情報法の基本書等と使用法(2020年12月最終更新)

目次

 

分野の概要

情報法とは、一言で言えば、情報に関わる諸法であり、何か固有の原理を持つわけではありません(と言うと固有の原理を見出そうとしている先生たちに怒られそうですが…)。既存の法体系においては、全体として情報の規律が不十分であり、今まさに実務上問題が生じ、また、立法が展開しているところです。 

関係分野として、最低限、憲法行政法民法刑法を分かっておく必要があり、個別の問題を扱う際には、必要に応じて、刑事訴訟法(e.g. デジタルフォレンジック)、知的財産法(e.g. インターネット上の著作権侵害)、独占禁止法(e.g. 個人情報と優越的地位の濫用)、労働法(e.g. リモートワークとプライバシー)、医事法(e.g.感染症対策や医学研究とプライバシー)、金融法(e.g. Fintech)なども分かっておく必要があります(つまりほぼ全領域にまたがる)。

この分野は、実務が先行しており、文献は実務家によるものが多くなっていますが、この記事では、できる限り研究者によるもので、かつ、ある程度包括的なテーマのもとに執筆されている文献(≒実務家による文献を読む基礎知識になりそうなもの)を中心に紹介していきたいと思います。

なお、かくいう自分も、(情報法制学会会員のくせに)あまり勉強が追いついていないというのが正直なところで、この記事もざっと目を通しただけのものが多いです。それでも書くことにしたのは、どういう文献があるかを知ることができるだけでも意味があるという人も多いだろうと思ったためです。頑張って読み込みながらアップデートしていきたいと思います。

 

一般向け

おそろしいビッグデータ

ビッグデータやAIがなぜプライバシー・個人情報保護や民主主義の文脈で問題になるのかが分かる本。知られたくないものを知られないとか、コンピュータセキュリティの問題だと思っている人にぜひ。

(2020年12月最終更新)

 

AIの時代と法

AIの時代と法 (岩波新書)

AIの時代と法 (岩波新書)

 

社会の変化に法はどう対応すべきかといった、理念的なところを考える本(「AIの・時代と法」ではなく「AIの時代と・法」)。『おそろしいビッグデータ』より視野は広め。デジタル技術に揺らぐ法、AIとシェアリング・エコノミー、情報法の時代、法と契約と技術(いわゆる「コード」)、国家権力対プラットフォーム、法の前提と限界という6章構成。

(2020年12月最終更新)

 

プライバシーなんていらない!?

プライバシーなんていらない!?

プライバシーなんていらない!?

 

原題のNothing to Hide: The False Tradeoff between Privacy and Securityから分かるとおり、「やましいことがないのであれば、安全のために、あなたのプライバシーを開示するのは問題ないのでは?」という問いに対する応答と、プライバシーと安全保障(犯罪、戦争)がトレードオフだという考えは間違っているということを書いた本。アメリカ法を前提としていますが、日本の憲法(・刑事訴訟法)はアメリカ法が母法なので、わりと直接に参考になったり。

(2020年12月最終更新)

 

教科書っぽいもの

ある程度網羅的に既存の規制スキームを説明した上で、新たな問題を扱うという、教科書的なスタイルの本。

 

曽我部ほか・情報法概説

情報法概説 第2版

情報法概説 第2版

 

憲法(・情報法)の曽我部先生、経済法の林先生、民法(・知財?)の栗田先生による共著。少人数による共著であるため、共著者間のコミュニケーションを経ており、オムニバス的でないところがよいです。また、独禁法学者が共著者に加わっており、独禁法の観点からの検討があることも特徴的です(近時公取委はデジタル/プラットフォームの規律に熱心です)。現時点で情報法の一冊といえば本書、という文献だと思います。

(2020年6月最終更新)

 

小向・情報法入門

情報法入門【第5版】

情報法入門【第5版】

 

初代個人情報保護委員会委員長であり、日本の情報法のファウンディングファーザー(?)である堀部先生の弟子による入門書。先に紹介した『情報法』や、後に紹介する『情報法概説』と比較すると、インターネット法的な性格が強く、インターネットに慣れている人(という表現が意味を成さないほどインターネットは普遍化しつつありますが…)は本書から入るとよいかもしれません。

