優越的地位の濫用の文脈

最近、知的財産、芸能人・スポーツ選手、デジタル・プラットフォームなどに関して優越的地位の濫用が問題になることが多いですが、そもそもそれはどのような規制なのか、最近の問題はそれとどう関係するのかについてのメモ。優越的地位の濫用と独禁法全体との関係も書こうと思ってたけど力尽きました。

  

目次

 

 

関係法令・ガイドライン

独禁法はどの分野もそうなのですが、業法と異なり横断的規制であることもあって、実体要件が抽象的なので、ガイドラインによって解釈を示すという運用がされています。ガイドラインは、処分基準としての性質を有します。)

 

優越的地位の濫用をするとどうなるのか

優越的地位の濫用の効果はシンプルです。すなわち、

です。なお、課徴金は、他の不公正な取引方法と異なり、「初犯」でも対象となる一方、継続して行う必要があり、また、原則的な算定率は売上金等の1%です(他の不公正な取引方法は3%、排除型私的独占は6%、不当な取引制限・支配型私的独占は10%)。

 

優越的地位の濫用とはなにか

優越的地位の濫用のイメージ

優越的地位の濫用というのは、こんなやつです↓

f:id:Haruwas:20200807170116p:plain

公正取引委員会:優越的地位の濫用〜知っておきたい取引ルール〜(「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」ガイドブック)

 

要件はあとで細かく見ますが、フレームワークだけまとめると、

  • 取引上優越的地位にある事業者(例えば大企業と下請け中小企業の取引における大企業)が、
  • 正常な商慣習に照らして不当に、
  • 法律に規定される一定の行為(例えば購入強制、協賛金等の負担の強制、受領拒否など)を行うこと

ということになります。

 

優越的地位の濫用の条文

優越的地位の濫用は、独禁法の4つの規制(不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法、企業結合規制)のうち、不公正な取引方法の一つとして位置づけられています。

19条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
2条9項 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること(購入強制)。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること(利益供与強制)。
ハ ①取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み(受領拒否)、②取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ(返品)、③取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ(支払遅延・減額)、④その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること(その他の不利益な取引条件の設定等)。
(丸付き番号は引用者)

なお、不公正な取引方法については、法定類型と指定類型がありますが、優越的地位の濫用はすべて法定類型です

便宜上、優越的地位要件→行為要件→不当性=公正競争阻害性という順番で見ていきます。

 

要件1:優越的地位

独禁法2条9項柱書の「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」の内容について、優越ガイドラインは、次のように説明しています。

取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。

要すれば、取引を継続しなければならない事情があるということです。個人情報優越ガイドラインでは端的に「取引することの必要性」というフレーズが出てきます。

 

要件2:行為要件

先に条文で見たとおり、購入強制利益供与強制(協賛金等の負担の要請、従業員等の派遣の要請等)、受領拒否返品支払遅延減額その他の不利益な取引条件の設定等(取引対価の一方的決定、やり直しの要請等)が規定されています(かっこ内は優越ガイドラインが挙げる例。さらに詳しくは優越ガイドライン参照)。

ただ、最後の「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること」が極めて広いので、基本的に不利益性さえ満たせばここに入ります(教科書を読んでください)。

「取引」に無償のサービス(SNS等)が含まれるのか*、また、「相手方」に消費者が含まれるのか**(事業者に限定されないのか)については、従来明らかでありませんでした。しかし、公正取引委員会は、個人情報優越ガイドラインによって、いずれも含まれるという解釈を明らかにしました。

*「消費者が,デジタル・プラットフォーム事業者が提供するサービスを利用する際に,その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然,消費者はデジタル・プラットフォーム事業者の「取引の相手方(取引する相手方)」に該当する。」。正確には無償のサービスの提供を「取引」と認めたというより、SNS等の利用が個人情報等を対価とする有償の「取引」であることを認めたものといえます。

