再現答案・参考答案・bioの移転先→Haruwas

平等院鳳凰堂:明示の禁止にもかかわらず建物の写真を営利利用された場合の損害賠償請求等(訴訟提起段階)

ニュース

 世界遺産平等院京都府宇治市)の鳳凰(ほうおう)堂の写真を使ったジグソーパズルを許諾なしに販売したとして、平等院が玩具会社「やのまん」(東京都台東区)に販売停止と在庫廃棄などを求め、京都地裁に提訴した。3月29日付。やのまん総務課の担当者は取材に「弁護士に任せているので詳細は言えないが、すべて争う」と話した。

 訴状によると、やのまんは夜間特別拝観時に撮ったとみられる鳳凰堂の写真を使った縦26センチ、横38センチのパズル「月夜に浮かぶ平等院(京都)」を許諾なしで作り、販売(税込み1620円)している。平等院は境内で撮った写真の営利目的使用を禁じ、拝観者に配るパンフレットにも明記している。訴状では「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」と主張している。

 平等院の担当者は取材に「たくさん人が来るなかで危なくないようルールを設けている。ルールを守ってくれている人に申し訳ない」と話した。(川村貴大)

www.asahi.com

 

ノート

そもそもなぜ「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」という迂遠な構成によらなければならなかったのでしょうか。

まず、著作権法は、著作者を保護するものであり、所有者を保護するものではありません。宗教法人平等院平等院を設計したわけではありませんから、著作権の保護は受けられません。仮にそれをクリアしても、10世紀の建物なので、権利が消滅していることは明らかでしょう。

なお、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義し(2条1項1号)、著作物の例として「建築の著作物」を挙げていますから(10条1項5号)、今後平等院のような芸術的な建物が建てられたときは、著作権によって保護されることがありえます(ただし、46条により大幅な制限がされます)。

この他の知的財産法として、商標法、意匠法、不正競争防止法(特に2条1項1号の混同惹起行為、2号の著名表示冒用行為、3号の商品形態模倣行為)がありますが、いずれも量産される物を想定したものであり(商標はサービスもですが)、鳳凰堂には使えそうにありません。

 

では、パブリシティ権はどうでしょうか。最高裁は、ピンク・レディーという、昭和51年から昭和56年まで活動した女性デュオのメンバーが、2007年に発行された雑誌『女性自身』の「ピンク・レディーdeダイエット」という記事において、かつて撮影された写真を無断で掲載されたとして、損害賠償を求めて光文社を訴えた事案で、次のように判示しました(最判平成24.2.2〔ピンク・レディー〕。当該事案においては請求棄却で確定)。

 人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される…。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。

ここではパブリシティ権は人格権に基づくものとされていますが、肖像(それを被写体とする画像)が顧客吸引力を有する点では、動物や鳳凰堂のような著名な「物」も同じです(もちろん、それが法律上保護されるかは別問題ですが)。このような観点から「物のパブリシティ権」が主張されたことがあります。

しかし、最高裁は、テクモが「ギャロップレーサー」「ギャロップレーサー2」という、実在の競走馬を登場させた競馬ゲームを販売したところ、その所有者ら(第一審を見れば分かりますが、会社と個人あわせて20人が原告です)が「物のパブリシティ権」を侵害されたとして、損害賠償を求めてテクモを訴えた事案で、次のように判示しました(最判平成16.2.13〔ギャロップレーサー〕。第一審、控訴審パブリシティ権を肯定、最高裁は否定)。

(1)1審原告らは,本件各競走馬を所有し,又は所有していた者であるが,競走馬等の物の所有権は,その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり,その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから,第三者が,競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく,競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである…。本件においては,前記事実関係によれば,1審被告は,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対する1審原告らの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,1審被告の上記製作,販売行為は,1審原告らの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。
(2)現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。 
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。

経緯:パブリシティ権は、米国においてプライバシー権から派生したもので、学界を通じて日本にも紹介され、東京地判昭和51.6.20〔マーク・レスター〕がこれを承認して以来、下級審において広く認められていました。その性質が、財産権に基づくものか、人格権に基づくものかは解釈が分かれていました(人格権説を採用したものとして東京高判平成3.9.26〔おにゃんこクラブ〕、財産権説を採用したものとして東京高判平成14.9.12〔ダービースタリオンギャロップレーサーと同様の事件〕)。

平成16年のギャロップレーサー事件判決は、最高裁が初めてパブリシティ権について判断した事例であり(この時点で人のパブリシティ権に関する判例はなかった)、平成24年ピンク・レディー事件判決は、最高裁が初めて人のパブリシティ権について判断した事例です。ピンク・レディー事件判決がNHK韓国人名日本語読み事件・京都府学連事件・和歌山毒物カレー事件被告人手錠腰縄事件(勝手につけました)を引用した上で(判旨引用では省略しました)、「上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」と性質決定していることからすると、財産権説は否定されたと言わざるを得ません(井上由里子・別冊ジュリスト(メディア判例百選 第2版)106頁、奥邨弘司・ジュリスト臨時増刊1453号(平成24年度重要判例解説)273頁、中島基至・ジュリスト1445号88頁、水野謙・法学教室408号133頁)。

 

