付郵便送達による判決騙取と不法行為・再審

報道

 大分市の女性が、自身が訴えられたことも知らず、判決書さえ受け取らないまま敗訴判決の確定を知り、銀行預金を差し押さえられる被害に遭った。女性は訴えた男性が裁判所をだまして被害を与えたとして、大分地裁に賠償を求める訴訟を起こし、同地裁は10日、女性の請求を認めた。伊藤拓也裁判官は「虚偽の事実を主張して裁判所をだまし、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得した」と男性を批判した。なぜ、こんな事態が起きたのか。

(中略)

 大分地裁の判決などによると、女性は飲食店を経営しており2019年6月、元従業員の男性から金銭の支払いを求める訴訟を熊本簡裁に起こされた。

 熊本簡裁に係属する訴訟で、女性が住む場所と異なる、女性とは全く関係のない大分市内の住所を、男性は訴状の送達先に指定した。これを受けて熊本簡裁はその住所に訴状を送ったが、女性は住んでおらず、居住者もいないため、返送され、送達ができなかった。

 このため熊本簡裁が男性に確認を取ると、男性は「夜に電気がついている」「水道メーターも動いている」などと、送達先の住所に女性が住んでいると思わせる虚偽の報告書を提出したという。

 また、住民票記載の住所や職場である飲食店についても、男性側が「住民票の住所に女性は住んでいない」「店は閉店し、もう働いていない」などとうその報告をしたという。

 このため、熊本簡裁は「付郵便送達」という送達方法を決めた。

(中略)

 送達が完了したとみなした熊本簡裁は、司法手続きを続行。女性は男性から訴えられたことを知らず、反論の機会もないまま男性の訴えが認められる判決が言い渡された。

 男性は20年8月、熊本簡裁の確定判決に基づいて大分地裁に女性の債権の差押えを申し立てた。確定判決に基づいて大分地裁は20年9月、女性の銀行口座の預金を差し押さえた。

 銀行の預金通帳を見て女性がようやく気付いた。女性は被害者は自分だとして大分地裁に賠償請求訴訟を起こす流れとなった。

 10日の判決で伊藤拓也裁判官は「著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性を考慮しても容認できないような特別の事情がある」と男性の不正行為を批判した。

知らぬ間に敗訴、差し押さえ 原告が虚偽主張で裁判所だます - 毎日新聞

 

訴え・訴訟係属・送達

大事な部分が条文に書いてないので分かりにくいですが、訴え・訴訟係属・送達の関係は、次のようになっています。

「訴えの提起」とは、原告が裁判所に判決を求める意思表示のことで、「訴状を裁判所に提出して」行います(民事訴訟法133条1項)。訴えの提起があると、裁判長は訴状を審査し、瑕疵があれば補正を命じ(137条1項)、それに応じなければ却下します(137条2項)。

訴状審査をクリアした訴状は、被告に送達します(138条1項)。送達は職権で行い(98条1項)、送達に関する事務は、裁判所書記官が取り扱います(同条2項)。送達がされると、訴訟係属が生じます。

時効の完成猶予(民法147条1項1号)は訴えの提起に、二重起訴禁止(民事訴訟法142条)は訴訟係属に結び付けられた効果です。

 

付郵便送達について

付郵便送達とは、一般的な送達(通常送達(民事訴訟法103条1項)、就業先送達(103条2項)、補充送達(106条1項)、差置送達(106条3項))ができない場合に行われる送達方法です(107条1項)。

付郵便送達は、法文上は「書留郵便等に付する送達」と呼ばれており、の最大の特徴は、発送時に送達があったものと擬制されることです(107条3項)。これは、送達は受送達者に書類を交付してしなければならないという原則(101条)を修正するものです。

