民法改正の民事訴訟法への影響:債権者代位訴訟・詐害行為取消訴訟

民法改正が民事訴訟に与える影響は、実質的には、債権者代位訴訟・詐害行為取消訴訟に限られます*。この論点について、文献の紹介&考えたことを書いておきます。

*軽微な影響として、訴状提出による時効中断が時効の完成猶予と更新になること、基準事後の錯誤主張がいわゆる「基準事後の形成権行使」の問題となること、詐欺取消しの論証において「より強力な効果をもたらす錯誤無効ですら遮断されるのだから」と言うことができなくなったことが挙げられます。

 

伊藤眞「改正民法下における債権者代位訴訟と詐害行為取消訴訟の手続法的考察」金法2088号36頁以下

この論文は、上記論点について民事訴訟法の立場から包括的な検討を加えるもので、民法改正への民事訴訟法への影響を知りたい学習者にとって、最も読むべき文献であると思われます。以下にこの論文を読んだときのノートを掲載しておきます。★は必ずしも通説的ではない主張。[]内はメモです。

なお、債権者代位権・詐害行為取消権については、実体法レベルで様々な変更が加えられているので、この論文を読まれる前に、民法の本で改正の概要を把握されることをお勧めします。私は潮見・プラクティス民法債権総論の4版(現行法)と5版(改正法)が手元にあったので、それを比較しました。また、債権者代位権については債権執行における取立て(民事執行法155条以下)と、詐害行為取消権については否認権(破産法160条以下、民事再生法等127条以下)と比較するとより理解が深まるように思います。

 

判決効の主観的範囲

  • 債権者代位訴訟:民訴法115条1項2号による債務者への拡張。改正民法423条の5は、代位債権者が債権者代位権を行使しても、債務者の管理処分権(→当事者適格)は失われないこととしたが、なお法定訴訟担当構成は維持すべき[現行法下でも、代位権行使は債務名義に基づかず、仮差押の要件も満たされるとは限らないのに、それによって管理処分権を剥奪することには批判があった。改正民法423条の5は、そのような有力説を取り入れたもの]。
  • 詐害行為取消訴訟:改正民法425条による他の債権者・債務者への拡張。
    • ★取消請求権と返還請求権(直接引渡請求権)は別個の訴訟物。取消請求と返還請求(直接引渡請求)を同時に行う場合は、単純併合である。
    • ★返還請求(直接引渡請求)は、取消請求認容判決の確定を条件[停止条件]とする将来給付の訴え。改正民法424条の6、424条の9は、このことを前提に、訴えの利益(民訴法135条)を法定したもの。

 

訴訟参加

  • 債権者代位訴訟
    • 現行法下の議論
      • 債務者の別訴提起は、①債権者代位権の行使により管理処分権ひいては当事者適格が失われ(判例)、また、②民訴法142条との関係で、法定訴訟担当であることから債権者と債務者が実質的に同視されることから、不適法。債務者の共同訴訟参加は、上記①から不適法。他の債権者は共同訴訟参加できる。
      • なお、債務者による訴訟が係属している場合:③債権者代位権の実体法上の要件として債務者が権利を行使していないことが必要である(改正前後を通じての通説)。そのため、この場合、債権者には当事者適格がない。したがって、債権者は別訴提起も共同訴訟参加もできない(このことは改正法下でも変わらない)。
    • 改正民法
      • 債務者の別訴提起は、上記①は妥当しなくなるが、上記②がなお妥当するため、なお不適法。
      • 債務者の共同訴訟参加は、適法(改正民法423条の5)。
      • 債務者が共同訴訟参加した場合、上記③から、代位債権者の請求をどうするかが問題となる。★共同訴訟参加の申出だけでは債務者による権利行使があったと見るべきではなく、事実審口頭弁論終結まで請求を維持した場合に債務者による権利行使があったと見て、代位債権者の請求を棄却し[却下ではなく棄却になる理由はよくわからない]、債務者の請求を認容すべき。
      • 他の債権者の共同訴訟参加は、適法。両原告に請求認容判決をする。
  • 詐害行為取消訴訟
    • 他の債権者:共同訴訟参加が可能。補助参加も可能[なお、共同訴訟参加が可能な場合に補助参加がされた場合、判例は、共同訴訟的補助参加として扱わないとする。学説は反対が多数]。
    • 債務者
      • 詐害行為取消請求権は各債権者の権利である。そのため、債務者の別訴提起は考えられない。共同訴訟参加も同様。
      • 補助参加は、受益者側(取消しにより受益者から請求を受けることを回避することにつき補助参加の利益あり)、債権者側(責任財産の回復につき補助参加の利益あり)のどちらでも可能。共同訴訟的補助参加となる。

 