**(後述の不当性=公正競争阻害性の中身についての記述を前提に)優越的地位の濫用規制の趣旨を行為者の競争者との関係における有利・相手方の競争者との関係における不利とする場合、法文上限定はないものの、解釈上事業者に限定するのが素直であるようにも思われ、また、実際に公正取引委員会は専ら事業者間を想定してきていました(消費者は競争しない)。しかし、公正取引委員会は、個人情報優越的地位の濫用ガイドラインで、消費者もここに含まれることを明らかにしました。

 

要件3:不当性=公正競争阻害性

独禁法2条9項柱書の「正常な商慣習に照らして不当に」とは何でしょうか。すごく行政法らしいなと思うところなのですが、1条にヒントがあります。

この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

ここから、公正な競争を阻害するおそれがあること(公正競争阻害性)と解釈されています。

優越的地位の濫用の実体要件は、優越的地位、行為要件、不当性(公正競争阻害性)からなっていることは先に述べたとおりですが、優越的地位は当事者の交渉力が非対称である場面に適用を限定する機能を持ちますが、それだけでは例えば下請取引は基本的にはすべてここに含まれたままであり、当然そこには正常な取引も含まれます。また、行為要件は実質的に限定の意味を持たないことは、先に述べたとおりです。例えば購入強制、協賛金等の負担の強制、受領拒否のような具体的に書かれた行為ですら、不当という評価を抜き去った場合、単なる売買契約の締結、贈与契約の締結、受領遅滞であり、正常な取引においても生じうる交渉の結果やトラブルとの区別がつきません。そうすると、決定的に重要なのは公正競争阻害性だということになります。

 

さて、公正競争阻害性といっても、やはり曖昧です。その中身について、公正取引委員会は、次のように説明しています(優越ガイドライン第1,1)。

「①当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,②当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがある」

これに対して、学説上は、そのような説明は迂遠であり、また、EU競争法の搾取型濫用規制との整合性も意識して、端的に行為者が強い地位を有する狭い市場を画定した上で、そこにおける搾取だからと考えればよいという批判があります*。

*経済法(独占禁止法)の基本書、演習書等と使用法で紹介した白石・独禁法講義9版の198頁以下。

 

最近公正取引委員会が取り組んでいること

知的財産

知的財産は、独禁法全般にわたって様々な問題と関係しており(パテントプール、クロスライセンス、WindowsOEM販売におけるライセンス契約における非係争条項、JASRAC事件など)、知的財産ガイドラインに解釈がまとめられていますが、優越的地位の濫用は含まれていません。

ただ、現在公正取引委員会は「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」を行っており(他の例については報告書本体を参照。(令和2年6月30日)スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(中間報告):公正取引委員会)、例えば次のような事例が取り上げられています。

  • NDA契約(秘密保持契約)に係るものNDAに反して,自社の重要な資料を取引先が他社に開示することがあり,中には,アルゴリズムの組合せを開示することもあった;秘密保持期間が短く設定され,秘密保持期間後すぐに取引先にスタートアップ側の秘密情報が使われてしまうことや,スタートアップ側だけが秘密情報を開示するなど大企業が一方的に有利な条項があった。
  • PoC契約(技術検証契約)に係るもの:当初契約していた範囲を超えて,追加の作業を求められ,実施したにもかかわらず,その追加の作業について,契約書が提示されず,最終的には対価も支払われなかった;PoC後の契約の締結をほのめかされ,無償でPoCを行っていたにもかかわらず,その後の契約を結んでもらえなかった。
  • 共同研究契約に係るもの:自社の技術が詰まった製品の製作を大企業に依頼したところ,その技術に関連する特許を無断で特許出願された;共同研究契約において,主に自社のノウハウを用いて新たに生み出された発明等であっても,大企業に帰属する条件になっているが,その他の取引があるため,強く言えない立場に追い込まれている。共同開発で顧客に提案するという形で,報酬をもらう約束だったが,もらえずに開発だけ行った。
  • ライセンス契約に係るもの:契約時に製造や販売に関して,不利益を被るような独占契約を結ぶように,何度もしつこく迫られた;ライセンスの無償提供を求められそうになっている。

 

