倒産法、民事保全・執行法の基本書、演習書等と使用法(Last Updated in 2020.11)

信託法は分離しました:金融法の基本書等と使用法

 

目次

 

倒産法

倒産法の出題範囲

司法試験科目の「倒産法」では、破産法民事再生法が出題されます*。

*この他に、破産手続の簡易版として特別清算手続が、民事再生手続の強化版として会社更生手続がありますが、司法試験には出ません。

破産手続は、全ての倒産手続の原型となる手続で、清算型手続かつ管理型手続です。破産手続開始決定がされると、破産管財人が選任され、債務者の財産の管理処分権は剥奪されます。破産管財人は、債務者財産を換価し、債権者に平等に弁済します。

民事再生手続では、再建型手続かつDIP型手続(Debtor in Possession;管財人の選任が必要的でない)です。再生手続開始決定がされても、原則として債務者が引き続き事業を継続し、財産の管理・処分を行います。債務者は、再生計画(債権者の多数決+裁判所の認可で効力発生)に従って債務の免除・猶予を受け、経営を再建し、新たに得られたキャッシュフローを原資として、残った債務を弁済します。

 

司法試験倒産法の問題を解いてみて思ったこと

2問構成ですが、第1問が破産手続第2問が再生手続です。設問が細かく分かれていて、論点を含む問題条文を探して淡々と当てはめる問題条文を探して手続を説明するだけの問題の3つが同じくらいの割合で出てきます。ちなみに論点を含まない問題でも意味もなく趣旨を書くと点が入ったりします(出題趣旨にそう書いてあります)。

民事法なので、問題を解くときは、民法会社法と行き来しながら解くことになります。倒産法は、包括的執行手続(cf. 個別的執行手続としての強制執行手続)であり、民事手続法の一つなので、民事訴訟法との親和性が言われることがありますが、実際には、上記のような民事実体法とのつながりや、集団的な権利処理をする必要性に由来する会社法との手続的な類似性のほうが大きい気がしています。

書き方としては、基本的に民法会社法と同じです。

 

司法試験での選択にあたって考慮したこと

私は結局司法試験で倒産法を選択することにしました。科目を選ぶに当たって、それまで勉強したことのあった倒産法、労働法、知的財産法、独占禁止法、国際私法の問題各1年分に目を通して、出題スタイルを把握しました。

一般に言われることですが、独占禁止法は解釈というより適用が勝負であり、それ以外の科目は解釈・適用のどちらかに傾いているということはない気がしました。後者の中でも、倒産法は、先に述べたとおり、条文を探して淡々と当てはめる問題条文を探して手続を説明するだけの問題が多いです。

設問の細かさは、倒産法・知的財産法が細かい、労働・国際私法が中間、独占禁止法はざっくりしています。

条文数は、倒産法・知的財産法が多く、労働法が中間くらい、独占禁止法・国際私法は少ないです*。議論の蓄積は、倒産法・労働法が多く、続いて知的財産法・独占禁止法が中間くらい、国際私法はかなり少ないです**。

*倒産法の条文の多さが強調されることが多いですが、民事再生法は破産法を再建(cf. 清算)・DIP(cf. 管理型)という2つの軸に合わせて修正したものなので、意外に量は多くありません。一方、知的財産法(特許法著作権法)は、どちらも物権的権利で差止め・損害賠償が主たる請求だという点では共通なのですが、出願・審査制度(特許法のみ)、職務発明の相当利益請求(特許法のみ)、間接侵害(特許法のみ)、支分権構成(著作権法のみ)、人格権(著作権法のみ)といった重要部分が異なるため、あまり似た感じがしません。法律の構成や具体的な表現も、特許庁総務部総務課(経産省外局)と文化庁著作権課(文科省外局)という、立案を担当している部署のカルチャーの違いからなのか、かなり違います。
**最高裁判例が百選の3分の1しかありません。しかも、(国際民事訴訟法はともかく)準拠法の問題になると最高裁ですら「錯乱している」らしいです(国際なんとか法の授業中に先生が連発していました)。

以上をどう評価するかは好みなのに対して、倒産法の明らかな弱点は教材です。教科書が1ページの間に1度も段落を改めない本(しかも2015年)か1ページまるごと脚注の本かの二択だということと(入門書だとさすがに…)、百選も2013年のものが最新版で(来年改訂予定と聞きました)、演習書も民法改正対応版が出る出ると言われていたのに結局出ていないということです。

追記(2020/11/1):結局知財にしました。『ロースクール倒産法』のせいです。

 

倒産処理法入門

倒産処理法入門 第5版

倒産処理法入門 第5版

 

入門書。倒産3法(破産法、民事再生法会社更生法)と特別清算ADR、国際倒産について説明しています。破産法だけなら70ページくらい。

ある程度高度な話まで詰め込まれており、しかも「です・ます」調なので、普通に読んでいると「読み終わったのに何が書いてあったかわからない」ということになりやすい気がします。そのため、六法で構造を確認したり、ノートを取りながら読んだりするとよいと思います。

