最判平成30.12.7:所有権留保後に譲渡担保が設定された場合の優劣

事案の概要

判旨参照。
 

判旨

 上告代理人辰野守彦ほかの上告受理申立て理由第一点について
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は中小企業等への融資等を主たる事業とする金融機関であり,被上告人は自動車部品等の製造,販売等を主たる事業とする会社である。
 美崎産業株式会社は,金属スクラップ等の処理,再生,販売等を主たる事業とする会社である。
(2)被上告人と美崎産業は,平成22年3月10日,被上告人が美崎産業に対して金属スクラップ等を継続的に売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約には,要旨次のような定めがある。
ア 被上告人から美崎産業への目的物の引渡しは,原則として,美崎産業が被上告人の子会社から定期的に目的物を収集することにより行われる。
イ 美崎産業は,被上告人から引渡しを受けた目的物を受領後速やかに確認して検収する。
ウ 被上告人は,検収に係る目的物について,毎月20日締めで代金を美崎産業に請求し,美崎産業は,上記代金を翌月10日に被上告人に支払う。
エ 目的物の所有権は,上記代金の完済をもって,被上告人から美崎産業に移転する(以下,この定めを「本件条項」という。)。
(3)被上告人は,美崎産業に対して,本件売買契約に基づき売却した金属スクラップ等の転売を包括的に承諾しており,美崎産業は,被上告人から当該金属スクラップ等の引渡しを受けた直後にこれを特定の業者に転売することを常としていた。
(4)上告人と美崎産業は,平成25年3月11日,極度額を1億円として,美崎産業からの個別の申込みに応じて上告人が美崎産業に融資を実行する旨の契約を締結し,上記契約により上告人が美崎産業に対して現在及び将来有する債権を担保するため,上告人を譲渡担保権者,美崎産業を譲渡担保権設定者とする集合動産譲渡担保設定契約(以下「本件設定契約」といい,これによって設定された譲渡担保権を「本件譲渡担保権」という。)を締結した。本件設定契約には,要旨次のような定めがある。
ア 譲渡担保の目的は,非鉄金属製品の在庫製品,在庫商品,在庫原材料及び在庫仕掛品(以下,これらを併せて「在庫製品等」という。)で,美崎産業が所有し,静岡県御殿場市内の工場(以下「本件工場」という。)及び精錬部で保管する物全部とする。
イ 本件設定契約の締結の日に美崎産業が所有し上記の保管場所で保管する在庫製品等については,占有改定の方法によって上告人にその引渡しを完了したものとする。
ウ 上記の日以降に美崎産業が所有権を取得することになる在庫製品等については,上記の保管場所に搬入された時点で,当然に譲渡担保の目的となる。
(5)本件譲渡担保権に係る動産の譲渡につき,平成25年3月11日,動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項に規定する登記がされた。
(6)被上告人は,平成26年5月20日までに美崎産業に対して本件売買契約に基づき売却した金属スクラップ等については、一部を除いて,同年6月10日までに美崎産業から代金の支払を受けた。
(7)被上告人は,平成26年5月21日から同年6月18日までに,美崎産業に対し,本件売買契約に基づき,金属スクラップ等を売却した。 
(8)美崎産業は,平成26年6月18日,被上告人を含む債権者らに対して,事業を廃止する旨の通知をしたが,被上告人は,同通知の時点で,上記(7)の期間に売却した金属スクラップ等について代金の支払を受けていなかった。
(9)被上告人は,平成26年11月,美崎産業を債務者として,本件工場で保管されている金属スクラップ等につき,本件条項に基づき留保している所有権に基づき,動産引渡断行の仮処分命令の申立てをし,平成27年1月13日,上記申立てを認容する旨の決定(以下「本件仮処分決定」という。)がされた。
(10)被上告人は,平成27年1月20日及び21日,本件仮処分決定に基づき,本件工場で保管されていた金属スクラップ等を引き揚げ,その頃これを第三者に売却した。なお,上記金属スクラップ等の一部には,美崎産業が被上告人に対して代金を完済したものが含まれていた(以下,上記金属スクラップ等のうち上記の代金の完済に係るものを除いたものを「本件動産」という。)。
2 本件は,上告人が,被上告人に対し,上記1(10)記載の金属スクラップ等の引揚げ及び売却が上告人に対する不法行為に当たるとして5000万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を請求し,選択的に,これによって被上告人が得た利益は不当利得に当たるとして同額の不当利得金の返還及び民法704条前段所定の利息の支払を請求する事案である。上記の不法行為及び不当利得の成否に関して,本件動産につき,上告人が被上告人に対して本件譲渡担保権を主張することができるか否かが争われている。
3 所論は,本件売買契約において,本件条項に基づき被上告人が本件動産の所有権を留保することは本件動産の所有権を被上告人から美崎産業に移転させた上で美崎産業が被上告人のために担保権を設定したものとみるべきであるにもかかわらず,本件動産につき,その所有権が被上告人から美崎産業に移転しておらず,上告人が被上告人に対して本件譲渡担保権を主張することができないとした原審の判断には,法令解釈の誤り,判例違反がある旨をいうものである。
4 上記事実関係等によれば,本件売買契約は,金属スクラップ等を反復継続して売却するものであり,本件条項は,その売買代金の支払を確保するために,目的物の所有権がその完済をもって被上告人から美崎産業に移転し,その完済までは被上告人に留保される旨を定めたものである。
 本件売買契約では,毎月21日から翌月20日までを一つの期間として,期間ごとに納品された金属スクラップ等の売買代金の額が算定され,一つの期間に納品された金属スクラップ等の所有権は,上記の方法で額が算定された当該期間の売買代金の完済まで被上告人に留保されることが定められ,これと異なる期間の売買代金の支払を確保するために被上告人に留保されるものではない。上記のような定めは,売買代金の額が期間ごとに算定される継続的な動産の売買契約において,目的物の引渡しからその完済までの間,その支払を確保する手段を売主に与えるものであって,その限度で目的物の所有権を留保するものである。
 また,被上告人は,美崎産業に対して金属スクラップ等の転売を包括的に承諾していたが,これは,被上告人が美崎産業に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であると解され,このことをもって上記金属スクラップ等の所有権が美崎産業に移転したとみることはできない
 以上によれば,本件動産の所有権は,本件条項の定めどおり,その売買代金が完済されるまで被上告人から美崎産業に移転しないものと解するのが相当である。したがって,本件動産につき,上告人は,被上告人に対して本件譲渡担保権を主張することができない
5 これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,いずれも事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

