早稲田大学法科大学院 定期試験 2019年秋学期 民法総合II

(素点:69/70, 評価:A+)

 

小問1(不貞行為、離婚についての損害賠償請求)(A)

1 不貞行為を理由とする損害賠償請求

(1) 婚姻の当事者の一方の不貞行為は、離婚原因とされており(770条1項3号)、法律上保護される利益(709条)である。不貞行為は、配偶者の上記利益を侵害するものであるから、不貞行為の相手方も、故意・過失がある限り、不法行為責任を負う*。

 DはAによる不貞行為に応じたものであるが、Aに妻があることを知っていたから、損害賠償義務を負う。

(2) もっとも、不法行為に基づく損害賠償義務は、被害者が損害と加害者を知ってから3年で消滅する(724条1項)。Bは2020年8月までにA, Dの関係を知っていたから、2023年8月までに時効が完成している。

 したがって、Dの消滅時効の援用がある限り、Aの請求は認められない。

*不貞行為の相手方に対する請求について、学説は要件を限定すべきとするのが一般的であるが、ここで限定してしまうと、特に限定を加えない従来の判例の上に積み重ねられた後掲の最判平成31年2月19日が使えなくなってしまうし、そもそも限定しなかったところで時効消滅しているので、特に言及しなかった。

不法行為者としての固有の責任なのか、共同不法行為者としての責任なのかが気になったが、よくわからなかったので、言及しなかった。

2 離婚を理由とする損害賠償請求

(1) 不貞行為を理由とする損害賠償請求と別に、離婚を余儀なくされたことを理由とする損害賠償請求も考えられる。しかし、不貞行為が直ちに離婚につながるわけではなく、むしろ、配偶者としては、不貞行為があったことを含む諸事情を考慮して、自由意思により、協議離婚を申し出、あるいは離婚調停・離婚訴訟を提起するものである。このことからすれば、不貞行為の相手方が婚姻関係を破綻させる意図を有していたなどの特段の事情がない限り、不貞行為の相手方は、不法行為責任を負わないと解するべきである*。

 Dにつき、上記特段の事情に当たるような事実は認められず、むしろ離婚がされたのはA, D間の関係が解消されてから5年が経ったあとのことであったことからすれば、不法行為は成立しない。

 したがって、Aの請求は認められない。

*最近離婚は原則ダメという判例が出たな、という程度の記憶しかなく、もちろん百選にも載っていないので、規範と理由は適当に考えた。

なお、その判例最判平成31年2月19日民集73巻2号187頁)は、次のように述べている。

「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
 したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
 以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」

体系的な位置づけがよく分からなかったが(因果関係の相当性っぽいけど、因果関係を事実の問題とする有力説に従えば、貞操に対する権利のようなものが第三者との関係でも保護に値するかという問題?)、言及しなかった。

 

小問2(財産分与の性質)(A)

 財産分与は、審判によるときは、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」定めるものとされており(768条3項)、このことは、協議による場合にも打倒する。そして、この「一切の事情」には、条文上明らかな当事者双方が協力して得た財産の清算(762条2項参照)のほか、慰謝料および扶養料を含めることも差し支えない。

 A, Bの財産分与について、別荘甲は、Aが亡父から相続した固有財産(762条1項)であり、清算の対象となるものではない。また、慰謝料が別に合意されており、その額も300万と、財産分与による補完を必要とするほどに低額であるものでもない。そうすると、甲が別荘という居住用建物であることも併せて考慮すると、専ら扶養料としての性質を有すると考えられる。

 

小問3(別荘甲に付属するブロック塀で負傷した者のA, Bに対する請求)(A+)

1 Bに対する請求

 工作物の占有者・所有者としての責任が考えられる(717条1項)。

 「土地の工作物」について、ブロック塀は土地に定着した人工の構造物だから、これに当たる。

 「保存」の「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠くことをいう。ブロック塀は自身によって倒れたものだが、地震は小規模であり、近隣で他にブロック塀が倒れたところもないのであるから、上記安全性を書いていたものと考えられる。

 「占有者」について、Bは鍵の交付を受けており、物理的に管理が可能となっているから、これに当たる。

 なお、後述のようにAは所有者でもあるから、「損害の発生を防止するのに必要な注意」をしたことを主張しても免責されない。

 したがって、Bに対する請求は認められる。

2 Aに対する請求

 不動産物権変動は、特約がない限り、意思表示によって直ちに効力を生ずるから、財産分与の合意が成立したときに、別荘甲の所有権はAからBに移転しており、先述のように鍵の交付により占有も移転しているから、Aに対する請求は認められないのが原則である。

 もっとも、判例は、土地所有者からの建物収去土地明渡請求について、意思に基づいて登記をした者は、譲渡後も登記名義を有する限り、請求の相手方となることを免れないとした。この射程を検討する必要がある。

