所有権留保と倒産:最判平成22.6.4と最判平成29.12.7

最判平成22.6.4と最判平成29.12.7

平成27年司法試験倒産法第1問の設問2(以下,平成27年問題といいます)で,最判平成22年6月4日民集第64巻4号1107頁(倒産判例百選5版58事件。以下,平成22年判決といいます)を元ネタにした問題が出題されています。問題は長いので引用しませんが,簡単に言うと,次のような事案です。

A社が破産し,Xが管財人になった。A社は,破産手続開始前,C社から本件車両を買い入れ,使用していたが,分割払いとされた代金の担保のため,所有者登録名義はC社のままとされていた(所有権留保)。そして,A社,C社,Z社間の契約で,Z社がC社に分割金を立替払いする(C社がA社の倒産リスクを免れる),A社はZ社に立替金・手数料(本件立替金等)を支払う立替払いにより留保所有権がZ社に移転し,本件立替金等を担保するために留保される旨の約定がされたこと,A社が本件立替金等の支払いを怠っていることが明らかになった。XはC社に名義変更を求めたいが,認められるか。

さて,破産管財人の第三者性を前提にすると,当然破産管財人に留保所有権取得を対抗するためには,当然,Z社の登録が必要であるように思われます。平成22年判決も,再生債務者の第三者性には言及していませんが,結論は同じです。

前記事実関係によれば,本件三者契約は,販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために,販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,被上告人が別除権として行使し得るのは,本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。すなわち,被上告人は,本件三者契約により,上告人に対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ,同契約においては,本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有権が被上告人に留保されることや,上告人が本件立替金等債務につき期限の利益を失い,本件自動車を被上告人に引き渡したときは,被上告人は,その評価額をもって,本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって,被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が,本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。立替払の結果,販売会社が留保していた所有権が代位により被上告人に移転するというのみでは,本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり,本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものといわざるを得ない。
そして,再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),本件自動車につき,再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない

ところが先日,最高裁が,次のような判決をしました(最判平成29年12月7日裁判所webページ。以下,平成29年判決といいます)。

自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは,保証人は,上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。

そうすると,これ以降同様の問題に出会った場合,どのような場合に登録が必要で,どのような場合に必要でないのかを考えた上で規範を立てる必要が出てきます(この問題には,他にも所有権留保の物権変動性など,様々な問題が関係しうるのですが,膨大になるので,この記事では専ら留保所有権者名義の登録が必要な場合とそうでない場合の区別を考えます)。

 

どのような場合に登録が必要なのか

N君:問題の事実のうち所有権留保に関わる部分を要約すると,①破産者A社は,自動車販売会社C社から自動車を購入した,②ACZ間で,A社はC社系列の信販会社Z社に対し,C社に代金を立替払いすることを委託し,A社は残代金と手数料を合わせた額をC社に分割で支払うことが合意された(この残代金債務+手数料債務=「本件立替払金等債務」),③②とともに,本件車両の所有権は,C社に留保され,さらにZ社が立替払いをした時にZ社に移転し,A社がC社に本件立替払金等債務を弁済するまでZ社に留保されるとの合意がされた,というものです。

これに対して,平成29年判決の事案では,車両の所有権は,販売会社に留保され,信販会社が第三者弁済をすることによって,法定代位の効果として信販会社に移転することを確認する(移転は法律の規定によるものなので,契約はそれを確認するにすぎない),という約款が用いられました*1

少なくとも法定代位においては,弁済者が担保権の取得を差押債権者(破産管財人もこれと同視するべきだと解されています)に主張するためには,債権者の登記・登録があれば十分であり,弁済者が新たに登記・登録をする必要はない,というのが通説ですから*2,平成29年判決のような事案で信販会社名義の登記が必要ないのは当然だと言えます。

