民法はひたすら条文、判例、学説を覚えること、それらをどのような場面で援用するのか、複数の条文・判例・論点をどのような順番で検討すべきなのかを知ることに尽きます。判例が膨大ですが、平成29年改正(債権関係)、平成30年改正(相続関係)である程度明確化され、条文理解のウェイトが上がり、判例理解のウェイトは下がったように思います。
目次
入門書(民法全体)
リーガルベイシス民法入門
民法全体の入門書。
本書の特徴は、はしがき(『ゼミナール民法入門』初版はしがき)の次の文章に最もよくよく表れています。
これまで、民法の入門書というと、「民法にはこんな条文があります。民法を適用するとこういう解決になります」という知識を羅列したものが多かった。これでは無味乾燥で、最後まで読み通すことは難しい。そこで、本書では、身近な例をたくさん引くとともに、「なぜそうなっているのか」を日常の言葉でていねいに説明することに力を注いだ。そのため、本書では、通常の教科書類には書かれていない叙述がかなり増えることになった。しかし、そうでなければ「入門書」ではありえない。法律のシステムに慣れている人に細かい知識を伝えることを目的とするのではなく、慣れていない人を民法の世界に誘うことが必要なのだから。
それに加えて、①体系をある程度崩して、契約各論→契約総論・債権総論・担保→物権・不法行為・婚姻・親子という流れで説明している、②手続的問題・応用的問題についても、初学者が関心を持ち、かつ、理解できるであろう限度で言及してくれているところがよかったです。
(2020年8月最終更新)
民法(全)
本書については、はしがき(入門民法(全)はしがき)の次の文章に最もよくよく表れています。
民法典の規律の編成順序にできるだけ忠実に、かつ、先端・応用的問題には踏み込まず、基本的な事柄を中心に触れ、また、誰の授業を聞きながら使っても耐えられるよう、現在の学説・判例で一般的に語られている内容に対象を絞って叙述をしたつもりである(その意味では、展開やテーマ面でのおもしろみや奇抜さを欠くものとなっているが、限られた分量で、民法の体系と条文に沿って基本的なところをきちんと理解してもらう点を璽視した以上、やむをえない)。
この括弧書きからも分かるとおり、本書は道垣内先生の言う「「民法にはこんな条文があります。民法を適用するとこういう解決になります」という知識を羅列したもの」です。
しかし、これは方向性の違いで、例えば解釈の前提として条文や通説を確認したり、短答前に読み返したりするには極めて有用です。
(2020年8月最終更新)
総則の基本書
だいたい抗弁で出てくるので最初はあまり面白くないです。適当に読み流して、債権法(取得時効については物権法)をやったあとに戻ってくるとよいの気がします。
佐久間・民法の基礎1
特に94条2項(・110条)、白紙委任状と109条、無権代理と相続の整理はよかったです。大フォントの本文で判例・通説、「発展学習」で学説対立や主張立証責任、「補論」で自説を述べるスタイルです。
2008年に3版が出て以来、しばらくそれが最新版で、2018年に債権法改正対応の4版が、2020年に債権法改正完全対応の5版が出ました。4版は、3版の記述をそのまま残した上で、後ろに別に債権法改正についての記述を足す、という形でしたが、5版では債権法改正後の民法を前提とした記述に改められたようです。
4版の債権法改正についての記述がぱっとしなかったので、後述の四宮=能見・総則9版に乗り換えてしまいましたが、3版はかなり分かりやすかったので、今選ぶならこれ(佐久間5版)もありかもしれません。
(2020年6月最終更新)
四宮=能見・総則
佐久間・総則4版が、現行法についての記述を維持した上で、各章末に改正法をまとめて説明するセクションを置いていたのに対して、本書は、本文中で改正法に言及しており、また、特に説明が必要な改正箇所については直後のコラムでさらに説明するというスタイルを取っています。そのため、変化が分かりやすいです。
内容的にも、消滅時効は、総則の改正で唯一通説・判例の明文化を超えた改正がなされた箇所だと思いますが、それについての記述を比較したところ、本書のほうが優れているように感じました。
(2020年6月最終更新)
物権法の基本書
ここがわかってないと民訴が分からないという意味で大事な分野。
なお、担保物権は、できれば民事執行法・倒産法と並行して勉強するのがよいと思います。担保物権が訴訟で問題になることはあまりですし(債務名義なしに実行できるから)、担保物権が威力を発揮するのは倒産時やそれと紙一重の状況においてなので。
佐久間・民法の基礎2
物権総論のみ(担保は範囲外)。『民法の基礎1 総則』と同じスタイルです。
(2019年最終更新)
松井・担保物権法
道垣内先生や松岡先生の本はけっこうレベルが高いのですが、本書は判例中心で、かつ、判例の事案をモデルにしたケースを提示しながら進めてくれるので、最初の一冊としておすすめ。余白に図を書きながら読みすすめるとスムーズでした。
(2021年1月最終更新)
道垣内・担保物権法
