婚姻制度が守るもの、守らないもの:同性婚の前提問題として

婚姻について考えているところをまとめておきます。

追記(2020/10/18):後半について、当初、「婚姻制度は生殖・育児を保護するのか、それともパートナーシップを保護するのか」という問いを立てていましたが、両方だという答えもありうるということに気づいたので、修正しました。

また、この記事は当初思いつきで書いたものなのですが、二宮周平家族法 第5版』33頁以下(新世社、2019)に詳細な記述がありました。私が不勉強だっただけで既に一般に説かれているようです。

 

パートナーシップは婚姻に先立つ

まず確認しておきたいのは、パートナーシップは婚姻に先立つということです。つまり、婚姻という法制度は、法制度などとは無関係に、自然なものとして発生したパートナーシップ関係を、法的に承認し、保護するものにすぎません

婚姻制度がなくても男女は愛し合い、あるいは協力して生活してゆきますし、無関係な男女を一つの戸籍という単なる書類上まとめてみたところで、愛し合い、あるいは協力して生活するようになるわけではありません。このことは男女がだろうが男と男、女と女であっても変わるところはありません(何をもって男あるいは女とするのかはさておき)。

衆議院議員柴山昌彦氏や、足立区議会議員の白石正輝氏は、同性婚を認めることは少子化に拍車をかけると言います(文科相就任の柴山昌彦氏だけど... 蒸し返される発言「同性婚は少子化拍車も」 : J-CASTニュース同性愛が広がれば「足立区滅びる」 区議は議会でどんな発言した?【発言要旨】:東京新聞 TOKYO Web)。しかし、同性愛者に異性との婚姻を強いたところで、あるいは同性愛者のパートナーシップの保護を拒否したところで、同性愛者の性的指向が変わるわけではありませんし、その逆も然りです。

 

婚姻は何を守るのか

3つの選択肢

さて、次に考えなければならないのは、婚姻制度が保護するのは、生殖・育児なのかパートナーシップなのか、その両方なのかです。

この問題は、最近まで深く考えられることがありませんでした。人は異性を好きになるものであり、そうして結婚した男女は子供を作るのが当然だと考えられてきたからです。言い換えれば、パートナーシップと生殖・育児はほとんど常に同時に生じてきたからです。

これに対して、同性パートナーシップは生殖・育児の可能性がありません(養子縁組や生殖補助医療のことはさしあたり置いておきます―認めるべきだと思いますが)。

上記の3つの選択肢と同性パートナーシップの関係を考えると、婚姻制度の役割が生殖・育児保護に尽きると考える場合には同性婚を認めるべきでない一方、パートナーシップ保護でもある/に尽きると考える場合には認めない理由はないといえます。

では、どれが妥当でしょうか。

 

生殖・育児だけか?

衆議院議員杉田水脈氏が、同性愛者には生産性がないと言って炎上したのは記憶に新しいのではないかと思います(同性カップルは「生産性なし」 杉田水脈氏の寄稿に批判:朝日新聞デジタル。というか多くの人にとってはこの件でしか記憶に残っていないのでは)。おそらく彼女が言いたかったのは「生産性」(productivity)ではなく「生殖可能性」(reproductivity)なのですが、そこからは婚姻は生殖・育児を守るものだという意識が読み取れます。ここまで言う人はあまりいませんが、婚姻は生殖・育児によって国家に貢献したこと者に与えられる恩恵なのだと素朴に考える「保守派」は多いように思います(セクシャルマイノリティ保護にあたって社会保障の維持を持ち出す人は基本的にそうだと言えます)。

この立場を徹底するならば、同性婚は認めるべきでないばかりか、異性の2人であっても、子を作る意思なければ婚姻が認められなくてしかるべきですし、一度婚姻が成立した後も、一定期間が経っても子ができない場合、生殖補助医療を受けているといった場合を除いて、離婚が認められてしかるべきです。婚姻制度を生殖・育児に対する恩恵だと考える限り、同性婚も子を作らない異性婚も同レベルで保護に値しないからです。

しかし、今までそのように考えられてはきませんでしたし、今考えてもそう考えるべきだとは思われません。杉田議員だって、安倍首相に向かって「あなたたち夫婦は生産性がない」とは言わないはずです。

そうすると、少なくとも婚姻制度の役割が生殖・育児保護に尽きると考えるのは不当だということになります。

 

パートナーシップだけか?

さて、この時点でもう答えは出た―同性婚を認めない理由はない―わけですが、一応その先も考えておきたいと思います。残る選択肢は、婚姻制度の役割は、生殖・育児保護とパートナーシップ保護の両方なのか、それとも後者に尽きるのかです。

少なくとも現行法は、生殖・育児を婚姻制度の保護対象に含めています共同親権制度や嫡出推定制度がそれで、最高裁も、2013年に、性同一障害者特例法適用者の妻が精子提供により懐胎した子は嫡出推定を受けると言う前提として、嫡出推定は婚姻の「主要な効果」と述べ(最決平成25年12月10日民集67巻9号1847頁)、2015年にも、再婚禁止期間のうち100日までの部分を合憲と言う前提として、嫡出推定は婚姻の「重要な効果」と述べています(最大判平成27年12月16日民集69巻8号2427頁[再婚禁止期間一部違憲判決])。若干トーンダウンしたのは配慮なんでしょうか…)。

もちろん、以上は現行法の解釈の問題であり、立法政策としてはパートナーシップ保護制度への純化も考えられます。単独親権は認めてもよいと思いますし、嫡出推定は既に生殖補助医療の出現で至るところでバグっているので(凍結した受精卵を妻が無断移植して出産した子と父子関係があるか?)、廃止して新たな親子関係創出のためのシステムを設計するのもありだと思います。仮にそれらの改正がなされた場合、結果的に婚姻制度は生殖・育児とはほぼ(あるいは全く)関係なくなる可能性もあります。ただ、純化それ自体に意味があるかというと、別にない気がします(同性婚を認める上での理論的な障害にはならないんだし)。