強制性交等罪の保護法益

性犯罪関係の改正についての法制審議会の部会の議事録に、興味深い記述がありましたので、紹介しておきます(法務省:法制審議会-刑事法(性犯罪関係)部会)。

肛門性交や口腔性交は、かつては強制わいせつにしかなりませんでしたが、今回の改正で、強姦と同等に処罰されることとなりました。これにより、性犯罪の保護法益が変化した、あるいは人々の間で漸進的に変化してきたものが立法的に承認されたことになるのではないかと思います。

 

井田良委員(第2回議事録8〜9頁)

…まず押さえておくべきことは,現行法は単に強姦と強制わいせつとを区別して,強姦の刑を重くしているというばかりではなくて,例えば致傷の場合にも,もちろん刑は変わってきますし,強姦については集団強姦罪という加重類型も設けており,更には強盗強姦罪という独特の結合犯の類型も規定している。このようにして,行刑法は,男性の女性に対する性器結合の強制のみを種々の観点から特別扱いしているのです。ここでの問題は,それでよいのか,このような行き方を今後将来に向けて正当化できるのかということです。このことがここで押さえるべき第一のポイントだと思うのです。

改正に当たっての一つの方法論は,宮田委員のお考えはそれに近いと思うのですけれども,古典的な強姦のイメージを前提としてそこから出発し,外形的にそれに準ずるものを強姦と同等に扱うことにする,というものです。そういう方法論も採れるかもしれませんが,私にはそれが正攻法であるとは思われない。それよりも,法益侵害ないし被害の実態を前提に置いて,どの範囲の性的侵害行為を言わば加重強制わいせつ罪として類型化するのがよいか,というように考えて行くのが一番よいと考えるのです。強姦罪の処罰規定をそのままにしておいて,強制わいせつ行為の一部をより重く処罰する中間類型を設けるという三分法を採るとすれば,非常に複雑な立法になってしまいます。二分法を前提として,広い意味の強制わいせつ罪の中から,被害の実態を考えて,被害者に強姦に匹敵するようなダメージを与えるものを括り出してきて,強姦を含めて類型化するのがよいであろうと思うのです。

そのように考えますと,小西委員,齋藤幹事のお話にもありましたし,また冒頭の中村幹事の御説明にもありましたけれども,何が性犯罪の被害の実態なのか,そのことをどう認識するかが決定的な視点ということになってきます。性犯罪とは,濃厚な性的な接触を強制するというところに本質がある。性的行為という特殊な経験を無理やり犯人と共有せざるを得ない,その共有を強いられるというところに被害の実態があると私は考えています。

ドイツにおける最近の議論においては,性犯罪の保護法益は,内密領域の防御権であるとするものがあります。確かに我々は人からそこにアクセスされたくない身体的領域,また他人のそういう領域へのアクセスを強いられることもやはり嫌な身体的領域というものを持っています。そういう領域を特定の人との関係では開放する,そこへのアクセスを許すというのが性的行為であり,意思に反して無理やりその経験を共有させられるというところに,性犯罪における被害の実態があるのではないか。意思に反してそういう身体的領域に踏み込まれる,又は,こちらは嫌なのにそこにアクセスしなければならないというところに被害の実態があるとすれば,取り分けその中でも体腔内への陰茎の挿入を伴うような態様のものというのは,特に濃厚な性的経験の強制的共有と評価してよいのではないかと考えられます。そこにより重く処罰されてよい実態があるのではないかということです。

そこから,口腔への陰茎の挿入もまた,特に濃厚な性的経験の共有を意味するものです。口腔は,顔に近いところにある,そして我々が食事のために用いる,そういう身体的な器官であるわけで,そこに排泄の機能を持つ身体的器官を無理やり挿入されるという経験は被害者にかなり大きなダメージを与える行為なのではないでしょうか。また,被害の実態を見ても,強姦のケースの多くの場合において口淫性交が行われるという事実があります。それは見方を変えれば,犯人の側としても,性欲の満足のために強い欲求を感じる行為でもある。そうであるとすれば,逆に被害者側はそこから特に強く守られるべき行為であるといえる訳です。性的欲求の対象となる度合いが強ければ,それだけ,被害者も強い保護に値するということがあります。口淫性交は,やはり膣性交や肛門性交と同じに扱ってよい理由はそこにあると考えるのです。

 

橋爪隆幹事(第2回議事録12〜13頁)

現行法は,一般の強制わいせつ行為と区別して,強姦行為,すなわち陰茎を膣に挿入する行為のみを加重処罰しています。膣性交のみを加重処罰する理由というのは,おそらく,膣性交が妊娠の危険性をはらむ行為であり,また,仮に妊娠する危険が全くないとしても,生殖行為としての抽象的*1な意味を持っているという観点から,刑が特に加重されていると解することができます。
もっとも,要綱(骨子)第一の罪は,このように生殖行為としてのシンボリックな意味を持つということを離れて,重大な性的侵害という観点を重視していると思われますが,そのような理解は基本的に正当だと考えます。すなわち,飽くまでも性的な行為として濃密な身体的接触があるところに加重処罰の根拠があると考えるべきであり,このような理解からはやはり膣とそれ以外の肛門,口腔を区別して考えるべきではないと思われます。

 

*1:「象徴的」のタイプミスと思われる。