平成30年 予備試験 論文式 再現答案 刑法

(評価:C)

1 甲が預り金を引き出した行為について.
 この行為に業務上横領罪(253条)が成立するか.
 「業務上」とは,行為の主体が社会生活上反復してその行為を行う者であることをいう.甲は投資会社の準備としてVから500万円を預かったものであり,この要件を満たす.
 「自己の占有する他人の物」とは,占有離脱物横領罪(254条)との関係上,委託に基づいて自己の占有する他人の物をいうと解される.500万円は,Vが甲に投資を委託し,そのために500万円を預けたものであり,この要件を満たす.
 「横領した」とは,不法領得の意思,すなわち,委託の趣旨に反し,所有者でなければできない処分をする意思を発現する一切の行為をいう.500万円は投資目的で預かったものであるところ,甲が自己の借入金を返済するために定期預金を解約したことは,この要件を満たす.
 したがって,甲に業務上横領罪が成立する.
2 甲と乙がVに念書を書かせた行為について.
(1) この行為に強盗利得罪(236条2項)の共同正犯(60条)が成立するか.
 共同正犯の取扱いの根拠は,彼らが相互に利用・補充しあって各自の犯罪を実現することにあるから,その要件は,共謀と,これに基づく実行であると解する.
 甲は,乙の提案に応じて念書を書かせることを合意しているが,その利益は甲に帰属すること,乙は,念書を書かせることを提案していることから,共謀があったといえる.
 「暴行又は脅迫を用いて」(236条2項・同1項)とは,窃盗や恐喝であっても通常暴行または脅迫を伴うことから,財物奪取に向けられた相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫をいうと解される.甲と乙は,サバイバルナイフを示しながらVに念書を書くように言っており,さらに,乙は,Vの喉元にサバイバルナイフを突きつけており,これはVの反抗を抑圧するに足りる程度の暴行であるといえるから,この要件を満たす.
 「財産上不法の利益を得」とは,事実上利益を得させればよいが,具体性・確実性を要すると解される.甲と乙は預り金500万円について債権放棄させる念書を書かせており,具体性がある.また,念書は後にVから預り金の返還を請求されたとき,証拠として用いることができるから,一定の確実性がある.したがって,この要件を満たす.
 これらの行為は前記共謀の内容を実現するものである.
 したがって,甲と乙に強盗利得剤の共同正犯が成立する.
(2) この行為に私文書偽造罪(159条)の間接正犯の共同正犯(60条)が成立するか.
 甲と乙は,2(1)に述べたVに債権放棄をさせる共謀をなすにあたって,Vに念書を書かせることによってこれを行うことを合意しているから,文書偽造罪についても共謀があったといえる.
 刑法は多くの構成要件について,自手実行を想定している.しかし,実行行為とは,構成要件に該当し,結果発生の現実的危険性を伴う行為をいうところ,他人に行為を行わせる場合であっても,その者がその他人を支配する意思があり,実際にその他人を支配して行わせといえる場合には,自らこれを行ったものと同様に評価することができる.甲と乙は,サバイバルナイフでVの意思を抑圧して念書を書かせているのだから,Vを支配する意思があり,実際にそのVを支配している.
 「行使の目的で」とは,偽造した文書を真正なものとして使用することをいう.念書は債権放棄の証拠として用いられるものであるから,この要件を満たす.
 「他人の…署名」について,Vが作成したのは念書であるから,署名がされており,この要件を満たす.
 「権利,義務…に関する文書」について,念書は債権の不存在を証明する文書であるから,この要件を満たす.
 「偽造し」とは,作成者と名義人の同一性を偽ることをいう.念書の作成者は,実質的には甲と乙であるが,名義人はVであるから,この要件を満たす.
 これらの行為は前記共謀の内容を実現するものである.
 したがって,甲と乙に私文書偽造罪の共同正犯が成立する.
3 乙がVの財布から10万円を抜き取った行為について.
(1) この行為に乙に強盗罪(236条1項)が成立するか.
 「暴行又は脅迫」の意義は2(1)に述べたとおりである.乙がVに対して「迷惑料として俺たちに10万円払え」と言ってサバイバルナイフをVの喉元に突きつけた行為は,財物奪取に向けられた暴行であるといえるから,この要件を満たす.
 「強取」とは,相手方の意思に反する財物の占有移転をいうところ,甲がVの財布から10万円を抜き取った行為は,Vの意思に反する財物の占有移転であるといえるから,この要件を満たす.
 したがって,乙に強盗罪が成立する.
(2) この行為が甲に帰責されるか.
 甲は,念書を書かせることを合意した際に,「ただし,あくまで脅すだけだ.絶対に手は出さないでくれ.」と言っていることから,迷惑料の強取について共謀はない.また,念書を書かせたあと,乙が甲に「迷惑料の10万円も払わせよう.」と提案したのに対して,「もうやめよう.手は出さないでくれと言ったはずだ」と言って断っており,さらに,乙の手を引いてV方から手を引いて外へ連れ出した上,乙から同ナイフを取り上げて去っていることから,新たな共謀があったともいえない.
 したがって,この行為について甲に犯罪は成立しない.
4 罪数
 以上より,甲と乙に強盗利得罪の共同正犯と私文書偽造罪の共同正犯が成立し,これらは観念的競合となる.乙にはさらに強盗罪が成立し,前二者と併合罪の関係に立つ.

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