また,それに対して,B県はどのように反論すべきか,論じなさい。

(3)下線部③について,本件改善命令の違法を本件代執行の違法として主張することができるか,論じなさい。

 

参考条文:宅地造成等規制法

3条1項 都道府県知事…は、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、関…宅地造成に伴い災害が生ずるおそれが大きい市街地又は市街地となろうとする土地の区域であつて、宅地造成に関する工事について規制を行う必要があるものを、宅地造成工事規制区域として指定することができる。

8条1項 宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事については、造成主は、当該工事に着手する前に、…都道府県知事の許可を受けなければならない。…

17条1項 都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内の宅地で、宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず、又は極めて不完全であるために、これを放置するときは、宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合においては、その災害の防止のため必要であり、かつ、土地の利用状況その他の状況からみて相当であると認められる限度において、当該宅地又は擁壁等の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置若しくは改造又は地形若しくは盛土の改良のための工事を行うことを命ずることができる。

2項 前項の場合において、同項の宅地又は擁壁等の所有者…以外の者の宅地造成に関する不完全な工事その他の行為によつて前項の災害の発生のおそれが生じたことが明らかであり、その行為をした者…に前項の工事の全部又は一部を行わせることが相当であると認められ、かつ、これを行わせることについて当該宅地所有者…に異議がないときは、都道府県知事は、その行為をした者に対して、同項の工事の全部又は一部を行うことを命ずることができる。

18条1項 都道府県知事又はその命じた者若しくは委任した者は、第八条第一項、第十二条第一項、第十三条第一項、第十四条第一項から第四項まで又は前条第一項若しくは第二項の規定による権限を行うため必要がある場合においては、当該宅地に立ち入り、当該宅地又は当該宅地において行われている宅地造成に関する工事の状況を検査することができる。

 

解答の方向性

  • (1):原処分主義。原処分と裁決の取消訴訟を選択的に提起できる場合には、原処分の瑕疵は原処分の取消訴訟でのみ主張でき、裁決の取消訴訟で主張できるのは裁決固有の瑕疵に限られる。
  • (2):原告の主張=17条2項の要件を満たしてるなら2項によるべき。被告の主張=裁量(抽象的文言、土地の状況についての情報の収集能力(立入検査規定)・蓄積、災害に関する科学的判断。要件効果両方)。逸脱濫用の場合に違法。重要な事実の基礎を欠くか、判断過程に誤りがあるなどして社会通念上著しく妥当を欠く場合にそうなる。そのような事情はない。
  • (3):出訴期間制限のため原則として認められない→新宿たぬきの森事件。目的は同一だが効果の一体性がないし、Aは本件改善命令の相手方であって争えなかったということはない。

 

民法

事例(1)と問題

(1) Xは,Yとの間で,令和2年6月15日,Yが所有する木造二階建ての家屋(以下「本件家屋」という。)につき,期間を同年7月1日から令和4年6月末日までの二か年,賃料月額30万円を前月末日払い,敷金60万円(以下「本件敷金」という。)とする約定で賃借する旨の賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結し,Xは,令和2年7月1日,本件家屋に入居した。本件契約においては,このほかに,「Xはいつでも解約の申入れをすることができ,その場合,本件契約は解約申入れから1か月後に終了する。」とする特約(以下「本件特約」という。)が付された。

ところが,入居後間もない令和2年8月31日に襲来した大型台風により,本件家屋は,玄関,台所,居間,寝室などの主要部分が浸水被害に見舞われ,復旧は可能であるものの,このままでは居住に堪えない状態となった。

以上の事実を前提として,次の問1及び問2に答えなさい。なお,問1と問2はそれぞれ独立した問いであり,相互に関連しないものとする。

問1 令和2年9月1日,Xは本件家屋から退去して親類のもとに避難した。同月15日,XがYに対して本件家屋の復旧の見通しを尋ねたところ,Yから復l日まで1か月は要する旨の回答があったため,Xは「1か月以内に復旧させてほしい」とYに申し入れた。しかし,同年10月15日が過ぎてもYがいまだ復旧作業に着手すらしないことから,Xは本件契約の終了を理由として別の家屋に転居しようと考えている。この場合,Xはどのような終了原因を主張することが考えられるか,また,当該主張は認められるかについて論じなさい。

