最判平成29.7.10:特許権侵害訴訟の事実審の弁論終結後の訂正審決確定の主張制限

卒論で扱った判例の一つです。特許判例百選がそろそろ改訂されるようですが、新たに掲載されるのではないでしょうか。

 

 

民集による要約

特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず,その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。

 

事案の概要

(1)本件特許権
 上告人は,発明の名称を「シートカッター」とする特許(特許第5374419号。請求項の数は1である。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。

(2)第1審における経緯
 上告人は,平成25年12月,第1審判決別紙物件目録記載の工具を販売している被上告人に対し,本件特許権に基づき,その販売の差止め及び損害賠償等を求める本件訴訟を提起した。
 被上告人は,本件特許には特許法123条1項1号又は4号の無効理由が存在するとして,同法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(以下「無効の抗弁」という。)を主張したが,第1審は,平成26年10月,被上告人の上記の理由による無効の抗弁を排斥して,上告人の請求を一部認容する旨の判決を言い渡した。

(3)原審における経緯
 被上告人は,第1審判決に対して控訴をした上,平成26年12月26日付けの控訴理由書において,本件特許は,特許法29条1項3号又は同条2項に違反してされたものであり,本件特許には同法123条1項2号の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁(以下,この理由による抗弁を「本件無効の抗弁」という。)を主張した。
 原審は,合計4回の弁論準備手続期日を経て,平成27年11月の第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結した。上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に対し,訂正により無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁(以下「訂正の再抗弁」という。)を主張しなかった。
 原審は,平成27年12月16日,本件特許は特許法29条1項3号に違反してされたものであるとして,本件無効の抗弁を容れて,第1審判決中,被上告人敗訴部分を取消し,上告人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。

(4)原判決言渡し後の経緯
 上告人は,原判決に対して上告及び上告受理の申立てをするとともに,平成28年1月6日,特許請求の範囲の減縮を目的として,本件特許に係る特許請求の範囲の訂正をすることについての訂正審判を請求したところ(訂正2016-390002号事件),特許庁において,同年10月,上記訂正をすべき旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)がされ,本件訂正審決は,その頃確定した。

(5)特許無効審判における経緯等
 被上告人は,本件の第1審係属中,本件特許につき上記(2)の無効理由が存在することを理由として,特許無効審判を請求したところ(無効2014-800004号事件),特許庁において,平成26年7月,同請求は成り立たない旨の審決(以下「別件審決」という。)がされた。被上告人は,同年8月,別件審決の取消しを求める審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成27年12月16日,被上告人の請求を棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は,平成28年1月6日までに確定した。
 以上のとおり,原審で本件無効の抗弁が主張された時点では,別件審決に対する審決取消訴訟が既に係属中であり,その後も平成28年1月6日まで別件審決が確定しなかったため,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は特許無効審判における訂正の請求をすることができなかった(特許法126条2項,134条の2第1項)。

 上告人は,本件の上告審係属中に本件訂正審決が確定し,本件特許に係る特許請求の範囲が減縮されたことにより,原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして,民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある旨を主張して上告。

 

判旨

上告棄却。

(1)特許権侵害訴訟において,その相手方は,無効の抗弁を主張することができ,これに対して,特許権者は,訂正の再抗弁を主張することができる。特許法104条の3第1項の規定が,特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要せずに無効の抗弁を主張することができるものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決することを図ったものであると解される。そして,同条2項の規定が,無効の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として主張されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるものとしているのは,無効の抗弁について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される。以上の理は,訂正の再抗弁についても異ならないものというべきである(最高裁平成18年(受)第1772号同20年4月24日第一小法廷判決・民集62巻5号1262頁参照)。
 また,特許法104条の4の規定が,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に同条3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等(以下,単に「訂正審決等」という。)が確定したときは,当該訴訟の当事者であった者は当該終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することができないものとしているのは,上記のとおり,特許権侵害訴訟においては,無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を主張することができるものとされていることを前提として,特許権の侵害に係る紛争を一回的に解決することを図ったものであると解される。
 そして,特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえる。
 そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。