同様に一般的な送達ができない場合に行われる送達に、公示送達がありますが、付郵便送達が優先します(110条1項2号)。

なお、記事に「例外的に相手がずっと不在である場合などに書留郵便(付郵便送達)を送った時点で、住所が分からない場合に裁判所の掲示板に一定期間、公示することで送達が完了したとみなされる」という記述がありますが、付郵便送達と公示送達を混同するものです。付郵便送達は発送時に、公示送達は初回は掲示から2週間(外国においてすべき送達については6週間)、2回目以降は翌日に効力を生じます。

 

不法行為について

付郵便送達がされたが被告が事実上手続関与の機会を奪われたという事案として、最判平成10年9月10日集民189号743頁があります。

事案は、妻が夫(被告)のクレジットカードを利用し、立替金支払請求訴訟が提起され、通常送達不奏功、書記官が原告に就業場所を照会したところ、原告が誤解に基づいて被告は就業場所不明、家族は訴状記載の住所にいる旨回答し、書記官が付郵便送達(配達不能で返還)をし、裁判官が判決をし、妻が訴状を受領したものの被告に渡さなかったためそのまま確定したというものです。被告は、再審請求しましたが、補充性なしとして却下されたため、国とクレカ会社(=前訴原告)に対する損害賠償請求訴訟を提起しました(本件)。

対国請求については、就業場所の認定に必要な資料の収集に書記官の裁量を認め、それについての裁量の逸脱・収集した資料に基づく判断が合理性を欠くかを審査し、結論として適法としています。

対前訴原告請求については、次のように述べています。

 当事者間に確定判決が存在する場合に、その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから、原則として許されるべきではなく、当事者の一方が、相手方の権利を害する意図の下に、作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い、その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し、かつ、これを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、許されるものと解するのが相当である…。

 これを本件についてみるに、一審原告が前訴判決に基づく債務の弁済として一審被告に対して支払った二八万円につき、一審被告の不法行為により被った損害であるとして、その賠償を求める一審原告の請求は、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求であるところ、前記事実関係によれば、前訴において、一審被告の担当者が、受訴裁判所からの照会に対して回答するに際し、前訴提起前に把握していた一審原告の勤務先会社を通じて一審原告に対する連絡先や連絡方法等について更に調査確認をすべきであったのに、これを怠り、安易に一審原告の就業場所を不明と回答したというのであって、原判決の判示するところからみれば、原審は、一審被告が受訴裁判所からの照会に対して必要な調査を尽くすことなく安易に誤って回答した点において、一審被告に重大な過失があるとするにとどまり、それが一審原告の権利を害する意図の下にされたものとは認められないとする趣旨であることが明らかである。そうすると、本件においては、前示特別の事情があるということはできない。

一方、判決騙取に関わる事案として、最判平成22年4月13日集民189号743頁があります(ただし最高裁は否定。損害賠償請求を認めた原判決を破棄しています)。一般論として、上記平成10年判決と同旨を繰り返した上で、次のように述べています。

原審の上記判断は,前訴において当事者が攻撃防御を尽くした事実認定上の争点やその周辺事情について,前訴判決と異なる事実を認定し,これを前提に上告人が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したなどとして不法行為の成立を認めるものであるが,原判決の挙示する証拠やその説示するところによれば,原審は,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における信用性判断その他の証拠の評価が異なった結果,前訴判決と異なる事実を認定するに至ったにすぎない。しかし,前訴における上告人の主張や供述が上記のような原審の認定事実に反するというだけでは,上告人が前訴において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したというには足りない。他に,上告人の前訴における行為が著しく正義に反し,前訴の確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があることはうかがわれず,被上告人が上記損害賠償請求をすることは,前訴判決の既判力による法的安定性を著しく害するものであって,許されないものというべきである。

