マンガアプリを改竄して有料コンテンツを課金せずに閲覧した行為と私電磁的記録罪(逮捕段階)

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 小学館スマートフォン向け漫画アプリ「マンガワン」を不正に改変したなどとして、警視庁は12日、ヤフーの男性社員(25)を私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで書類送検した。容疑を認めているという。
 渋谷署によると、送検容疑は2016年3月10日、マンガワンのシステムデータを改変してサーバーに虚偽の情報を送信し、閲覧可能時間を約6億秒(約16万6666時間)に不正に延ばしたというもの。男は当時大学院生で、改変の手口を自身のブログで公開していたという。マンガワンは漫画をスマホで読めるアプリで、当時は閲覧できる時間を購入する仕組みだった。小学館が不正が疑われる接続などを調査し、同年7月、警視庁に相談していた。
 ヤフーは12日、「事実であれば大変遺憾であり、厳正に対処する。ご迷惑をおかけした出版社ならびに関係者の皆さまに対し深くおわび申し上げます」。小学館も「不正アクセス事案が後を絶たない現状への重要な警鐘になるものと受け止めます。アプリやウェブサイトへの不正アクセスや侵害事案に対し、今後も刑事、民事両面から断固たる対応を取っていきます」とのコメントを出した。

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ノート

この行為について、著作権法違反や不正競争防止法違反はともかく、私電磁的記録罪が成立する余地があるのだろうかと思ったのですが、必ずしもないとは言えないようです。

 高木先生が引用しているB-CAS判決(大阪高判平成26.5.22)を引用します。

 B-CASカードに記録された電磁的記録は,刑法161条の2第1項,3項所定の人の事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録に該当し,被告人がこれを改変する行為は,同条1項所定の,人の事務処理を誤らせる目的で人の事務処理の用に供する権利,義務に関する電磁的記録を不正に作ったこと(不正作出)に該当するほか,被告人が改変した上記電磁的記録を記録したB-CASカードをテレビに接続された衛星放送受信可能なチューナー内蔵レコーダーに挿入する行為は,同条3項所定の,人の事務処理を誤らせる目的で不正に作られた権利,義務に関する電磁的記録を人の事務処理の用に供したこと(供用)に該当すると認められる。
 すなわち,関係証拠によると,B-CASカードは,日本国内において,地上デジタル放送やBSデジタル放送及びCSデジタル放送を受信するためにテレビ等のデジタル放送受信機に挿入して使用するICカードであり,株式会社甲及び乙株式会社が共同で開発しそれぞれ製造して,B-CAS社に使用許諾を与えることにより,CAS方式と称する限定受信方式を用いたCAS放送の受信機において一般視聴者により使用されていること,B-CAS社からCAS放送実施の許諾を受けた衛星放送事業者は,衛星放送を通じて顧客等宛てに契約情報を送信して,各顧客等の使用するB-CASカードにあらかじめ書き込まれている事業者ごとの視聴契約情報を書き換えることによって,同カードを所持しその使用権限を有する当該顧客等が当該事業者の衛星放送を受信することを可能にするものであること,そして,被告人が原判示の各B-CASカードに記録された電磁的記録を原判示のとおり書き換えたことにより,当該B-CASカードが地デジ専用か地デジ・BSCS汎用かに関わりなく,それまでは受信不能であったWOWOW,スカパー及びスターチャンネルという各有料衛星放送並びに地デジ難視対策衛星放送について,全て2038年4月22日まで受信が可能となり,また,被告人が上記書換え後の上記の各B-CASカードをテレビに接続された衛星放送受信可能な各チューナー内蔵レコーダーに挿入したことによって,上記有料衛星放送の各事業者及びDpaとの間に視聴契約を締結することなく,上記各衛星放送を受信して視聴することが可能となったことが認められる。
 そうすると,B-CASカードに記録された電磁的記録は,衛星放送事業者から送信される事業者ごとの視聴契約情報に基づき,当該カードを所持しその使用権限を有する一般視聴者の衛星放送受信権限について,衛星放送ごとに受信権限の有無及びその期限を記録することによって,受信権限のある者による受信を可能にし,受信権限のない者による受信は不能にするものであるから,視聴契約に基づく受信権限の有無により個別の受信機による当該衛星放送受信の可否,ひいてはその視聴の可否を管理するという,衛星放送事業者の財産上又は社会的責務上の事務処理の用に供する電磁的記録であるとともに,衛星放送事業者との視聴契約に基づく受信権限に関する電磁的記録であるともいうことができる。
 そして,被告人が本件各B-CASカードに記録された電磁的記録を改変した行為は,被告人が,受信権限のない衛星放送を受信して視聴するため,上記電磁的記録を,あたかも被告人に当該受信権限があるかのように当該衛星放送事業者の許諾を得ることなく書き換えるものであるから,同事業者の上記事務処理を誤らせる目的で,同事業者の上記事務処理の用に供している,同事業者との視聴契約に基づく受信権限に関する電磁的記録の不正作出に当たるということができる。
 さらに,被告人が,改変した上記電磁的記録を記録した各B-CASカードを,テレビに接続された衛星放送受信可能なチューナー内蔵レコーダーに挿入した行為は,被告人が衛星放送事業者との視聴契約に基づく受信権限のない衛星放送を受信して視聴するため,あたかも被告人に当該受信権限があるかのように当該衛星放送事業者の許諾を得ることなく,書き換えられた同事業者との視聴契約に基づく受信権限に関する電磁的記録を,同事業者の上記事務処理の用に供したこと(供用)に当たるといえるのである。