 判例は、上記のように解するべき理由として、①建物は土地を離れて存在し得ず、土地所有者は建物の帰属につき重大な利害関係を有するところ、請求の相手方が譲渡による所有権喪失を主張する場面では、あたかも対抗関係に類似すること、②請求を認めなければ、原告は所有者探求の困難を強いられ、一方、被告は意思表示のみで容易に請求を免れることができて、不合理であること、③建物譲渡人が実体関係に沿った登記をすることは、取引慣行にも合致するものであり、困難であるとはいえないことを挙げた*。これらを本件と比較すると、②についてはそのまま妥当し、③もまた、登記を財産分与から2ヶ月も先の12月20日とせざるを得ないような事情も認められないから、妥当するといえる。①については、確かに建物特有の判示であるが、土地の工作物は通常土地の定着物として土地と一体であり(86条1項)、また、工作物による被害者は、取引関係などとは異なり、被害が生じるまで、工作物の所有者について無関心なのが通常であり、登記を手がかりにせざるを得ないことから、同様に工作物を一体として含む不動産の帰属につき重大な利害関係を有するものと考えられる。そうすると、判例の事案と同様に、土地所有者として登記されている者に対する請求も認めるべきである。

 意思に基づく登記という点も、別荘甲が、Aがが亡父から相続したものであることからすれば、認められるものと思われる。

 したがって、Bが必要な注意を尽くしたと認められるときは、Aに対する請求も認められる**。

*最判平成6年2月8日48巻2号373頁。平成30年司法試験試験で読んだから覚えていた。

**書き終わってから気づいたけど、今回の場合、占有者と所有者がBで一致しているから、Bに対する占有者責任に対して、Bの注意を尽くしたとの抗弁が認められた場合、そのままBに対する所有者責任にスライドすればいいのであって、Aに対する請求を認める実益はないのかもしれない(いきなりAを訴えてもいいけど、請求原因としてBが必要な注意を尽くしていなかったことを主張立証しなければならない?)。

 

小問4(遺言の方式要件)(A)

 自筆証書遺言は、全文、日付、氏名の自書と、押印を要する(968条1項)。財産目録は自筆でなくてよいが、全てのページに押印を要する(同条2項)。Bの遺言は、自筆証書遺言であるが、1項の要件を満たしているから、2項の要件を満たす場合には有効である。

 

小問5(遺言無効時のC, Fの法律関係)

 遺言が無効であることから、法定相続となる。すなわち、C, Fが各2分の1の相続分を有する(900条1号)。甲は不動産であるから、共有となる(898条)。乙は株式であるが、株式は共益権という、分割行使が不可能な権利を含むものであるから、同様に解するべきである。丙は、金銭債権であるが、現在の社会においては金銭と同様に扱われており、分割時における調整に用いる必要も大きいから、同様に解するべきである。CとFは、分割協議・分割審判により、これらを自由に分割することができる。

 ただし、Fは配偶者短期居住権を有する。すなわち、分割により、Cが甲を取得することとされても、Fは配偶者Bの所有する建物甲に、Bの死亡時まで無償で居住していたから、分割または相続開始から6か月の間、甲を無償で使用することができる(1037条1項1号)。Cは、譲渡等により、その使用を妨げてはならない(同条2項)。

 また、CとFは、合意により(1028条1項1号)、Fに配偶者居住権を与えることにより、Fにより強い保護を与えることができる。これにより、存続期間はFの終身とされ(1030条)、登記により第三者に対する対抗力を備えることができる(1031条1項、2項・605条)。

 

小問6(遺言有効時のCのFに対する請求)

1 遺言は、遺言者の意思を尊重して、合理的にその趣旨を解釈すべきである。「相続させる」旨の遺言は、すべての財産を対象とするときは、遺贈と解釈するのと、分割方法の指定と解釈するのとで実質的な差はないが、判例に従い、相続人は遺言がなくても相続人となることから、特に遺言がされた場合には、分割方法の指定と解することとする。この場合には、特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があった財産は、当該特定の相続人に直ちに帰属する*。

 そうすると、甲〜丙は直ちにFに帰属することとなる。

2 そこで、Cとしては、遺留分侵害額請求をすることが考えられる。

 CはBの子であるから、1043条1項の財産の価額に4分の1を乗じた額の遺留分を有する(1042条1項2号、2項・900条1号)。持ち戻されるべき贈与(1044条、1045条)はない。Cも遺贈・贈与を受けていない(1046条2項2号)。したがって、上記遺留分学から法定相続分に応じてCが取得すべき遺産の価額を控除し、それに対応する債務額を加算して得られる遺留分侵害額に相当する金銭の支払いが、Cの請求の内容となる。

*最判平成3年4月19日45巻4号477頁。前提問題な上に時間がなくなってきたのでけっこういい加減…