東京医科大訴訟:消費者裁判手続特例法の第一事例

目次

 

報道

 東京医科大の不正入試問題で、NPO法人消費者機構日本」(東京)は17日、消費者裁判手続き特例法に基づいて同大を東京地裁に提訴した。過去2年間に同大を受けた受験生のうち、不合格となった女子と浪人回数の多い男子らに、受験料(4万~6万円)などを返す義務があることの確認を求めている。2016年の同法施行後、提訴は初めて。
 特例法は、国認定の消費者団体が被害者に代わって金銭の返還を求めることができると定め、被害が少額でも被害者が泣き寝入りすることを防ぐといった狙いがある。機構が勝訴した場合、対象となる受験生に個別に連絡して裁判手続きへの参加を呼びかけ、受験料などを返還するという。
 訴状では、同大が女子や多浪生の得点を抑制していたことを指摘。「あらかじめ得点調整されることが分かっていれば受験しなかった」として、受験料や宿泊費、交通費などの返還の義務確認を求めている。機構によると、女子は最大で延べ2831人が対象で、多浪生は不明という。
 機構は9月以降、同大に受験料返還などを求めてきたが、「検討中」との姿勢を崩さなかったため、提訴に踏み切った。記者会見をした機構代理人の白井晶子弁護士は「女性差別を見過ごすことはできない。夢を持って進もうとする子どもが入り口の段階で差別にあった。道義的な責任で済ませてはいけない」と話した。同大は「訴状が届いていないのでコメントできません」とした。(土居新平)

受験料返還求め東京医科大を提訴 消費者手続き特例法で:朝日新聞デジタル) 

 「NPO法人消費者機構日本」」とは、特定適格消費者団体である特定非営利活動(NPO)法人消費者機構日本です。

確認の対象とされたのは、「①入学検定料、受験票送料、送金手数料、郵送料、受験に要した旅費宿泊費及び対象消費者が特定適格消費者団体に支払うべき報酬及び費用相当額、②民法所定の年5分の割合による遅延損害金」です(原告のプレスリリース:学校法人東京医科大学 平成29年度・平成30年度の入学検定料等の返還請求 東京地方裁判所に提訴。訴状も掲載されています)。

 

特例法の趣旨

目的規定は、次のようになっています(1条)。

この法律は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害について、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差により消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることに鑑み、その財産的被害を集団的に回復するため、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行することができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

ここに現れているのは、情報の質的・量的格差と交渉力の格差ですが、消費者庁のQ&Aには、次のような記述もあります(3頁)。

最終的な被害回復手段である訴訟制度においても、①相応の費用・労力を要し、②少額な請求の場合が多く(平成24年度の消費生活相談に係る事案の既支払金額の平均は約58万円)、③返還請求等ができるとは知らなかったり、そもそも被害に遭っていることの認識を持っていなかったりするなど、個々の消費者が自ら訴えを提起するなどして被害回復を図ることは困難な状況にあります…。

実際的に最も大きいのはこれで、被害回復を集団的にすることによってコストを下げ、被害回復を容易にすることが重要なのではないかと思います。

 

特例法の概要:共通義務確認訴訟と簡易確定手続

特例法による手続は、共通義務確認訴訟と簡易確定手続の2段階に分かれています。1共通義務確認訴訟では、特定適格消費者団体が原告として、被告である事業者と消費者との間の共通の義務を確認し、その勝訴判決の確定後、簡易確定手続で個々の加入者の債権を確定させます。

 

 

共通義務確認訴訟の定義

共通義務確認訴訟(「共通義務確認の訴え」)は、次のように定義されています(2条4号。番号は引用者)

①消費者契約に関して②相当多数の消費者に生じた財産的被害について、③事業者が、これらの消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上及び法律上の原因に基づき、④個々の消費者の事情によりその金銭の支払請求に理由がない場合を除いて、⑤金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴えをいう。

集団的な被害回復が可能な訴訟を具体化したものです。イメージしづらいのは④ですが、消滅時効が完成していることなどがこれにあたります。

 

対象となる請求

もっとも、対象となる請求は限定列挙されています(3条1項)。すなわち、①契約上の債務の履行請求、②不当利得返還請求、③契約上の債務不履行による損害賠償請求、④瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、⑤不法行為に基づく損害賠償請求と、これらに付帯する利息等です(番号は号番号)。ただし、不法行為に基づく損害賠償請求については、民法の規定によるものに限られ、特別法に基づく無過失責任や主張立証責任などと併用できません。

これらに該当しても、逸失利益(同条2項4号)、慰謝料(同項6号)などの損害は除外されています(同条2項)。類型的に個別性が高く、集団的な被害回復になじまないためです。

 

支配性要件

3条1項に列挙された請求に該当し、3条2項により類型的に除外されていない場合でも、訴えが却下されることがあります(3条4項)。

裁判所は、共通義務確認の訴えに係る請求を認容する判決をしたとしても、事案の性質、当該判決を前提とする簡易確定手続において予想される主張及び立証の内容その他の事情を考慮して、当該簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるときは、共通義務確認の訴えの全部又は一部を却下することができる。

共通義務確認訴訟の争点と各消費者が個別に訴訟提起した場合の争点とを比較した場合に、前者が後者に対して支配的であるときでなければ、集団的な被害回復になじまないという趣旨です。

 

訴訟の提起

共通義務確認訴訟の提起段階では、消費者からの個別の授権は必要なく、対象債権・対象消費者の範囲を示せば足ります(5条。なお、「対象債権」「対象消費者」は2条5号、6号に定義規定あり)

