Tカード関係情報提供事案とGPS判決:個人情報保護法上の問題はなくとも

Update at 2019.12.15: いろいろといい加減なことを書いたが、ALIS(情報法制学会)のタスクフォースでこの問題を検討しており、来年1月にガイドライン案を公表する予定であるとのことである。

→公表されている:一般財団法人 情報法制研究所 報告書・提言・意見


GPS判決を勉強していたところ気になったので、時機に遅れたものの投稿。

 

CCCによるTカード関係情報提供事案

今年1月、次のような事件があった。

コンビニやレンタルショップなど、さまざまな店で買い物をするとポイントがたまるポイントカード最大手の一つ「Tカード」=写真=を展開する会社が、氏名や電話番号といった会員情報のほか、商品購入によって得たポイント履歴やレンタルビデオのタイトルなどを、裁判所の令状なしに捜査当局へ提供していることが二十日、内部資料や捜査関係者への取材で分かった。「T会員規約」に当局への情報提供を明記せず、当局も情報を得たことを本人に知られないよう、保秘を徹底していた。(東京新聞:Tカード情報、令状なく提供 レンタルやポイント履歴 会員規約に明記せず:社会(TOKYO Web)

 

それにより得られた情報は、身体拘束に利用されることもあったようである。

捜査当局はTカードの履歴を対象者の「足跡」として、積極的に活用している。捜査関係者によると、ポイントサービスを展開するCCCへの情報照会は日常的で、一度に数十件の照会をした部署も。数の多さにCCCの回答が遅れがちとなり、利用ルールを守るよう当局内で周知されたこともあった。

捜査関係者によると、捜査関係事項照会はカード番号か、氏名、生年月日などで問い合わせる。一方、特定のレンタルビデオの利用者一覧という尋ね方では回答を得られないという。

ある事件では、捜査担当者が対象者のTカードを照会したところ、ほぼ毎日、同じ時間帯に特定のコンビニに来店し買い物をしていると判明。店の防犯カメラの映像から本人と特定し、待ち伏せして身柄を拘束した。捜査関係者は「ポイントが付くのに、カードを提示しない理由はない」と話す。Tカードを貴重な情報源と位置付けている。(同上)

 

また、別の記事では、「CCCを取材している大手メディアの社会部記者」の話として、次のような報道もされている。

「これは、警察と検察の幹部が両方認めていることですが、レンタル商品名は捜査対象者の性癖を調べるために使われていました。たとえば、痴漢系のAVばかりを借りていたら、この人にそういった行為に興味があるのかもしれないと目星をつけるわけです。出演している女優が極端に若いふりをしている作品や小中学生が水着になっているグラビアものを多く借りていたら、『児童性愛の趣味があるのかもしれない』と、捜査における参考情報にするのです」(「ツタヤで借りたAV」は警察にモロバレ CCC、Tカード情報を警察に横流し (2/3) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 

個人情報保護法上の問題

さて、このような事態の適法性を考えるにあたって、まず検討すべきだと思われるのは、個人情報保護法である。

個人情報保護法は、ざっくり言うと、個人を特定できる情報を「個人情報」と定義し、個人情報を含むデータベースを「個人情報データベース等」と定義し、その構成データを「個人データ」と定義する。その上で、「個人データ」の第三者提供の原則禁止を定めている(23条1項)。

CCCはTカード利用登録時に氏名・住所等を収集し、データベース化し、そこに利用履歴、つまりポイントがいつどの店で何pt付いたのか、支払手段として利用している場合にはいつどの店で何円を支払ったのか、TSUTAYAを利用している場合にはいつどの店でどんなタイトルを借りたのかといった情報を結びつけているものと思われる。【氏名・住所等は「個人情報」だから、それらの情報と利用履歴を含むデータベースは「個人情報データベース等」であり、そこに含まれる利用履歴は「個人データ」である。したがって、利用履歴を、Tカードの利用との関係で「第三者」である警察に提供することは、原則として禁止される「個人データ」の第三者提供に当たる。】この部分は誤っています。調べ直します。

もっとも、個人情報保護法は、第三者提供の禁止の原則に対する例外として、「法令に基づく場合」を定めている(23条1項1号)。捜査関係事項照会は、刑事訴訟法197条2項に基づくものだから、警察の照会が刑事訴訟法の定める要件を満たす限り、それに応じることは正当化される。このことは、(無断を強調する報道もあったようであるが)利用規約への記載とは関係がない。

以上のことは、板倉先生(前掲・プレジデントオンライン)や、個人情報保護委員会Tカード、「個人情報を令状なしで警察に提供」に批判 個人情報保護委員会に問題ないか聞いてみた - ねとらぼ)が取材に対して述べているところである。

 

刑事訴訟法上の問題

しかし、「個人情報保護法をクリアしたのだから終わり」ではない。刑事訴訟法の要件を検討しなければならない。要件を満たさなければ、警察の照会は違法だし、そうである以上、CCCが負う第三者提供をしない義務は解除されず、それにもかかわらず提供することは違法となる(なお、公法関係ではないが、「安易な任意開示をするな、応訴せよ」という考え方を採用した立法例として、プロバイダ責任制限・発信者情報開示法。そのような考え方を採用するとすれば、法律を改正し令状審査を要求することとなろう)。