T教授:通説は,と言うけれど,なぜ通説はそう言うのだろうか。

N君:平成29年判決は,最初の引用に続けて,次のように言っています。

保証人は,主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており,代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために,弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し,求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条,501条)。そして,購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については,所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから,留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって,破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると,保証人は,自動車につき保証人を所有者とする登録なくして,販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。

法定代位の性質については,債権者の有していた担保権が,弁済者の取得する求償権に「接ぎ木」される,という接木説がかつて主張されましたが,現在では債権移転説が通説です*3

そうすると,移転する担保権の被担保債権はあくまで原債権であって求償権ではないし,まして手数料債権のような,弁済者が独自に有する債権そこに入り込むこともないので,担保目的物の差押債権者はその移転について,判旨に即して言えば「不測の」不利益を被ることがない,言い換えれば対抗要件を要するような「登記の欠缺を主張することについての正当の利益」を有しないことになります。原債権者が登記・登録をした時点で,担保目的物の交換価値のうち一定額が持って行かれること(その分だけ自分の取り分が減ること)は公示されており,それを持って行くのが誰であるかは,差押債権者にとってはどうでもよいことだからです*4。我妻先生は弁済者名義の登記が必要ない理由を明言されているわけではありませんが,そう考えることができると思います。

T教授:じゃあ,原債権の移転に随伴して移転する場合だったら常に弁済者名義の登記はいらないんじゃないの。

N君:そうですね。我妻先生は法定代位についてしか述べられていませんが,先ほど言った理由は,任意代位や,さらに被担保債権を譲渡した場合にも妥当すると思います*5

T教授:そうだとすると,平成22年判決が弁済者名義の登記が必要と言ったのには,ただ担保権が移転したという以上の,何か別の理由があるはずだよな。

N君:そこが平成22年判決からは必ずしもはっきりしなくて,いろいろ議論がされていたんですが,平成29年判決ではっきりしたように思います。平成29年判決は,先の引用に続けて,次のように言っています(下線部は筆者)。

以上によれば,被上告人は,上告人に対し,本件留保所有権を別除権として行使することができる。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)は,販売会社,信販会社及び購入者の三者間において,販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が,販売会社に留保された自動車の所有権について,売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため,販売会社から代位によらずに移転を受け,これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するものであって,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。

つまり,手数料債権が被担保債権に加わっているから,自己名義の登記を要求したんだと思います。

 

理由付けを考える

T教授:伊藤先生が「留保所有権という法形式をとった担保権を設定したのと同視し,対抗要件の具備を求めるという理解が担保的構成の基礎にあったと考えられる」と言っているよな*6。前回の発表で,その理由がよくわからないと言っていたが,結局これに乗るわけだね。それはいいとして,「同視」するべき理由はどう説明するの。

N君:何度読んでも伊藤先生の論文には理由は書かれていないように思うんですが,僕が考えるには,平成22年判決のような事案では,手数料債権を被担保債権に含めるということが,移転という形式と矛盾している,ということが手がかりになるんじゃないかと思います。

普通,担保権の譲渡,つまり当事者の意思による移転というのは,担保権者と他の一般債権者との契約によって,当該担保権者の有する優先弁済権を当該他の一般債権者に取得させる行為をいいます*7。つまり,担保権が譲渡されたとしても,譲受人は,譲渡人の有していた被担保債権額の限度で優先弁済を受けることができるにすぎないわけです(そうでなければ,合意に加わっていない後順位担保権者や他の一般債権者などを害することになります)。そうすると,実質的には,留保所有権の移転というよりは,新たな設定がされていると考えられます。

T教授:新たな設定っていうのは,誰が誰にやったの。

N君:購入者が信販会社にですね。購入者が,いったん販売会社から完全な所有権の移転を受け,改めて信販会社に留保所有権という名の担保権を設定したという構成です*8。「留保」ってどんな意味だっけ,ということになりますが。

他に学説では,販売会社が有する留保所有権を信販会社に移転したという構成や,法定代位によって移転したという構成があるようですが,被担保債権が変わることを説明できないように思います。

