入管法に基づく収容手続の合憲性

平成29年司法試験憲法に出てくる「農業及び製造業に従事する特定労務外国人の受入れに関する法律」なる法律はヤバいのですが、現実の入管法出入国管理及び難民認定法)も劣らずヤバいことを思い出したので、以前の原稿をもとに再投稿(なお参照、出入国在留管理庁の組織入管法に基づく収容・仮放免の手続)。

 

収容の必要性

入管法39条は、次のように規定しています。

(収容)
第三十九条 入国警備官は、容疑者が第二十四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる。
2 前項の収容令書は、入国警備官の請求により、その所属官署の主任審査官が発付するものとする。

刑事訴訟法199条2項と比較すると、逮捕の理由に相当する収容の理由(「容疑者が第二十四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとき」)に関する規定はありますが、逮捕の必要性に相当する収容の必要性の規定がありません。

しかし、収容は身体の自由の侵害であり、その期間も、30日以内+30日に限って延長できるとされており(41条1項)、侵害態様としては逮捕・勾留よりも重大であることからすれば、必要性がないのに収容することは、円滑な退去という目的との関係で関連性がなく、身体の自由の侵害として正当化されないように思われます(身体は審査基準がよくわかりませんが)。もちろん、この場面では、合憲限定解釈として必要性が要求されていると解釈することは可能だと思いますが、しかし、入管は、個別に収容の必要性を判断しない全件収容主義を取っています。

 

収容の令状主義違反

収容は、収容令書に基づいて行われますが、その収容令書は主任審査官が発付します。この仕組みは憲法33条の令状主義に違反すると考えられます。

 

成田新法事件

そもそも憲法33条が行政手続である収容手続に適用されるかが問題になりえます。しかし、成田新法事件判決(最判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)は、次のように述べています。

 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
 しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。

憲法31条は手続的権利の総則的規定と考えられるので、33条にも妥当するものと考えられます。そこで、収容手続について検討すると、制限される権利利益の内容・性質は、身体の自由であり、逮捕におけるのと同等であり、 制限の程度は先に述べたとおり逮捕・勾留より重大であり、一方で、達成しようとする公益の内容・程度・緊急性は、円滑な退去であり、円滑な公判・刑の執行と比較して必ずしも大きなものとはいえません。そうすると、憲法33条は収容手続にも適用があることになりそうです。

なお、どのような場合に外国人の滞在を認めるかは国家主権に属する事項だから、裁量が大きい(あるいは権利の重要性が低下する)という主張も考えられますが、そのことは、実体的権利については妥当しても、手続的権利には妥当しないように思います。憲法33条の保障を緩和するということは、適法に滞在している者を誤って収容するおそれが大きくなることを許容することですが、外国人であっても適法に滞在している以上そのような不当な取扱いを甘受すべきであるとはいえないからです。

また、マクリーン事件判決の広範な自由裁量論を引用した主張も考えられますが、入国許可の場面と同視する余地がないではない在留期間の更新はともかく(同視すべきではないと思いますが)、その余地すらない在留期間中の退去については妥当しません。

さらに、刑事責任の追及を目的としているわけではないという主張が考えられますが、行政手続に憲法33条の適用があるかという議論は、行政手続は刑事手続ではないことを前提に、権利侵害の性質・態様と公益上の必要性から、それに匹敵する状況であるならば憲法33条を適用すべきではないかという議論であり、反論になっていないように思います。

 

憲法33条違反

ここで憲法33条を確認しておくと、次のような規定です。

第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

この趣旨は、①裁判官という、職権行使の独立性が保障された公務員に、事前に逮捕の理由(嫌疑の有無)と逮捕の必要性を判断させることにより、逮捕権の濫用を防止すること、②不服申立てを容易にすることにあると考えられます。入管法に基づく収容手続では、事前審査令書が作成されますから、問題は、令書を発布する「主任審査官」が裁判官と同視できる程度の独立性を有しているかという点です。

主任審査官は、入国審査官である地方入国管理局局長・次長、支局長・次長のほか、札幌入国管理局首席審査官、札幌入国管理局千歳苫小牧出張所長など、41の組織上の地位にある入国審査官が自動的に指定されます(主任審査官、特別審理官、難民調査官、意見の聴取を行わせる入国審査官及び意見の聴取を行わせる難民調査官を指定する訓令 - Wikisource)。入国警備官は、入国警備官採用試験で採用され、入国者収容所・地方出入国在留管理局に配置されますから(法務省:入国警備官採用試験)、主任審査官は基本的に入国警備官の上司であることになります。これでは独立性があるとは言えないように思います。仮に刑事手続において警察署長は令状審査を行うとしたら、令状主義は(さらに)意味がなくなってしまうはずです。もちろん、収容は行政処分と考えられているので、取消訴訟と執行停止を申し立てることは考えられますが、事前審査と同視できないことは明らかです。