(2)これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったものである。そして、上告人は,その時までに,本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったためであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。

 

立法・判例・裁判例・学説の流れ、本判決の意義

キルビー最判特許法104条の3

特許権は私権ですが、特許庁の特許付与処分によって発生します。特許権は、特許法123条1項各号の無効理由(新規性がない、進歩性がない、先願違反、共同出願すべき発明を共同出願しなかったなど)があるとき、特許庁の無効審決によって無効とされます。これに対して、特許権侵害訴訟(差止め・損害賠償)で無効理由を抗弁として主張しても、主張自体失当とされます。特許付与処分が行政処分であり、公定力が働くからです。最高裁は、大審院時代以来2000年まで、このような解釈を取っていました。

ところが、最判2000 (平成12)年4月11日民集54巻4号1368頁〔キルビー〕は、これらの判例を変更しました。同最判は、(1)無効理由ある特許権に基づく損害賠償請求・差止請求を認めることは衡平に反すること、(2)無効審判を強制することは、当事者が求める紛争の短期間・単一手続内での解決訴訟経済に反することなどを挙げて、「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない」としました。これにより、被疑侵害者は裁判所における侵害訴訟と特許庁における無効審判の両方で特許権の有効性を争うことができるようになりました(ダブルトラック)。

キルビー最判に基づく抗弁は権利濫用の抗弁と呼ばれ、その後2004年特許法改正により104条の3第1項として法文化され、現在では無効の抗弁と呼ばれます。

 

再審における主張制限

民事訴訟法338条1項8号は、再審事由として、「判決の基礎となった…行政処分が…行政処分により変更されたこと。」を挙げています。キルビー最判は、侵害訴訟の裁判所が特許庁の判断をいわば先取りすることを認めるものですが、その拘束力は当事者間にしか及びませんから、当然、特許庁がその後に裁判所と異なる判断をすることはありえます。そのような場合に、再審が認められるのでしょうか。

これについては、認められるというのが学説の多数であり、実際にこれを認めた裁判例もありました(知財高判2008 (平成20)年7月14日判タ1307号295頁〔生海苔の異物分離除去装置〕)。

ところが、それでは侵害訴訟の手続内で無効の抗弁を認め、手続の重複を避けようとしたキルビー最判の趣旨に反しますし、特許権者は両手続で勝たなければならないということで、過大な負担になります。そこで、2011年特許法改正により104条の4が新設され、同条1号において、再審において判決確定後の無効審決確定を主張できないこととされました。

 

訂正の再抗弁

無効理由がある場合、特許権全体が無効審決により無効とされます。特許権者は、これを防ぐために、特許庁で、独立の審判である訂正審判を申し立てて、あるいは無効審判が係属している場合には同審判手続内で訂正請求を行って、特許権の範囲を縮減して、無効理由を除外し、特許権を存続させることができます。

キルビー判決は、一般論としては訂正の言及していませんでしたが、引用部分に続く事案への適用を述べる部分で、「訂正審判の請求がされているなど特段の事情を認めるに足りないから」としており、訂正が認められるであろう場合には権利濫用とならないことを示唆していました。

その主張の内容については、最高裁は詳述しなかったので、下級審により具体化されました。東京地判2007 (平成19)227日判タ1253241頁〔多関節運搬装置〕は、一般論として、「①当該請求項について訂正請求等ないし訂正請求をしたこと、②当該訂正が特許法126条の訂正要件を充たすこと、③当該訂正により、当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること…、④被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属することを、主張立証すべきである。」と述べており、他の下級審裁判例もこれとほぼ同内容の判断をしています。

再審については、無効の抗弁と同様のことが妥当するため、特許法104条の4第3号において、再審において、判決確定後にされた訂正を認める無効不成立審決または訂正審決の確定を主張できないこととされました。

