早稲田大学法科大学院 2021年度入試(2020年8月実施)メモ

早稲田大学法科大学院 2021年度入試(2020年8月実施)の問題と解答の方向性。私がたたき台を作った上で、自主ゼミの5人で検討した結果を反映しました。【】内は自主ゼミで検討した際のメモ。

 

目次

 

民法 問題1

問題

<事実>

  1. Aは、所有する甲土地をBに賃貸した。
  2. Bは、甲土地上に乙建物を建築して所有し、同建物に居住している。
  3. <事実2>の状態で、AとCは、AがCに甲土地を売る売買契約を締結し、CがAがに売買代金全額を支払った。

以上の事実1〜3を前提として、次の(1)および(2)に回答しなさい。

(1)CはBに対し、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めることができるか。

(2)CはBに対し、甲土地の賃料の支払いを求めることができるか。

事実1〜3の後、以下の事実4〜9が生じた。

<事実>

  1. BとCは、BがCに乙土地を売る売買契約を締結し、CにがBに売買代金を支払い、BにがCがに乙建物を引き渡した。
  2. その後、Cは、甲土地および乙建物にDを抵当権者とする抵当権を設定した。この時までに、甲土地および乙建物のCへの所有権移転登記はされている。
  3. <事実5>の状態で、乙建物が自然災害に伴う火災で消失した。
  4. その後、Cは、甲土地上に塀建物を新築した。乙建物と塀建物は、どちらも木造2階建てであり、大きさもほぼ同じである。Cは塀建物の所有権保存登記をしたが、Dに対する抵当権設定登記はしていない。
  5. その後、Dが甲土地の抵当権を実行し、担保不動産競売が行われ、Eが甲土地を買い受け、その所有権移転登記をした。
  6. その後、Cは、Fに丙建物を売却した。しかし、所有権移転登記はまだしておらず、丙建物の所有名義はCのままである。

以上の事実1〜9を前提として、次の(3)に回答しなさい。

(3)EはCに対し、丙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めることができるか。

 

CのBに対する乙建物収去甲土地明渡請求((1)

  • Cは所有権に基づく甲土地返還請求権として上記請求をすることが考えられる。Bは占有権原として賃貸借契約の承継を主張することが考えられる*。
    *占有権原ではなく対抗要件の抗弁によったという質問が複数あった。賃借人は一般に賃貸物件の譲渡について「第三者」=登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たると解されているので(佐久間毅『民法の基礎2 物権』68頁(有斐閣、2006))、法律構成としては誤っていない。ただ、事実1〜3では登記に関する事情が全く書かれていないので、期待されている解答とは異なるのではないかと思う。
  • 対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたとき、賃貸人たる地位は譲受人に移転する(民法605条の2第1項=譲受人の承諾が不要。譲受人の承諾がある場合は同条2項)。建物所有目的の土地賃借権については、地上建物の所有者が自己名義で登記したときは、対抗要件が備わる(借地借家法10条)。
  • 本件では、B名義で乙建物の保存登記がされている場合には、Bは明渡請求を拒絶できる。

 

CのBに対する賃料支払請求((2))

  • 賃貸人は賃料を請求できる(民法601条)。もっとも、同法605条の2第1項に基づく賃貸人たる地位の移転があった場合には、その者が自己が賃貸人となったことを賃貸人に対抗するには、賃貸物たる不動産について所有権移転登記をしなければならない(同条3項)。
  • 本件では、Cが甲土地の所有権移転登記をした場合には、賃料の支払いを請求できる。

 

EのCに対する丙建物収去甲土地明渡請求((3))

  • Cは所有権に基づく甲土地返還請求権として上記請求をすることが考えられる。Cは占有権原として法定地上権を主張することが考えられる。
  • 法定地上権は、土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至った場合に生じる(民法388条前段)。本件では、甲土地に抵当権が設定されたとき、甲土地上に乙建物が存在していたが、その後乙建物が消失し、丙建物が再築されているから、(抵当権設定時に)土地上に建物が存していたといえるかを検討する必要がある。
  • 再築の場合には、原則として法定地上権を成立させてよい(最判昭和52年10月11日民集31巻6号785頁。なお、再築された建物は堅固建物であったが、そのような再築が設定時に予測されていた事案)。土地についての抵当権設定時に建物が存在していた以上、抵当権者は法定地上権の成立を予測することができ、再築によって法定地上権が成立しないこととならないとしても、不測の損害を被ることはないからである。
  • もっとも、土地と地上建物の共同抵当の場合には、再築された建物が共同抵当に加えられた場合を除いて、法定地上権は成立しない(最判平成9年2月14日民集51巻2号375頁)。抵当権者は土地について法定地上権の負担を受ける一方、その法定地上権の価値を地上建物の価値に含めて把握していたのに、上記の場合に法定地上権が成立するとすれば、専ら土地について法定地上権の負担を受けることとなり、不測の損害を被ることとなるからである。
  • 【これ覚えてた人いるんですか!?】

