経済法(独占禁止法)の基本書、演習書等と使用法(2020年10月最終更新)

目次

 

分野の概要

独占禁止法は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の略称であり、「経済法」ほぼ独占禁止法を指します。各種業法や外為法を含むこともあるらしいですが、理論上の繋がりはないです。司法試験科目「経済法」でも、専ら独占禁止法が出題されます。

独占禁止法は、市場の機能が阻害されることを防ぐために、企業が企業努力以外の人為的な方法によって競争を排除したり、回避したりする行為を禁止するものです。言い換えると、必ずしも経済学上の独占それ自体を禁止したり、解体したりするわけではありません(どんな企業だって独占を目指して努力するのであり、独占禁止法はむしろそれを奨励しています)。

次の4つが規制の柱です。企業結合規制のみが事前規制であり(承認なしに行えず、行われた際には排除措置命令や差止め・無効の訴えが可能)、他の3類型では事後的に排除措置命令・課徴金納付命令がされます。

  • 私的独占の禁止…競争相手を支配・排除し、競争を排除することにより、市場における競争を制限する。
  • 不当な取引制限の禁止カルテル、入札談合など、競争を回避することにより、市場における競争を制限する。
  • 企業結合規制…株式取得、合併等により、市場における競争を制限する。
  • 不公正な取引方法の禁止…取引拒絶・差別的取扱い、不当対価、不当な顧客誘引・取引の強制、抱き合わせ販売、排他条件付取引、再販売価格維持、拘束条件付取引、優越的地位の濫用など。①市場における競争制限につながるもの、②市場への影響に関わらず、行為自体が競争手段として不公正なもの、③搾取に分けられる。

 

独占禁止法 

厚谷・独占禁止法入門

独占禁止法入門〈第7版〉 (日経文庫) 

独占禁止法入門〈第7版〉 (日経文庫) 

 

入門書。元公取委事務総長がビジネスマン向けに書いた新書なので、薄くて分かりやすかったです(官僚とビジネスマンへの悪口ではないです)。文章にしばしば不自然なところがありますが、最初に全体像を掴む一冊としてはかなりよいと思います。

なお、本書の出版後、平成25年、平成28年、令和元年の3回の改正がなされています。しかし、いずれもエンフォースメント(課徴金の基準や事件処理手続)に関わるもので、司法試験の中心である実体要件に変更を加えるものではありません。

(2020年10月最終更新)

   

条文から学ぶ独占禁止法

条文から学ぶ 独占禁止法 第2版

条文から学ぶ 独占禁止法 第2版

 

基本書。

公取委ガイドラインを尊重した、いわば「通説・判例本」で、しかも、テキストを読んでいるとしばしばある「議論は分かったが、それをどこに位置づければよいのか」という問題を、「条文から」説明することによって解消しています(基本刑法に似てるかも)。

独占禁止法は条文が分かりにくいので、「条文から」始めると分からなくなりがちであり、そのため、理解は別の本でするのがよいと思いますが、入門書と答案の架橋的な段階で力を発揮してくれます。

(2020年10月最終更新)

 

白石・独禁法講義

独禁法講義 第9版

独禁法講義 第9版

  • 作者:白石 忠志
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

基本書。本書は、『条文から学ぶ独占禁止法』などと異なり、通説・公取・裁判所をガンガン批判しますが、すごく筋が通っているので、より深い理解に資する感じがします。

私が好き(で独占禁止法を知らない人にも本書のノリが伝わりそうなの)なのは、6頁の次の記述です。

この法律はネーミングがよくない。先頭に「私的独占」とあるが、「私的独占」は独禁法において最も頻繁に登場する違反類型ではない。そもそも、「私的独占」とは、「私的に独占すること」ではない。冒頭に掲げたインテル事件では、インテルがCPU の市場を独占していることそれ自体が問題となったのではなく、CPU の市場から競争者を排除したことが問題となった。つまり、独禁法は、独占を禁止しているわけではないのである。