また、昨年の「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査」では、次のような事例が取り上げられています(それぞれの例については報告書本体を参照。30例が掲載されています。(令和元年6月14日)製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書の公表について:公正取引委員会)。

  • 秘密保持契約・目的外使用禁止契約無しでの取引を強要される
  • 秘密としている技術資料等を開示させられる
  • 発注内容にない金型設計図面等を無償で提供させられる
  • ノウハウが含まれる設計図面等を買いたたかれる
  • 無償の技術指導・試作品製造等を強要される
  • 著しく均衡を失した名ばかりの共同研究開発契約の締結を強いられる
  • 出願に干渉される
  • 知的財産権の無償譲渡・無償ライセンス等を強要される
  • 知財訴訟等のリスクを転嫁される

 

芸能人・スポーツ選手

公正取引委員会の研究機関である競争政策研究センターは、「人材と競争政策に関する検討会」を設置し、一昨年、その報告書を公表しました((平成30年2月15日)「人材と競争政策に関する検討会」報告書について:公正取引委員会)。

報告書は、いわゆるフリーランスの人々(システムエンジニアプログラマーIT技術者,記者,編集者,ライター,アニメーター,デザイナー,コンサルタントなど)を主たる対象とし、「人材獲得市場」におけるルールを検討したものですが、その中で、芸能人・スポーツ選手の移籍の問題について取り上げており、これが(その後公正取引委員会SMAP独立の際にジャニーズ事務所を非公式に「注意」したこともあって)関係業界にに大きな影響を与えました。報告書自体は膨大なので(47頁ある)、関係部分を引用しておきます。

 

移籍制限について移籍制限の反競争性について指摘した上で

移籍・転職に係る取決めについて,例えば,移籍・転職をする役務提供者〔注:芸能人、スポーツ選手〕に対してそれまで発注者(使用者)〔注:芸能事務所、スポーツチーム〕が一定の費用をかけて育成を行っており,その育成に要した費用を回収する目的で行われているとの主張がある。

育成費用を回収することが育成のインセンティブにつながり,それが競争促進効果をもたらすことがあるとしても,それが人材獲得市場にもたらす競争阻害効果を上回るものであるのか,ということを考慮する必要がある。さらに,回収する必要があるとされる育成費用の水準は適切か,また,取決めの内容はその水準に相当する範囲にとどまっているのか移籍・転職を制限する以外に育成費用を回収するよりも〔注:ための?〕より競争制限的でない他の手段は存在しないのか,といった内容,手段の相当性の有無も併せて考慮の上で問題となるかどうかが判断される。このとき,複数の発注者(使用者)が共同で移籍・転職を制限する取決めをする場合,通常,育成費用の回収という目的を達成する手段として他に適切な手段が存在しないということはないものと考えられる。

 

「育成費用を回収するためのより競争制限的でない他の手段」について

他の手段として,移籍・転職先の発注者(使用者)が,移籍・転職元の発注者(使用者)に対して一定の金銭(移籍金等)を支払うという手段がある。この場合であっても,例えば,金銭の水準が回収すべき育成費用の水準に相当しているのか,などの手段の相当性についての検討は別途必要である。

 

専属契約について

優越的地位の濫用の観点…からも問題となり得る。専属義務は,役務提供者が他の発注者に対して役務を提供する機会を失わせている点において,役務提供者に不利益をもたらしている。したがって,役務提供者に対して取引上の地位が優越していると認められる発注者が課す専属義務が,役務提供者に対して不当に不利益を与えるものである場合には,独占禁止法上の問題となり得る。

不当に不利益を与えるものか否かは,これら義務の内容や期間が目的に照らして過大であるか*,役務提供者に与える不利益の程度,代償措置の有無及びその水準,これら義務を課すに際してあらかじめ取引の相手方と十分な協議が行われたか等の決定方法,他の取引の相手方の条件と比べて差別的であるかどうか,通常の専属義務との乖離の状況等を考慮した上で判断される。

 