 

ナイフ加工装置最判

再審事由と絶対的上告理由は重複しますが、一致はしません。しかし、再審事由であって絶対的上告理由となっていないものも、法令違反として上告受理申立理由・破棄理由になると解するのが有力説です。そこで、再審における主張制限がされる前は、裁判所の事実審(≒知財高裁)の口頭弁論終結後に、特許庁が裁判所と異なる判断をした場合、上告において無効審決確定・訂正審決確定を主張し、破棄差戻しを得ることができると考えられていました。ところが、それを制限した判例がありました(本件〔シートカッター最判〕と異なり、事例判断として)。ナイフ加工装置最判最判2008 (平成20)424民集6251262頁)です。

最判は、2011年改正による特許法104条の4新設前に、特許権者が4回に渡って訂正審判請求とその取下げを繰り返し、5回目の訂正審判請求で訂正審決がされたという事案でした(請求と取下げを繰り返すこと自体はよくあることのようです)。

同判決は、(1)特許法104条の3第2項は、無効の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所はこれを却下することができるとしているところ、その趣旨は、無効の抗弁について審理、判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解され、この趣旨は訂正の再抗弁についても妥当するから、訂正の再抗弁についても104条の3第2項と同様の規律がされる、(2)当該事案において上告人が本件訂正審決が確定したことを理由に原審の判断を争うことは、原審の審理中にそれも早期に提出すべきであった訂正の再抗弁を原判決言渡し後に提出するに等しく、上告人と被上告人らとの間の本件特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものであり、104条の3の趣旨に照らして許されない旨述べました。

 

共焦点分光分析知財高判

2011年特許法改正において、審決取消訴訟提起後の訂正審判請求が禁止され(特許法126条2項)、代わりに無効審判手続における審決の予告が導入され(同法164条の2第1項)、予告とともに指定される期間(同条2項)内に訂正請求をすることができるとされました(同法134条の2第1項)。この改正は、いわゆるキャッチボール現象(無効審決取消訴訟係属中の訂正審決確定により、裁判所が審決を取り消すと、再度無効審判における審決がされるが、さらにその取消訴訟が提起される)を回避しようとする趣旨でしたが、そのために、訂正請求等の機会を大幅に制限するものでした。

このため、それまでのように、訂正の再抗弁の要件として訂正請求等をしたことを維持した場合、訂正の再抗弁を主張しようとしてもすることができない場面が多く生じうることとなりました。そこで、訂正請求等が法律上できないまたは困難である場合には、例外的に訂正請求等をしていなくても訂正の再抗弁を主張することができる(=先に引用した多関節運搬装置の要件①は必要でない場合がある)とする見解が広まりました(条件付不要説)。

知財高判2014 (平成26)年9月17日裁判所web〔共焦点分光分析〕はこの見解を採用したもので、訂正請求等をしたことは、なお原則として必要であるとしつつ、2011年特許法改正の経緯などに照らすと、「特許権者による訂正請求等が法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察し、適法な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときには、当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許されるものと解すべきである」としました。

 

本判決(シートカッター)

本判決は、このような中で、(1)特許法104条の3第1項、第2項、同法104条の4の規定の趣旨に照らして、事実審の口頭弁論終結後の訂正審決確定を主張して事実審の判断を争うことが原則として許されない旨を、一般的な形で示すとともに、(2)事例判断として、条件付不要説を前提に、訂正審決確定の主張を許さなかったものです。

本件は、原告にシートカッター最判における原告のような帰責性がないため、同最判の射程が及ぶ事案ではありませんでした。そこで、本判決は、そのような原告の帰責性に代えて、ナイフ加工装置最判後に新設された特許法104条の4の趣旨を用いたものと考えられます。