競争法の専門家は、「国際的にほぼ共通した枠組みによって実質的に検討し、それを自国の競争法の条文に当てはめていく」という発想をする傾向が強いそうですが(本書8頁)、実質的な理解に役立つのが本書、条文へのあてはめ方(それはそれで大事―特に司法試験受験者にとっては)を知るのに役立つのが『条文から学ぶ独占禁止法』という感じがします。

(2020年10月最終更新) 

 

事例で学ぶ独占禁止法

事例で学ぶ独占禁止法

事例で学ぶ独占禁止法

 

入門書+事例集という感じ。各章で基本概念をテキスト風に説明してから、事例を紹介します(ただ、たまに日本語が微妙なところがある…)。

独禁法は実体要件が簡素・概括的であり、各行為類型に含まれる具体的行為のバリエーションが広いです(村上先生の新書にもそのようなことが書いてありました)。そのため、早い段階で事例集を読み、最高裁判決、東京高裁判決、排除措置命令・審決、相談事例、公表事例などに現れた事例のイメージを掴んでおくことが有用です。その場合、示された判断は必ずしも理解できなくてもよい一方、事実はよく読んでおくべきだと思います。

(2020年6月最終更新) 

 

独禁法事例集

独禁法事例集 (法学教室ライブラリィ)

独禁法事例集 (法学教室ライブラリィ)

  • 作者:白石 忠志
  • 発売日: 2017/12/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

独禁法講義』と同一著者による「一人判例百選」。

(2020年6月最終更新)  

 

ベーシック経済法

ベーシック経済法 -- 独占禁止法入門 第4版 (有斐閣アルマ)

ベーシック経済法 -- 独占禁止法入門 第4版 (有斐閣アルマ)

 

最初に「ベーシック」な入門書を期待して読もうとしたのですが、全然ベーシックではなく、挫折してしまいました。でも経済学的な説明やコラムがいいなと思いました。後から読むと価値が分かるのかも。

(2020年6月最終更新)

 

経済法入門

経済法入門 (法学教室ライブラリィ)

経済法入門 (法学教室ライブラリィ)

  • 作者:泉水 文雄
  • 発売日: 2018/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

「入門」とありますが、わりと高度な気がします(緑・刑事訴訟法入門もそんな感じでしたね…)。出版社によれば、「入門から上級を目指す法科大学院生に好適」らしいです(経済法入門 | 有斐閣)。法教連載のスピンオフなので、文献引用があるのと、知的財産・景品表示法についても各1章を割いて説明してくれているのがありがたいです。

(2020年6月最終更新) 

 

論点解析経済法

論点解析 経済法〔第2版〕

論点解析 経済法〔第2版〕

 

演習書。28問で、共同行為(不当な取引制限)が12問、企業結合が4問、私的独占・不公正な取引方法が12問。

独禁法選択者と組んだ自主ゼミで検討しました。解説と事例が基本的にはよく噛み合っていているので、これ一冊でほぼ答案が書けるようになります(もちろん、初めに適当な入門書で構造をつかむ必要はあるりますが)。

なお、本書では、毎回エンフォースメントについても問われています。特に課徴金納付命令は複雑ですが(独占禁止法違反行為に対する課徴金 - BUSINESS LAWYERS)、半分行政法の勉強だと思って頑張りましょう。

(2020年6月最終更新)

 

独禁法務の実践知

独禁法務の実践知 (LAWYERS’ KNOWLEDGE)

独禁法務の実践知 (LAWYERS’ KNOWLEDGE)

 

「企業が正当な事業機会を逃さないためには、いかなる行為が独禁法上問題に「ならない」か理解することが重要になる。第一線で活躍する弁護士が、企業活動において慎むべき行動に加え、競争の場で適切かつ積極果敢に戦略を立案・遂行するための判断軸を提示する」(はしがきより)。