教科書というより体系書。ところどころで通説・判例に対するアンチテーゼを提起しています(担保分野で「有力説」というとだいたい道垣内先生というイメージ)。叙述がそっけないこともあって、これだけ読んでも何が何だか分からないと思うので、はじめは松井・担保物権を読んだ上で、論点ごとにこちらを参照していけばよいと思います(ほとんど引用がない松井・担保物権法ですが、本書はしっかり引用されています)。
(2020年7月最終更新)
松岡・担保物権法
道垣内先生のものと同様に応用的な本ですが、叙述が丁寧で、通説に反することを言うときも、通説を丁寧に紹介した上で自説を述べる印象があります。私は結局本書をメインにしています。
(2021年1月最終更新)
債権法の基本書
総論は、契約法に近い分野(債務不履行など)と、担保法に近い分野(債権者代位権・詐害行為取消権、保証、連帯債務、弁済・法定代位、相殺、債権譲渡など)があります。前者は契約総則(解除、危険負担、同時履行の抗弁など)と、後者は担保・執行・倒産と密接な関係にあります。そのため、学習段階に応じて何度か勉強する必要があります。
各論は、債権法改正前はいろいろ論点がありましたが、改正でほとんど消滅してしまい(過去問を解くと実感します)、条文の理解がタスクのほとんどを占めるという、会社法っぽい感じになってきました(ちなみにこれとの関係で言うと総論は破産法っぽい感じになりました)。
松井・債権総論
松井・担保物権法と同じスタイル。中田先生や潮見先生の本はけっこうレベルが高いので、最初の一冊としてはよいかも。
(2021年1月最終更新)
中田・債権総論
「満を持して」という感じの平成29年改正民法対応版。
とにかく丁寧で、特に議論の展開を完結にまとめた上で自説を書いてくれているので(引用もちゃんとある)、議論が錯綜している問題について調べるときに助かります。
(2020年9月最終更新)
中田・契約法
叙述スタイルは『債権総論』と同じ(見出しの規則まで同じ。出版社が違うのに)。
平成29年改正が成立した直後に出たので、現行法について述べた後に、改正法での変更点について述べています。
(2020年9月最終更新)
潮見・プラクティス民法 債権総論
色が戻った(4版はこんな色で、5版はもうちょっと青かった)。
量は多いですが、見出しがしっかりしていて、各セクションの量的なバランスが取れていて、各セクションで条文の内容の確認→趣旨→パターンごとの適用という流れを繰り返す、というのが徹底しているので、読みやすかったです。
学説の議論にはあまり触れません(これは本書の特徴というよりは、会社法風の改正法自体の特徴の帰結だろうと思いますが)。たまに熱く語っている部分がありますが(e.g. 履行請求権の性質、債務不履行に基づく損害賠償請求における損害・因果関係)、数は少なく、それだけ議論が盛り上がっているところだということなので、勉強になります。
ただ、5版(2018年7月)は最も早く平成29年改正に対応した基本書の一つだったので、改正法は基本的にこれで勉強しましたが、必ずしも議論が固まっていないものを固まっているかのように書いている部分がたまにあり、そこはもうちょっと分かりやすく書いてほしかったなとは思いました(そういうこともあって、現在のメインは中田先生のものです)。もちろん、その段階でありうる一つの答えを提示してくれるだけで意味があったのであり、また、潮見説の位置付けは新債権総論I、新債権総論IIで把握してくれということだったのだと思いますが。
(2020年9月最終更新)
潮見・基本講義 債権各論I
債権総論と比較してかなり薄いです。
具体的には、マイナーな問題に言及せず、メジャーな問題であっても理由付けがないか、かなり簡潔であり、繰り返しが多いという印象があります(中田・契約法で補いましょう)。そのため、文章が敬体なのもあいまって、「文字は追っているが何が書いてあったのか全く覚えていない」という状態に陥ることがけっこうありました。
ただ、改正で、
- 解除について詳細な規定がされたこと、
- 性質に議論があった売買の瑕疵担保責任が契約責任とされ、請負の瑕疵担保責任の規定が削除されたこと(このことは契約法と債権総論の同質化が進むこと―契約法が債権総論に流入する方向で―を意味します)、
- 賃貸借の対第三者関係が明文化されたこと
により、契約法における解釈論のウェイトはかなり減り、代わって条文どうしの関係(債権総則の規定―契約総則の規定―各契約類型の箇所の規定)の理解のウェイトが増えたと思われるので、実はこれでいいのもしれません。
なお、不当利得法は類型論をベースにして説明した上で、対第三者関係(騙取金による弁済、誤振込み、転用物訴権)のみ判例に沿って説明しています。
(2020年6月最終更新)
潮見・基本講義 債権各論II
債権各論Iの続き。 (批判しつつも)差額説・相当因果関係説からの説明も書いています。
不法行為法単独で280頁ですが、基本的な不法行為を扱うのは全体の3分の2でにすぎません(残りは差止請求、人格権・プライバシー侵害、医療過誤、交通事故。知財をやるなら読むべきだと思います)。
(2020年6月最終更新)
潮見・民法(債権関係)改正法の概要