本判決は上記平成10年判決の下で損害賠償請求を認めた事案なのだろうと思います(報道だけなのでよくわかりませんが)。

ちなみに、記事には「伊藤拓也裁判官は「虚偽の事実を主張して裁判所をだまし〔注:おそらく原文は「裁判所を欺罔し」〕、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得した」と男性を批判した」「伊藤拓也裁判官は「著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性〔注:おそらく「の要請」を省略している〕を考慮しても容認できないような特別の事情がある」と男性の不正行為を批判した」と書かれていますが、これらのフレーズは別に被告を批判する趣旨ではなく(批判したい気持ちではあるのでしょうが…笑)、単に平成10年判決の「かさ上げ」された不法行為の要件を充足する旨を述べたにすぎません。

 

再審について

再審事由

送達が適切に行われず、手続関与の機会が実質的に与えられなかった場合、民事訴訟法338条1項3号の再審事由があると考えられます。

3号は、「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」という規定ですが、「主張・立証の機会を実質的に保障するために必要な手続を欠いたこと」くらいに拡張して解釈されています。再審は既に確定した判決について、既判力の排除を求める訴訟法上の形成訴訟ですが、既判力による拘束は、それを受ける者が、訴訟当事者として主張・立証の機会を保障されたことによって正当化されるため(手続保障を前提とする自己責任)、それを欠く場合には、排除されてよいという考えに出たものです。

判例も、通常送達で、7歳の娘に書類を交付した事案に関するものですが、次のように述べています(最判平成4年9月10日民集46巻6号553頁。旧法に関する判断)。

有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法420条1項3号の事由があるものと解するのが相当である。

 

補充性との関係

平成10年判決の事案では、それに先立つ再審請求が補充性により却下されています(再審請求は昭和62年)。しかし、その後の判例は、再審事由を現実に了知できなかった場合には、補充性は問題とならないとしています(前掲最判平成4年9月10日)。

民訴法420条1項ただし書は、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、再審事由を現実に了知することができなかった場合は同項ただし書に当たらないものと解すべきである。けだし、同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが上訴をすることができなくなった後の非常の不服申立方法であることから、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである。これを本件についてみるのに、前訴の判決は、その正本が有効に送達されて確定したものであるが、上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの前記再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、右判決に対して控訴しなかったことをもって、同項ただし書に規定する場合に当たるとすることはできないものというべきである。

 

訴訟係属はあるのか?

そもそも送達が適正に行われなかったなら、(送達は最も重要な手続保障の一つなのだし)訴訟係属は生じておらず、判決は再審請求するまでもなく無効なのではないか、不法行為においても、配慮すべき既判力(による法的安定性の要請)そのものがなく、要件を「かさ上げ」する必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、そうではありません。付郵便送達は発送時に効力を生じるからです。言い換えれば、付郵便送達が発送時に送達を擬制するからこそ、本人が知らないところで有効に送達がされてしまい、訴訟係属が生じるという現象が起こりうるわけです。

 

前訴判決が外国判決だった場合

完全に蛇足ですが、今回の前訴判決が外国判決だった場合、間接管轄を欠くこと(日本の民事訴訟法の国際裁判管轄規定を適用した場合に当該外国に国際裁判管轄が認められない。民事訴訟法118条1号)または手続開始文書の送達を欠くこと(同条2号)により、当該外国判決が承認されず、日本において既判力を有しないこととなります。また、外国判決に基づいて日本で強制執行をしようとする場合、執行判決を得なければなりませんが(民事執行法24条)、承認要件を満たさない場合、請求が棄却されることになります(同条5項は却下としていますが)。外国の機関の処分である外国判決を、日本国の機関である裁判所が取り消すことはありえないため、再審ではなく、その効力の承認を拒絶するというやり方で国民を保護しているわけです。

改造ポケモンの販売行為に関する不正競争防止法の適用関係

報道

 パソコンで改造した人気ゲーム「ポケットモンスターポケモン)」のキャラクターを、家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」本体に不正に取り込んで販売したとして愛知県警豊田署は4日、名古屋市南区、無職、川松和生容疑者(23)を不正競争防止法違反(技術的制限手段の無効化役務提供)容疑で逮捕した。同署によると、川松容疑者は2019年11月以降、改造データの販売で115万円以上を売り上げていた。