 

民法 問題2

問題

Aは、食品を販売する事業を営む株式会社であり、Bは、建設業を営む株式会社であり、また、Cは、Bの従業者である。Aは、令和2年4月当時、隣り合って所在する甲建物および乙建物を所有していた。甲建物は、Aが事務所として用いてきたものであるが、老朽化が始まっている。乙建物は、Aが倉庫として使用してきた。

AとBとは、同月、AがBに対し甲建物の修繕をする仕事を注文し、この仕事についてAがBに対し報酬を支払う旨の契約を締結した。この契約においては、修繕の作業をする際の資材置き場および作業員の控室としてBが乙建物を使用することができる旨の特約がされ、この特約に基づき、同月、AはBに対し乙建物を引き渡した。

この請負契約に基づきBが甲建物の修繕を進めていた令和2年5月、甲建物の屋根で作業をしていたCは、その落ち度で工具を甲建物が接する公道に落とし、これに当たった通行人のDが負傷し、治療に要する費用など250万円の損害がDに生じた。

甲建物の修繕の作業は、令和2年7月、すべての工程を了した。しかし、AはBに対し、上記の請負契約に基づく報酬を支払っていない。

(1)AとBの請負契約において別段の合意がされていない場合において、Bは、Aに対し、いつから報酬の遅延損害金の支払いを請求することができるか。また、Bは、Aが報酬を支払うまで乙建物のAへの引渡しを拒むことができるか。

(2)Dは、工具の落下により負傷して被った損害の賠償をAに対して請求することができるか。Bに対しては、どうか。

(3)工具の落下による負傷に伴う損害の賠償としてDに対し250万円を支払ったBは、Cに対し、250万円の支払いを請求することができるか。

 

遅延損害金の発生時、引渡拒絶((1))

  • 遅延損害金の発生時
    • 遅延損害金の請求権は債務不履行に基づく損害賠償請求権の性質を有するから、遅延損害金は履行期から発生する(民法415条1項)。請負報酬の支払時期は、仕事が引渡しを要する場合には引渡し時(同法633条本文)、そうでない場合には仕事の終了時である(同条ただし書の準用する同法624条1項)。
    • 本件では、修繕工事自体は引渡しを要しないし、特約に基づき乙建物がBに引き渡されたのは資材置き場および従業員の控室として使用させるためであり、その返還は仕事を構成するものではないというべきであるから、結局、仕事は引渡しを要しないものであったというべきである。そうすると、Bがすべての工程を了した令和2年7月末が報酬の履行期であり、その時から遅延損害金が発生する。【普通に難しいのでは】
  • 引渡拒絶:同時履行の抗弁
    • 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(民法533条本文)。
    • 同時履行の抗弁は、対価関係にある債務どうしについては、そのような抗弁を認めることが、当事者の意思に適するとともに、公平な結果を生じることから認められたものである(中田裕康『契約法』146頁(有斐閣、2017))。ここから、同時履行の抗弁が認められるためには、相手方が履行を怠っている債務と、履行を拒絶しようとする債務が、対価関係にあるものと評価されるのでなければならない(中田・前掲149頁)。
    • 本件では、報酬支払債務と対価関係にあるのは仕事完成債務であり、乙建物引渡債務ではない。乙建物は仕事完成債務の履行の便宜のためにBに引き渡されたにすぎない。したがって、乙建物の引渡債務の履行を拒絶することはできない。【普通に難しかった】
    • ちなみに留置権を検討することも考えられるが、甲建物の修繕工事の報酬債権を「その物〔乙建物〕に関して生じた債権」(民法295条1項)と言うのは難しい気がする*。
      *商事留置権ならいけるんじゃないかと思って調べたら(点にはならなそうだけど)面白かったのでメモ:
      商事留置権については、牽連性が緩和されている。すなわち、「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。」(商法521条)。不動産が商事留置権の対象となるかについて議論があったが、最高裁はこれを認めた(最判平成29年12月14日民集71巻10号2184頁)。
      そして、会社がその事業としてする行為・その事業のためにする行為は商行為とみなされる(会社法5条。この「みなす」は推定の意味に解されている。最判平成20年2月22日民集62巻2号576頁)。会社の商人性について会社法は沈黙しているが(会社法の立案担当者が意図的にそうした)、自己の名をもって商行為をすることを業とする者として、商人に該当する(商法4条1項、前掲最判平成20年2月22日)。
      そうすると、AとBは会社だから商人であり、AB間の請負契約は、食品販売業者であるAにとってはその事業のためにする行為として、建設業者であるBにとってはその事業としてする行為として、双方のために商行為となる。そうすると、債権者Bは、債務者Aとの間における商行為たる請負契約によって自己の占有に属した債務者Aの所有物たる乙建物を留置できる。