したがって、入管法に基づく収容手続は憲法33条に違反しているのではないかと思います。

 

判例

入管法には、通常の収容とは別に、要求収容が規定されています。緊急逮捕に類似の手続です。

(要急事件)
第四十三条 入国警備官は、第二十四条各号の一に明らかに該当する者が収容令書の発付をまつていては逃亡の虞があると信ずるに足りる相当の理由があるときは、収容令書の発付をまたずに、その者を収容することができる。
2 前項の収容を行つたときは、入国警備官は、すみやかにその理由を主任審査官に報告して、収容令書の発付を請求しなければならない。
3 前項の場合において、主任審査官が第一項の収容を認めないときは、入国警備官は、直ちにその者を放免しなければならない。

(なお、緊急逮捕自体、合憲性について議論がありますが、ここでは合憲であることを前提としたいと思います。)

 

この緊急収容について判断が示されたことがあります。容疑者が要急収容をしようとした警備官に抵抗したとして、公務執行妨害で起訴された事案です(なお、適用されているのは入管法制定前のポツダム政令たる出入国管理令)。

まず、東京高判昭和47年4月15日判時675号100頁は、次のように述べています。憲法33条の適用があり、かつ、要求収容を通常逮捕(あるいは緊急逮捕)に準ずるものとして考えた上で、審査官には中立性があるというものです。

前記令39条、43条による要急収容は、あくまでも一つの行政処分に過ぎないのであるから、刑事手続におけるほど厳格な憲法上の制約に服せしめることを必要とするものではないことにかんがみると、収容令書の発付者が要急収容を行った者と同一官署に属したとしても、それぞれ別個の職務権限を担当する者であるかぎり、憲法33条はもちろん、同法31条にも違反するものとはいえない(もとより、被収容者が、その収容処分の取消しを求める訴を司法裁判所に起こしうることはいうまでもない。)。

そして、上告審の最決昭和49年4月30日集刑192号407頁は、次のように述べています。憲法33条の適用があり、かつ、要求収容を現行犯逮捕に準ずるものとして考えるものです。

所論は、出入国管理令39条、43条所定の収容手続が司法官憲の令状なく身体の拘束を定めているものとして憲法33条違反をいうが、原判決及びその維持する第一審判決の確定する事実によると、入国警備官の本件収容行為は、被収容者が同令24条2号所定の強制退去事由に該当する外国人として現認されている状況のもとで、しかも、収容令書の発付をまつていては逃亡の虞があると信ずるに足りる相当の理由があるものとして、執行されたものであつて、同令所定の収容が憲法33条にいう逮捕に当たるか否かは別として、現行犯逮捕又はこれに類するものとして、司法官憲の令状を要しないことが明らかであるから、結局、所論は、被告人の本件行為の違法性の判断に影響がない事項に関する違憲の主張に帰し、上告適法の理由に当たらない。

どっちも不当だという気はしますが、現行犯逮捕(=事前審査をする者の中立性以前に事前審査が不要)ではなく通常逮捕(緊急逮捕)に引きつけて考えているだけ東京高裁のほうがましなのではないかと思います。

ちなみに、緊急逮捕を合憲とする説は、現行犯逮捕に準ずるものとして合憲とする説と、通常逮捕に準ずるものとして合憲とする説がありますが、後者のほうが有力であるように思います(前者の場合、刑事訴訟法210条1項が「直ちに」令状請求をすることを求めているのは、憲法上の要求を超えた立法措置だということになり、後者の立場はこのことを批判します)。個人的には、より高度の公益(「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由」)、より高度の緊急性(「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない」)、口頭での理由の告知(その理由を告げて)、令状審査が時間的に直後に行われること(「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない」)の全てが揃って初めて事前審査と同視することができるのではないかと思います。

 

収容・送還に関する専門部会

法務省出入国管理政策懇談会(国家行政組織法に基づく審議会等に当たらない諮問機関)に「収容・送還に関する専門部会開催状況」が設置され、収用制度について議論しています(法務省:収容・送還に関する専門部会について法務省:収容・送還に関する専門部会開催状況)。

弁護士の宮崎先生が頑張っていますが、全体的には入管の持っていきたい方向に持っていっているという感じです(諮問機関とはそういうもの)。行政法学者の野口先生は、憲法的な視点がゼロなのが気になります。日本大学警察軍事学部こと危機管理学部教授の高宅氏は2010年から2013年まで入管の局長だった方のようですね。