 逮捕容疑は20年4月、自宅のパソコンで、スイッチ用のゲームソフト「ポケットモンスター ソード・シールド」に登場するポケモンを改造。スイッチ本体の制御を不正に解除し、強さなどを改造したポケモンを本体に保存した上、データを販売したとしている。容疑を認めている。

 同署によると、川松容疑者はオンラインゲームで使うアイテムなどを現金で売買する「リアルマネートレードRMT)」サイトで、ポケモンのデータを1匹500円で販売していた。

 スイッチ本体にはデータの改ざんやコピーができないよう制御機能が付いているが、川松容疑者は本体の部品をピンセットなどで操作。パソコンの専用ソフトで依頼人の希望に沿ってポケモンを改造し、スイッチに取り込んでいた。

(略)

パソコンで改造したポケモンをSwitchで販売した疑い 23歳逮捕 愛知県警 - 毎日新聞

 

不正競争防止法の規定

上記行為について、不正競争防止法の適用関係を整理したいと思います。適用されているのは、不正競争防止法21条2項4号・2条1項17号と考えられます。条文は、次のようになっています(読みたくなければ飛ばしてください)。

21条2項「次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」「四 不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で、第2条第1項第17号…に掲げる不正競争を行った者」

2条1項「この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。」「十七 営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第8項において同じ。)の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)、当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は影像の視聴等当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務提供する行為」

 2条1項17号を箇条書きで整理すると、次のようになります(これも読みたくなければ飛ばしてください)。

  • [行為1:物・プログラム・指令符号の提供]
    • [行為1-1:物理的メディアを介する物・プログラム・指令符号の提供]
      • [目的語]
        • [目的語1:装置]営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に記録されたものに限る。以下この号、次号及び第8項において同じ。)の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)*
        • [目的語2:プログラム・指令符号を記録した記録媒体・機器]当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)若しくは指令符号(電子計算機に対する指令であって、当該指令のみによって一の結果を得ることができるものをいう。次号において同じ。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を
      • [行為]譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、若しくは
    • [行為1-2:物理的メディアを介さないプログラム・指令符号の提供]
      • [目的語]当該機能を有するプログラム若しくは指令符号を
      • [行為]電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)又は
  • [行為2:役務の提供]
    • [目的語]影像の視聴等当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務
    • [行為]提供する行為

*[装置]と[プログラム・指令符号を記録した記録媒体・記憶した機器]が並列に譲渡等の行為の客体となる(=[を記録した記録媒体・記憶した機器]がプログラムと指令符号の両方にかかっている)ことは、経産省の担当課による逐条解説105頁から明らかなのですが(ちなみに指令符号とはシリアルコードのことです)、そうすると、「装置」の後は「、」ではなく「若しくは」とすべきであるように思います。ここが「、」だと、文面上は、[を記録した記録媒体・記憶した機器]が指令符号のみにかかるか、装置・プログラム・指令符号の全部にかかることになってしまい、前者と解釈するとプログラム(有体物ではない)の譲渡という不適切な概念が生じてしまい(ちなみに著作権法の悪口ではありません)、後者と解釈すると装置を記録した記録媒体・記憶した機器という意味不明な概念が生じてしまいます。

「影像の視聴等」がわかりにくいですが、要すれば技術的制限手段によって制限される行為のことです。

今回適用されるのは、行為2なので、要件は次のように整理できます。

  • 問題とされる行為が、「影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務を提供する行為」であること。「影像の視聴等」とは、「営業上用いられている技術的制限手段…により制限されている…情報の処理」をいう。
  • 当該行為を「不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で」行ったこと。

ちなみに技術的制限手段は2条8項で定義されていますが、報道からは判断しようがないので見ないことにします。

 