 

DのAまたはBに対する損害賠償請求((2))

  • CはDに対して損害賠償債務を負担する。さらにAまたはBに対して請求するためには、使用者責任によることが考えられる*。
    *土地の工作物の占有者責任・所有者責任(民法717条)によったという質問が複数あったが、スパナを落としたことを工作物(建物)の設置・保存の瑕疵と評価することは困難であるように思う。
  • Bに対する請求
    • ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(民法715条1項本文)。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない(同条ただし書)。使用関係は、実質的な指揮監督関係があれば足りる(最判昭和42年11月9日民集21巻9号2336頁)。
    • CはBの従業者であったから、指揮監督関係が認められる(同法623条参照)。職務執行性は認められる。Bが相当の注意をしたまたは相当の注意をしても損害が生ずべきであった(因果関係がない)という事情はないから、免責されない。請求は認められる。
  • Aに対する請求
    • 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない(民法716条本文)。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない(同条ただし書)*。
      *なお、注文者は請負人と指揮監督関係にないから使用者責任の対象とならないし、固有の過失があった場合には固有の責任を負うことになるから、この規定は確認規定である(潮見佳男『基本講義 債権各論II 不法行為法 第3版』155頁(新世社、2017))。
    • AとBは請負関係にあったから、原則として賠償責任を負わない。AはCの使用について注文・指図をしていないから、それについても過失はない。請求は認められない。

 

BのCに対する求償請求((3))

  • 使用者責任の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない(民法715条3項)。もっとも、その額は、使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に限定される(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)。
  • 本件でこれらの事情は明らかではないが、250万円全額の支払いを請求できることはないと考えられる。

 

刑法 問題1

問題

  1. 甲は、失職後、ギャンブル等で負った多額の借金を返済するため、配偶者Aに対し、日常的に激しい暴行、脅迫を加えて風俗店で働かせるなどしていたが、Aの収入はわずかであり借金の完済には不十分であったことから、事故死に見せかけてAを自殺させて保険金を入手しようと考えるようになった。
  2. 令和元年12月1日、勤務先の店長から閉店を理由にAが解雇されたことを知った甲は、激怒し、Aの顔面を1回殴打して口腔内裂傷を負わせるなどしたうえで、「これ以上生きていても、毎日殴られるだけだから、死んだほうがよい」「自分で死ねば、お前は楽になるし、オレは保険金が入るから、お互い幸せだ」、「逃げても無駄だ。必ず探し出して殺すから」などと述べ、Aに車ごと海中に飛び込むよう命じた。
  3. 甲は、同じく借金返済に窮していた知人乙に事情を伝え、保険金の分け前を与えるとの約束で協力をとりつけ、同月2日午前2時過ぎ頃、乙とともに、Aを車に乗せて近くの漁港にいたり、運転席に乗車させたAに対し、「昨日行ったことを覚えているな」、「乙がお前を監視しているから、逃げられないぞ」などと申し向け、さらに、ドアをロックすること、窓を閉めること、シートベルトをすることなどを指示した上、車ごと海に飛び込むように命じ、乙にAの監視を依頼して、現場を離れた。
  4. 乙は、車のそばでAの様子を監視していたが、畏怖した様子のAから、「どうしても生き延びたい」、「どうせ私は死んだことになって保険金はあなたたちに支払われるのだから、どうか見逃して欲しい」などと懇願されて、かわいそうになり、脱出に備えて、予めシートベルトを外し、運転席ドアの窓ガラスを開けておくべきこと、付近の堤防で救助のために待機しておくからそこまで頑張って泳ぐこと等のアドバイスをAに伝え、車から離れた。
  5. それからまもなく、Aは、車を運転した漁港の岸壁上から海中に同車もろとも転落し、車が水没する前に、運転席ドアの窓から脱出したが、堤防からの乙の呼びかけを無視して、港内に停泊中の漁船に泳いで近づいたところで、運転を再開した同船のスクリューに服を巻き込まれ、そのまま溺死した。なお、本件現場の海は、当時、岸壁の上端から海面まで約2m、水深約4m、水温約10度という状況にあった。

