令和元年 予備試験 論文式 再現答案 民法

(評価:A)

1 設問1
(1) Cこそが本件土地所有者であるとの主張について
ア Aは、平成20年4月1日、本件土地をCに贈与したから、Cは所有権を取得した(176条)。
イ もっとも、所有権の取得を第三者に対抗するためには、登記を備えなければならない(177条)。第三者とは、登記がないことを主張するにつき正当な利益を有する者をいう。単なる悪意者はここに含まれるが、背信的意図を有する場合には、自由競争を逸脱するものであるから、排除される。
 Dは、Aの相続人(包括承継人)であるBから、抵当権の設定を受けた。Dは、Cが本件建物を所有していることを知っていたが、本件土地については無償で借りている(使用貸借)にすぎないと説明されていた。したがって、悪意ではなく、背信的意図もなかった。
 したがって、Cは、抵当権設定登記を有するDに、抵当権の負担のない所有権の主張をすることはできなかった。
 そして、Dは、自らが抵当権者となっていた抵当権に基づいて申し立てられた競売において、自ら買受人となり、所有権を取得した(民事執行法188条・79条)。抵当権は、潜在的に、買受人のもとで実質的に所有権に転化する性質を有するから*、抵当権者に対抗できない権利は、買受人にも対抗できないものと解される。したがって、買受人としてのDにもこの主張をすることができない。
(2) 占有権原の主張について
 この主張は、法定地上権(388条)をいうものと考えられる。
ア 「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する」について。抵当権設定時、Cは本件土地と本件建物を所有していた。
 もっとも、Cは、本件土地について登記をしていなかった。しかし、土地上に建物がある場合、地上建物所有者は、仮に土地所有権を有しないとしても、賃借権または地上権を有しているのが通常であり、底地について抵当権の設定を受けようとする者は、それを予測し、それらの占有権原による負担を割り引いて担保価値を算定することができる。実際にも、Dは、対抗力のある借地権の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価している。したがって、底地について登記をしていなかった場合でも、法定地上権を認めても底地抵当権者を不当に害することはないから、この要件を満たすと解するべきである。
イ 「その土地又は建物につき抵当権が設定され」について。Dは本件土地について抵当権の設定を受けた。
ウ 「その実行により所有者を異にするに至った」について。本件土地の抵当権の実行としての競売により、Cが本件建物を所有する一方、Dが本件土地を所有することとなった。
 したがって、法定地上権が成立する。Cの主張は認められる。
2 設問2**
(1) 債務者また抵当権設定者でない者が、抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は時効消滅する(397条)。この規定は、債務者・抵当権設定者が自ら時効取得による抵当権消滅を主張することを排除したものである。
 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する(162条2項)。
(2) ところで、自己物を時効取得することができるか。文言からは、消極にも解される。しかし、取得時効制度の趣旨は、永続した事実状態を法律上も権利として保護することにあり、このことからは、他人物と自己物とを区別する必要はない。したがって、他人物は典型例に過ぎず、積極に解するべきである。
(3) 162条2項の要件該当性を検討する。
ア 平穏、公然、善意については、推定される(186条1項)。実際にも、CはAがほとんど利用していなかった更地を贈与され、本件建物を建築したのであるから、これらは認められると考えられる。
イ 無過失について、過失を基礎付けるような事情はない***。
ウ Cは、平成20年8月21日の占有開始から10年の平成30年8月21日まで、本件建物を所有することにより、本件土地を占有した。
 したがって、時効取得が認められる****。
(4) Cは本件建物について登記を有していないが、時効取得を主張できるか*****。時効取得は原始取得であるが、取得者とそれにより権利を失う者との間には、実質的には物権変動当事者としての関係がある。また、時効取得者は、紛争が顕在化するまでは時効取得に気づかないのが通常であるから、登記を求めれば、取得時効制度を認めた趣旨を没却してしまう。したがって、時効取得は登記なくして主張できるものと解するべきである。
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*抵当権者に対抗できないものは買受人にも対抗できないということを言いたくて適当に考えた。
**最初本当に何を書けばいいのかわからなくて困った。終了30分前、焦燥感が高まる中条文を眺めていたら、397条があることに気づき、「時効だ」と叫びそうになった。
***一瞬188条(占有物について行使する権利の適法の推定)が浮かんだが、取引による取得を保護する即時取得(→前主の占有が適法であるかが問題)については適用があるが、占有時効取得(→自己の占有が適法であるかが問題)については適用がない。
****抵当権の負担がなくなるということをはっきり書いたほうがよかったかも
*****ここで挙げた根拠は、時効完成後の第三者との関係でも妥当する(実際、その意味で時効完成前後の取扱いの違いについて判例は理論的に破綻しているという議論がされている)ものなので、「少なくとも時効完成前の第三者に関する限り」と留保するなり、はじめから議論のターゲットを「時効取得前の第三者は177条の第三者にあたるか」みたいに設定するなりすべきだった。