また、主張を原則として許さないにとどまり、例外を認めたのは、特許法104条の4(例外を認めない)が想定する、再審という判決が確定し既判力が発生している場面と、上告審という未確定の場面の質的差異を無視できないからであると考えられます。もっとも、それが認められる場合はほとんどないと考えられます(調査官解説も認めています)。

 

 

ダブルトラックから侵害訴訟中心のシングルトラックへ

キルビー最判がダブルトラックを許容して以降、特許権の有効性に関する争訟の在り方は、(1)無効審判・訂正審判がプライマリなルートなのか、(2)それらと侵害訴訟との間に優劣はなく、当事者の選択に委ねられているのかという構図で議論されてきました。もっとも、(2)による場合でも、2011年特許法改正による104条の4の導入前においては、無効審決・訂正審決確定が再審・上告において考慮されるという意味で、なお無効審判がプライマリでした。

2011年改正は、「被告に実質的なダブルチャンスを与えることになり、キルビー最判は訴訟経済を理由の一つとしてダブルトラックを導入したのに、これに反することになる」という批判に応じるものでしたが、これにより、被告がダブルトラックを選択するインセンティブは減り、したがって侵害訴訟を中心とするシングルトラックに移行してゆくとの指摘がされていました。

シートカッター最判は、判決確定後に適用すべきものとして規定された特許法104条の4を、実質的に事実審の口頭弁論終結後に前倒しして適用することを示したものです。これにより、被告がダブルトラックを選択するインセンティブはさらに減り、シングルトラック指向はさらに強まるものと考えられます。侵害訴訟を中心とするシングルトラックは、徹底すれば、(3)侵害訴訟こそがプライマリなルートであるとの考え方に至ります。その下では、無効審判・訂正審判は、侵害訴訟における無効の抗弁・訂正の再抗弁の事前予防的な独立手続として位置付けられるべきであると考えられます。そして、このように考えると、無効審決・訂正審決の対世効は、それらが事前予防の機能を発揮するために与えられたにすぎないことになります。

 

訂正の再抗弁の要件

私見は、主張制限については立法・判例の流れの中にあり妥当だと思いますが、訂正の再抗弁を主張するについて、原則として特許庁において訂正請求等を行っていたのでなければならないとの解釈を維持することには疑問を持ちます。

訂正請求等をすることは、もっぱら特許権者の利益になるものではなく、むしろ、自ら特許権の一部を放棄する不利益を引き受け、かつ、訂正要件不具備(それは新たに特許権全体の無効理由となる)のリスクを引き受けることを意味します。したがって、特許権者としてはできる限り訂正請求等をしたくないと考えるはずです。

ところが、シートカッター最判を前提とすれば、事実審においては、(1)とにかく訂正請求等をした上で訂正の再抗弁を主張するか、(2)訂正請求等をしないことが正当化される(=訂正請求等をしなくても訂正の再抗弁が認められる)ことを前提に、訂正請求等をせずに訂正の再抗弁を主張するか、(3)訂正請求等をしないことが正当化されないことを前提に、訂正請求等をした上で訂正の再抗弁を主張するかの選択を迫られます。そして、(1)を選択する場合には、先に述べた訂正による不利益・リスクが生じます。(2)を選択する場合には、訂正請求等をしないことが正当化されるとの判断が誤りであったとき、訂正の再抗弁が認められず、しかも上告審では救済されないというリスクが生じます。(3)を選択する場合には、(1)の場合と同じ不利益・リスク―しかも訂正請求等をしないことが正当化されないとの判断が誤りであったとき、その不利益・リスクは本来引き受けなくてよかったはずのもの―が生じるます。このような不利益・リスクを伴う選択を迫ることは、特許権者に酷なのではないかと考えられます。

共焦点分光分析知財高判の担当裁判官は、当該事案では侵害訴訟と審決取消訴訟が同時に審理されていたところ、審決取消訴訟では請求を認容しているから、侵害訴訟の判決に上告しつつ審決取消訴訟を確定させ、特許庁における無効審判再開後に速やかに訂正請求を行い、その確定を待って上告審でその旨を主張すればよいと考えていたようです。しかし、そのような運用はシートカッター最判により否定されたのです。