適用関係

取引の流れは、

  1. 依頼者が被疑者に改造ポケモンを注文する
  2. Switchから取り出したポケモンをPCで改造する
  3. 被疑者がSwitchの制御を解除し、改造ポケモンを自己のSwitchに保存する
  4. 被疑者が依頼者のSwitchに改造ポケモンを送信する
  5. 依頼者が被疑者に入金する

となっています(報道の図より)。このうち、さしあたり3を実行行為と捉えて検討します。

 

改造ポケモンを自己のSwitchに保存する行為についての本罪の成立

「Switch本体にはデータの改ざんやコピーができないよう制御機能が付いている」ようなので、これが「技術的制限手段」に当たり、PCで編集したデータの書き込みが、その技術的制限手段「により制限されている…情報の処理」に当たると考えられます。

上記制御機能は、改造を防止し、ゲームバランスを保ったり、秩序あるプレイ環境を提供することでプレイヤーを引きつけるために付けられたものと考えられるので、「営業上用いられている」のだと考えられます*。

以上から、「データの改ざんやコピー」をする行為は、「影像の視聴等」に当たることになります。

*プレイヤーを引きつけることによって利益を受けるのはソフトメーカーであって、任天堂ではないのではないかという気もしますが、そういう環境を作り出すことでソフトの開発を促し、そのソフトをプレイするためにハードを買ってもらうというように、結局は任天堂の利益になるので、あまり深く考える必要はありません。

被疑者は、この制御機能を「本体の部品をピンセットなどで操作」し、「パソコンの専用ソフトで依頼人の希望に沿ってポケモンを改造し、Switchに取り込んでいた」ようなので、これが上記影像の視聴等を「当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする役務」に当たると考えられます。

故意が認められることは明らかであり、図利加害目的についても、被疑者は改造したポケモンのデータを1匹500円で販売していた」ようなので、「不正の利益を得る目的」が認められます。

以上から、本罪が成立します。

 

改造ポケモンを自己のSwitchに保存する行為を実行行為としてよいか?

もっとも、改造ポケモンを自己のSwitchに保存する行為を本罪の実行行為と捉えることには違和感があるかもしれません。この段階では、依頼者は改造ポケモンを使えるようになっていませんし(特に「役務を提供」という文言からはそれが必要であるようにも思われます)、被疑者も対価を得ていないからです。前のセクションで「さしあたり3を実行行為と捉えて検討します」としたのはそのためです。

確かに、依頼の対象、つまり報酬の対価となるのは2(PCでの改造)、3(被疑者のSwitchへの保存)、4(依頼者のSwtichへの送信)の全体と考えられます。仮にこの取引について契約が成立するなら、2や4を「ちゃんと」やらなければ債務不履行となるでしょう。

しかし、本罪は技術的制限手段を回避する役務の提供を処罰するものです。4(依頼者のSwtichへの送信)は通信交換という、技術的制限手段によって制限されていない機能を利用していると考えられ(文言上は「影像の視聴等」に当たらないということになる)、それを実行行為に含める(そこまで実行行為を延ばす)必要はないように思います。

もちろん、例えば自ら使用する目的で改造ポケモンを作ったのであれば、図利加害目的がなく、そうである以上、後から友達にせがまれて譲ったとしても、本罪は成立しません。しかし、裏を返せば、あくまでどのような目的で保存行為を行ったかを問題とし、他人に送信して対価を得る意思があれば、実際にそうすることを待つまでもなく、本罪は成立しうるとするのが、利益等を図利加害目的という行為時の主観的要件とした趣旨なのではないかと思います*。

*なお、経産省の担当課による逐条解説109頁に本罪についての言及がありますが、役務提供の意義については何も述べられていません。

そういうわけで、改造ポケモンを自己のSwitchに保存する行為を実行行為としてよいのではないかと思います。実際には同種行為を繰り返して初めて摘発されるのでしょうから、そこが争われることはないのでしょうけれども。 

著作権法上の利用権の当然対抗制度導入と許諾契約の帰趨

令和2年改正による当然対抗の影響について考えたメモ。

 

