平等院鳳凰堂:明示の禁止にもかかわらず建物の写真を営利利用された場合の損害賠償請求等(訴訟提起→和解)

目次

追記(2020/10/7):和解報道があったので追記するとともに、全体の記述を整理しました。

 

訴訟提起段階

報道

 世界遺産平等院京都府宇治市)の鳳凰(ほうおう)堂の写真を使ったジグソーパズルを許諾なしに販売したとして、平等院が玩具会社「やのまん」(東京都台東区)に販売停止と在庫廃棄などを求め、京都地裁に提訴した。3月29日付。やのまん総務課の担当者は取材に「弁護士に任せているので詳細は言えないが、すべて争う」と話した。

 訴状によると、やのまんは夜間特別拝観時に撮ったとみられる鳳凰堂の写真を使った縦26センチ、横38センチのパズル「月夜に浮かぶ平等院(京都)」を許諾なしで作り、販売(税込み1620円)している。平等院は境内で撮った写真の営利目的使用を禁じ、拝観者に配るパンフレットにも明記している。訴状では「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」と主張している。

「鳳凰堂の写真、勝手にパズルに」平等院が玩具会社提訴:朝日新聞デジタル

 

ノート 

そもそもなぜ「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」という迂遠な構成によらなければならなかったのでしょうか。

 

著作権、商標、意匠、不正競争が使えない理由

まず、著作権法は、著作者を保護するものであり、所有者を保護するものではありません。宗教法人平等院平等院を設計したわけではありませんから、著作権の保護は受けられません。仮にそれをクリアしても、10世紀の建物なので、権利が消滅していることは明らかでしょう。

なお、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し(2条1項1号)、著作物の例として「建築の著作物」を挙げていますから(10条1項5号)、今後平等院のような芸術的な建物が建てられたときは、著作権によって保護されることがありえます(ただし、46条により大幅な制限がされます)。

この他の知的財産法として、商標法、意匠法、不正競争防止法(特に2条1項1号の混同惹起行為、2号の著名表示冒用行為、3号の商品形態模倣行為)がありますが、いずれも量産される物を想定したものであり(商標はサービスもですが)、鳳凰堂には使えそうにありません。

 

パブリシティ権が使えない理由

では、パブリシティ権はどうでしょうか。

パブリシティ権は典型的には著名人の氏名・肖像等が顧客誘引力を有する場合に問題となりますが、被写体の顧客吸引力という点では、動物や鳳凰堂のような著名な「物」も同じです。このような発想で、「物のパブリシティ権」が主張されたことがあります。

しかし、最高裁は、2004年の判決で、それを否定しました。事案は、テクモが「ギャロップレーサー」「ギャロップレーサー2」という、実在の競走馬を登場させた競馬ゲームを販売したところ、その所有者ら(第一審を見れば分かりますが、会社と個人あわせて20人が原告です)が「物のパブリシティ権」を侵害されたとして、販売の差止や損害賠償などを求めたというものです(最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁[ギャロップレーサー事件]。一審・控訴審は肯定)。

(1)1審原告らは,本件各競走馬を所有し,又は所有していた者であるが,競走馬等の物の所有権は,その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり,その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから,第三者が,競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく,競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである…。本件においては,前記事実関係によれば,1審被告は,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対する1審原告らの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,1審被告の上記製作,販売行為は,1審原告らの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。
(2)現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。 
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。

その後、2012年に最高裁は人のパブリシティー権を認めましたが、その理由中では、パブリシティー権が(財産権ではなく)「人格権に由来する権利」であることが示され、人にしか認められないことが確認されました(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁[ピンク・レディー事件])。

人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される…。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。

 

施設管理権が使えない理由

パブリシティ権が使えないなら、施設管理権はどうでしょうか。

平等院は境内で撮った写真の営利目的使用を禁じ、拝観者に配るパンフレットにも明記している」ようです。拝観者はこれを承諾して境内に入っているわけですから、写真を営利目的で撮影することは、確かに契約違反と言えるかもしれません(契約の成否は一つの問題だと思いますが)。しかし、一度撮られてしまった写真が第三者に提供された場合、その第三者は契約の当事者ではないのですから、知的財産権のような物権的権利なしに、その第三者による利用を規制することは難しいように思います(参照:平等院はどのような権利で保護されるか?(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース)。

なお、そういう考慮があったのかはわかりませんが、本件では、平等院側は「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」と主張しています。自分たちは歴史ある宗教施設の管理という神聖な仕事に従事しているのに対して玩具の製造・販売は賤業なんだという意識が垣間見えるところですが、それが不法行為法上保護される名誉だと判断されるのか、興味深いです。注視したいと思います。

 

宗教的人格権?

