早稲田大学法科大学院 2019年度入試(2018年8月実施) 民法 再現答案

(評価:問題1;60/75点、問題2;42/75点)

問題1 

現行法に基づいて解答する. 

1 問題1(1)について 

(1) Eは甲土地の抵当権を有するか.AはCの親権者であり,子Cの代理権を有する(824条本文)から,本件抵当権は有効に設定されたものとも思われる. 

しかし,本件抵当権は,Aを主債務者とする貸金債権を被担保債権とするものであるから,利益相反で代理権が制約される(826条1項)のではないか.同項は子の利益を図るものであるが,利益相反の判断において親権者の意図まで考慮するとすれば,相手方に不測の損害を与えるおそれがある.したがって,同項の利益相反は,客観的事情から明らかなもののみをいうと解するべきである. 

本件抵当権のような物上保証においては,一般に,主債務者は融資を受ける機会が増えるという利益を受けるのに対し,物上保証人は何ら利益を受けず,専ら不利益のみを受ける.したがって,Aを主債務者とする債務をBが物上保証することは,客観的に見て利益相反にあたり,Aはこれについて代理権を有しない.本件抵当権の設定は,無権代理(113条以下)によるものであり,Cに効果が帰属しない. 

(2) もっとも,Aが死亡し,Cが単独で相続したため,CはAの地位を包括的に承継したから,Cは上記無権代理行為の自己への効果不帰属を主張できないのではないか.これについて,資格融合説は主張できないという.しかし,帰責事由もないのに,本人が無権代理人をたまたま相続したというだけで効果不帰属を主張できなくなるのは,本人たる相続人にとって酷であるし,また,相手方の取消権(115条本文)を奪うため,妥当でない.資格併存説のいうように,主張できると解するべきである.もっとも,主張が信義則に反するような事情がある場合には,個別的に,主張できないと解するべきである.本件では,そのような事情がないから,本件抵当権の設定について,Cは自己への効果不帰属を主張できる. 

もっとも,無権代理人は,履行または損害賠償の責任を負う(117条1項).Cはこの義務を相続するのではないか.しかし,前者については,本人たる相続人はこれを履行しなくれもよいと解する.これを肯定すれば,上記の資格併存とした解釈が無意味になるからである.これに対して,後者については,本人たる相続人もこれを履行しなければならない.Cがこれを免れたければ,相続放棄をすればよい. 

2 問題1(2)について 

Cは,自らの甲土地に対する所有権に基づく妨害排除請求権として,Eに対する抵当権設定登記抹消請求権を主張するものと考えられる.これに対して,Eは,(1)の場合と異なり,客観的な利益相反がないから,Cに本件抵当権の設定の効果が帰属すると反論するものと考えられる. 

しかし,本件では,Aは,Dとの関係の維持という不当な目的のために代理権を行使している.このような,代理権濫用の場合,代理人の意思と,本人の合理的に推定される意思とが異なる点で,心裡留保に類似する.したがって,93条ただし書を類推するべきである.すなわち,相手方が代理人の不当な目的を知り,または知ることができた場合には,代理行為の効果は本人に帰属しないと解する. 

本件では,Dを主債務者とする貸金債権について,血縁関係もない未成年Cが,代理によって,物上保証をしており,いかにも不自然である.金融機関であるEは,当然,事情を調査すべきであって,それが困難であったという事情もない.そうであるにもかかわらず,Eは調査を怠ったものである.したがって,EはAの不当な目的を知ることができたものであるから,本件抵当権の設定の効果は,Cに帰属しない. 

したがって,Cの請求は認められる. 

問題2 

現行法に基づいて解答する. 

1 譲渡担保の法的性質 

譲渡担保は,あくまで所有権移転の形式を取るものであるから,譲渡担保権者は,所有権を有すると解するべきである.もっとも,譲渡担保は,担保の目的でされるのだから,譲渡担保権者が私的実効として目的物を第三者に売却する場合,被担保債権以上の代金を保持することは正当化されない.したがって,被担保債権と代金の差額を設定者に引き渡すか,それがない場合にはその旨の意思表示をしなければならず,これをしない間は,当該第三者は完全な所有権を取得しないと解するべきである. 

2 問題2(1)について 

Cは乙の所有権を有するか. 

乙について,Cへの譲渡時に,既にBへの譲渡担保がされていたから,二重譲渡にあたり,後に引渡しを受けたCは無権利なのではないか.しかし,乙は動産であるから,即時取得(192条)の適用がある.「取引行為によって」について,問題文から事情が明らかでないが,コーヒー焙煎機の譲渡であるから,通常は売買がされたものと考えられる.平穏,公然,善意について,186条によって推定されている.「過失がないとき」は,前主が所有権を有すると信じたことについて過失がないことをいうものと解されるが,188条によって占有者が権利を推定されているから,Cもそれを信じたことについて過失がないものと推定される.したがって,これらの推定を破る事情がない限り,即時取得が成立しており,Cは乙の所有権を有する. 

3 問題2(2)について 

1に述べたとおり,譲渡担保権者は一応所有権を有するが,清算が未了のうちは,譲渡担保権者あるいはその譲受人は完全な所有権を取得できない.Bは被担保債権3000万円と代金3300万円の差額300万円をAに引き渡していないから,Dは完全な所有権を取得できない. 

もっとも,Dは,94条2項の類推適用を主張するものと考えられる.すなわち,同項は,真実に合致しない外観があり,その作出につき真の権利者に帰責事由があり,第三者がその外観を信頼した場合に,その第三者を保護するという,権利外観保護法理の現れであり,そのような場合には,第三者は有効に権利を取得できるというのである. 

本件では,確かにAはBへの所有権移転登記をしたが,Dはそれが譲渡担保であることを含む経緯を熟知しており,外観を信頼したものではない.また,所有権移転登記は,譲渡担保という正当な目的のためのものであるし,登記原因として「譲渡担保」と記載する実務が定着しているから,帰責性がない.したがって,この反論は認められない.

 

受験時・出題趣旨公表時のコメント:2019年度早稲田大学法科大学院入試(再現答案へのリンクあり)