甲および乙の罪責を論じなさい(特別法違反の点を除く)。

 

甲の罪責

  • 傷害罪(令和元年12月1日、殴打による口腔内裂傷)。
  • 殺人罪(同月2日、飛び込ませた行為)。
    • 実行行為:構成要件に該当し法益侵害の現実的危険性を有する行為。間接正犯=被利用者を一方的に利用・支配して特定の犯罪を自ら実現する意思で、被利用者を一方的に利用・支配し、被利用者の行為を通じて当該犯罪を実現する場合には、被利用者の行為は利用者の行為と同視できる。事実3の時点で実行行為あり(冬、深夜、ドアロック、窓を閉める、シートベルト。海面まで約2m、水深約4m、水温約10度)。
    • 結果:死亡した。
    • 因果関係:条件関係+危険の現実化。脱出と漁船に巻き込まれるという介在事情があるが、脱出はありうるし、それで深夜の漁港を泳げば漁船に巻き込まれることはありうるから、甲の行為に誘発されたものといえ(最判平成4年12月17日刑集46巻9号683頁[スキューバダイビング事件])、また、乙の呼びかけを無視して漁船に近づいたことは不合理であるようにも思われるが、パニック状態を考えると著しく不自然とは言えず(最判平成15年7月16日刑集57巻7号950頁[高速道路侵入事件])、危険の現実化あり。
    • 故意:内容は客観的構成要件要素該当事実の認識・認容。故意が要求されるのは、それによる反対動機形成可能性が行為者の非難可能性を基礎づけるから。そうすると、錯誤があっても対象事実が同一構成要件内(因果関係については条件関係+危険の現実化の範囲内)にとどまる限り故意を欠くとはいえない。本件でもそう*。
      *故意の判断に入っている(=因果関係判断をクリアしている)時点で、事実は条件関係+危険の現実化の範囲内に収まっているわけだから、法定的符合説を採用する限り、故意で切られることはありえない。
  • 詐欺罪:実行の着手なし

 

乙の罪責

  • 上記殺人罪の共同正犯。
  • 「一部実行の全部責任」を正当化するのは相互利用補充関係だから、「共同して犯罪を実行した」とは共謀+それに基づく実行(正犯意思は共謀の中で考慮する。独立の要件とすることもできる)。
  • 事実3の評価=共謀あり(=幇助ではない)。保険金の分け前を与えるとの約束がある。【甲は事実3で離脱しており、また、クロロホルム事件と違ってAに自らアクセルを踏ませることになっている(=勝手には進んでいかないが、Aは死にたくないと言っているから、監視して踏むよう圧力をかける必要性が大きい)ことからすると、乙の監視は重要であると言える。この時点でどこまでの共謀がなされていたのかよくわからないけど。】
  • もっとも、事実4における乙の行為から、甲の行為は乙との共謀に基づくものといえるのか検討する必要がある(=共犯関係の解消)。上記相互利用補充関係から、共謀がなされても、共謀との物理的因果性・心理的因果性が遮断される場合には、共謀に基づく実行とはいえなくなる。一般に、実行の着手前においては離脱意思の表明と残余者による了承で足り、実行の着手後においてはこれらに加えて積極的な結果防止措置が必要であると解されてきた。しかし、実行の着手前でも離脱者が重要な加功をしていた場合には積極的な結果防止措置が必要であると解されており、結局これらは因果性の遮断を判断するにあたっての考慮要素にすぎない(大塚裕史ほか『基本刑法I 総論[第2版]』389頁以下(日本評論社、2016))。
  • 事実4の評価=解消は認められない。心理的因果性:この時点で甲は既に現場を離れているから検討する必要はない。物理的因果性:アドバイスはしているが、冬の深夜の海(海面まで約2m、水深約4m、水温約10度)という時点で十分な危険性があるし、甲が現場を離れている以上、Aを降ろすことは容易であり、物理的因果性を除去するために(規範的に見て)十分な措置ではない。

 

刑法 問題2

問題

名誉毀損罪における「公然」性の意義について、具体例を挙げつつ、説明しなさい。

 