被許諾者の利用に係る権利の性質

著作権法には、利用許諾について、次の規定がある(令和2年改正の前後を通じて実質的な変更はない)。「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。」(63条1項)、「前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。」(同条2項)、「第1項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。」(同条3項)(なお、4項、5項は省略)。

この被許諾者の利用に係る権利は、特許権における通常実施権と同様に、著作権者との関係で利用を正当化する債権的な権利と解されている。特許法は、通常実施権とは別に、第三者に対する排他的効力を有する物権的利用権として専用実施権を用意しているが、著作権法においては、そのような包括的な物権的利用権は用意されておらず、出版行為(複製・公衆送信行為の一部である)を目的とする物権的利用権である出版権を設定することができるにすぎない。

 

被許諾者の利用に係る権利の第三者への対抗

著作権法には、令和2年改正により、次の規定が新設された。「利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。」(63条の2。令和2年10月1日に施行済み)。

「利用権」とは、上記の被許諾者の利用に係る権利に与えられた名称である(63条第3項かっこ書)。令和2年改正前、このような規定がなかった上に、登録制度もなかったため、被許諾者が第三者対抗力を獲得することは不可能であった。

特許法上の通常実施権(債権的利用権である)については、平成23年改正前、次のように規定されていた。「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。」(99条1項)。しかし、実際には特許権者の交渉上の地位が強いこともあって、登録がされることはほぼなかった(なお、専用実施権は物権的利用権であり、登録が設定の効力発生要件であるが、なおさら設定されることはなかった)。そこで、平成23年改正において、上記規定は次のように改められた。「通常実施権は、その登録をしたときは、その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。」。つまり、通常実施権は登録なくして常に特許権の譲受人や、専用実施権の被設定者・譲受人に対抗できることとなった(当然対抗)。

著作権法の上記規定は、この通常実施権に係る改正に倣って、利用権を当然対抗としたものである。

 

不動産賃貸借契約上の地位の移転

許諾契約上の地位の移転の解釈は、不動産賃貸借契約上の地位の移転に関する議論を参照して行われているから、まず、それについて概観する。

平成29年改正民法においては、次のような規定が設けられた。①不動産賃貸借が第三者対抗要件を備えた場合に、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人の地位は譲受人に当然に移転する(605条の2第1項)、②ただし、不動産譲渡当事者が、賃貸人としての地位を譲受人に留保し、譲受人が譲渡人に賃貸する(≒転貸関係を作り出す)旨の合意をしたときは、①の移転は生じない(同条2項前段)、③②の譲渡人―譲受人間の賃貸借が終了したときは、賃貸人の地位は、譲受人・その承継人に移転する(同項後段)、④①または②による賃貸人としての地位の移転は、所有権移転登記をしなければ、賃借人に対抗できない(同条3項)(なお4項は敷金に関する規定であるため省略)、⑤譲渡人=賃貸人と譲渡人が賃貸人としての地位の移転を合意したときは、その移転の効力が生じるためには、賃借人の承諾を要しない(605条の3)。

605条の2第1項(①)は、譲受人が賃貸借契約を引き受ける意思がない場合でも引き受けさせることにより、賃借人を保護しようとするものであり(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁、最判昭和39年8月28日民集18巻7号1354頁を明文化)、2項前段(②)はその趣旨を害しない限りで例外を認め、2項後段(③)はそれを補完するものである(特定の判例を明文化したものではないが、留保合意をもって直ちに賃貸人としての地位の移転を妨げることはできないとした最判平成11年3月25日判時1674号61頁を前提とする)。

同条3項(④)は、判例最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)を明文化したもので、典型的には賃料支払請求の場面で適用される。その理論的根拠について、判例は登記を得た賃借人は民法177条の第三者に当たるからとしていたが、学説上は、譲受人と賃借人は対抗関係になく、譲受人の新賃貸人としての資格要件として要求されるとするのが有力であった(中田裕康『契約法』453頁(有斐閣、2017))。いずれにしても、賃借人を二重払いの危険から解放するという実践的配慮に出たものと思われる。