*の箇所に付された注の中で

例えば,芸能事務所やクラブチームが特定の者と一定期間の専属契約を締結し,その者の市場における価値の創造・拡大に資する(例えば,新人芸能人や新人選手の育成)とともに,その芸能人や選手の肖像等を芸能事務所等や本人以外の第三者が利用する取引の円滑化を図る場合があるが…,そのような事情の有無も含めて考慮した上で判断される。育成費用の回収を目的とする場合の具体的な考え方は,…育成費用を回収する目的である場合と同じである。

一方,契約期間が終了しても,既存の提供先である発注者の一方的な判断により専属義務を含む役務提供に係る契約を再度締結して役務提供を継続させる行為が,芸能事務所と芸能人の間の契約において行われる場合がある。芸能事務所と芸能人の間の契約が一度終了した後も,芸能事務所と第三者の間の当該芸能人についての契約が継続していることを理由に行われる場合,その必要性の有無も含めて考慮した上で判断される。  

 

「その芸能人や選手の肖像等を芸能事務所等や本人以外の第三者が利用する取引の円滑化を図る場合」について

例えば,芸能人やスポーツ選手の肖像等の利用を希望する者に対する許諾をその権利を保有する各芸能人やスポーツ選手がそれぞれ行うのではなく,芸能事務所に所属する芸能人・クラブチームに所属するスポーツ選手の肖像等の独占的な利用を許諾させること等を通じて,肖像等の許諾に関する権利処理を集中的に処理することで,権利に関する処理の迅速化・利用の活性化を図り,ひいては芸能人・スポーツ選手自身にとっても利益となる場合,そのような事情の有無も含めて考慮した上で判断される。

 

ちなみに、肖像権等の管理についての事務所と芸能人の潜在的利益相反については芸能人のパブリシティ権と芸能プロダクションの訴訟担当(それ自体が優越的地位の濫用になりうるほか、民事訴訟の任意的訴訟担当の可否に影響します)。

あと、移籍問題については佐藤大和弁護士の説明が分かりやすかったです(芸能人の移籍金問題について弁護士が解説① - YouTube。移籍問題について話す際に見ました)。

 

デジタル・プラットフォームと個人情報等

公正取引委員会は、個人情報優越ガイドライン(令和元年12月17日公表)において、デジタル・プラットフォーム事業者*による個人情報等**の不正な取得・不当な利用について、優越的地位の濫用規制を及ぼしていくことを明らかにしました。

*「デジタル・プラットフォーム」とは、「情報通信技術やデータを活用して第三者オンラインのサービスの「場」を提供し,そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成し,いわゆる間接ネットワーク効果が働くという特徴を有するもの」とされています(デジタルプラットフォーム透明化法における定義とは異なります)。「間接ネットワーク効果」については、「多面市場において,一方の市場におけるサービスにおいて利用者が増えれば増えるほど,他方の市場におけるサービスの効用が高まる効果をいう。」とされています(これは本ガイドラインに特有のものではなく、一般的な定義です)。例えばFacebookは利用者と広告主という2つの市場を形成しており、利用者が増えれば増えるほど広告主にとってもFacebookで広告を出すことが魅力的になるという構造にあります。

**「個人情報等」とは、「個人情報」(個人情報保護法2条1項)と「個人情報以外の個人に関する情報」を合わせたものとして定義されています。公正取引委員会は、後者の例として、「ウェブサイトの閲覧情報,携帯端末の位置情報等」を挙げています。ガイドラインにあるとおり、「このような情報であっても,他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができる場合は,個人情報となる」ので、容易照合性がない場合に限られるものと思われます。

 

個人情報等の不正な取得が優越的地位の濫用となる例として、次のようなものが挙げられています。

  • 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること…デジタル・プラットフォーム事業者A社が,個人情報を取得するに当たり,その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく,消費者の個人情報を取得した。
  • 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること…デジタル・プラットフォーム事業者B社が,個人情報を取得するに当たり,その利用目的を「商品の販売」と特定して消費者に示していたところ,商品の販売に必要な範囲を超えて,消費者の性別・職業に関する情報を,消費者の同意を得ることなく取得した。
  • 個人データ*の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を取得すること…デジタル・プラットフォーム事業者C社が,個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,サービスを利用させ,消費者の個人情報を取得した。
  • 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して,消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に,個人情報等その他の経済上の利益を提供させること…デジタル・プラットフォーム事業者D社が,提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に,追加的に個人情報等を提供させた。