判旨は、これに続けて、弁護人の主張に対する判断として、争点事により詳細な判示をしています。

ア B-CASカードに記録された電磁的記録の法的性格について
(ア)弁護人は,被告人が行ったB-CASカードに記録された電磁的記録の改変行為は,個別の放送事業者との契約期間に関する数字を変更させたわけではなく,視聴制限が設定されている全ての放送について,プログラムにおける最長の日付まで視聴制限を外す改変を加えるという操作をしたにすぎないのであり、「権利,義務に関する電磁的記録」の作出には当たらない旨主張する。
 しかし,関係証拠によると,被告人は,原判示各B-CASカード中の視聴制限関係データのうち,各衛星放送事業者との契約に関する情報を一括して書き換えることにより,改変前は,いずれの衛星放送事業者との間にも視聴契約がなく,これによる放送の視聴ができないとされた状態であったものを,改変後は,一括して,全て視聴可能な状態とし,その視聴可能期限を2038年4月22日23時までとなるように改変したことが認められるのであり,被告人は,上記改変行為によって,全ての衛星放送事業者との関係で,視聴契約に基づく受信権限の有無及びその期限に関する電磁的記録,すなわち,各B-CASカードに記録された「権利,義務に関する電磁的記録」を一括して改変して新たに作出したということができる。 
(イ)弁護人は,原判決が,B-CASカードに記録された電磁的記録の改変が,「視聴契約の権利,義務に関する電磁的記録」であると認定した点について,地デジ難視対策衛星放送の利用者とDpaとの間に視聴契約なるものは成立していない旨主張する。
 しかし,関係証拠によると,地デジ難視対策衛星放送の視聴については,Dpaと利用者との間で視聴契約が締結されているものと認めることができる。すなわち,地デジ難視対策衛星放送は,利用者が当該衛星放送の対象地区(山間部や離島等,地上デジタル放送が受信不能等の事情があり,総務省等の定めるいわゆるホワイトリストに掲載された地区等)に居住していることによって当然に視聴できることになるのではなく,利用対象者がDpaに申込み,Dpaが承諾することによって初めて視聴可能となるように,契約の締結が前提とされていることが認められる。なお,Dpaから利用申込者に送付される文書は,利用確認通知書との表題であるが,その内容からは,Dpaが利用申込者に放送利用を承諾する旨通知する書面であることが明らかであるから(地デジ難視対策衛星放送利用規約9条),契約の締結を観念する妨げとはならない。
 この点,弁護人は,衛星放送の視聴やB-CASカードの利用等に関し契約関係を想定することは現実的ではないし,意思無能力者や未成年者との間に契約関係を想定することはできないとも主張する。そして,地デジ難視対策衛星放送に限ってみれば,地上アナログ放送から地上デジタル放送への移行に伴って発生する難視聴地区が地上系の放送基盤による恒久的な対策が終了するまでの間,暫定的かつ緊急避難的な措置として対象地区や期間等を限定して実施される措置であるというその制度趣旨からみて,契約締結の法形式を採用することは,上記移行期における地デジ難視聴対策を円滑に遂行するという政策実現のための便法とみる余地もある。
 しかし,関係証拠によれば,地デジ難視対策衛星放送は東京地区で行われている地上デジタル放送を衛星放送により送信するものであるところ,これを受信できる視聴者を,Dpaに利用申込みをした対象地区の居住者のうちDpaが承諾した者に限定している趣旨は,東京地区の地上デジタル放送について他の地区でも無条件に視聴できることになると,放送法に基づく基幹放送普及計画及び電波法に基づく基幹放送用周波数使用計画における地上放送について放送局ごとに対象地区を限定する原則に反するとともに,地方放送局の経営に悪影響を与え,あるいは東京地区の各放送局から地デジ難視対策衛星放送のための再放送(再送信)の同意を得られなくなるおそれも生じることから,こうした事態の発生を防ぐことにあるところ,この限定に実効性を持たせるために,地デジ難視対策衛星放送を送信するDpaが,利用規約を設け,対象地区の居住者等から視聴申込みを受け付けた上,その者について対象地区に居住していないなどの不承諾事由の有無を審査し,不承諾事由がないことを確認した視聴申込者に限り,放送利用を承諾する旨を通知するとともに,衛星放送を通じてその者の使用するB-CASカード宛てに契約情報を送信し,同カードにあらかじめ書き込まれているDpaの視聴契約情報を書き換えることにより,その者がDpaの衛星放送を受信して視聴することを可能にしていることが認められる。