大江橋パートナーによる完全な実務本で、司法試験に直接に役立つものではないですが、(独占禁止法に限りませんが)実務でどのような問題が生じているのかイメージできるようになることは、勉強の効率化につながるので紹介しておきます。

(2020年9月最終更新)

 

隣接分野(司法試験以外)

緑本景品表示法

景品表示法〔第5版〕

景品表示法〔第5版〕

  • 作者:大元 慎二
  • 発売日: 2017/04/12
  • メディア: 単行本
 

景品表示法は、独占禁止法の不公正な取引方法の一類型である不当な顧客誘引について、主に手続面を簡略化する特例法として作られたのですが*、その後消費者庁設立時に消費者庁に移管され、実体的にも一応独占禁止法との関係が切り離されました(ただ、実質的な内容は変わっていません)。

*当時独占禁止法に基づく排除措置命令は公正取引委員会の審決を経なければなりませんでしたが、時間がかかるため、いきなり措置命令を出せることとされました。なお、平成17年改正により、独占禁止法についても審判制度が廃止され、いきなり排除措置命令を出せることとされました(一審代替の不服申立手続としての審判制度は残りましたが、平成25年改正でそれも廃止されました)。

本書は消費者庁の担当者による解説書です(景品表示法については、研究者による最新の入門書や基本書と言われるようなものは見当たりません)。ただ、立案・運用担当者による本のスタンダードだと思いますが、あまりおもしろくはありません。

消費者庁は、まさに消費者保護を任務とするためか、Webサイトが比較的リーダーフレンドリーなので、それを見れば足りるかもしれません。資料へのリンクとそれを読んだときのメモとして参照:消費者法メモ景品表示法の沿革景品表示法の実体要件

(2020年6月最終更新)

 

要説経済行政法

要説 経済行政法

要説 経済行政法

  • 作者:友岡 史仁
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2015/04/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

「行政介入については、行政法の対象とされ、経済法でも、その主な関心事は独禁法にシフトした結果、行政介入の扱い方は僅少となっている」という現状のもと、「行政法・経済法(独占禁止法)の隙間を埋めることを試みたもの」です(要説 経済行政法 | 弘文堂)。競争至上主義的な独占禁止法を修正する個別のルール群を対象としています。

ちなみに、白石先生によれば、「「経済法」という言葉の現在の日本での意味合いは、突き詰めていうと、大学において独禁法のあたりを取り扱う場合の科目名であり、それが司法試験の選択科目の科目名となっている、というに尽きる。有斐閣が『経済法判例・審決百選』を出版しているのは、大学の科目名や司法試験の科目名と同じとしたほうが売れる本だからである」そうです(『独禁法講義』6頁)。

 (2020年6月最終更新)

 

田切・産業組織論

産業組織論 -- 理論・戦略・政策を学ぶ

産業組織論 -- 理論・戦略・政策を学ぶ

  • 作者:小田切 宏之
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2019/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

産業組織論はミクロ経済学の応用分野で、独占禁止法と密接な関係にあります(司法試験の知財で技術に関する知識が問われないように、司法試験の経済法でそれが問われることはないですが)。本書はその産業組織論についての、公取委委員を務めた経済学者による「スタンダード・テキスト」です(産業組織論 | 有斐閣)。

ざっと目を通したけど何が何だか分からなかったので、数学をやってからまた読もうと思います。

(2020年6月最終更新)

 

ミクロ経済学の第一歩

ミクロ経済学の第一歩 (有斐閣ストゥディア)

ミクロ経済学の第一歩 (有斐閣ストゥディア)

  • 作者:安藤 至大
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2013/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ミクロ経済学について、数弱の私文学生のために数字を極力使わずに説明してくれているありがたい本。ちなみに著者の安藤先生は『企業法務のための民事訴訟の実務解説』 の圓道先生とご兄弟。

(2020年6月最終更新)

 

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