(2020年6月最終更新)

 

ストゥディア倒産法

倒産法 (有斐閣ストゥディア)

倒産法 (有斐閣ストゥディア)

 

これも入門書。こっちは司法試験科目の破産法、民事再生法中心です。ストゥディアシリーズは民訴・会社がわかりやすかったですが、これも安定してわかりやすいです。

私が倒産法を勉強し始めたのは学部3年次(2017)だったので、倒産処理法入門しか選択肢がありませんでしたが、今始めるならこっちもありだなと思います。

(2020年6月最終更新)

 

倒産法概説

倒産法概説 第2版補訂版

倒産法概説 第2版補訂版

 

基本書。まず実体法について説明し(沖野先生。量的には全体の半分くらい)、それから手続について説明しています:破産(山本先生)、民事再生(笠井先生)、会社更生(中西先生)、国際倒産(同)、ADR水元先生)。

実体法部分を通読しましたが、正直読みにくかったです:

  • 一文が長い。
  • 一段落が長い(段落を改めずに1ページを埋めることも…)。
  • 括弧書きが長い。
  • 接続語を省略しがち。
  • 何らかの命題を述べる際に、論理的に必要だが知識があれば補える前提条件を省略しがち(こっちの知識が足りないのはよく分かっていますが、知識が足りないからこそ教科書を読もうしているわけであり…)。
  • 過渡期の教科書にありがちだが、法改正があった箇所について、改正により従前の議論が実益を失っている(減殺されている)にもかかわらず、そのことに言及しないで従来の議論を説明し、後から取って付けたように改正の話をしがち(会社法2014年改正。破産法自体に関しても、初版(2006年)の2年前に新法が制定されたこともあってか、旧法についての原稿をベースにしたと思われる箇所が多い)。
  • 議論がある箇所について、Aと考えればA'となる、Bと考えればB'となるというところまでは説明してくれるものの、最終的にどっちが正当と考えるのかを書かないことが多い。

最後の問題については、リークエ民事訴訟法のはしがきの「見解が鋭く対立している問題や議論が複雑に絡み合っている問題などについて…客観性という名の下に判例や学説の羅列に止めたのでは、いたずらに読者の混乱を招くばかり」という記述が刺さります。執筆者的に内容が信頼できることは明らかなので、文章をもうちょっとなんとか…という感じ。

私は、①本書の記述を整理し、②重判で最近の判例を補い、③必要なものについては論文などを読んだものをまとめたノートを作ろうかと思っていたのですが、たまたま履修した倒産法の先生(神)が全く同じコンセプトのレジュメを作っており、それをもらうことができました(時間的にも正確さの点でも本当に助かりました)。

(2020年6月最終更新)

 

伊藤・破産法・民事再生法

破産法・民事再生法 第4版

破産法・民事再生法 第4版

  • 作者:伊藤 眞
  • 発売日: 2018/12/22
  • メディア: 単行本
 

司法試験の過去問を解き始めたので満を持して紹介。民事訴訟法の1.5倍のページ数(今まで買った本の中で一番厚い)。

スタイルは基本的に民事訴訟法と同じです:

見出しはそれほど親切ではないので、体系が頭に入っていないと迷子になります。また、脚注が長いです(ほぼ脚注で埋まっているページも…)。1998年の初版以来、立法などで本文が全く使えなくなった場面を除いて、基本的に脚注で補充するようにしているのではないかと思います(セルフ芦部憲法状態)。伊藤先生の執筆ペースを考えると、それが合理的なのかもしれませんが。(伊藤・民事訴訟法

基本書にするにはオーバースペックなのですが、司法試験では、『倒産法概説』には言及すらなく、これの脚注でやっと言及されるレベルの論点がたまに出るので、辞書的に使っています(が、そのレベルのものはどうせみんな分からないまま書くことになるので、読むとしても過去に出たものを確認する程度でよく、例えば本書を脚注まで読もうというのはリソースの配分として非効率だと思います)。

 (2020年8月最終更新)

  

基礎トレーニング倒産法

基礎トレーニング倒産法

基礎トレーニング倒産法

 

サピックスの何かみたいな名前の演習書。

ひとりで学ぶ会社法』と同様に、どちらかというと初学者の段階で条文を引きながら読むと理解に役立ちます。私は学部3年次の定期試験前に読みました。誤字脱字がめちゃめちゃ多いのが玉に瑕です(基礎トレーニング倒産法|日本評論社)。

(2020年9月最終更新)

 

倒産法演習ノート

演習書。『倒産法概説』の執筆者5人+他2人で書かれているので、『倒産法概説』との相性がよいです(と出版社のページにも書かれています)。

結構レベルが高く、司法試験的にはオーバースペックだと思いますが、倒産は実務でもかなり使うようなので、これくらいやっておいてもよいのかもしれません。論点解説集として使うのもあり。

なお、2020年の前半に平成29年民法改正に対応した4版が出ると聞いていましたが、今のところその気配はないですね…

(2020年10月最終更新)