解答

  • Aは、Bがインサイダー取引を行っている旨を、Twitter上でツイートした。①公開で1200人のフォロワーがいるアカウントの場合(不特定・多数)、②公開だが10人(面識なし)しかフォロワーがいないアカウントの場合(不特定・少数。つらい…)、③非公開だが60人(面識あり)のフォロワーがいるアカウントの場合(特定・多数)、④非公開で10人(面識あり)しかフォロワーがいないアカウントの場合(特定・少数)。
  • 公然とは、事実の摘示が不特定又は多数の人が認識できる状態でなされることをいう(最判昭和36年10月13日刑集15巻9号1586頁)。抽象的危険犯であるから、現実の認識は必要ない。不特定とは相手方が特殊な関係によって限定された範囲に属する者でないことをいう。多数人とは、相当の多数でなければならない。
  • 判例によれば、事実の摘示を直接認識した者が特定かつ少数である場合でも、当該特定少数人から不特定または多数人に伝播するおそれがある場合には、公然性がある(最判昭和34年5月7日刑集13巻5号641頁)。しかし、このような解釈は、公然性によって処罰を限定した趣旨を没却するものであり、問題がある。不特定又は多数の人が直接に認識できる場合に限定すべきである。
  • そうすると、①〜③で名誉毀損が成立することには争いはない。④では判例によれば名誉毀損が成立し、自説によれば成立しない。

 

憲法

問題

A(男性)は窃盗被告事件の刑事被告人として、B拘置所に入所している。B拘置所は書店Cから郵送でA宛に5冊の書籍の送付を受けた(以下「本件書籍」という)。B拘置所職員が本件書籍の内容を確認したところ、男性同士の恋愛をテーマとする漫画を収録した雑誌であり、男性同士の性愛場面の露骨な描写を多数含んでいるが、成人用雑誌として一般書店やコンビニエンス・ストアでも広く販売されているものであることがわかった。しかし、B拘置所長Dは、次の2点の理由から、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項1号に基づいて、本件書籍の閲覧を禁止する旨の決定をした(以下「本件処分」という)。

(1)本件書籍に刺激されたAが拘禁に対する不満を増幅させて、拘置所職員や他の被収容者に対して粗暴行為等に出る蓋然性が認められること。また、Aの収容を単独室に変更したが、入浴・運動あるいはそのための移動の際、他の収容者と接する機会があり、本件書籍に刺激されたAが発作的にわいせつ行為等に及ぶ蓋然性が認められること。

(2)男性同士の性愛場面の描写や同性愛者を嫌悪する被収容者が一定数存在することが否定できないところ、そのような被収容者との間で紛争が生ずる蓋然性が認められること。

本件処分を不服として、Aは国家賠償請求訴訟を提起した。あなたはAの弁護士である。あなたが調べたところ、次の2点が明らかになった。

(3)Aは過去2回、刑事収容施設に収容されたことがあるが、いずれの場合も、他者に対して性的または暴力的行動や一般的行動において問題にある行動を犯したことはないこと。

(4)B拘置所では、異性間の性的描写が記載された書籍については、本件書籍と同等またはそれ以上の描写のある書籍であっても購入・差し入れが認められており、拘置所の貸与官本として貸与がされていること。

問1 Aの弁護士として、あなたはどのような憲法上の主張をするべきであろうか。

問2 問1で解答したAの弁護士の主張の当否について、あなた自身はどのように考えるか。

以上の2点について答えなさい。

 