*「個人データ」とは、「個人情報データベース等」を構成する「個人情報」をいいます(個人情報保護法2条6項)。「個人情報データベース等」とは、「個人情報」を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいいます(同条4項。政令による修正あり)。

 

個人情報等の不当な利用が優越的地位の濫用となる例として、次のようなものが挙げられています。

  • 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を利用すること…デジタル・プラットフォーム事業者E社が,利用目的を「商品の販売」と特定し,当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく「ターゲティング広告」に利用した;デジタル・プラットフォーム事業者F社が,サービスを利用する消費者から取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく第三者に提供した。
  • 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を利用すること…デジタル・プラットフォーム事業者G社が,個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,サービスを利用させ,個人情報を利用した。

何でもありかよという感じがしてきますね。

 

コンビニ(2020年9月11日追加)

あなたから100メートル以内にコンビニが何店舗かあるとき、セブンイレブンとローソンであれば商品の好みで選ぶでしょうが、セブンイレブンセブンイレブンであれば、店舗サイズが全く違うといった事情がない限り、近いほうを選ぶのが通常でしょう。

このような選択が合理的であるのは、コンビニがフランチャイズによって構築されているからです。コンビニ(例えばセブンイレブン)は、本来各店舗が独立の事業者ですが、その全てが本部(例えばセブン-イレブン・ジャパン)とフランチャイズ契約を締結し、ブランド名(例えば「セブン-イレブン」)の使用の許諾を受け、ノウハウを開示され、商品の納入を受けています。そのため、顧客からはほとんど一つの事業者であるように見えています。

このようなビジネスモデルには、フランチャイザーにとっては、リスクを抑えながらブランドを広めることができ、フランチャイジーにとっては、既存のブランドの信用力を利用できたり、様々な経営上の試行錯誤をショートカットできるというメリットがあります。一方で、フランチャイジーはその事業を全面的にフランチャイザーに依存することになるため、搾取が起きやすい構造であるといえます。

 

フランチャイズガイドライン

フランチャイズ契約については、ガイドラインが公表されています。ガイドラインは様々な内容を含んでいますが、優越的地位の濫用については、次のような行為がそれに該当する旨述べています。

  • 取引先の制限…本部が加盟者に対して、商品、原材料等の注文先や加盟者の店舗の清掃、内外装工事等の依頼先について、正当な理由がないのに、本部又は本部の指定する事業者とのみ取引させることにより、良質廉価で商品又は役務を提供する他の事業者と取引させないようにすること。
  • 仕入数量の強制…本部が加盟者に対して、加盟者の販売する商品又は使用する原材料について、返品が認められないにもかかわらず、実際の販売に必要な範囲を超えて、本部が仕入数量を指示し、当該数量を仕入れることを余儀なくさせること。
  • 見切り販売の制限…廃棄ロス原価を含む売上総利益がロイヤルティの算定の基準となる場合において、本部が加盟者に対して、正当な理由がないのに、品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し、売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせること。
  • フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更…当初のフランチャイズ契約に規定されていない新規事業の導入によって、加盟者が得られる利益の範囲を超える費用を負担することとなるにもかかわらず、本部が、新規事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆し、加盟者に対して新規事業の導入を余儀なくさせること。
  • 契約終了後の競業禁止…本部が加盟者に対して、特定地域で成立している本部の商権の維持、本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと。

さらに、「フランチャイズ契約全体としてみて本部の取引方法が同項に該当すると認められる場合がある」とし(!)、上記の条項以外の考慮事情として、次のものを挙げています。

