令和元年 予備試験 論文式 再現答案 実務基礎刑事

(評価:B[民事と包括])

1 設問1
 罪証隠滅のおそれは、想定される具体的な罪障隠滅行為を前提に、その客観的及び主観的な可能性を考慮して判断する。
 Aについて、接見を禁止しない場合、仲間を通じて、Bに口裏合わせを要求することが考えられる。客観的に見て、AとBは、中学校の先輩と後輩であり、Aには仲間がいるから、その可能性がある。また、主観的に見ても、Aは、執行猶予中であるから、罪証隠滅の動機があり、また、Aは、犯行の翌日に、Bに対して、前日にカラオケ店にいたことにするという嘘をつくことを持ちかけており、その可能性がある。
 したがって、罪証隠滅のおそれがある。
2 設問2
 Aについては間接証拠、Bについては直接証拠に当たる。
 直接証拠とは、犯罪事実を直接に証明する証拠をいう。間接事実とは、ある事実を証明することにより、その事実を通じて、犯罪事実を間接的に証明する証拠をいう。
 ③の警察官面前の供述調書は、2人組の男が別の男に本件被疑事実と同様の暴行を加えるのをWが目撃したこと、2人のうち1人の顔がWからよく見えたこと、警察官が示した20枚の写真の中からその男としてWが選んだのが、Bであった事を内容とする。ここから、Bが本件被疑事実を行ったことを証明することができるが、2人組のうちもう1人の男が誰であるかは明らかでなく、Aであるとは推認できない。
3 設問3
(1) 傘による暴行について
 1回目については、Aが歩いていたところ、いきなり後ろから何者かから肩を手で掴まれたので、驚いて勢い良く振り返ったところ、手に持っていた傘の先端が、偶然Vの腹部に一回当たったものであり、暴行の故意に欠ける。
 2回目については、Aは、これを行っていない。
(2) 蹴る暴行について
 Aは、傘が当たったことに腹を立てた部位が、拳骨で殴りかかってきたので、自分がやられないように、足で部位の腹部を蹴り、それでもVが「謝れよ」などと言いながら、両手で体の両肩を掴んで離さなかったため、Vから逃げたい一心で、さらにVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴ったものである。この行為は、急迫不正の侵害すなわち差し迫った法益侵害行為に対し、自己の身体の安全という権利を防衛するため、やむを得ず、すなわち取りうる防衛手段の中で必要最小限度のものとして行ったものであるから、違法性が阻却される(刑法36条1項)。仮にVがそのような行為を行っていなかったとしても、Aがそのように認識していたのであるから、故意が阻却される。
 また、やむを得ずにしたものでなかったとしても、過剰防衛(同条2項)または誤想過剰防衛(同項準用)として、刑が減軽される。
4 設問4
 弁護士職務基本規程5条は、真実義務を規定する。Aの弁護人が、接見において、Aから、真実、VやWが言う通りの暴行を加えたことを聞かされたにもかかわらず、無罪を主張することが、この義務に違反しないかが問題となりうる。
 しかし、刑事弁護において、弁護士は、最善弁護義務を負い(同規程46条)、また、5条は、防御権および弁護権を侵害しないものとして解釈すべきことが規定されている(同規程82条1項)。実質的にも、現在の刑事司法においては、弾劾主義が採用され、検察官に強力な捜査権限を与えるとともに、主張立証責任を負わせるものとされているのだから、弁護人は、積極的な真実義務を負わないと解釈すべきである。
 したがって、無罪を主張すること自体は、同規定5条に違反しない。
5 設問5*
 ⑬の検察官面前の弁解録取書を取調請求すべきである。弁護人が同意しなかった場合には、刑事訴訟法321条1項2号の検察官面前調書として取調請求すべきである。
 公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることは、原則として許されない(刑訴法320条1項)。この規定は、公判期日外の供述を内容とする書面を証拠とすると、その知覚・記憶・叙述における誤りを、反対尋問によって排除することができないから、類型的に証拠能力を否定したものである。そうすると、同項によって禁止されるのは、その内容の真実性が問題となるものに限られる。弁解録取書は、Aの犯行を証明しようとするものであるから、その真実性が問題となり、原則として禁止される書面に当たる。
 検察官面前調書は、供述者が公判において相反する内容の供述をした場合において、相対的特信情況があるときに、証拠能力が認められる(刑訴法321条1項2号)。
 Bは、弁解録取書において、本件被疑事実を認めている。その後、Aの本件被告事件の審理において、Aが何をしていたのかわからない旨の供述をしている。
 これらは相反する。また、Bは、Aやその仲間による報復をおそれており、このために、Aの面前では、証言をしなかったものと考えられる。したがって、公判期日における供述よりも、弁解録取書のほうが信用できる。
(2020 characters)

 

*一瞬328条(証明力を争うための証拠)かと思ったが、無を弾劾しても(=Bの知らないという証言を弾劾して、知っているということを証明してみても)意味がないので、使わなかった。