 このように,地デジ難視対策衛星放送の受信の可否を決するに当たり,Dpaにおいて,対象地区の居住者等から視聴申込みを受け付け,不承諾事由の存否を審査して,適格者に限り放送利用を承諾するという契約締結の法形式を採用することは,地デジ難視対策衛星放送の受信可能者を対象地区の居住者等に限定することを実効あらしめることによって,地上アナログ放送から地上デジタル放送への移行を円滑なものにするとともに,基幹放送普及計画及び基幹放送用周波数使用計画における前記原則を遵守し,対象地区以外の居住者等が地デジ難視対策衛星放送を無条件で受信して視聴することに伴う弊害の発生を防止するために設けられた法的な措置と解されるのであり,上記行政上の政策目的を実現する上で必要かつ合理的な法形式の採用であると認められるのである。
 そうすると,弁護人指摘の事情を考慮しても,Dpaと利用者との間には契約が締結されていると認められるのであり,仮にその利用者が未成年者や意思無能力者であっても,地デジ難視対策衛星放送の受信権限を取得することはできるのであり,上記のような地デジ難視対策の政策目的からすれば,Dpaにおいて,その利用申込みを受理せず,あるいはその者に対する利用承諾を取り消すことは想定できないから,契約締結という法形式を採用しても特段の弊害は生じないといえるのである。
(ウ)弁護人は,B-CASカードを用いた限定受信システム自体が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)3条,19条に違反しており,また,視聴者の視聴内容の把握を可能とする点でも違法であって,放送事業者とB-CAS社との契約は民法90条により無効であるから,この契約に基づき放送事業者が付与されたB-CASカードの電磁的記録の書換え権限も無効である旨主張する。
 しかし,関係証拠によれば,上記システムは,有料のBS/CSデジタル放送を契約者のみが視聴できる視聴管理を実現するために導入されて,その後,デジタル放送のコピー制御のために無料のデジタル放送にも用いられるようになったことが認められ,前認定のようなDpaによる利用も含めて,その利用には十分な必要性と合理性が認められるのであり,弁護人指摘の参議院総務委員会における会議録に照らしても,このシステムが独占禁止法3条,19条に違反する疑いは生じない。さらに,関係証拠上,弁護人が指摘する秘密裏の視聴内容の収集は,技術的に可能というにとどまり,そのような具体的弊害が生じていることをうかがわせる事情は何ら見出し得ないのである。そうすると,B-CASシステムが違法であるとか,放送事業者とB-CAS社との間の契約が違法無効であり,この契約に基づきDpa等の放送事業者に付与されたB-CASカードの電磁的記録の書換え権限もまた違法無効であると解する余地はない。
イ B-CASカードに記録された電磁的記録と「人の事務処理の用に供する」電磁的記録との関係について
 弁護人は,本件では,B-CASカードを挿入するレコーダーが刑法上の電磁的記録に係る電子計算機に,レコーダーによって行われる事務処理が同法上の事務処理にそれぞれ該当するところ,改変後のB-CASカードを用いた衛星放送の視聴では,衛星放送事業者の保有する顧客情報を改変するなど,他人に対する働きかけを伴わないし,Dpaの事務処理が害されるものでもないから,被告人が改変した各B-CASカードに記録された電磁的記録は,被告人が所有するレコーダーによる被告人のための情報処理にのみ用いられるにすぎず,他人の事務処理を観念することはできない旨主張する。
 しかし,関係証拠によれば,B-CASカードのICチップ内には,特定の衛星放送事業者のみが書換え権限を付与された情報が記憶される領域があり,当該事業者は,Dpaを含め,その領域の情報を用いて,視聴契約に基づく受信権限の有無によって同カードが挿入された個別の受信機による当該衛星放送受信の可否を管理するという事務処理を行っていることが認められるから,B-CASカードに記録された電磁的記録が他人の事務処理に供されるものであることは明らかである。
ウ 被告人による電磁的記録の改変行為の不正行為性について
 弁護人は,B-CASカードの所有権は,それが添付されたテレビ等の製品を購入した者に属するのであり,被告人には,自己の所有するB-CASカードに記録された電磁的記録を書き換える権限があるとも主張する。