訴訟告知の目的と効果

  • 一般論
    • 訴訟告知は、告知者の利益保護を主目的とするが、同時に被告知者の利益保護機能も有する。
    • 法が訴訟告知を義務付ける場合、被告知者の利益保護を重視する[告知者の利益のために告知が必要である場合は、告知者は告知するだろう。被告知者の利益のために告知が必要である場合は、そうはならないだろう。そこで、法で強制する必要がある]。
  • 債権者代位訴訟:既判力の両面的拡張、共同訴訟参加ができることから訴訟告知が必要となる(株主代表訴訟に関する会社法849条4項と同じ)。訴訟告知を欠く場合、訴えが不適法。
  • 詐害行為取消訴訟:補助参加の機会を与えるために訴訟告知が必要となる。★訴えを不適法とする必要はない。

 

まとめ

別訴提起・訴訟参加についてまとめると、こんな感じでしょうか(整理のため、実際には使われなそうな参加形態もあえて補って書きました)。なお、この表は全面的に伊藤論文のみに準拠しています(2020.2.22に置換)。

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保全債権を争うための独立当事者参加の可否について(2020.2.22追記)

  • 債権者代位訴訟が提起された場合に、債務者が被保全債権を争おうとする場合、独立当事者参加を認めるのが現行民法下の判例です最判昭和48年4月24日民集27巻3号596頁)。伊藤先生を含めて、一般的な民事訴訟法学説は、これを権利主張参加として説明しています、伊藤先生は、このことは改正民法下でも変わらないとします(改正前について伊藤眞『民事訴訟法 第5版』(有斐閣、2016)676頁)。改正後について伊藤論文44頁注28。上の表もこれに従っています)
  • もっとも、これには異論があります。菱田先生は、債権者と債務者で行使する権利は同一なのだから、非両立性が認められず、「判例の処理を説明するとすれば、Ⅹ〔注:原告、債権者〕の訴えとZ〔注:参加人、債務者〕の訴えは一方が当事者適格を満たさないという理由で却下されざるを得ず、双方の請求が同時に認容されるということはないという意味での両立不可能性は認められるという点に着目して、〔民事訴訟法〕47条を類推適用したもの」とします(三木浩一ほか『民事訴訟法 第2版』(有斐閣、2015)577頁以下〔菱田雄郷〕)判例は、(権利の非両立がなくても)当事者適格の非両立の場合には権利主張参加を類推適用することとしたというわけです。
  • 菱田説の指摘を受け入れる場合、改正法下では問題が生じえます。菱田先生の説明は、債務者が代位債権者の権利行使を知ったときは、管理処分権を失うという現行民法下の判例(大判昭14年5月16日民集18巻557頁、前掲最判昭48年4月24日)を前提としています。これに対して、改正民法下においては、代位債権者が債務者の権利を行使したとしても、あるいは債務者がそのことを知ったとしても、あるいは代位債権者による訴訟告知(改正民法423条の6)がなされたとしても、債務者は被代位権利の管理処分権を失わないこととなりました(同法423条の5)。つまり、当事者適格の非両立という改正法下では妥当しないことになり、改正法下では独立当事者参加はできないと解すべき余地が生じます。
  • これに対して、山本先生は、片面的な当事者適格の非両立をもって独立当事者参加ができるという解釈を述べているようです(山本和彦「債権法改正と民事訴訟法ー債権者代位訴訟を中心に」判時2327号119頁以下。データベースになく、大学図書館も閉まっているので読めていませんが…)
  • なお、仮に独立当事者参加はできないと解するとしても、改正民法下では、債務者が被代位権利の管理処分権を失わない結果、共同訴訟参加をすることができます。そして、参加がなされた場合には(あるいは伊藤論文によればその後口頭弁論終結まで請求が維持された場合には)、代位債権者による権利行使は、債務者が自ら権利を行使していないことという、改正の前後を通じて要求される債権者代位権行使のための実体法上の要件を満たさないことになり、請求は棄却されます(というのが伊藤論文の説明ですが、個人的には債権者代位権行使の要件を満たさないということは、訴訟担当者としての当事者適格、すなわち訴訟要件の一つが認められないことになるのだから、棄却ではなく却下されるのではないかと思います)
  • もっとも、仮に「共同訴訟参加で同じことができるのだから、独立当事者参加ができなくてもよいではないか(改正によって類推適用する必要性がなくなったのだ)」という主張をするとすれば、「それでは債務者は権利行使を強制され、被保全権利の不存在を証明したのに管理処分権の制約が解消されておらず不都合ではないか」という批判がありうるように思います(調べたわけではないですが)。これに対しては、独立当事者参加する場合であっても、通常は原告に対する被保全権利の不存在確認に加えて、被告に対する給付請求を定立するのだから、あまり違いがないのではないかという反論が可能であるように思います。