また、共焦点分光分析知財高判は、原則必要を維持すべき理由として、(1)訴訟ごとに訂正の内容を変えることが可能となり、法的関係を複雑化させ、予測可能性を害すること、(2)特許権者が一方では無効理由を有する部分を除外したことによる訴訟上の利益を得ながら、他方では当該無効事由を有する部分を特許請求の範囲内のものとして権利行使が可能な状態が存続することを述べます。

しかし、(1)は、必要説・原則必要説を取ったとしても、訂正請求等をしたことを要求するにとどまる(=確定までは求めない)ものが多数である以上、必ずしも達成されるわけではなく、特許権者に過大な負担を押し付けない限りで相対的に達成されればよいと考えられているはずです。そして、シートカッター最判後、訂正の再抗弁の要件は上告審における主張制限と結びつけられ、原則必要説を維持することは特許権者に新たな負担を課すことになることとなったことからすると、(1)の法的関係の複雑化を(可及的に)避けるという要請は後退してよいはずです。

また、(2)についても、前訴被告Y1が、無効審判—職権主義が採用され、対世的効力を生じさせる—を求めず、前訴手続内での相対的解決を望み、特許法104条の31項がそのようなニーズに応えることとした以上、受け入れざるを得ない事態なのではないかと考えられます。

さらに、(1)(2)はいずれも、当該訴訟の被告ではなく、三者の利益に関わるものです。そこには、訂正請求を認める無効不成立審決・訂正審決によって対世効を伴う形で訂正をさせるのがプライマリな方法であり、訂正の再抗弁は具体的妥当性を確保するためのセカンダリな方法なのであって、後者によって訂正を認めるときはできる限り前者にもそれを反映させるべきであるという考え方が読み取れます。しかし、先に述べたように、無効審判・訂正審判は、侵害訴訟における無効の抗弁・訂正の再抗弁の事前予防的な独立手続として位置付ける場合には、訂正請求等を求める必要はないと考えられます。

このように考えると、不要説を採用すべきであるように思われるのです。

 

参考文献

本判決の解説・評釈

  • 大寄麻代「判解」L&T 78号62頁(2018)
  • 鈴木將文「判批」ジュリスト臨時増刊1518号274頁(2018)
  • 高林龍「判批」年報知的財産法2017-2018 25頁(2018)
  • 田村善之「判批」WLJ判例コラム125号1頁(2018)
  • 平井佑希「判批」AIPPI 63巻4号11頁(2018)
  • 吉田広志「判批」民商法雑誌154巻3号486頁(2018)

それ以前の議論で特に参照したもの

  • 飯村敏明「平成23年特許法改正が民事訴訟実務に与える影響について」民事訴訟雑誌29巻89頁(2013)
  • 大渕哲也「特許処分・特許権と特許無効の本質に関する基礎理論」日本工業所有権法学会編著『侵害訴訟と無効の抗弁 日本工業所有権法学会年報第34号(2010)』63頁(有斐閣、2011)
  • 笠井正俊「特許無効審判の結果と特許権侵害訴訟の再審事由」民訴雑誌54号31頁(2008)
  • 設楽隆一「侵害訴訟と無効審判手続の関係」大渕哲也ほか編『専門訴訟講座6 特許訴訟 下巻』1247頁(民事法研究会、2012)
  • 清水節「無効の抗弁と訂正の再抗弁の審理及び問題点について」パテント69巻3号87頁(2016)
  • 高部眞規子「平成23年特許法改正後の裁判実務」L&T 63号20頁(2011)
  • 三村量一「平成23年改正特許法の下における特許関係訴訟のあり方」日本工業所有権学会年報35号204頁(2012)

元ネタの卒論

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