憲法の基本書、演習書等と使用法(2020年9月最終更新)

憲法は本当にカオスですよね。でも実はやってることは他の公法(刑事法)と変わらなくて、公益上の必要性(目的の重要性、手段の関連性)と被侵害利益(権利の重要性、侵害態様)の利益衡量です。審査基準論とか三段階審査論というのは、その利益衡量をどういう手順でやるのかという問題に過ぎません。

司法試験的には、審査基準論なり三段階審査論なりのフレームワークの上で、いかに判例のフレーズを引用できるか(そしてそれが妥当するのかしないのかを論証できるか。判例の理解はこれらの前提として要求される)と、問題となる個別の法律のスキームとそれに関する利益状況を分析し、具体的な評価ができるか(これは演習を通じて獲得する)が大事な気がします。

 

目次

 

入門書・基本書

憲法学読本

憲法学読本 第3版

憲法学読本 第3版

 

新しい入門書。

はしがきに次のように書かれているとおり、通読向きです。

本書を執筆する際,常に念頭にあったことのひとつは,物語的おもしろさをいささかなりとも加味しつつ憲法の全体像を解き明かしてみたい,という思いである。憲法の規定の背後にある基本的な考え方を抉り出す,あるいは歴史的な含意を探求する,さらにはその領域における判例の動きを全体として把握する視点を提示するなど,法学の世界の作法に従ったものであってもさまざまな手法で憲法の世界のありようを提示しようと試みた。本書が,憲法学“読本”と題されるゆえんである。

憲法は基本書を読むことと具体的な事案を処理することとの隔たりが大きいので、短くまとまった本書に目を通した上で、判例学習や具体的事案の検討に入るのがいいように思います。

(2020年9月最終更新)

 

芦部・憲法

憲法 第七版

憲法 第七版

  • 作者:芦部 信喜
  • 発売日: 2019/03/09
  • メディア: 単行本
 

憲法の最初の一冊といえばこれ的な入門書。しかし、古いので使いませんでした

「芦部は行間を読まなければならない」と言われていますが、それができるなら本書を読む必要はあまりないのでは…?(国語で「大事なところに線を引け」と言われますが、それができるなら線を引く必要はあまりないのと同様に)。

(2020年9月最終更新) 

 

渡辺ほか・憲法

憲法I  基本権

憲法I 基本権

 
憲法II 総論・統治

憲法II 総論・統治

 

(I 基本権について)

本書の特徴は、判例を重視していること、三段階審査論に依拠していること、防御権以外の規定への適合性の審査方法を開拓しようとしていることです(はしがきより)。

判例の重視は、外在的な批判よりも(あるいは少なくともそれと同程度に)、内在的な分析に力を入れているということなのですが、これは後に述べるとおり現在の憲法訴訟あるいは司法試験科目としての憲法で求められることそのものであり、きわめて有益です。

三段階審査論に依拠していることについては、審査基準論との整合性はどうなのかと思われるかもしれませんが、三段階審査論と二重の基準論が対立しているのは、柔軟な比例原則を用いるのか(スライディングスケール)、類型化された審査基準を用いるのかという点にあり、権利の保障→制約の認定→形式的・実質的正当化という点にはありません。また、そもそも本書は先に述べたとおり判例重視ですし、判例は審査基準論を(それなりの理解を示してはきたものの)採用していないので、それほど困ることはないのではないかと思います(なお参照、司法試験と三段階審査論)。

新たな審査方法は、審査基準論なり三段階審査論なりが妥当しない場面、例えば客観法規範(政教分離など)、手続的権利(被疑者・被告人など)、制度形成依存型の権利(財産権、生存権、選挙権、裁判を受ける権利など)に関わります。いずれもよくわからない一方、実際には重要な問題であり、特に最近司法試験でも出題されています*。また、行政裁量審査の中で憲法上の権利への配慮を要求するというのは、個人的によく使っている手法であり**、本書90頁以下がまとめて整理してくれているのは助かりました。

*司法試験で手続的権利が問題となったものとして、令和元年(行政手続法の適用除外)、平成30年(刑罰法規の明確性)、平成29年(令状主義の行政手続への適用)、平成28年(身体の自由)。
**裁量審査で書いたほうが書きやすかったものとして、平成26年司法試験(施設使用)、令和元年予備試験(令和元年 予備試験 論文式 再現答案 憲法。信仰上水着を着ることができない生徒の体育における成績評価の問題。当時理解が足りておらず、あまりはっきり書けませんでしたが)。また、最近検討したものとして、早稲田大学法科大学院 2021年度入試(未決勾留中のBL本の閲覧禁止)。

以上の特徴から、メインの基本書にするのはどうかと思われるかもしれませんが、伝統的な議論の上に最新の議論を紹介しているので、むしろメインに据えるべき本だと思います。

(II 総論・統治について)やっと出た続編。これからは統治機構の時代(再び)らしいので読まなければと思っています。

(2020年9月最終更新)