 

ロースクール倒産法

ロースクール倒産法 第3版

ロースクール倒産法 第3版

  • 発売日: 2014/03/31
  • メディア: 単行本
 

15のUnitからなり、各Unitは、設例、Questions、資料からなっています。一度倒産法選択に決めたのですが、演習で指定された本書があまりに合わず、知財選択に切り替えるきっかけになりました(知財の演習では毎週事例を検討して答案を提出しています)。

設例は、ある程度量がありますが、事案と全く関係ない記述が多く、読む意味があまりありません。雑多な事実の中から意味のある事実を見つけ出すことは重要なスキルだと思いますが、関連性がないことが明白な事実を並べられても、そのトレーニングにはなりません。

Questionsは、量が多く、論点ごとに細分化されており、前提として何を確認するか、どの論点をどの文言との関係で取り上げるか、それらをどのような順番で論述するかを考えるトレーニングになりません。事例問題を検討したことがある人であれば、それらもまた重要な一つのスキルであるということは分かると思います。また、オープンクエスチョンが多く、何を聞きたいのか分からないものも多いです。

本書には解答が(その方向性すらも)ありませんが、それに加えて、資料も、引用者によるコメントが付されていないため、どういう趣旨で引用されたのかが基本的に分かりません。例えば論文なら通説なのか、通説に対する有力な批判なのかが分かりませんし、判例・裁判例(特に後者)なら判例法理全体との関係でどのような位置付けを与えられているものなのかが分からないことが多いです(評釈では必ず「本判決の意義」という欄がありますよね)。他の本を読めばわかりますが、だったら本書は不要です。

いずれも授業担当者が補えばいいということなのかもしれませんが、予習時点では何が何だか理解できず、理解できない以上授業時まで覚えておけるはずがなく、忘れた状態で授業を受けてもやっぱり理解できません

「解答なり解説なりをつけると勉強しなくなる」という田舎の/公立の高校教師並みのことを考えているのかもしれませんが、勉強しない人は解説なんか読まないので大丈夫です。

(2020年11月最終更新)

 

民事執行・保全

分野の概要

民事執行法は、強制執行(債務名義に基づいて、債務者の不動産を競売したり、債務者が有している債権を差し押さえて取り立てたりする手続)、担保執行(「担保権の実行としての競売等」)、形式的競売(「換価のための競売」。留置権に基づく競売など)、財産開示について規定しています。

民事保全法は、保全命令(仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分)と保全執行について規定しています(判決手続+強制執行の簡易版みたいなものです)。

民事執行法は、令和元年に改正されましたが、手続の骨格には変化がありません:

  1. 暴力団関係者の買受けからの排除
  2. 子の引渡しの強制執行の規定の整備(これまでは動産執行を類推していた)
  3. 財産開示の大幅な強化(民事執行法改正:財産開示の強化

むしろ、平成29年民法(債権関係)改正の影響が大きいです。

 

基礎からわかる民事執行法民事保全法

基礎からわかる民事執行法・民事保全法 第2版

基礎からわかる民事執行法・民事保全法 第2版

 

民事執行・保全法の入門書。薄いし、図がいっぱい。

(2019年最終更新)

 

アルマ民事執行・保全

民事執行・保全法 第6版 (有斐閣アルマ > Specialized)

民事執行・保全法 第6版 (有斐閣アルマ > Specialized)

 

民事執行・保全法の基本書。

和田先生のものと比べると、より詳しく、執筆者はいずれも研究者なので(ちなみに民事執行・保全判例百選の編者と同じ)、より理論的です。ただ、それゆえに最初に読むのにはつらく(旧版を学部生の頃に読みましたが、何度も寝てしまいました)、和田先生のものを先に読んでからにしたほうがよい気がします。

平成29年民法(債権関係)改正・令和元年民事執行法改正に対応しており、2020年1月の執行・保全百選3版に対応しています。執行・保全の教科書としては、本書と和田先生のもののほかは、リークエ平野先生のものがありますが、リークエは改訂の気配がなく(2010年が最終…)、和田先生・平野先生のものは予定はあるようですがしばらくかかりそうなので、現時点で最近の法改正に対応したものは、本書が唯一です。

(2020年5月最終更新)

 

関・民事保全手続

民事保全手続

民事保全手続

  • 作者:関 述之
  • 出版社/メーカー: きんざい
  • 発売日: 2018/08/31
  • メディア: 単行本
 

東京地裁民事9部(民事保全専門部)での部総括経験のある裁判官による解説書です。読者として第一に修習生が想定されています。民事保全は、執行・保全をまとめて説明する教科書では、最後の方でちょっと扱うだけということが多いので、ある程度詳しく、事件類型別の解説までしてくれている本書は貴重です。最近はインターネット関係仮処分が多いようであり、それについても一定の説明があります(なお、詳細については別に同時期に出された編著があります:インターネット関係仮処分の実務)。

(2020年1月最終更新)

 

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