T教授:はい,じゃあ続き。

N君:実質的にはそういう経路なんですが,平成22年判決は「被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が,本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである」と言っています。さっき言った矛盾というのはこれですね。確かに,三者の利害関係だけを考える限り,三者全員が当事者になる契約でわざわざ購入者を経由させる必要はないし,むしろ当事者,特に信販会社が,代金未払いの購入者に完全な所有権を渡したくないと考えることは合理的なので,当事者間でそのような「中間省略的な」処理をするのはありうることかもしれません*9。物権法定主義との関係でどうなのかはよくわかりませんが。

ただ,仮にそういった処理が許されるとしても,購入者の差押債権者や破産管財人は,独自の利害関係を有するわけですから,彼らに対してまでそのような合意を対抗することができる(したがって登記は必要ない)とすることはできないはずです。購入者が彼らの利益を勝手に処分することはできないわけですから。

そうすると,形式的にはあるいは三者契約の当事者間では移転だとしても,差押債権者や破産管財人との関係では,「留保所有権という法形式をとった担保権を設定したのと同視し,対抗要件の具備を求める」べきである,と言えるのではないかと思います。

T教授:なるほどね。じゃあ,今日はこれくらいにして,飲みに行くか。

 

まとめ

結局のところ,留保所有権が売主から第三者弁済をした第三者などに移転する場合,登記の要否を決するメルクマールは,被担保債権が変わるかどうかである,ということになります。

*1:新約款は,旧約款では信販会社名義の登録なしに別除権行使が認められないとする平成22年判決を受けて,その対策として作られたものです。なお,なぜそこまでして信販会社は登録をしたくないのかと思われるかもしれませんが,①登録免許税や申請に関わる事務負担,②購入者が倒産し,自動車を引き揚げて転売しようとするとき,より多くの所有者を経たものものは,より価格が安くなってしまう,というのが理由のようです。

*2:我妻栄『新訂 債権総論』254頁(岩波書店,1964)。

*3:中田裕康『債権総論』357頁(岩波書店,3版,2013)。債権移転説による場合,債権はこの規定の効果によって移転するのに対して,担保権はこの規定がなくても随伴性によって移転することになります(このことを明言するものとして,潮見佳男『プラクティス民法 債権総論』367頁(信山社,4版,2012))。

*4:これを徹底すると,特に自動車登録においては,不動産抵当登記におけるのと異なり,被担保債権額が公示されるわけではなく,「代価の少なくとも一部が一般債権者のための責任財産にならない」ということしか分からないため,平成22年判決の事案でも売主名義で足りたのではないかという気もしますが,よくわかりません。被担保債権が変われば登記以前に実体法上の同一性が失われるからダメということになるのでしょうか。

追記2019.4.18:石田剛「平成29年判決判批」ジュリスト臨時増刊1531号『平成30年度重要判例解説』69頁最終段落は「不実登録に当たらないA〔買主〕の名義により本件自動車が破産者Bの一般財産に属するものとして扱えないことが公示されていることで十分だとみれば……本件はもちろん、最判平成22年の事案でも帰属公示機能という点では販売会社名義の登録で足りたという判断もありうる。にもかかわらず最判平成22年が販売会社名義の登録を要求したのは、販売会社から信販会社への合意による(留保)所有権の移転を第三者に主張するために対抗要件が必要とされたからである。」としています。

*5:伊藤眞「最二小判平22.6.4のNachleuchten(残照)―留保所有権を取得した信販会社の倒産手続上の地位―」金法63号45頁(2017)。

*6:伊藤・前掲41頁。

*7:抵当権について,道垣内『現代民法III 担保物権』194頁(有斐閣,3版,2008)。

*8:山田真紀「最判平成22年判解」最高裁判所判例解説民事篇平成22年度385頁(2014)にいう「A説:譲渡担保の設定と同視する考え方」。

*9:小林明彦「自動車の留保所有権に基づく別除権行使を否定した判決と実務対応」金法1910号12頁(2010)。