  • 取扱商品の制限、販売方法の制限については、本部の統一ブランド・イメージを維持するために必要な範囲を超えて、一律に(細部に至るまで)統制を加えていないか。
  • 一定の売上高の達成については、それが義務的であり、市場の実情を無視して過大なものになっていないか、また、その代金を一方的に徴収していないか。
  • 加盟者に契約の解約権を与えず、又は解約の場合高額の違約金を課していないか。
  • 契約期間については、加盟者が投資を回収するに足る期間を著しく超えたものになっていないか。あるいは、投資を回収するに足る期間を著しく下回っていないか。

 

見切り販売の禁止

かつてセブン-イレブン・ジャパンは、見切り販売(例えば弁当を夕方6時以降値下げ販売する行為)を禁止していました。セブン-イレブン・ジャパンとしては、ブランディングの一環として行っているわけですが、オーナーとしては売れなかったものは廃棄せざるをえないので、できれば見切り販売をしたいと考えるところです。

この問題について、2009年、公正取引委員会セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令を発しました。

株式会社セブン-イレブン・ジャパンは,見切り販売*…を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,もって,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為を取りやめなければならない。
公取委平成21年6月22日排除措置命令主文第1項)

*「見切り販売」は、①株式会社セブン-イレブン・ジャパンが加盟者の経営するコンビニエンスストアで販売することを推奨する商品のうち、品質が劣化しやすい食品及び飲料であって、原則として毎日店舗に納品されるもの(「デイリー商品」)で、②株式会社セブン-イレブン・ジャパンが独自の基準により定める販売期限が迫っている商品について、③それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為、と定義されています。

主文が述べるとおり、「廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する」ために見切り販売をするかどうかは、加盟者(オーナー、フランチャイジー)が「自らの合理的な経営判断」によって行うべきだという考え方が前提にあり、そのような判断を制約することが問題とされています。

 

24時間営業・ドミナント出店

公正取引委員会は、今月(追記時:2020年9月)、「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書」を公表し、その中で、24時間営業・ドミナント出店*が優越的地位の濫用となりうるとの解釈を示しました((令和2年9月2日)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について:公正取引委員会)。

*チェーンの認知度の向上や物流の効率化等を目的として一定のエリアに集中して出店を行う出店方法(報告書の定義)。

 

(年中無休・)24時間営業について

年中無休・24時間営業を行うことに顧客のニーズがある場合もあり,これを条件としてフランチャイズ契約を締結することについては,第三者に対するチェーンの統一イメージを確保する等の目的で行われており,加盟者募集の段階で十分な説明がなされている場合には,直ちに独占禁止法上問題となるわけではない。

しかしながら,…本部と加盟店とで合意すれば時短営業への移行が認められることになっているにもかかわらず,本部がその地位を利用して協議を一方的に拒絶し,加盟者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。

 

ドミナント出店について

一般論として,本部がどのような場所に新しい店舗を出店するかは原則として自由であり(テリトリー権が設定されている場合を除く。),既に加盟者が出店している店舗の周辺に,新たに店舗を出店すること自体は,直ちに独占禁止法上の問題となるものではない。

しかしながら,…加盟契約において加盟者にテリトリー権が設定されているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,テリトリー圏内に同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が自ら又は他の加盟者に営業させることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には優越的地位の濫用に該当し得る。

また,加盟契約において周辺地域への出店時には本部が「配慮する」と定めた上で,加盟前の説明において,何らかの支援を行うことや一定の圏内には出店しないと約束しているにもかかわらず,本部がその地位を利用してこれを反故にし,一切の支援等を行わなかったり,一方的な出店を行ったりすることにより,加盟者に対して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合にも優越的地位の濫用に該当し得る。

 

24時間営業が社会的に問題とされていたため、広く話題になっていたように思いますが、その割には労働法的な手続規制という感じで、それほど強い規制ではないように思います(話題になれば公正取引委員会としては目的をある程度達成できたようなもの、という側面もありそうですが)。