ちなみに、小向先生は現在は中央大学国際情報学部(堀部記念学部…?)教授ですが、長らく情報通信総合研究所(NTTグループシンクタンク)に在籍されており、情報法概説の端書きに出てくる「情報通信関係のシンクタンクの研究者」というのはたぶん小向先生のことです(笑)

(2020年6月最終更新)

 

宇賀=長谷部編・情報法

情報法

情報法

  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

情報法は、従来、表現の自由を具体化する(マス)メディア法として論じられてきました。本書はその系譜に連なるものです。オムニバス形式で、内容は放送・通信、行政情報、個人情報、電子商取引、知的財産法、刑法という感じ。さすがにちょっと古すぎるかもと思いつつ、わりと引用される気がするので紹介。

(2020年12月最終更新)

 

インターネット法

インターネット法

インターネット法

  • 発売日: 2015/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

宇賀=長谷部編『情報法』と同じようなコンセプト・スタイルの本。内容は、表現、電子商取引、刑法、知的財産法、個人情報保護法プロバイダ責任制限法、国際民訴という感じ。

(2020年12月最終更新)

 

今ある法を説明するもの(教科書っぽいもの以外)

これからを考えるというよりは、今の到達点を説明したもの。教科書っぽいものを除く。

 

法学教室479号 特集1「情報法というフロンティア」

法学教室 2020年 08 月号 [雑誌]

法学教室 2020年 08 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/07/28
  • メディア: 雑誌
 

情報法が学生向け雑誌のレベルまで降りてきた、おそらく初めての回。雑誌の特集にありがちなことにあんまり統一感はないですが、手軽に読めるので、時間のないLS生におすすめ。

なお、村田先生は情報法制学会第4回研究大会(2020年12月)に同様のテーマで報告をされており、その際のレジュメが次のページから閲覧できます:研究会等

(2020年12月最終更新)

 

新・判例ハンドブック情報法

新・判例ハンドブック 情報法 (新・判例ハンドブックシリーズ)

新・判例ハンドブック 情報法 (新・判例ハンドブックシリーズ)

  • 作者:宍戸 常寿
  • 発売日: 2018/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

こっちは宍戸先生が単独で編集した判例集。「情報に関わる法領域を横断的に捉え、価値や原理を統一的に把握しようとする意欲的な判例集」というコンセプト(新・判例ハンドブック情報法|日本評論社)。

百選と違うのは、次の2点です:一つは、228件の判例・裁判例を各1頁(サイズはアルマとかと同じ)で紹介しており、網羅性が高い一方、各判例・裁判例についての情報は少なくなっている点です。もう一つは、執筆者が厳選されており、情報法という観点からの最新の問題意識をバックに書かれている点です。

情報法は動きが早いので、既存の判例なんか勉強して何になるんだと思われるかもしれませんが、明日の法は今日の法の上に作られるわけで、本書でざっとそれを把握するというのは、これからの議論をする上でかなり効く気がします。

(2020年12月最終更新) 

 

メディア判例百選

メディア判例百選 第2版 (別冊ジュリスト241号)

メディア判例百選 第2版 (別冊ジュリスト241号)

  • 発売日: 2018/12/17
  • メディア: ムック
 

(このシリーズではみんな知ってる百選は紹介しない方針なのですが、本記事の扱う分野は比較的マイナーなので、一応紹介しておきます。)

誰も改訂されると思っていなかったメディア判例百選の2版。タイトルのとおり、初版以来のコンセプトは伝統的な「メディア法」なのですが、「情報法」の発展を意識してか、ある程度情報法的な(「それはメディア法ではなくない?」と思うような)判例も収録されています。

ただ、百選にありがちですが、解説の質はピンキリで、また、各分野の問題意識をバックに書かれており、メディア法あるいは情報法という観点で貫かれている感はあまりありません。

(2020年12月最終更新) 

 

岡村・個人情報保護法

個人情報保護法〔第3版〕

個人情報保護法〔第3版〕

  • 作者:岡村 久道
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 単行本
 

おそらく現時点で最も詳細な個人情報保護法の体系書。個人情報保護法の文言を解説した本はいくらでもあるのですが、本書が優れているのは、立法の経緯(現在の規律は、どういう選択肢の中から、どういう理由で選び取られたものなのか)が丁寧に書かれているというところにあります。

なお、岡村先生は日経文庫で入門書も書かれており、さっと読めるのでおすすめ:個人情報保護法の知識

(2020年12月最終更新)

 

概説GDPR

概説GDPR

概説GDPR

 