今さら改正本が必要なのかとも思っていたのですが、質問箱に来ていたので紹介。平成29年民法改正を、逐条解説スタイルで、かつ、きわめて簡潔に(法務官僚が商事法務から出す一問一答本みたいな感じで)解説した本。
平成29年改正は、条文というわかりやすい形でまとまっていて、まだその上に判例が積み上げられたりしてないわけなので(より実践的な言い方をすると、しばらくは短答にしろ論文にしろ条文知識以上のものが出るとは思われないので)、現在の段階では、さしあたり、六法を見て何が変わったのか確認し(できれば古い六法を引っ張り出して比較するとよいです)、趣旨や従前の判例・学説との関係がよく分からない場合には本書で確認する、という作業が有益であるように思います。
なお、先に述べたとおり、記述がきわめて簡潔であることから、改正法の(条文ではなく)解釈を考える際には、さらに別の文献に当たる必要がありそうです。
(2020年9月最終更新)
窪田・不法行為法
後掲の窪田・家族法と同じ感じ。潮見先生のものはかなり薄く、たまに何を言っているのかわからないので、そういうときに本書を参照しています。
(2019年最終更新)
家族法の基本書
意外と出ます。しかし、条文知識以上のことが問われる場面は限られています:親権者の代表権、離婚に伴う財産分与、相続財産の範囲とその取扱いなど。
窪田・家族法
講演っぽくて読んでいて飽きません(私が家族法に関心があったからかもしれませんが)。厚いですが、辞書的というわけではなく、丁寧に原理から説明していった結果という感じがします(その意味で副読本っぽくもある)。
(2020年9月最終更新)
リークエ民法VI
リークエ民法でおそらく一番売れている本(他が微妙だから…)。リークエらしく淡々としているので、普通の教科書がほしいという人に。
(2020年9月最終更新)
大村・家族法
「家族法」というタイトルではあるものの、従来の「親族法」のみ*。「現代家族を「婚姻家族=核家族」「非婚姻家族」「拡大家族」「複合家族」に分類して考察し,家族法に新しい視点と枠組みを提供し,注目を集めたテキスト」とあるとおり(家族法第3版 | 有斐閣)、司法試験向きの本ではなく、考えながら勉強したい人向けの本。
*本書は、民法第4編を「狭義の家族法」、これに社会保障法などの家族に関する法を加えたものを「広義の家族法」として、(前者を含む)後者を検討の対象としています。そうする理由として、①「親族法」と相続法は異質であること(後者は財産法としての側面も強い)、②民法第4編のうち親族関係の一般的規律(725条〜730条)は現行法では重要性を失っており、それを「親族法」と呼ぶのはミスリーディングだから、としています。
2010年改訂で、2011(平成23)年民法等改正(児童虐待の防止のために親権制度、未成年後見制度などを改正した)が反映されていないことには注意。
なお、大村先生は「新基本民法」シリーズの一つとして家族法の本を出されていますが(新基本民法7 家族編 -- 女性と子どもの法 | 大村 敦志)、本書も在庫ありになっているので、別立てのようです。
(2020年10月最終更新)
演習書・判例集
事例で学ぶ民法演習
321頁(42問)。問題はよいものが多く、解説もしっかりしています。ただ、突然「事例と異なり〇〇の場合には…」といった説明が始まる(「事例と異なり」という前置きすらないこともよくある)など、あまり事例に即して説明してくれている感はありません。そのため、基本書を参照しつつ自分で答案に落とし込んでいかなければ、「論点はわかったけど結局どんな論述をしてどんな結論を導けばいいの」ということになりかねません(なりました)。何を言ってるのかわからない論文を図式的に整理しながら読んだりした経験がなければ辛いと思いますが、いずれやらなければならない作業ではありますし、力はつくので、やる価値はあると思います。
なお、本書は債権法改正に対応していません。改正後については、まだよい本が見つかっていません。見つかり次第紹介したいと思います。Law Practiceは量が多く、中身も百選コピペが多く、必ずしもよい勉強にはならない気がします(全科目ともそう)。
(2020年6月最終更新)
民法判例百選
百選はどうせみんな使うので紹介しない方針だったのですが、どこを読むべきかといったところでコメントを付しておきたいものについては、紹介していくことにしました。
I, IIは全て読むべきだろうと思います。IIIは、最低限、次のものを読むべきだろうと思います(29/100件)。
- 「18 財産分与と離婚慰謝料との関係」
- 「19 離婚に伴う財産分与と詐害行為取消しの範囲」
- 「46 連帯保証等と利益相反行為」〜「49 物上保証行為と親権者の法定代理権濫用」
- 「59 共同相続人間における相続回復請求」〜「76 民法915条1項の「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義」
- 「86 負担付死因贈与の受贈者による贈与者生前の負担履行と贈与撤回の可否」〜
- 「90 遺言執行者がある場合の相続人の遺産処分」
(2020年11月最終更新)
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