 

演習書:主に既修者試験・予備試験レベル

憲法というのは、学部レベル→既修者試験・予備試験レベル→司法試験レベルで書き方が大きく変わる科目であると感じています。

既修者試験・予備試験レベルでは、①判例と似た事案が出た場合に判例に乗った処理をすること、また、②そうでない事案が出た場合に「権利の保障→制約→審査基準の定立→その適用」という流れで書けることが求められるように思います。このセクションで紹介する3冊は主にそのレベルに関わります。

 

合格思考憲法

演習書(?)。この記事のコンセプト(一応研究者による文献を紹介するということになっています)からは外れますが、「「権利の保障→制約→審査基準の定立→その適用」という流れ」を一通り書けるようになるためにかなり有用だと思うので、紹介しておきます。

なお、以上は私がロー入試前に本書を読んだ際の感想に基づくものであり(2019年度早稲田大学法科大学院入試)、本書は実際にはもう少し高度な話をしている(私がそれを読み取れなかったにすぎない)可能性があることにはご留意ください。

(2020年9月最終更新)

 

憲法の急所

憲法の急所──権利論を組み立てる 第2版

憲法の急所──権利論を組み立てる 第2版

 

演習書(講義編102頁、演習編307頁。演習編は9問)。答案構成まで書いてくれています。「教科書的な知識は身につけたけど、結局何をどこに書けばいいの」という問題を解決してくれます。事例が面白い上に、執筆者の頭の良さや教養が表れているのがいい感じです。

(2019年最終更新)

 

判例から考える憲法

判例から考える憲法

判例から考える憲法

 

演習書。23問。判例の使い方がわかります。「〇〇という判例は流石に知ってますよね(笑)」みたいなノリの書き出しのわりに、ちゃんと確認してくれるところがいいです。

試験場では、基本的には判例引用(・射程を区切る・批判する)で解いて、全く手がかりとなる判例がない(思い出せない)ときは審査基準論で逃げるのが基本的なスタイルな気がします。

(2019年最終更新)

 

副読本:主に司法試験レベル

司法試験で頭一つ抜けた答案を書きたい場合(もちろんそこまで到達できない人が大半であり、それでも他科目でちゃんと書ければ合格はできるわけですが)、「権利の保障→制約→審査基準の定立→あてはめ」のワンパターンではいけない、とにかく事案と向き合わなければならない、ということがしばしば言われます。そのレベルを脱するためには、①多様な法令のスキームや社会でいま問題になっていることを知るとともに、②判例の言っていることをより精緻に理解し*、③学説を尋ねて判例をどうやって応用すればよいか、どこにその限界があるかを知る**ことだろうと思います。このうち、①はもはや趣味の領域なのでさておくとして***(今週のメモ カテゴリーの記事一覧)、②を助けてくれるのが『憲法判例の射程』、③を助けてくれるのが『憲法論点教室』です。

*『憲法論点教室』のはしがき(編者4人の名義)は法科大学院時代に入り、「憲法においては、教育のあり方の変容が、研究内容にも大きな影響を与えた」、「憲法判例の分析について、外在的な批判から、内在的な理解を目指す方向へと大きくシフトしている」、「憲法研究者自身も具体的な事案の分析に従事する必要性が増したことで、分析の枠組みも急速に精緻化してきた」と述べています。
**『憲法判例の射程』の0章「憲法判例の「射程」を考えるということ」(横大道執筆)は、学説の役割について、「判例は一見して内容が明確とはいえないものが少なくないので、判例を読むには学説の補助が有益である」(内在的な分析における役割)、「判例が妥当でない場合には、それに対して批判を展開するという能力もまた法曹に求められているのであり、その際に学説による検討が参考になる」(外在的な批判における役割)と整理しています。渡辺ほか・憲法Iのところで内在的分析の重要性に言及しましたが、要すれば判例が何を言っているかを丁寧に理解せずに雑に(外在的に)批判するのがいけないのであって、本当に必要な場面で批判することはむしろ要求されています。
***ただし、情報法は憲法との関係が強く、関心と余裕があるなら知っておいてよいと思います。特に情報法の基本書、演習書等と使用法で紹介した『情報法概説』(『憲法論点教室』の曽我部先生が共著者の一人です)。

ちなみに、憲法の答案が上記のレベルで書けるようになるためには、他分野(商法を除く)の理解が不可欠であるように思います。日本が付随的違憲審査制を採用している以上、憲法上の問題は常に基本となる民事・行政・刑事事件の文脈の中で出てくるのであり、基本となる事件の構図を理解せずに適切なフレームワーク(三段階審査・審査基準論、利益衡量、裁量審査etc)を選択することはできないからです。憲法は一番書き方に困る(そしてその乗り越え方がなかなかわからない)科目なのではないかと思いますが、このような憲法の性質に起因する部分もあると思うので、そういうものだと割り切って淡々とやり続けるほかないように思います。