問2 令和2年9月1日,Xは,Yに対して,本件特約に基づいて本件契約の解約を申し入れ,すぐに本件家屋を明け渡した。本件家屋が復旧されないまま10月に入り,間もなくして,Xは,Yから本件敷金につき同年9月分の賃料を控除した残額30万円を返還する旨の通知を受けたため,Yに対して本件敷金の全額を返還するよう求めたいと考えている。Xのかかる請求が認められるかについて論じなさい。

 

解答の方向性(事例(1))

  • 問1:解除。現行法では催告解除と無催告解除(全部履行不能等)。復旧は可能だから催告解除。要件は、債務不履行、相当の期限を定めた催告、その期間の経過。賃貸人は修繕義務を含む「貸す義務」を負うが、居住用建物の主要部分の浸水で不履行。1か月は相当(Bも争っていない)。経過済み。解除の意思表示でただちに終了。
  • 問2:引渡し時に未払賃料等を控除して生じる停止条件付き権利。未払賃料があったか=9月分の支払い義務はあったか。危険負担。支払い義務なし。請求できる。

 

事例(2)と問題

(2) Aは,Bとの間で,令和2年6月15日自己所有の事業用機械(以下「本件機械」という。)をBに賃貸する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結し,Bはその引渡しを受けて利用を開始した。本件契約においては,本件機械の修理はBの負担においてこれを行うこととする旨の特約(以下「本件特約」という)が付されたが,他方,本件機械の賃料は減額する旨も併せて約定された。その後,しばらくして本件機械に不具合が生じたため(Bの用法違反によるものではない。),Bはその修理をCに依頼し,Cがこれを請け負ったが,その際,Cは本件機械の所有者がAであることを知らなかった。Cは本件機械の修理を完了したが,Bは修理代金である100万円をCに支払っていない。

以上の事実を前提として,次の問1に答えなさい。

問1 本件機械をCが占有しているため,本件機械の所有者であるAが,Cに対して所有権に基づいて本件機械の返還を求めた場合,Cはこれを拒むことができるかについて論じなさい。

上記の事実に加え、以下の事実があった。本件機械は,修理が完了した後,CからBに返還された。その後,Bが本件機械の賃料を滞納したことから,Aは,催告の上,本件契約を解除する旨を内容証明郵便によりBに通知したため,Bは,Aに本件機械を返還した。その後,Bは,Cに対し本件機械の修理代金である100万円を支払わないまま,多額の負債を抱えて支払不能の状態となった。

以上の事実を前提として,次の問2に答えなさい。

問2 Cは,Aに対し,本件機械に関する修理代金相当額100万円の支払を請求することができるかについて論じなさい。

 

解答の方向性(事例(2))

  • 問1:留置権債務不履行と牽連性。第三者への主張は分けて考え、債務者が引渡請求権を有している場合のみ。認められる。Cへの占有移転は本件特約に従ったもので適法であり、不法行為による占有開始にも当たらない。拒絶できる。
  • 問2:不当利得。法律上の原因。契約上対価負担ない場合にのみこれを欠く。本件特約があるが、その分賃料が減額されるから対価負担あり。認められない。

 

民事訴訟

事例

次の事例について,以下の設問(1),(2),(3)に答えなさい。なお,各設問は,それぞれ独立した問いであり,相互に関連しないものとする。

[事例] Xは,Yを被告として,消費貸借契約に基づく貸金返還請求権を行使して200万円の支払を求める訴えを提起した。Xは,その訴状に「①Xは,令和2年4月1日,Yとの間で,XがYに返済期日を同年4月15日として200万を貸し付ける消費面面函面を締結し,契約時f:200万円の現金をYに交付した」という旨を記載していた。Xは,同年5月20日に開かれた第1回口頭弁論期日に訴状に記載されたとおり陳述した。Yは,第1回口頭弁論期日に出席し,請求を棄却する判決を求めた。

 

設問(1)

(1) Yは,第1回口頭弁論期日に,「②Xが主張している①の事実があったことを認める。③Yは,令和2年4月15日にXに本件債務である200万円を全額弁済した」と陳述した。Xは,同口頭弁論期日に,「④Yが主張する③の弁済をXが受けた事実はない」と陳述した。