なお、24時間営業・ドミナント出店のいずれについても優越的地位の濫用だけではなく、欺瞞的顧客誘引との関係でも問題になるとの解釈が示されているのですが、この記事とは関係がないので省略します(今週のメモ(2020.8.30-9.5))。

 

公正取引委員会以外による執行(2020年9月11日追加)

優越的地位の濫用は、先に述べたとおり、不公正な取引方法の一類型であり、差止請求の対象となります。

24条 …第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者…又は侵害するおそれがある事業者…に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

認容率は高くないようであり、まだ広まっているとは言えませんが、以下に事例を紹介するように、これから広まりそうな感じになっています。アメリカでは割とある話のようで、Epic Games v. Appleの事件も、独禁法と同じ競争法であるシャーマン法違反の行為により被害を受けたと主張する私人が、裁判所に当該行為の中止命令を求めるもので*、構図は同じです。

*Appleは、ユーザー保護を理由に、①App Store経由以外でアプリをインストールすることができないようにしており、かつ、②App Storeで配布されるアプリに独自の(=Appleの課金システム以外の)課金システムを導入することを禁止しています。また、③Appleの課金システムでは、30%の手数料が課されています。Epic Gamesは、③が暴利であり、Appleが交渉に応じなかったとして、②に違反してFortniteに独自の課金システムを導入しました。これに対して、Appleは、Epic GamesのアプリをApp Storeから削除しました。そこで、Epic Gamesがその差止めを求めたのが当該事件です。

カルテルや企業結合による競争制限は、被害が薄く広く生じるので(拡散的)、まさに公正取引委員会が対処すべきものですが、不公正な取引方法や私的独占(たいてい不公正な取引方法として構成しなおすことができる)は被害が狭く厚く生じやすいので(集中的)、小規模庁である公正取引委員会としては優先順位が下がらざるをえず、一方、裁判所による救済が有力な救済となるように思います。

 

押し紙

新聞は、新聞社が印刷し、販売店(別の事業者)が売っています。個別に売れることはほとんどないので、販売店としては定期購読契約者数分だけ仕入れればよいわけですが、新聞社はそれを大きく上回る「予備紙」あるいは「押し紙」を納品し、代金を請求するということをしています。

近時そのような行為について差止請求・損害賠償請求訴訟が提起される例が現れており、特に今年5月、佐賀地裁が差止請求と約1070万円の損害賠償請求を認容する判決をしたため注目されました。

 新聞販売店の元店主が佐賀新聞社を訴えていた「押し紙」裁判で、佐賀地裁は5月15日、新聞社に1000万円あまり支払うよう命じた。原告は佐賀県吉野ヶ里売店の元店主。押し紙によって経営難となり、2015年末に廃業に追い込まれたとして、2016年7月に提訴。損害賠償や逸失利益など約1億1500万円を求めていた。
 裁判で佐賀新聞は「合意のうえで販売目標を設定していて、部数を減らす具体的な申し出もなかった」などと主張していた。しかし、判決で裁判長は「仕入れの基準となる各販売店の年間販売目標の設定に被告の指示があった」などとして佐賀新聞独占禁止法違反を認めた。さらに、裁判長は「独占禁止法に違反し、購読料を得られない数百部を仕入れさせた」として、押し紙の事実をほぼ認めた。訴状などによると、吉野ヶ里売店では当時、本来2500部弱あれば済むところ、最大で日に500部を超える余分な新聞の仕入れを強制されたという。
 佐賀地裁が認めた独禁法違反というのは、独占禁止法2条の「優越的地位の濫用」のことだ。新聞社は立場の弱い販売店に対して不公平な取引(新聞の仕入れ)を強制していたということである。
新聞社「押し紙」訴訟、販売店勝訴の画期的判決…業界の発行部数“水増し”が浮き彫り

判決文がデータベースに上がっていなかったので報道ベースの推測ですが、セブン-イレブン・ジャパン排除措置命令と同じような構成で優越的地位の濫用となるとしたものではないかと思います*。

