著作権と財産権保障

映画の著作物の保護期間

映画の著作物の保護期間は、次のように変遷してきました。

  • 旧法(1899)…著作者の死亡から38年(個人名義の映画の著作物について)。
  • 現行法制定時(1970)…公表から50年。
  • 2003年改正…公表から70年。

なお、通常の著作物(著作者―共同著作物については最後に死んだ著作者―の死後70年)と異なり、公表時が起算点とされているのは、映画の著作物には多くの関係者がいるため、誰が著作者で、そのうち誰が最後に死んだかを調べることが困難だからです(ベルヌ条約7条2項も同様の趣旨で公表時を起算点とすることを要求しています)。

さて、そうすると、旧法からの切り替え時には、新法(現行法)によるほうが保護期間が短くなるということがありえます。例えば、1969年に40歳の個人監督が映画を公表した場合、新法によれば、保護期間は2019年までです。そうすると、彼が1981年までに死なない限り、言い換えると、53歳以上まで生きると、新法によったほうが保護期間が短いことになります(厳密には公表と彼の誕生日が何月何日かによってちょっとずれるのですが、本題ではないので置いておきます)。

これは酷だということで(映画製作も投資なので、保護期間の短縮は、投資を回収できる期間が事後的に短縮されることを意味します)、2003年改正時に、旧法のほうが保護期間が長い場合には旧法のものを適用するという規定が置かれました。

(映画の著作物の保護期間についての経過措置)
第二条 改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による。
第三条 著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって、同法附則第七条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は、旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)による著作権の存続期間の満了する日が新法第五十四条第一項の規定による期間の満了する日後の日であるときは、同項の規定にかかわらず、旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。
(平成一五年六月一八日法律第八五号 附則)

 

憲法と知的財産法

上記は適切な立法がされた例として理解されているのですが、憲法との関係を考えると、必ずしもそう単純な話ではない気がしています。

憲法29条1項は、財産権を保障しており、ここにいう財産権には知的財産権も含まれると解されています。知的財産権は一般的には政策的側面が強い財産権と捉えられていると思われますが、所有権とて、立法による具体化に依存した権利であり、必ずしも前憲法的なものと言い切れるわけではありません。

憲法29条1項の保障内容については議論がありますが、少なくとも、個別の既得の財産権を剥奪することがこれに当たることについては、コンセンサスが形成されているように思います。このことは、主に農地改革時の農地所有権の剥奪などを念頭に言われてきたことではありますが、著作権(を含む知的財産権)の保護期間の短縮についてもこれが当てはまるのではないかと思います。

もちろん、先に述べた政策的観点から、事後的に権利制限が拡大することはありえ(例えば平成30年著作権法改正ではインターネットやAIによる利用をしやすくする方向で権利制限が拡大しました)、そのような改正の全てが憲法29条1項に違反するわけではないと考えられます。どこで線引きされるのかはよくわかりませんが、権利制限が権利の一部剥奪であるとするならば、保護期間の短縮は権利の全部剥奪であり(量的問題 vs 質的問題)、このことが憲法29条1項上の財産権の侵害に当たるか、あるいはそれが正当化されるかの判断を分けるのではないかと思います。

以上は授業中の思いつきなのですが、機会があったら調べてみたいと思います(とりあえず図書館を開けてくれ)。

 

著作権憲法

憲法と知的財産法に関する文献として、表現の自由との関係に関するものですが、長谷部恭男「憲法学者はなぜ著作権を勉強する必要がないか?」『Interactive憲法』(有斐閣、2006)175頁以下があります。法学教室ライブラリなのでWestlawとかから見ることができると思います。

なお、著作権保護のためのブロッキングの問題については、漫画村の事件以来様々な議論がされてきたところなので、Google検索結果事件(最決平成29年1月31日民集71巻1号63頁)や、既に行われている児童ポルノブロッキングの問題と併せて、キャッチアップしておきたいところです。さしあたり、木下(昌彦)先生が書かれた意見書(検索エンジンサービスと著作権の法的保護 -平成 29 年最決を示唆とした憲法的論点に関する一試論-)が読みやすく、勉強にもなったので紹介しておきます。