解答

  • 三者間って時代遅れでは?三者間の弊害は司法試験委員会も認めるところなので、ストレートに書くことにする(模範解答を期待してた人はごめん)。
    • 平成30年司法試験公法系第1問採点実感「主張,反論,私見という構成を取る答案も一定程度見られたが,本問における問われ方に即していない。強引に主張,反論の構成を取っている答案は,極端な内容の記載や重複した記載をするなどして,肝心な具体的検討がおろそかとなっており,また,最終的に法律家としてどのような見解に立つのかの結論が非常に分かりにくいものとなっていた。」
  • よど号ハイジャック記事抹消事件(最判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)
    • 「本件において問題とされているのは、東京拘置所長のした本件新聞記事抹消処分による上告人らの新聞紙閲読の自由の制限が憲法に違反するかどうか、ということである。
      【権利の保障とその重要性】そこで検討するのに、およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法一九条の規定や、表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法一三条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。
      【監獄内の規律・秩序維持のための規制の必要性】しかしながら、このような閲読の自由は、生活のさまざまな場面にわたり、極めて広い範囲に及ぶものであつて、もとより上告人らの主張するようにその制限が絶対に許されないものとすることはできず、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受けることがあることもやむをえないものといわなければならない。そしてこのことは、閲読の対象が新聞紙である場合でも例外ではない。この見地に立つて考えると、本件におけるように、未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。
      【未決勾留の性質上広範な正当化は認められない】しかしながら、未決勾留は、前記刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。
      【正当化の基準】したがつて、右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。」
    • 【合憲限定解釈】ところで、監獄法三一条二項は、在監者に対する文書、図画の閲読の自由を制限することができる旨を定めるとともに、制限の具体的内容を命令に委任し、これに基づき監獄法施行規則八六条一項はその制限の要件を定め、更に所論の法務大臣訓令及び法務省矯正局長依命通達は、制限の範囲、方法を定めている。これらの規定を通覧すると、その文言上はかなりゆるやかな要件のもとで制限を可能としているようにみられるけれども、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、かつ、そう解することも可能であるから、右法令等は、憲法に違反するものではないとしてその効力を承認することができるというべきである。」
    • 「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。
      【裁量の認定】そして、具体的場合における前記法令等の適用にあたり、当該新聞紙、図書等の閲読を許すことによつて監獄内における規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存するかどうか、及びこれを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかについては、監獄内の実情に通暁し、直接その衝にあたる監獄の長による個個の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断にまつべき点が少なくないから、障害発生の相当の蓋然性があるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の右措置は適法として是認すべきものと解するのが相当である。
      【本件で裁量の逸脱・濫用は認められない】これを本件についてみると、前記事実関係、殊に本件新聞記事抹消処分当時までの間においていわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる東京拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が相当頻繁に行われていた状況に加えて、本件抹消処分に係る各新聞記事がいずれもいわゆる赤軍派学生によつて敢行された航空機乗つ取り事件に関するものであること等の事情に照らすと、東京拘置所長において、公安事件関係の被告人として拘禁されていた上告人らに対し本件各新聞記事の閲読を許した場合には、拘置所内の静穏が攪乱され、所内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるものとしたことには合理的な根拠があり、また、右の障害発生を防止するために必要であるとして右乗つ取り事件に関する各新聞記事の全部を原認定の期間抹消する措置をとつたことについても、当時の状況のもとにおいては、必要とされる制限の内容及び程度についての同所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用の違法があつたとすることはできないものというべきである。
      【結論】これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」
  • 現行規定:刑事収容施設法70条1項1号「刑事施設の長は、被収容者が自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる。」「一 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。」。旧法*(旧監獄法・旧監獄法施行規則)と異なり、原則と例外が逆転しているが、旧法下でも上記の合憲限定解釈がなされていたし、上記の合憲限定解釈は現行法にも妥当するから、実質的な変更はない。「民主主義社会における〜」のくだりは妥当しないが、自己実現は人格に関わることを強調すれば、審査基準を緩める必要はない。
    *旧監獄法31条1項「在監者文書、図画ノ閲読ヲ請フトキハ之ヲ許ス」/2項「文書、図画ノ閲読ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」/旧監獄法施行規則86条1項「文書図画ノ閲読ハ拘禁ノ目的ニ反セズ且ツ監獄ノ紀律ニ害ナキモノニ限リ之ヲ許ス」/2項「文書図画多数其他ノ事由ニ因リ監獄ノ取扱ニ著シク困難ヲ来タス虞アルトキハ其種類又ハ箇数ヲ制限スルコトヲ得」
  • 事実誤認
    • 一般にわいせつな書籍が被収容者の拘禁に対する不満を増幅させたり、発作的にわいせつ行為等をさせる(①)という根拠はない。本件においても、Aは過去においてそのような行動を起こしたことはない。したがって、そのような蓋然性が認められない。
    • 一般に、男性同士の性愛場面の描写や同性愛者を嫌悪する被収容者が存在し、かつ、そのような被収容者との間で紛争が生ずる(②)という根拠はない。本件でも、そのような事情は認められない。
    • したがって、本件処分は重要な事実の基礎を欠き、裁量の逸脱・濫用が認められ、違法である。
  • 判断過程の合理性
    • 仮に上記①、②の蓋然性が認められるとしても、B拘置所では、異性間の性愛描写が記載された書籍については、本件書籍と同等またはそれ以上の描写のある書籍であっても購入・差し入れが認められている。
    • 一般に、男性同士の性愛描写よりも異性間の性愛描写により強く刺激される者が多いと考えられる。そうすると、異性間の性愛描写を含む書籍の購入・差入れを認めているのに、同性間の性愛描写を含む書籍の閲覧を認めないことは、①の危険性を過大に評価するものである。
    • ②の嫌悪感情は、セクシャルマイノリティに対する不当な差別感情に出たものであるから、そこから②のような紛争が生じるとすれば、それは専ら当該被収容者を隔離、懲戒するなどして対処すべきものである*。そうすると、②の危険性を考慮することは、考慮すべきでないことを考慮するものである。
      *上尾市福祉会館事件(最判平成8年3月15日民集50巻3号549頁)の「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、前示のような公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである」というくだりに似ている?
    • したがって、本件処分は判断過程に合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くものとして、裁量の逸脱・濫用が認められ、違法である。
  • 【こういう書き方をすると、合憲限定解釈した段階で憲法の仕事は終わりで、それ以降は(合憲限定解釈された)行政法の問題になってしまう。それが「憲法上の主張」になっているのかよくわからない。神戸高専エホバの証人剣道受講拒否)事件は行政法スタイルで書かれているが、憲法判例として(も)扱われているし、許してほしい…】

