早稲田大学法科大学院 定期試験 2019年春学期 行政法

(素点:73/80, 評価:A+)

 

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掲載する答案は裁量に関する設問6の部分のみ。

(1)で要件不充足、(2)で効果裁量を前提に比例原則違反・判断過程の合理性欠如を主張すべきとしたが、解説で指摘されているとおり、効果裁量における比例原則違反・判断過程の合理性欠如の評価を基礎づける事実は、全て要件充足性の前提となる指導の必要性を消極に基礎づけるものとして評価できるため、(2)は不要である。私の答案では、(2)で(1)の事情と評価を引用しており、このことはまさに、「効果裁量における比例原則違反・判断過程の合理性欠如の評価を基礎づける事実が、全て要件充足性の前提となる指導の必要性を消極に基礎づけるものとして評価できること」を意味するのであるが、自覚していなかった。

もっとも、解説で元ネタとされているさいたま地判平成27.10.28や、類似の事案である福岡地判平成21.5.29も、効果裁量を前提とした検討をしている。最近の比較的大規模な庁の裁判官ですら混同しているのだから許してほしい…

念のため整理しておくと、「①指導が「生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な」ものである(27条1項)→②指導に従う義務が生じる(62条1項)→③従わなかったとき保護の変更等の処分ができる(同条3項)」という構造になっているため、指導が①の要件を満たさない場合には、その指導は違法であり、②の義務を発生させず、したがって、それに従わなかったとしても③の要件である義務違反を充足しない、という流れである。

 

答案

(1) 要件不充足
ア まず、Xの代理人は、本件指導は「必要な」ものではなかったから、Xに従う不義務はなく(法62条1項、27条2項)、したがって本件処分は、同条3項の義務違反の要件を欠くと主張すべきである。
イ ここで、裁量が認められないかを検討する。同項は、義務違反を規定しており、形式的に見て裁量の余地はない。実質的にも、同項に基づく処分は、不服従に対する制裁的性格があること、これにより被保護者は保護を受けられなくなり、憲法上保障された健康で文化的な最低限度の生活ひいては生命すら脅かされるおそれがあることから、裁量を認めるべきでない。
ウ 指導等は、保護の目的達成のためにされるものであるが(法27条1項)、保護の目的とは、最低限度の生活の維持である(4条参照)。
 ここで、Y市は、問題文にいう主張の要点(1)〜(3)の主張をすると考えられる。X代理人としては、次のように反論すべきである。
(ア) (1)の主張について。法4条1項にいう活用とは、交換価値としての保有を含まないとの解釈は正当であるが、居住用不動産の交換価値を新たな居住用不動産の取得に用いることは、実質的には居住用不動産を保有し続けるのと経済的に見て異なるところがない。実際にも、Xは売却額の大部分を代金・仲介手数料等にあてており、交換価値として保有したとはいえない。
(イ) (2)の主張について。Xは腎機能障害やてんかんのため就労できない長男Aと同居し、慢性便秘症、低血圧症、両変形性膝関節症、自律神経失調症、末梢性神経障害、過換気症候群および逆流性食道炎という多数の疾病を抱え、さらに、交通事故にあったことにより、腰椎が潰れ、膝に亀裂が入り、歩行が困難となり、ただでさえ2時間もかかっていた通院がさらに困難となり、途中で救急搬送されたこともあるという劣悪な生活環境にあった。この状況は、「最低限度の生活」を遥かに下回るものであり、通院の困難の解消という消極的な目的で買い替えをしたことは、最低限度の生活の維持のために必要な行為にすぎない。
(ウ) (3)の主張について。問答集問3-1は、自由に処分可能な資金があるときに、これを使用して居住用の土地等を購入した場合を想定したものであり、買い替えの場合には妥当しない。Xの資金は現に保有する居住用建物を売却してえられたものであったこと、買い替えには(イ)に述べたような事情があったことからすると、マンションの購入は、最低限度の生活の維持のためにされたにすぎない。
 したがって、指導には必要性がなく、これに従わないことは法62条1項の義務に違反せず、3項の要件を満たさないから、本件処分は違法である。
(2) 比例原則違反・判断過程の合理性欠如
ア 次に、Xの代理人は、要件係に満たされるとしても、効果の選択につき違法があると主張すべきである。
イ 裁量が認められないかを検討する。法62条3項は、変更、停止、廃止の要件を区別せず、また、「できる」の文言を用いているから、形式的に見て裁量の余地がある。実質的にも、同項に基づく処分は、不服従に対する制裁的性格があること、これにより被保護者は保護を受けられなくなり、憲法上保障された健康で文化的な最低限度の生活ひいては生命すら脅かされるおそれがあること、それらへの配慮は、ケースワーカーなど福祉事務所等で直接に被保護者と接する職員から得られる情報に基づき、具体的事情に応じてすることで最もよくなしうるものであることから、同行は、要件が満たされる場合にも、処分をするかどうか、するとしていずれの処分を選択するかにつき、福祉事務所長等に裁量を与えたものと解される。
ウ 裁量処分は、その逸脱・濫用があるときは違法として取り消される(行訴法30条)。比例原則違反や、考慮すべきでない事情を考慮し、考慮すべき事情を考慮せず、あるいは過大・過小に評価するなどしたことにより、判断過程が合理性を欠くことは、裁量の逸脱・濫用として違法事由を構成する。
エ 本件処分につき、Xには(1)ウ(ア)〜(ウ)に述べたような事情があった。これらは処分にあたって考慮されるべきものである。にもかかわらず、Y市は買い替えを要した事情を「より利便性の高い生活…を得るため」と誤って評価し、また、交換価値の保有や買い替えにより困窮した場合と誤って同視した。したがって、本件処分は、判断過程の合理性を欠き、違法である。
 また、これらの事情は、処分の選択にあたっても考慮すべきである。これらの事情に照らせば、Xの行為は悪質なものではなく、直ちに変更ではなく停止を選択したことは、比例原則に違反する。