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民事執行法改正:財産開示の強化

民事執行法改正が成立しましたね。国会のページにはまだアップされていませんが、法制審の資料が参考になります。

www.moj.go.jp

 

主な内容は、

  1. 債務者財産の開示制度の実効性の向上
  2. 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策
  3. 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化
  4. 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し
  5. 差押禁止債権をめぐる規律の見直し
  6. 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し

です。

 

 

何が問題で、何が変わったのか?

世間的には6のほうが注目されているようですが*1、それはまた別の機会にして、特に1について。

子がある夫婦が離婚する場合、離婚・養育費分担について、強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)で合意がされるのが通常であり*2、それは履行されなくなるのが通常、とまでは言いませんがよくある事態です。

そうなった場合、債権者としては、強制執行(通常は債権執行)を考えることになります。しかし、銀行預金債権は、どの銀行のどの支店のどの口座番号なのかが分からなければ、執行は困難でした(様々な試行と判例の積み重ねがあります。執行証書においては銀行口座の変更などについて報告義務を課したりするのが通常ですが、実効性は乏しいです)。給与所得者で勤務先が分かる場合には、給料債権の差押えができますが、そうでなければそれも困難です。財産開示という手続はありますが、執行証書ではその手続を利用することすらできず、審判や訴訟で債務名義を取得しても、財産開示制度では銀行など債務者以外の第三者に照会することができないため、あまり実効性がありませんでした。

そこで、今回の改正では、現行の財産開示手続の債務名義の制限がなくなり、執行証書などでも財産開示を申し立てることができるようになるとともに、債務者の不出頭・宣誓拒否・不陳述・虚偽陳述等に対する罰則が強化され、また、第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度が新設されました。

 

執行証書による財産開示

現行法上、財産開示の根拠となる債務名義は、「執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第三号の二から第四号まで若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)」に限られています(民事執行法197条1項)。

民事執行法22条は、債務名義として、次のものを挙げています。

  • ①確定判決
  • ②仮執行宣言付判決
  • ③抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判
  • ③-2仮執行宣言付損害賠償命令*3
  • ③-3仮執行宣言付届出債権支払命令*4
  • ④仮執行宣言付支払督促
  • ④-2訴訟費用等の負担の額を定める書記官の処分(民事訴訟法71条1項参照)等
  • 強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)
  • ⑥確定執行判決のある外国裁判所の判決(民事執行法24条、民事訴訟法118条参照)
  • ⑥-2確定執行決定のある仲裁判断(仲裁法45条、46条参照)
  • ⑦確定判決と同一の効力を有するもの(例えば民事訴訟法267条)。

財産開示は債務者のプライバシー侵害の程度が大きく、かつ一度開示されてしまうと原状回復は不可能であるという性質に鑑み、満足が仮定的なもの(②、③-2、③-3、④)、裁判官が関与していないもの(④、⑤)が除かれていたわけです。

今回の改正では、この制限がなくなりました。

 

三者からの情報取得

次のような情報が取得できるようになります。

  • 市町村・特別区が住民税に関する事務のために保有する給与債権に関する情報

  • 日本年金機構等が厚生年金保険料に関する事務のために保有する賞与・給与債権に関する情報

  • 銀行等の預貯金債権に関する情報

  • 振替機関等(上場会社の株式を売買している人は利用している。日本では株式会社証券保管振替機構)の振替社債等に関する情報

 

強制執行制度は、テクニカルに見えますが、自力救済の禁止・国家による暴力の独占・法による紛争解決・基本的人権としての裁判請求権の実効性などのバックボーンとなる重要な法制度です(ある民事訴訟法学者は「日本が近代国家になる」と言っていました)。そのため、強制執行の機能不全は、司法の機能不全、司法制度改革風に言うと「法の光が社会に行き渡らないこと」に直結します。今回の改正は、これまでの強制執行の機能不全を大きく改善する、極めて重要な改正なのではないかと思います。

議事録は時間を作って読んでおきたいな…(予備試験頑張ろう)

*1:報道は専ら子の引渡しに関する改正にニュース性を見出しているようです。子の引き渡しルールを明確化 改正民事執行法が成立 - 毎日新聞親権者立ち会いで子引き渡し=改正民事執行法成立:時事ドットコムなど。

もちろん、子供の「連れ去り」が、国際社会からの信頼に関わる大きな問題だったことは確かです:日本の「条約不履行国」認定解除=子供連れ去り年次報告-米国務省:時事ドットコム。この記事がいう「国際結婚破綻時の子供連れ去りに関する年次報告」というのは、2019 Annual Reports on International Child Abductionの80ページ(コンテンツ上の76ページ)の記述を指しているものと思われます。

(仮訳)重要な進展:日本の法務省は、連れ去られた子供を安全かつ迅速に返還することの緊急性を認識し、連れ去られた子供の秩序ある返還 (ordered returns) の強制執行を改善するために、法律を改正する努力に着手した。 法務省は、ハーグ条約実施法および民事執行法を改正する法案を具体的に起草し、2019年2月の通常国会に提出した。この法案には、連れ去り親が従うことを拒否した場合に政府当局が司法上の返還命令を執行することができないという現状を含む、効果的なエンフォースメントへの障害を克服することをねらいとした、重要な変更が含まれる。

*2:離婚・養育費分担の合意が成立しない場合、離婚については訴訟、養育費分担は家事審判で決することとなります。後者については審判が債務名義となります(家事事件手続法75条)。

*3:損害賠償命令は、付帯私訴に類似する制度。犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第17条以下に規定されます。法定の重大な犯罪に係る刑事事件において、被害者が、不法行為に基づく損害賠償請求について、損害賠償命令の申立をすることで、刑事手続内で債務名義を取得することができます。

*4:仮執行宣言付届出債権支払命令は、クラスアクションに類似する消費者裁判手続特例制度内で発せられる簡易な債権確定裁判です(消費者裁判特制度については、東京医科大の消費者訴訟について - Life is Beautiful。詳細については、例えば日本版クラスアクションか?制度の全体像を探る - BUSINESS LAWYERS)。