 しかし,原審で取り調べられた関係証拠及び当審で取り調べたB-CASカード使用許諾契約約款(当審検1。以下「約款」という。)によると,B-CAS社は,B-CASカードの所有権をその製造会社との売買契約によって取得した後,受信機器製造会社との契約により,その所有権を留保したまま,約款とともに受信機器に同梱しているところ,約款には,B-CASカードの所有権はB-CAS社に属することが明記されており,B-CASカードの裏面にも,同旨の記載がなされて出荷されていることが認められる。このように,B-CASカードは,その所有権がB-CAS社に留保されていることが顧客にも十分に認識可能な形態で出荷され,受信機器を購入した顧客がこれを受け取るのであり,顧客としても,所有権が留保されている事実は当然に認識すべきものであり,仮にそのことに気づいていないとしても自らの過失による不知にすぎないから,被告人がB-CASカードの同梱された受信機器を購入したとしても,同カードの所有権を取得する余地はない。
エ 被告人の故意について
 弁護人は,被告人は自己の所有するB-CASカードを自らのレコーダーによる事務処理の一環として書き換えたにすぎないと認識していたから,被告人には私電磁的記録不正作出・同供用の故意がない旨主張し,被告人も,原審において,これと同旨の供述をする。
 しかし,前認定のように,約款及びB-CASカードの裏面には,同カードの所有権がB-CAS社に帰属することが明記されており,被告人も当然にそのことを認識していたはずである。しかも,被告人は,その述べるところによっても,Dpaの承諾がなければ地デジ難視対策衛星放送を受信することができないことを知りながら,自らB-CASカードに記録された電磁的記録を改変することによって,これを受信し視聴することを可能としたものであるから,B-CASカードの所有権の帰属の有無に関わりなく,自らの行為によって,視聴契約に基づく受信権限の有無に従って同カードが挿入された個別の受信機による当該衛星放送受信の可否を管理するというDpaの事務処理を害していることも,当然に認識していたものと認められるのであり,被告人が故意を有していたことは明らかである。
 なお,弁護人は,放送法著作権法不正競争防止法の法体系からは,被告人にとって,B-CASカードの電磁的記録の書き換え行為が刑法161条の2第1項に該当することを意識することがおよそ不可能であったとも主張するが,被告人は,前認定のように,自らの行為によって,Dpaの事務処理を害していることを認識していたのであり,その供述によっても,自らの行為が違法でないと主張する根拠は,B-CASカードの所有権が自己に帰属すること以外は,具体性のないものにとどまるから,違法性の意識があったことについても疑う余地はない。
オ 刑法161条の2第1項の立法趣旨や著作権法不正競争防止法との関係について
(ア)弁護人は,本件で被告人を処罰することになれば,B-CASカードが有する受信機のコピー制御機能という法的利益まで電磁的記録不正作出罪の保護法益として取り込むことになり,立法当初に電磁的記録不正作出罪が予定していた処罰範囲を著しく超えることになる旨主張する。
 しかし,本件で問題とされているのは,視聴契約に基づく受信権限の有無に従い個別の受信機による当該衛星放送の受信ないし視聴の可否を管理するというDpaの事務処理の用に供される,B-CASカードに記録された電磁的情報を保護することの当否であるところ,このような電磁的情報が果たしている社会的に重要な機能が刑法161条の2の想定する保護の対象となることは,同条項の構成要件の定め方からも明らかであって,その立法段階から想定することもできる範囲内のものということもできる。
(イ)弁護人は, 著作権法120条の2も,本件犯行後に改正された不正競争防止法2条10号,11号も,ユーザーが技術的制限手段の回避装置ないしプログラムを使用すること自体は,刑事罰の対象とされていないところ,このような他の法律の趣旨からみて,刑法においてユーザーによる技術的制限手段の回避行為まで処罰することは,罪刑法定主義に違反する旨主張する。
 しかし,著作権法著作権等の保護,不正競争防止法は事業者間の公正な競争をそれぞれ主たる保護法益とするのに対し,刑法161条の2は電磁的記録の果たす社会的に重要な機能に鑑みて電磁的記録に対する公共的信用を保護法益とするものであるなど,これらの法律は,犯罪構成要件の定め方のみならず,その立法趣旨や保護法益をも異にするものであるから,被告人の行為を一種の視聴制限回避行為や技術的制限手段回避行為として捉えるとしても,著作権法及び不正競争防止法がこれらの行為を刑事処罰の対象とはしていないからといって,これらと犯罪構成要件,立法趣旨や保護法益を異にする本罪の成立範囲が限定される,あるいはB-CASカードの改変とその使用について本罪を適用することが罪刑法定主義に反するとは解されない。

 注視していきたいと思います(ほとんど考察できてなくて残念です…)。