ノート

  • 継続的取引において所有権留保がされ、買主が売買対象物を集合動産譲渡担保に供した場合において、所有権留保が優先するとしたもの。
  • 所有権留保の法的性質に関する議論として、所有権的構成説と担保権的構成説が対立する。また、所有権留保における対抗要件の要否の前提として、所有権留保において物権変動があるかどうかについて議論がある(田高寛貴「譲渡担保と所有権留保(再発見・担保物権法 第10回)」法学教室424号85頁(2016)参照)。しかし、本件のような事案では「売主から一度完全な所有権が買主に移転し、買主が売主に担保権を設定した」という解釈(売主にとって最も不利な解釈であり、上告理由はそれを主張しているものと思われる)を取らない限り、留保所有権者と譲渡担保権者は前主・後主の関係にあることになると考えられる。
  • 上記の帰結であるが、本判決は、必ずしも最高裁が完全な所有権的構成に立つことを明らかにしたものではない。このことは、判旨が本件売買契約の所有権留保条項について「売買代金の額が期間ごとに算定される継続的な動産の売買契約において,目的物の引渡しからその完済までの間,その支払を確保する手段を売主に与えるものであって,『その限度で』目的物の所有権を留保するもの」と述べていることからもうかがわれる。
  • 本件は、継続的取引から生じた事案であり、転売が容認されていた。しかし、判旨は、「これは,被上告人が美崎産業に本件売買契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であると解され,このことをもって上記金属スクラップ等の所有権が美崎産業に移転したとみることはできない」とした。
  • 本件は事業廃止の場面での事案であり、倒産手続は射程外である。しかし、判例・通説は譲渡担保・所有権留保のいずれについても(所有権的構成か担保権的構成かにかかわらず)別除権として扱っており、同様の判断になると考えられる。