GDPREUGeneral Data Protection Regulation)についての、堀部門下のお二人による、堀部先生の「最善の書」とのお墨付きの概説書。

GDPRは、データの第三国移転について、十分性認定を要求しており(パーソナルデータ保護のための十分な措置を取っていない国には原則としてパーソナルデータを移転できない)、プライバシー・コミッショナーに相当する「個人情報保護委員会」の設置(特定個人情報保護委員会からの改組)、センシティブデータ規制に相当する「要配慮個人情報」規制の導入など、日本の個人情報保護法改正に大きな影響を与えていますし(データ保護主義EU帝国主義という批判もあるところですが)、日本企業であっても広範な域外適用により捕捉されることの多い規則*なので、重要です。

*規則Regulationとは、EUの法形式の一つで、指令Directiveと異なり(GDPRの前身のデータ保護指令(1995)はこれ)、加盟国だけでなくその国民(・法人)にも直接適用されます。

なお、そもそも超国家的統治体たるEUとはそもそもどんな仕組みなのか、ということについては次の文献がおすすめ:はじめてのEU法

著者の一人によるより詳細な文献として:石井夏生利・EUデータ保護法

(2020年12月最終更新)

 

 

これからの法を考えるもの

情報法は現在、様々な既存のディシプリンの専門家が、それぞれのディシプリンからアプローチするという段階にありますが、それを反映してか、基本的にオムニバスです(そして図らずもAIが多くなりました。それだけ関心が高まっています)。

 

ロボット・AIと法

ロボット・AIと法

ロボット・AIと法

  • 発売日: 2018/04/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

オムニバス。憲法行政法、民事法、刑事法、法哲学、知的財産法、競争法、国際法など。どちらかというと一般向けに書かれているので、入門書としてもいいかも。

(2020年12月最終更新)

 

AIと憲法

AIと憲法

AIと憲法

  • 発売日: 2018/08/25
  • メディア: 単行本
 

オムニバス。個人の尊重、平等原則、民主主義といった憲法的価値との関係を考えるというテーマを共有して書かれた本。

(2020年10月最終更新)

 

AIがつなげる社会

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

AIがつなげる社会--AIネットワーク時代の法・政策

  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

オムニバス。AI研究開発、競争政策、知財、プライバシー・個人情報・セキュリティ、民事・刑事責任、民主主義、個人・人格など。

(2020年12月最終更新)

 

アーキテクチャと法 

アーキテクチャと法―法学のアーキテクチュアルな転回?
 

オムニバス。アーキテクチャ(雑にまとめるとシステムの構造)が人々の行動をそれと意識させずにコントロールするという問題(「不可視的権力」)について考える本。

(2020年12月最終更新)

 

AIで変わる法と社会

AIで変わる法と社会――近未来を深く考えるために

AIで変わる法と社会――近未来を深く考えるために

  • 発売日: 2020/09/18
  • メディア: 単行本
 

オムニバス。法哲学者中心。自律、権力と自由、正義、法的判断といった根本的なものについて考える本。

(2020年12月最終更新)

 

ロボットと生きる社会

ロボットと生きる社会―法はAIとどう付き合う?

ロボットと生きる社会―法はAIとどう付き合う?

  • 発売日: 2018/01/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

鼎談本。編者2人+ゲスト(各テーマの専門家)。テーマ・アプローチは多様で、東ロボ君の新井先生や、何学者だかわからない森田先生(褒めている)、医事法の米村先生などがゲストとして招待されています。

(2020年12月最終更新)

 

AIと社会と法

AIと社会と法

AIと社会と法

 

論ジュリに連載された座談会のまとめ本。編者4人+個別のテーマの法律・技術それぞれの専門家。

(2020年12月最終更新)

 

自動運転と法

自動運転と法

自動運転と法

  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: 単行本
 

オムニバス。自動運転に特化し、自動運転の技術・法の現状(2年が経ってしまいましたが…)と外国法を紹介した上で、自動運転の民事責任・刑事責任・行政規制について考える本。

(2020年12月最終更新)

 

ロボット法

ロボット法 増補版

ロボット法 増補版

  • 作者:平野 晋
  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: 単行本
 

(このセクションで唯一の)単著。アシモフが示したロボット工学3原則(人間への安全性、命令への服従、自己防衛)を起点にAIについて考える本。 

(2020年12月最終更新) 

 

研究書