刑事訴訟法197条2項は、次のように規定している。

捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

この条項は、みんな大好き197条1項の次に置かれているもので、「必要な事項」の「必要な」とは相当性を含む概念である。つまり、具体的状況のもとで、①捜査上の必要性と、②侵害される利益の性質・侵害の程度を比較較量して、①が②に優越すると認められる場合にのみ、「必要な」ものとして、任意処分としての照会が正当化される。なお、2項には1項但書(強制処分)に関する規定はないが、1項であれば強制処分に該当するほどに強度の利益侵害でないかという考慮も、「必要な」ものであるかどうかの判断においてなされるべきものと考えられる。

なお、今回の事例については、次の点に留意しなければならない。すなわち、警察の照会先はCCCであるが、利益衡量の天秤に載せるべきなのは、CCCではなく利用者の利益だという点である(CCCが自己の営業秘密について照会を受ける場合とは異なる)。したがって、対立利益はCCCが同意によって放棄できる性質のものではなく、CCCが任意に(というのは刑事訴訟法用語としてではなく、普通の意味で)照会に応じていることは利益衡量にあたっては関係のない事実である。

 

さて、今回の事例を刑事訴訟法の観点から考えようとするとき、すぐに思い浮かぶのは、GPS捜査に関する最判平成29.3.15 刑集第71巻3号13頁(裁判所 | 裁判例情報/検索結果詳細画面)である。同判決は、連続窃盗事件に関して、警察が捜査対象者やその関係者の自動車等に、隠密にGPSによる位置情報発信機を取り付け、6.5ヶ月にわたってその位置情報を収集したという事例に関するものである。裁判所は、次のように述べて、上記捜査方法は強制処分に当たるとした(なお、捜査関係事項照会は任意処分とするのが一般的であるが、プライバシーの評価のしかたとして参考にはなると思われる)。

「GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。」

憲法35条は,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると,前記のとおり,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる……とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」

位置情報とTカードの利用履歴の違いを考えると、まず、Tカードはレジ等で提示したときにしか使われないから、(判旨が言及するような)継続性・網羅性がないということがある。これは被侵害利益を小さく評価する方向に働く事情である。

しかし、必ずしも被侵害利益が小さいとは言えないように思われる。

位置情報から分かるのは単に「どこにどれくらいいたか」であるのに対して、Tカードの利用履歴から分かるのは、どこで何を買ったかである。生活に必要な支払いのほとんどをTカードで行っている者もいるものと思われるが(政府がキャッシュレス決済を強力に推進していることは周知である)、Tカードの利用履歴を取得されることは、位置情報を取得されることとほとんど同じなのではないか。GPS事件に関して、ラブホテルへの立ち寄りもバレしまうということがある程度意味を持っていたのではないかという考えに(アンオフィシャルな場で)接したことがあるが、それとほとんど同じことが起きうるのではないか(ラブホテルはほとんど利用したことがないのでよく分からないが…)。

また、Tカードの利用履歴の照会が許容されるなら、Suica(どの駅で入出場したかではなく、どの入口から入出場したかというレベルまで記録している)やクレジットカードの照会も許容されるのではないかということになが、それらと組み合わせた場合、特に都市部(2016年のデータであるが、国民の過半数三大都市圏に居住している。総務省「広域連携が困難な市町村における補完のあり方に関する研究会」における資料「都市部への人口集中、 大都市等の増加について」)においては、GPS位置情報を取得される場合とほとんど変わらないことになるのではないか。

さらに、生活に必要な物以外の支払いについてもTカードを利用している者がいると思われるが、そのような消費行動には、生活に必要なものの購入以上にその人の趣味・嗜好・嗜好ひいては人格がより強く反映されるのであり、プライバシー侵害の程度はむしろより大きいとすら言えないか。GPS事件判決は尾行との違いに言及しているが、いくら人員を割いて慎重に尾行しても、いつどこで何を買ったかまで全て記録することはできないだろう。

 

なお、実際には、利益衡量を経るまでもなく明らかに「必要な」事項の照会といえない、つまり天秤の片方に載せるものが何もないような事例もあったようである。

対象者がTカードの会員かどうか分からなくても、氏名などで「取りあえず問い合わせる」ことも可能。そのせいか、各地の捜査当局から大量の照会が寄せられ、CCCが回答するまでに一カ月超かかった例も。この後、当局内では各部署に照会の必要性を吟味し、レンタル履歴の取り扱いには特に注意するよう求める通達が出たという。(前掲・東京新聞

 

GPS判決に関するリファレンス

弁護人だった亀石先生によるものとして

研究者による評釈として

  • 井上正仁・刑事訴訟法判例百選(第10版)64頁
  • 駒村圭吾・平成29年度重要判例解説26頁
  • 酒巻匡・論究ジュリスト30号187頁
  • 笹倉宏紀・メディア判例百選(第2版)220頁
  • 山本龍彦・論究ジュリスト22号148頁

などがある(これからちゃんと読みます…)。