*押し紙独禁法2条9項6号ホの委任に基づく新聞業特殊指定3項1号(後掲)で禁止されているので、上記のような構成を取らなくても不公正な取引方法だとは言える気がしますが(そして差止請求の対象は不公正な取引方法なのでそれで十分)、法2条9項6号ホは「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。」であり、優越的地位の濫用に限定していないので(優越的地位の濫用は取引上の地位の不当利用の一類型)、その委任に基づく新聞業特殊指定3項1号に違反しても「優越的地位の濫用」とは呼ばない気がします。
新聞業特殊指定3項「発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。」「一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。」(新聞業における特定の不公正な取引方法(平成十一年七月二十一日公正取引委員会告示第九号:公正取引委員会

 

ソフトバンクショップの強制閉店

ソフトバンクは、代理店の運営するショップについて、次のような「強制閉店」制度を導入しているようです。

ソフトバンクは代理店が運営する各ショップをさまざまなサービスや商材の販売成績によって採点したうえで、相対評価で店舗をS、A、B、C、Dの5段階にランク分けしている。
この店舗評価は毎月ある。6カ月間でD評価を3回取ると「低評価店舗」となり、一定の閉店準備期間を置いた後に強制的に代理店契約を解除する措置が取られる。C評価は2回でD評価1回分とカウントされる。
なお、店舗評価のほかに、運営する全店舗の成績などから決まる代理店へのオーナー評価もある。こちらは四半期ごとに1回で、店舗評価と同様にS~Dの5段階評価だ。2期連続でD評価を取ると全店舗の経営権を事実上、剥奪される。
ソフトバンク「携帯ショップ法廷闘争」の激震 | 通信 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

この「強制閉店」制度の対象とされた店舗の運営者が、今年、差止めの仮処分を申し立てているようです(上記記事)。

IFC(注:代理店)は東京都内にソフトバンクショップを3店舗持つが、うち2店舗は2020年1月、ソフトバンクから今夏までに「強制閉店」させることを通告された。同社はこれを不当として6月、東京地方裁判所に閉店処分の差し止めを申し立てた。

この事案では、「強制閉店」制度は、ショップ開店当時からあったものではなく、「150ページ前後にも及ぶ大量の文書を毎月送付し、施策方針を一方的に伝達している」ところ、この文書によって事後的に導入されたもののようです。

ソフトバンクによれば「契約書の解除条件の『不振』について具体化したにすぎない」ようですが、そもそもそう言えるのか、それは契約の内容を構成するのか(定型約款の変更の要件としての合理性とも関係するように思います)、一方的な交渉経緯が優越的地位の濫用にどのように影響するのか(優越的地位の濫用に手続的側面があることはコンビニのところで書いたとおりです)など、様々な問題を含んでいるように思います*。

*ちなみに、ソフトバンクは、「代理店には、他社の店舗をやめて他キャリアの店舗を運営する自由もある。当社は独占的地位にはなく、優越的地位の濫用には当たらない」旨の主張をしているようです。しかし、優越的地位の濫用における優越的地位は、取引相手との関係でのそれであり、市場全体との関係でのそれではありません(私的独占や不当な取引制限で問題とされる市場支配力とは異なります)。

 

司法試験で何を選択するか問題

エンタメやITを扱いたい場合、人格権法、知財(特に著作権、不正競争)、独禁法(特に優越的地位の濫用)あたりは必須だと思うのですが、司法試験の「知的財産法」で不正競争は出ないですし、「経済法」で優越的地位の濫用が出ることはほぼありません(一問はだいたい不当な取引制限、残りは排除型私的独占・不公正な取引方法〔特に不当拒絶、不当拘束〕や企業結合)。私はそれで独占禁止法を選択しませんでした。

とはいえ独禁法は、経済規制の横断的かつ原則的なルールであり、特に最近そのプレゼンスが高まっている感があるので、やっておいてよい気がします(ちなみに今独禁法の選択率は2位。どっちかというと楽だからという理由で選択している人が多い気がするけど、そのことが結果的に独禁法の企業法務への浸透をもたらしたら面白いね)。

なお参照:経済法(独占禁止法)の基本書、演習書等と使用法