福井先生が宗教的人格権に言及されています(平等院、「無断撮影」のパズル販売停止求め提訴、寺院の権利はどこまで? - 弁護士ドットコム)。

最近の裁判例で、宗教的人格権の侵害を認め、損害賠償・差止請求を認めたものがあります(徳島地判平成30年6月20日判タ1457号232頁)。事案は、寺院が、NHKから制作協力を依頼された写真家に、寺院からNHKの番組等以外に使用しないことを条件に、秘仏の撮影を許可したところ、写真家が個人の作品として展示、販売するなどしたというものです(秘仏写真の使用差し止め 四国2寺院が写真家に求めた訴訟で判決 「宗教上の人格権を侵害」 - 産経ニュース)。

宗教的人格権については、次のように述べています。

 前記(2)(3)のとおり,本件写真2は広く頒布されることまでを想定して撮影が許可されたものではなく,また,本件写真67は原告大興寺に無断で撮影されたものであり,いずれも一般に公開されたり,広く一般に流布されたりすることを認めていたわけではない。そして,原告ら寺院は,いずれも本尊を秘仏とし,原告極楽寺については定期点検を行う調査員以外の第三者に公開せず,また,原告大興寺ついても60年に1回公開するのみであり(前記前提事実(4)ア,同(5)ウ),このような原告ら寺院における信仰の対象としての本尊の重要性に鑑みれば,原告ら寺院の意図に反して,被告が本件写真2及び本件写真67を使用し,これを一般に公開したり,広く一般に流布したりすることは,原告極楽寺及び原告大興寺の宗教上の人格権を侵害する不法行為に該当するものといえる。

これと対比すると、鳳凰堂は一般に公開されているため、難しそうです*。

*ところで、福井先生は「例えば寺社側が普段は対価を得て撮影や利用を許諾している場合」には宗教上の人格権侵害を主張するのは困難とコメントされています。

これに対して、ギャロップレーサー事件の控訴審判決は、最高裁と異なり物のパブリシティ権を認めたものですが、「現に…競走馬の馬主が競走馬の馬名、肖像等をゲームソフトで使用するについてゲームソフト製作販売会社との間で一定額の使用許諾料の支払を受ける旨の契約を締結したりして、右馬名のもつ顧客吸引力から経済的利益等を得ようとし、又は得ている状況にあることが認められる」ことを理由の一つとして、「現在、著名人に限らず競走馬等の物のパブリシティ権を一定の要件のもとに承認し、これを保護するのを相当とするような社会状況が生まれている」としています。

同じ「利用について対価を取っている」という事実が、宗教上の人格権侵害では侵害不成立の方向に働き、物のパブリシティ権最高裁は否定しましたが)では侵害成立の方向に働くというのは面白いなと思いました。

 

Twitter等でのコメントについて

ツイッターアフィブログを見たところ、面白ツイートがたくさん見つかったのですが、それはさておき、「ダメって言ってるんだからダメでしょ」「でも著作権は建築の著作物については〜」というコメントが多いようです。

私は「知的財産保護は第三者の権利を制限するものなので、物権法定主義の趣旨が妥当し、一般不法行為法による保護は例外的」「そのため、知的財産権法・不正競争防止法で保護されていない知的財産(物の無体物としての側面)について、一般不法行為法による保護を求めようとする場合、一般にそのハードルは高い」「だからどうやって権利(法益)侵害を組み立てるのか気になる」といった意識だったので、意外でした。

なお、ギャロップレーサー事件やピンク・レディー事件を検討しつつ、知的財産法と一般不法行為法の関係を論じるものとして、島並良・法学教室380号147頁があります。

 

和解段階

報道・被告によるプレスリリース

世界遺産平等院京都府宇治市)の国宝・鳳凰(ほうおう)堂を撮影した写真が無断でジグソーパズルに使われ、寺院としての社会的評価が下がったとして、平等院が玩具会社「やのまん」(本社・東京都)に販売差し止めや在庫の廃棄などを求めた訴訟は12日、京都地裁(村木洋二裁判官)で和解が成立した。同社はパズルの在庫約300点を廃棄。今後は無許可で平等院の建物の写真などを使った製品を製造・販売せず、在庫の廃棄費用約17万円は平等院側が負担する内容だという。

ジグソーパズルに鳳凰堂写真 販売差し止め訴訟で平等院と玩具会社和解 京都地裁 - 毎日新聞

宗教法人平等院(以下「平等院」といいます。)が弊社(以下「やのまん」といいます。)を相手に京都地裁に提訴した「ジグソーパズルの販売差止めを求めた訴訟」(以下「本件訴訟」といいます。)についてご報告申し上げます。

本件訴訟につきまして、令和2年10月12日付にて和解が成立いたしました。裁判所が、平等院の主張を否定して「やのまんに違法行為がない」ことを文書で認めて下さったので、和解を受諾することとしました。

本件商品につきましては、著作権者と協議の結果、違法行為はないものの、平等院とことさら軋轢を生みたいわけではなく、また消費者を混乱させてしまった事実を考慮し、令和2年5月31日の期間満了時に、契約の更新をせず商品化許諾契約を終了いたしました。

なお、現に市場に流通している本件商品については、何ら問題なく購入できることを申し上げます。

■宗教法人平等院との訴訟について | ジグソーパズルの楽しさ創造カンパニー株式会社やのまん

 

ノート

法的な点については、特に感想はないです(まあそうだよねという感じですね…)。被告がなぜ和解に応じたのかよく分かりませんが、ビジネスジャッジなのでしょう。