XとYが他に特に主張をしていないことを前提にして,次の(ア),(イ)に答えなさい。その論述に当たっては,①から④までの陳述が訴訟上どのような意味を持つかを述べなさい。

(ア)裁判所は,どのような事実の存否について証拠調べをしなければならないか。

(イ)上記(ア)で解答した事実について裁判所が証拠調べをしたところ,裁判所の心証がその事実について存否いずれとも確定できないというものであった場合,裁判所はどのような判決をすべきか。

 

解答の方向性(設問(1))

  • 訴訟物は貸金返還請求権、冒頭規定から請求原因は返還約束と金銭授受。弁済は債務消滅原因だから抗弁。①は請求原因、②は①の自白(後述)、③は抗弁、④は③の否認。
  • 自白は証明不要。自白とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実についての陳述。事実は伝統的通説によれば主要事実。不利益性は相手方が証明責任を負うこと。②はいずれも満たす。請求原因が証明不要だから、証拠調べしなければならないのは弁済の有無。
  • 弁済は抗弁=被告に証明責任。証明責任とは当該事実を要件とする効果の不発生という負担。裁判所は当該事実がないものとして扱う。請求原因が認められて抗弁が認められないから請求認容すべき。

 

設問(2)

(2) Yは,第1回口頭弁論期日に,「②Xが主張している①の事実があったことを認める。③Yは,令和2年4月30日にXに本件債務のうち50万円を弁済した」と陳述した。Xは,どう口頭弁論期日に,「④Yが主張する③の弁済をXが受けた事実を認める」と陳述した。

その後,Yは,この訴訟が第一審に係属中に,「Xから,本件債権を同年5月22日にZに売却したとの通知を受け取った」と主張してZを引受人として訴訟引受けの申立てをした。裁判所は,X,Y及びZを審尋した上,Yの主張を認めてZに訴訟を引き受けさせる決定をした。この決定を受けて,Zは,「Xが訴状で主張しているとおり,XはYに対して200万円の本件債権を有しており,ZはXから本件債権の譲渡を受けたので,『YはZに対し,200万円を支払え」との判決を求める」旨の書面を裁判所に提出し,これを口頭弁論において陳述した。

この場合,XとYの間でされた①から④までの陳述は,ZとYの間でも訴訟上の効力を持つか。

 

解答の方向性(設問(2))

  • 訴訟状態承認義務の問題だが、次の理由から肯定すべき:①ゼロから争えるのでは原告の地位が害されるし、審理遅延につながり、承継を認めた意味がない、②実体法上の依存関係から訴訟追行の結果を引き受けさせられてもやむを得ない、③承継前は被承継人が最密接利害関係人なのだから熱心な訴訟追行を期待できる。ZY間でも有効。

 

設問(3)

(3) Yは,第1回口頭弁論期日に,「Xが主張している①の事実があったことを認める。Yは,Xとの間で,Xに工作機械を50万円で売り渡す契約を締結し,当該工作機械を引き渡したが,Xは代金を支払わないので,Xに対して50万円の売買代金債権を有している。そこで,Yは,この口頭弁論期日に,Yの50万円の売買代金債権を自働債権としXの本件債権を受働債権として対当額で相殺する意思表示をする」と陳述した。これに対し,Xは,同期日に,「Yが主張する売買契約の存在を否認する」と陳述した。

第一審裁判所は,証拠調べの結果に基づいてYの相殺を有効と認め,Yの売買代金債権とXの本件債権とが50万円の対当額で消滅したとの理由を示して,「YはXに対し,150万円を支払え。Xのその余の請求を棄却する」という旨の主文の判決をし,この判決は,これに対して控訴がされなかったので,確定した。

この確定判決の既判力の内容について説明しなさい。

 

解答の方向性(設問(3))

  • 客観的範囲は原則として訴訟物。審理の弾力化。ただし理由中の判断でも相殺のみ既判力。いわゆる減縮された反訴。貸金150万の存在、50万円の不存在、代金50万円の不存在。
  • 主観的範囲は原則として当事者間。拘束を正当化できるのは当事者として主張立証の機会を与えられた者のみだから。本件ではXY。
  • 基準時は事実審の口頭弁論終結。事実と証拠を提出できるのはそこまでだから。