パブリシティ権が使えないなら、施設管理権はどうでしょうか。「平等院は境内で撮った写真の営利目的使用を禁じ、拝観者に配るパンフレットにも明記している」ようです。一見、これにより営利目的使用が違法になるようにも思われます。しかし、営利目的の撮影のための立ち入りを規制するならともかく、一度撮ってしまった写真の利用目的を規制することは、もはや施設管理権ではカバーしきれる問題ではないように思います(参照:平等院はどのような権利で保護されるか?(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース)。

 

さて、そういう考慮があったのかはわかりませんが、本件では、平等院側は「鳳凰堂を玩具として営利目的に使用することを安易に許諾したという印象を持たれ、寺院としての社会的評価を低下させる」と主張しています。自分たちは歴史ある宗教施設の管理という神聖な仕事に従事しているのに対して玩具の製造・販売は賤業なんだという意識が垣間見えるところですが、それが不法行為法上保護される名誉だと判断されるのか、興味深いです。注視したいと思います。

 

追記ツイッターアフィブログを見たところ、面白ツイートがたくさん見つかったのですが、それはさておき、「ダメって言ってるんだからダメでしょ」「でも著作権は建築の著作物については〜」というコメントが多いようです。私は「知的財産保護は第三者の権利を制限するものなので、物権法定主義の趣旨が妥当し、一般不法行為法による保護は例外的」「そのため、知的財産権法・不正競争防止法で保護されていない知的財産(物の無体物としての側面)について、一般不法行為法による保護を求めようとする場合、一般にそのハードルは高い」「だからどうやって権利(法益)侵害を組み立てるのか気になる」といった意識だったので、意外でした。なお、ギャロップレーサー事件やピンク・レディー事件を検討しつつ、知的財産法と一般不法行為法の関係を論じるものとして、島並良・法学教室380号147頁があります。

 

追記2:福井先生がコメントを出されていました。

www.bengo4.com

要旨は、①鳳凰堂自体は著作権が切れている、仮にそうでなくても46条で撮影は自由、「照明効果の著作権侵害」は可能性が薄そう、②契約違反だと合意が問題となる、仮に合意があっても(損害賠償を超えて)商品在庫の廃棄まで求めるのは難しい、③宗教上の人格権侵害は困難、というものです。

 

照明効果(ライトアップ)自体に著作権が認められ、商用利用の場合にはその侵害になりうるという話は、以前見かけたことがあります。

The twinkling lights, a romantic icon of Paris, were installed in 1985 and are considered a separate work of art in their own right. This means you’ll be waiting a long time until you can safely, under copyright law, photograph the Eiffel Tower at night. And while taking the picture for personal use is acceptable, sharing it is what will most likely get you in hot water—though the copyright holder rarely makes a claim on non-commercial usage. Technically, any images of the Eiffel Tower at night must obtain permission from the copyright holder—in this case, the Société d’Exploitation de la Tour Eiffel. And yes, that means even sharing on social media. (Copyright Law and Why Photographs of the Eiffel Tower at Night Are Illegal)

 

宗教上の人格権については、徳島地判平成30.6.20があります。寺院が、NHKから制作協力を依頼された写真家に、寺院からNHKの番組等以外に使用しないことを条件に、秘仏の撮影を許可したところ、写真家が個人の作品として展示、販売するなどしたとして、その差止め等を求めたという事案で、宗教上の人格権について次のように判示しています(秘仏写真の使用差し止め 四国2寺院が写真家に求めた訴訟で判決 「宗教上の人格権を侵害」 - 産経ニュース)。

 前記(2)(3)のとおり,本件写真2は広く頒布されることまでを想定して撮影が許可されたものではなく,また,本件写真67は原告大興寺に無断で撮影されたものであり,いずれも一般に公開されたり,広く一般に流布されたりすることを認めていたわけではない。そして,原告ら寺院は,いずれも本尊を秘仏とし,原告極楽寺については定期点検を行う調査員以外の第三者に公開せず,また,原告大興寺ついても60年に1回公開するのみであり(前記前提事実(4)ア,同(5)ウ),このような原告ら寺院における信仰の対象としての本尊の重要性に鑑みれば,原告ら寺院の意図に反して,被告が本件写真2及び本件写真67を使用し,これを一般に公開したり,広く一般に流布したりすることは,原告極楽寺及び原告大興寺の宗教上の人格権を侵害する不法行為に該当するものといえる。

 確かにこの事案と比較する限り、鳳凰堂は一般に公開されているため、難しそうです。

ところで、福井先生は「例えば寺社側が普段は対価を得て撮影や利用を許諾している場合」には宗教上の人格権侵害を主張するのは困難とコメントされているのですが、ギャロップレーサー控訴審判決は「現に…競走馬の馬主が競走馬の馬名、肖像等をゲームソフトで使用するについてゲームソフト製作販売会社との間で一定額の使用許諾料の支払を受ける旨の契約を締結したりして、右馬名のもつ顧客吸引力から経済的利益等を得ようとし、又は得ている状況にあることが認められる」ことを理由の一つとして、「現在、著名人に限らず競走馬等の物のパブリシティ権を一定の要件のもとに承認し、これを保護するのを相当とするような社会状況が生まれている」としています。同じ「利用について対価を取っている」という事実が、宗教上の人格権侵害では侵害不成立の方向に働き、物のパブリシティ権(否定されたけど)では侵害成立の方向に働く点は、興味深いですね(財産権と人格権だから当然か…)。