 

民事訴訟

問題

 Xは、その所有する甲土地につき、YがXから購入したと主張して所有権移転登記を求めてきたことから、Yを被告として、(1)甲土地の所有権がXに属することを確認することを求める、(2)Yが主張する売買契約は不存在であることを確認することを求めるとの訴えを提起した(以下「前訴」という)。これに対し、Yは、(1)の訴えにつき、甲土地は自分からXから売買契約に基づいて所有権を取得した旨主張し、(2)の訴えは不適法であると主張した。

〔問1〕前記(2)の訴えの適法について解答せよ。

〔問2〕Xは、(2)の訴えを取り下げ、Yはこれに同意した。その後、前訴の受訴裁判所は証拠調べの上、Xの(1)の請求を認容する判決をし、この判決は確定した。その後、Yは、甲土地をXから売買契約により取得した旨、前訴と同じ事実関係を主張して、所有権に基づきYへの移転登記を求める訴えを提起した(以下「後訴」という)。この場合、後訴の受訴裁判所はどのような判決をすべきか解答せよ。なお、いわゆる争点効または信義則に基づく後訴の遮断の有無について検討する必要はない。

 

売買契約不存在確認の訴えの適法性(問1)

  • 訴えは、有限の司法資源を消費し、被告に応訴を強いるという負担を課すものであるから、訴えの利益が要求される。特に確認訴訟においては、理論的にはいかなる事項も訴訟の対象としうるから、スクリーニングの必要は大きい。
  • 確認の利益は、原告の有する権利・法律上の地位に危険または不安が存在し、この危険や不安を除去するために確認判決を得ることが有効かつ適切な場合に認められる(最判昭和30年12月26日民集9巻14号2082頁)。上記に当たるかの判断にあたっては、方法選択の適切性、対象選択の適切性、即時確定の必要性が考慮される。
  • 前訴はいずれもXY間で争われている甲土地所有権の帰属を確定させることを目的としている。所有権確認の訴え(前訴(1))は適法:所有権移転登記請求の訴えに対してなされる判決には、所有権の帰属についての既判力が生じないことから、方法選択の適切性が認められる。現在の自己の権利についての積極的確認であり、対象選択の適切性が認められる。XY間で甲土地所有権の帰属が争われているから、即時確定の必要性が認められる。
  • これに対して、売買契約不存在確認の訴え(前訴(2))は不適法:過去の法律行為の消極的確認を求めるものであり、また、甲土地所有権に関する紛争のほかに当該売買契約から紛争が生じているわけではないことからすると、対象選択の適切性が認められない。

 

後訴受訴裁判所がすべき判決(問2)