共通義務確認の訴えの訴状には、対象債権及び対象消費者の範囲を記載して、請求の趣旨及び原因を特定しなければならない。

 

判決効

判決効は、他の特定適格消費者団体に対しては常に、消費者に対しては対象消費者の範囲に属しており、かつ、簡易確定手続における届出があった場合にのみ拡張されます(9条)。

共通義務確認訴訟の確定判決は、民事訴訟法第百十五条第一項の規定にかかわらず、当該共通義務確認訴訟の当事者以外の特定適格消費者団体及び当該共通義務確認訴訟に係る対象消費者の範囲に属する第三十条第二項第一号に規定する届出消費者に対してもその効力を有する。

つまり、共通義務確認訴訟の段階では既判力は拡張せず、勝訴判決確定後の簡易確定手続における届出があって初めて既判力が拡張されることになります。

なお、共通義務確認訴訟においては、個々の消費者の補助参加は禁止されますが(8条)、個別に訴訟提起することはできます(重複起訴にはなりません。ただし、62条により中止等がありえます)。また、簡易確定手続における届出があって初めて既判力の拡張が生じるので、共通義務確認訴訟で特定適格消費者団体が敗訴した場合でも、個別の訴訟の受訴裁判所に既判力は及びません。

(上記に対して、事業者の補助参加は禁止されません。例えば、主に製造段階の問題が原因で消費者被害が生じた場合でも、消費者契約の主体となる事業者は製造業者ではなく小売業者なので、共通義務確認訴訟の被告は小売業者となりますが、求償のおそれがあるため、製造業者が補助参加するということはありえます。)

 

簡易確定手続

特定適格消費者団体が共通義務確認訴訟に勝訴すると、特定適格消費者団体が簡易確定手続を申し立てます(12条)。なお、非訟事件と考えられており、口頭弁論は任意的です(13条1項)。申立てがあると、裁判所は、申立棄却事由がない限り、開始決定をし(19条1項)、公告をします(22条)。

開始決定がされると、簡易確定手続申立団体は、個別の通知・公告をしなければなりません(25条1項、26条1項)。相手方(事業者)も、裁判所の公告と同内容の事項をwebサイト等で公表します。相手方は、対象消費者の氏名・住所等のリストを所持している場合は、簡易確定手続申立団体からの開示の求めに応じなければなりません(28条1項)。これに応じない場合、裁判所の開示命令を申し立てることができます(29条1項)。ただし、開示命令に執行力はなく(同条6項)、30万円以下の過料の対象とされるにとどまります(同条7項)。

債権は、対象消費者からの授権を受けて、簡易確定手続申立団体が届け出ます(31条1項、30条1項。団体は任意的非訟担当とでも言うべき地位に立ちます)。期間内に届出があった届出債権について、書記官が届出消費者表を作成し(41条1項)、相手方は認否します(42条1項)。

債権届出団体(債権届出をした適格消費者団体団体)は、認否を争う旨の申出をすることができます(43条1項)。この場合、裁判所は、当事者双方を審尋の上、簡易確定決定をします(43条1項、2項)。簡易確定決定のための審理においては、証拠調べは、書証に限定されます(45条1項)。簡易確定決定に対しては、当事者は、異議を申し立てることができ(46条1項)、その場合には、通常訴訟に移行します(52条1項)。なお、この異議は、届出消費者が自ら行うこともでき(46条1項)、この場合には、自ら訴訟追行することになります(52条1項かっこ書)。

認否を争う旨の申出がない場合、届出債権の内容は、届出債権の認否の内容によって確定します(47条1項)。認否を争う旨の申出があり、簡易確定決定がされたが、異議の申立てがなかったときは、簡易確定決定が、確定判決と同一の効力を有します(46条6項)。簡易確定決定に対して異議の申立てがあった場合、判決の効力として、債権の内容が確定します。

全体として、破産債権の調査・確定手続と似た構造になっています。

 

判決(2020/3/8追記)

6日、請求認容判決が言い渡されました。

東京医科大学が女子の受験生の点数を一律で減点するなどしていた不正入試の問題をめぐり、国の認定を受けた消費者団体の「消費者機構日本」は、受験生に代わって大学には受験料や旅費など受験にかかった費用を返還する義務があると訴えました。

6日の判決で、東京地方裁判所の前澤達朗裁判長は「受験生を性別や年齢などで一律に不利益に扱う得点調整は、法の下の平等を定めた憲法の趣旨に反し、受験生にこれを告知しなかったことは違法との評価を免れない」と指摘し、受験料については返還義務を認める判決を言い渡しました。

消費者団体によりますと、対象となる不合格者は女性だけでも2800人を超えるとみられ、判決が確定し届け出を行えば書面による簡単な手続きで受験料を取り戻すことができます。

一方、受験に伴う旅費や宿泊費については「個別の事情に相当程度立ち入って審理せざるをえない面があり書面だけで判断することは難しい」として認めませんでした。

消費者団体が被害者に代わって裁判を起こすことができる制度は4年前に新たに設けられ、判決が言い渡されるのは今回が初めてです。

東京医科大学は「判決内容を精査して対応を検討します」とコメントしています。

東京医科大に受験料返還義務の判決 東京地裁 | NHKニュース

実体的な判断については、判決が公開されるまではよく分かりません。旅費・宿泊費については、支配性要件(3条4項)を満たさないという趣旨だろうと思います。