ケイティの偽トロ実装代行は不正競争防止法に違反するか?

「偽トロ」の実装作業を代行していた株式会社ケイティが突然営業を停止したというツイートを見ました。

偽トロとは、本来キャプチャ機能や外部出力機能のない3DSを、物理的に改造し、外部出力させ、出力先のPCでキャプチャできるようにするというものです。主にプレイ実況に使われています。

plus1world.com

 

営業停止の理由は明らかではありませんが、不正競争防止法改正により、ケイティの行っているサービスが違法化されてしまったからとも言われています。

しかし、個人的に調べたところ、ケイティのサービスは違法ではないように感じました。調べたこととコメントをまとめておきます。

 

不正競争防止法改正で偽トロが違法化?

昨年11月29日、2018(平成30)年不正競争防止法改正が施行され、これにより偽トロの実装作業代行サービスが違法とされることとなったと言われています。例えば:

rusidx.hatenablog.com

 

情報源となっているのは、次のサイトのようです。

■法改正でなにが違法になったのか
以下の行為はすべて不正競争行為となり違法となります
行為1:ゲームソフトのセーブデータを改造するツールやプログラムの譲渡等
行為2:ソフトウェアメーカーが許諾していないシリアルコード、プロダクトキーを単体でインターネットオークション等に出品したり、インターネットに掲載すること
行為3:セーブデータの改造代行、ゲーム機器の改造代行を行うこと(不正競争防止法の改正について | 活動報告 | ACCS

ACCSは、ロビーイングを行っている権利者団体のようです。ちなみに著作権法の管轄は文化庁文部科学省の外局)、不正競争防止法経済産業省特許庁ではなく本省。不法行為法の特別法で、知的財産「権」までは設定しないからでしょうか)です。

私たちは、適切な知的財産保護のために活動しています。 一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会ACCS)では、知的財産権が適切に保護される社会の実現のため、法の整備と権利行使(法律・ルール)、著作権の普及・啓発、コピー防止技術など技術的保護手段の普及の3点のバランスが重要と考え、日々さまざまな活動を展開しています。(ACCSの紹介 | ACCSについて | ACCS

しかし、次に述べるとおり、個人的にはこの解釈に疑問を持ちます。

 

17号の行為

不正競争防止法は、2条1項各号で「不正競争」を定義し、3条で不正競争を行った者に対する差止請求権、4条で損害賠償請求権を規定するという構造になっています。長文化が著しい平成の立法の中でもとりわけ規定が長く、読みたくない度だと金商法と同じくらいなんですが、頑張りましょう。

なお、条文は、e-govがいまだに改正を反映していないので、経産省のwebサイトから引用します(不正競争防止法のこれまでの改正について(METI/経済産業省))。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
17号 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第八項において同じ。)の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為

どうかブラウザを閉じないでください。平成の法律はカッコ書きを飛ばせと会社法で習いましたね。ではもう一度。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
17号 営業上用いられている技術的制限手段…により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録…を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置…、当該機能を有するプログラム…若しくは指令符号…を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を

ここまでが目的語。

典型的には、コピープロテクションのかけられたコンテンツを、プロテクションを破ることによってコピーできるようにしてしまうプログラム等を記録したメディア・デバイスです。

譲渡し引き渡し譲渡若しくは引渡しのために展示し輸出し、若しくは輸入し

ここまでが動詞。

目的語がメディア・デバイスなので、譲渡、引渡し、展示、輸出、輸入という物理的な行為が対象とされています。

さらに目的語+動詞のセットが2つ並びます。

若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為…

これが2つ目の目的語+動詞。

最初の目的語+動詞のセットでは、目的語がメディア・デバイスだったので、物理的な行為が対象とされていましたが、今度はプログラム等そのものが目的語なので、インターネットを通じて提供する行為が対象とされています。

ちなみに「当該機能」とは、さっきあった「営業上用いられている技術的制限手段…により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録…を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能」のことです。

そして、

又は影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為

 

これが3つ目の目的語+動詞です。

「役務」とは、よくある法律の言い回しで、「サービス」の意味です。要するにプロテクションを破ってあげるサービスの提供もダメだというわけです(破る道具を取引するのを禁止しても、これを禁止しなければ意味がありませんからね)。

ACCSの言う「ゲーム機器の改造代行」は、これをいうものでしょう。

 

技術的制限手段

偽トロ実装作業の代行は、先ほどの「3つ目」の「影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為」に当たるのか。まず「技術的制限手段」ですが、その定義は2条8項に書かれています。

2条8項 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法により影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録を制限する手段であって、視聴等機器…が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音、プログラムその他の情報を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

「であって」以降はあまり関係ないのでとりあえず置いておきます。

「電磁的方法により」については、経産省の解説には次のように書かれています。

人間の五感によっては感知できない方法、具体的には電気信号や磁力を用いることを指す。「その他の方法」の事例としては、光学的方法がある。(逐条解説 不正競争防止法 平成30年11月29日施行版(経済産業省 知的財産政策室編)50頁)

「制限する」については、経産省の解説には次のように書かれています。

「制限する」とは、影像、音、プログラム又は情報を提供する者が、影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理、又は影像、音、プログラムその他の情報の記録に対して制約を課す管理を措置することを指す。例えば、有料の衛星放送や有線放送において、所定の料金を支払う特定の者に対してのみ番組を視聴することを可能とすること、ゲームにおいて、特定のゲーム機に対応する正規のゲームソフトを記録した記録媒体のみに対してゲーム機が起動するようにすることなどは、「制限する」に含まれる。(逐条解説 不正競争防止法 平成30年11月29日施行版(経済産業省 知的財産政策室編)50頁)

偽トロは、本来キャプチャ機能や外部出力機能のない3DSを、物理的に改造し、外部出力させ、出力先のPCでキャプチャできるようにするというものです。しかし、3DSにキャプチャ機能や外部出力機能がないのは、単に製造者(任天堂)がそのような機能を付ける必要がないと考えたからであり、キャプチャについて「制約を課す管理を措置する」ことを意図したものであるとは思えません。

この規定が想定する典型的な「制限」とは、Blu-rayをコピーできないようにするとか、ソフトウェアについてシリアルコードを入力しないとフル機能を解放できないようにするといった措置を指すものでしょう。それらの場面では、ビジネスモデルの一環として、意図的にコピーや使える機能が制限されています。キャプチャはそうではないと思われるのです。

また、仮に「制限」にあたるとしても、「電磁的方法」に当たるとも思われません。

そういうわけで、不正競争防止法違反となるわけではないように思います。

 

なお、キャプチャした動画をアップロードして公開することは、キャプチャを可能にすること自体の適法性とは別に、著作権侵害の問題を生じさせます(複製権、公衆送信権等の侵害)。

著作権に関しては、昨年11月に任天堂が「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を発表しています。ガイドラインに従う限り、キャプチャ動画・スクリーンショットを使用したコンテンツをアップロードしても著作権侵害を主張しない旨宣言するもので、興味深いのですが、また別の機会に考えることにします。

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