  • 前訴判決の既判力の内容
    • 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。「主文に包含するもの」とは判決主文中の判断、すなわち訴訟物に関する判断をいう。理由中の判断について拘束力を生じさせないことにより、弾力的な審理を可能とする趣旨である。
    • また、確定判決は、原則として当事者にのみその効力を有する(同法115条1項1号)。既判力による拘束は、原則として当事者として主張・立証の機会を与えられた者との関係でのみ正当化できるからである。
    • 本件前訴の訴訟物はXの甲土地所有権の存否であるから、請求認容判決の既判力は、XY間で、Xの甲土地所有権の存在について生じている。
  • 前訴判決の既判力の後訴への作用
    • 後訴の当事者はXYであるから、既判力が及ぶ。
    • 既判力が作用するのは、前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題である場合、前訴と後訴の訴訟物が矛盾する場合である。
    • 本件後訴の訴訟物は、Yの甲土地所有権に基づくXに対する移転登記請求権であり、Yの甲土地所有権を先決問題とする。Yの甲土地所有権について、前訴判決において既判力ある判断はなされていないが、既判力が生じているXの甲土地所有権とYの甲土地所有権は、実体法上の一物一権主義を介して矛盾関係にあり、Xの甲土地所有権が認められた以上、Yの甲土地所有権は認められないはずである。そうすると、本件後訴は、先決関係と矛盾関係の重畳類型として、既判力が作用する場面であるということができる。【単に矛盾関係と言ってもいいかも?】
  • 後訴における主張の遮断
    • 既判力は訴訟法上の拘束力であるから、後訴裁判所は前訴口頭弁論終結時にXが甲土地所有権を有していたという判断と矛盾する主張を却下しなければならない。Yは前訴と同じ事実関係を主張しているから、その主張は却下しなければならず、他にYが前訴口頭弁論終結後の所有権取得に係る事実を主張し、それが認められるのでない限り、請求棄却判決をしなければならない。

 

刑事訴訟法

問題

警察官Kらは、拳銃の密売の容疑で、暴力団関係者であるXに対し内偵捜査を進めていたが、Xが社長をしているY者において、関西方面から宅配便により拳銃を仕入れている疑いが生じた。令和2年8月10日、警察官Kらは、Y社の付近の宅配業者AのB営業所長及び宅配業者CのD営業所長に対し、Y社宛の荷物が届られた際には、警察に通報するよう協力を求めた。

同月15日、B営業所長及びD営業所長は、警察官Kらに対し、Y社宛に、関西方面から荷物が営業所に届いていること、その荷物の荷送人はZであることを通報した。同日、警察官Kらは、Zについて捜査したところ、関西在住の暴力団関係者であることが判明した。

警察官Kらは、同日、B営業所長及びD営業所長から、その荷物を借り受けた上、翌日の同月16日、E空港内の税関のエックス検査装置を用いて、その荷物のエックス線検査を行った。そして、B営業所長から提出を受けた荷物(荷物①)の内容物については回転弾倉式拳銃1丁の射影が観察された。

他方、D営業所長から提出を受けた荷物(荷物②)の内容物については、複数の長方形の物体の射影が観察されたが、それが具体的に何なのかは明らかでなかった。
荷物①および荷物②のエックス線検査の適法性について、論じなさい。

 

解答

  • 「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」(刑事訴訟法197条1項)。
  • 刑事訴訟法197条1項ただし書にいう強制処分は、法定主義・令状主義という厳格な規律に服するものであるから、それらの規律に服せしめる必要のある処分、すなわち、個人の意思を制圧し、身体住居、財産などの重要な権利に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する捜査手段をいうと解される(最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁、最判平成29年3月15日刑集71巻3号13頁)。
  • 判例は、事例判断として、「本件エックス線検査は、荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が、捜査目的を達成するため、荷送人や荷受人の承諾を得ることなしこれに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが、その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライパシ一等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。そして、本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって、検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法であるといわざるを得ない。」と判断したことがある(最決平成21年9月28日刑集63巻7号868頁)。
  • 本件でも同様に考えられる。宅配便の内容物についての荷送人等のプライバシーは、憲法13条・35条で保護されるものであり、また、宅配便の内容物は通常(運送人も含めて)第三者がうかがい知ることはできないものであることからその期待は強く、重要な権利である。
  • 運送過程下にある荷物のエックス線検査において、エックス線検査をする旨がプライバシーの帰属主体たる荷送人等に知らされることはないから、意思を制圧するもの(=合理的に推認される意思に反するもの)といえる。
  • なお、荷物①については、内容物が回転弾倉式拳銃1丁であることが明らかになっており、これに対して、荷物②については、内容物が具体的に何であるかが明らかになっていない。しかし、これは無令状で違法にエックス線検査をして分かったことだから、そのことが強制処分性を左右することはない。【ここは議論になった。ただ、このように解さなければ、警察官が令状請求すべきかを判断するための行為規範として機能しないから、このように解釈すべきである気がする。百選にもそれっぽいことが書いてある*。】
    *「強制処分たる検証といえる程度の捜査手段が行われたかを問題にするのであるから,実際にどのような侵害結果が生じたかは問題でない。…あくまで,当該行為がどの程度の侵害力を有していたかが問題である」(安村勉「判批」刑事訴訟法判例百選第10版63頁(2017))。