なお、ここに紹介する2冊に目を通す前に書いたものですが、参考のために一つの答案の例を載せておきます:令和元年憲法。ただし、時間を制限せず、かつ、判例や基本書を参照しながら書いたもので、試験場でどこまでのものが書けるかは分かりません。

 

憲法論点教室

憲法論点教室 第2版

憲法論点教室 第2版

  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 単行本
 

憲法学読本より少し薄いくらいのボリューム感ですが、憲法学読本が(薄くはあるものの)網羅的であるのに対して、こちらは論点について短い解説を加えていくスタイルです。

1章〜14章が一般的な審査手法の話、15章〜21章が個別の権利の話、22章〜26章が統治機構の話、27章以降が答案の書き方*という感じです(目次については出版社のページを参照:憲法論点教室[第2版]|日本評論社)。

*憲法論の文章の書き方の基本/②当事者主張想定型の問題について/③憲法論点教室・実践編。①は「権利の保障→制約→審査基準の定立→あてはめ」というオーソドックスな答案の書き方で、『読み解く合格思考 憲法』の超ダイジェスト版という感じ。②はいわゆる三者間問題(最近は放棄されたようにも思いますが…)への答え方。③は具体的な仮想問題を提示して、教員(執筆者)と学生(実在。答案も晒されている…笑)が対話しながら書き方を考えていくというもの。

全体としてかなり司法試験にフォーカスしていて、本文中でも出題趣旨・採点実感に幾度となく言及があります。『憲法学読本』のところで述べたとおり、憲法は基本書を読むことと具体的な事案を処理することとの隔たりが大きいと思うのですが、本書を参照しながら司法試験を検討することで、それを埋められる気がします。

(2020年9月最終更新)

 

憲法判例の射程

憲法判例の射程 第2版

憲法判例の射程 第2版

  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: 単行本
 

少数の重要判例について詳しく解説しています(2版では35個のテーマ。1テーマに複数の判例が含まれていることが多い)。

中身は『憲法論点教室』と同様にかなり司法試験にフォーカスしています。例えば平成27年司法試験憲法を検討していた際に参照した第8章(横大道執筆)では、国籍法違憲判決が「慎重に検討する」ことの必要性を導くにあたって取り上げた「事柄の性質」(国籍が重要な法的地位であること・非嫡出子であることは子が自らの意思や努力で変えられないものであること)について、非嫡出子相続分差別違憲決定や女性の再婚禁止期間一部違憲判決と比較して、その2つはORなのかANDなのか(学説はORを主張してきた)、ANDである場合どちらがクリティカルなのかという、まさに(私が)よく分からなかった問題について説明してくれていて、とても助かりました。

ところで、判例集は基本的には百選(+データベース)でいいと思っているのですが、次のような問題があると思っています:

  1. 解説者によって解説の方向性がバラバラで、必ずしも試験対策に使えるような書き方がされていない。
  2. 分野によっては枠が余って、それほど重要でない(=判決文を読み、論理構造をよく理解しておかなければならないほどではない)判例が多く掲載されている一方、基本的には2頁=1判例=1解説なので、同じ論点に関する判例をいくつも収録できず、重要なのに収録されない判例がある。

本書は、多人数による編著であるものの、基本的に法科大学院で授業をしている比較的若手の研究者を執筆者とし、かつ、司法試験にフォーカスするというコンセプトを共有して書くことで、また、章立てを判例ごとではなくテーマごととすることで、これらの問題を解消することに成功しているように思います。

なお、改訂で8テーマが追加され、ページ数も100ページくらい増えました。充実するのはありがたい一方、薄いことには薄いことのよさがあったと思うのですが、そう思う場合には、とりあえず新章(1, 3, 4, 9, 23, 27, 32, 33, 34)を飛ばして読めばよいのではないかと思います。

(2020年9月最終更新) 

 

憲法の地図

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

  • 作者:大島 義則
  • 発売日: 2016/04/27
  • メディア: 単行本
 

判例を、人権条項ごとに「逐条解説的なスタイル」(はしがき)で整理するもの。13条=8件、14条1項=7件、19条=6件、20条=4件、21条=14件、22条1項=5件、23条=2件、25条=9件、29条=9件。

憲法判例の射程』が(内在的分析に努めてくれてはいるものの)研究者からの理解を示したものであるのに対して、本書は弁護士が、あくまで判例のテキストを「最高裁判所調査官解説を強力なガイドラインとして用い」て整理したものなので(はしがき)、『憲法判例の射程』が前提としている部分を補うために有益な気がします。

個人的には、令和2年司法試験憲法を検討していたとき、『憲法判例の射程』では、規制目的二分論を再構成したはいいものの、明白の原則(小売市場判決)とLRAの不存在を含む厳格な合理性の基準薬事法違憲判決)の使い分けがよく分からなくなったのですが、(先生のアドバイスと)本書で解決できました。

(2020年9月最終更新) 

 

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