景品表示法の実体的規制は、景品規制と表示規制に分けられる。いずれも不公正な取引方法(不当な顧客誘引)の一類型であり、景表法自体、独禁法の特例法として迅速な是正のために制定された経緯がある。2009年改正で独禁法から分離されたが、実体的要件については、公正競争阻害性が自主的合理的選択阻害性に置き換えられたのみで、基本的には変わっていない。
なお、独禁法の知識を前提に説明する。また、この記事では、適用例を挙げていないので、それについて参照、事例でわかる景品表示法(平成28年7月改訂)、景品表示法における違反事例集、景品表示法関連報道発表資料 2019年度。沿革とエンフォースメントのまとめとして、景品表示法の沿革。
景品規制
4条は、景品規制を規定する。全てが指定類型である(景品規制の概要|消費者庁)。
(景品類の制限及び禁止)第四条 内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。
景品の定義
「景品類」は2条3項に規定されているが、最終的には内閣総理大臣(消費者庁長官)の指定に委任されている。
2条3項 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
これを受けて、不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件第1項が次のように指定している(番号および下線は引用者)。
1 不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第二条第三項に規定する景品類とは、①顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、②事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する ③物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。ただし,正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は、含まない。一 物品及び土地、建物その他の工作物二 金銭、金券、預金証書、当せん金附証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券三 きよう応(映画,演劇,スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)四 便益、労務その他の役務
規制対象行為―指定
以上の「景品」を、どのような態様で「提供」することが規制されるのか。告示には、次のものがある。
一般指定として
- 一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限…総付景品規制
- 懸賞による景品類の提供に関する事項の制限…一般懸賞規制、共同懸賞規制
特殊指定として
- 新聞業における景品類の提供に関する事項の制限
- 雑誌業における景品類の提供に関する事項の制限
- 不動産業における一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限
- 医療用医薬品業、医療機器業及び衛生検査所業における景品類の提供に関する事項の制限
がある。以下では、一般指定を見る。
総付景品規制
総付景品は、取引価額が1000円未満なら200円、それ以上なら取引価額の20%未満を超えてはならないものとされている。
1 一般消費者に対して懸賞(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和五十二年公正取引委員会告示第三号)第一項に規定する懸賞をいう。)によらないで提供する景品類の価額は、景品類の提供に係る取引の価額の十分の二の金額(当該金額が二百円未満の場合にあつては、二百円)の範囲内であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えてはならない。2 次に掲げる経済上の利益については、景品類に該当する場合であつても、前項の規定を適用しない。一 商品の販売若しくは使用のため又は役務の提供のため必要な物品又はサービスであって、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの二 見本その他宣伝用の物品又はサービスであつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの三 自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの四 開店披露、創業記念等の行事に際して提供する物品又はサービスであつて、正常な商慣習に照らして適当と認められるもの
総付景品規制に関わるガイドラインとして、次のものがある。
懸賞景品規制
懸賞景品のうち、一般懸賞は、景品の最高額が、取引価額が5000円未満なら取引価額の20倍、それ以上なら10万円を超えてはならず、かつ、総額が、懸賞に係る売上予定額の2%を越えてはならないものとされている(2項、3項)。
共同懸賞は、景品の最高額が、取引価額にかかわらず30万円を超えてはならず、かつ、総額が、懸賞に係る売上予定額の3%を越えてはならないものとされている(4項)。
1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。一 くじその他偶然性を利用して定める方法二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法2 懸賞により提供する景品類の最高額は、懸賞に係る取引の価額の二十倍の金額(当該金額が十万円を超える場合にあっては、十万円)を超えてはならない。3 懸賞により提供する景品類の総額は、当該懸賞に係る取引の予定総額の百分の二を超えてはならない。4 前二項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合において、懸賞により景品類を提供するときは、景品類の最高額は三十万円を超えない額、景品類の総額は懸賞に係る取引の予定総額の百分の三を超えない額とすることができる。ただし、他の事業者の参加を不当に制限する場合は、この限りでない。一 一定の地域における小売業者又はサービス業者の相当多数が共同して行う場合二 一の商店街に属する小売業者又はサービス業者の相当多数が共同して行う場合。ただし、中元、年末等の時期において、年3回を限度とし、かつ、年間通算して七十日の期間内で行う場合に限る。三 一定の地域において一定の種類の事業を行う事業者の相当多数が共同して行う場合5 前三項の規定にかかわらず、二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。
懸賞景品規制に関わるガイドラインとして、次のものがある。
(ソシャゲの景表法違反というのはたまにバズってますよね。たまに名誉毀損になりうるんじゃないかというものもありますが。なお、パズドラの運営会社は、よくバズってる確率の件ではないですが、課徴金納付命令を受けています:ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について)
表示規制
5条は、表示規制を規定する。1号(優良誤認)、2号(有利誤認)が法定類型、3号が指定類型である(表示規制の概要|消費者庁)。優良誤認は商品・役務の中身についての不当表示、有利誤認は商品・役務の取引条件についての不当表示である。
(不当な表示の禁止)第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
表示規制に関わるガイドラインとして、次のものがある。
有利誤認に関わるものとして
優良誤認・有利誤認に関わるものとして
- 比較広告に関する景品表示法上の考え方
- 消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項
- インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項
- メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について
なお、合理的な根拠がない広告(不実証広告)は、排除措置命令との関係では優良誤認であると擬制され(7条2項)、課徴金納付命令との関係では優良誤認であると推定される(8条3項)。合理的な根拠の判断方法については、ガイドラインがある(不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針)。
7条2項 内閣総理大臣は、前項の規定による命令〔措置命令〕に関し、事業者がした表示が第五条第一号〔優良誤認〕に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。8条3項 内閣総理大臣は、第一項の規定による命令(以下「課徴金納付命令」という。)に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示と推定する。
表示の定義
「表示」も、2条4項で規定されているが、最終的には内閣総理大臣(消費者庁長官)の指定に委任されている。
2条2項 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
これを受けて、不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件第2項が次のように指定している(番号および下線は引用者)。
2 法第二条第四項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、次に掲げるものをいう。一 商品、容器又は包装による広告その他の表示及びこれらに添付した物による広告その他の表示二 見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものを含む。)及び口頭による広告その他の表示(電話によるものを含む。)三 ポスター、看板(プラカード及び建物又は電車、自動車等に記載されたものを含む。)、ネオン・サイン、アドバルーン、その他これらに類似する物による広告及び陳列物又は実演による広告四 新聞紙、雑誌その他の出版物、放送(有線電気通信設備又は拡声機による放送を含む。)、映写、演劇又は電光による広告五 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)
指定類型とそのガイドライン
(消費者法メモに記載していたものを分割。資料および関係記事についてはそちらを参照。)