605条の3(⑤)は、605条の2とは逆に、譲受人が積極的に賃貸借契約を引き受けようとする場合に、契約上の地位の移転に関する原則(相手方の承諾が必要。539条の2)を修正して、賃借人の承諾を不要とするものである(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁を明文化)。

 

許諾契約上の地位の移転と著作権譲受人=新許諾者の権利行使

不動産賃貸借契約上の地位の移転のアナロジー

以上を前提に許諾契約上の地位の移転について検討する。

まず、利用権が当然対抗とされた以上、許諾契約上の許諾者の地位は、賃貸借契約におけるのと同様に、当然に移転するものと解するべきである(①')。許諾契約上の許諾者の地位の留保と著作権譲渡人―譲渡人間での許諾契約が合意された場合についても、賃貸借契約におけるのと同様に解してよい(②'、③')。①'の場合、新許諾者は、権利行使要件として移転登録を要すると解するべきである(④'。なお、著作権の移転は登録が対抗要件である〔著作権法77条1号〕)。

以上に対して、著作権譲渡人=許諾者と譲受人が許諾者としての地位の移転を合意したときは、その移転の効力が生じるためには、被許諾者の承諾を要しないと解するべきである(⑤')。

 

ピクトグラム事件判決とそれに対する批判との関係

著作権法令和2年改正前の裁判例で、(a)著作権譲渡から直ちに許諾者としての地位の譲渡を認め、(b)許諾者の義務(権利不行使が主)の没個性性から前掲最判昭和46年を参照して被許諾者の承諾を不要とした上で、(c)前掲最判昭和49年を参照して登録を必要とし、それがないとして請求(許諾契約の終了に基づく原状回復請求)を認めなかったものがある(大阪地判平成27年9月24日判時2348号62頁[ピクトグラム])。

(a)は、⑤'を前提にやや強引に契約解釈したものと思われるが、①'のように解すれば、そのような強引な契約解釈をする必要はなくなる。

(b)は、⑤'と同旨であり、妥当である。

(c)は、④'と同旨であるが、「昭和49年最判は賃借人が不動産賃貸借につき登記を備えていた事案であったが,著作権の使用許諾契約については登録の術がない。登記という対抗要件を具備した不動産賃貸契約の賃借人と著作権使用許諾契約の被許諾者とを同じに解してよいのだろうか」という批判がある(渕麻依子・著作権判例百選第6版203頁(2019))。しかし、次の2点からこの批判は妥当しない。

第1に、この批判は、昭和49年最判を、①不動産賃貸借登記がされていた事案において、②賃借人にそのように特に保護に値する事情があることを前提に、賃貸人にも一定の権利保護要件を課したものと理解しているようである。しかし、まず①について、昭和49年最判の事案で賃借人が備えていたのは、建物保護法による登記(借地借家法上でいう賃貸借契約たる借地契約における地上建物の登記)である。また、②について、地上建物の登記は、賃貸借契約の登記と異なり、借地権者=地上建物所有者がその意思によって行うことができ、土地賃貸人との交渉によって勝ち取るものではないことからすれば、特に保護に値する事情とはいえない(このことは、同判決の射程が建物賃貸借契約にも及ぶと考えられてきたことを考えれば(平成29年改正民法ではそれが確認された)、なおさらそうである。地上建物所有者が登記をしないことはありうるが、建物賃貸借の賃借人が引渡しを受けないことはほとんどありえない)。したがって、上記批判はその前提を欠く。

第2に、実質的に見ても、そもそも昭和49年最判の趣旨である二重払いの危険から解放する必要性は賃借人・被許諾者の登録等とは関係がない。また、令和2年改正著作権法は、利用権を当然対抗とする令和2年改正著作権法は利用権を強く保護する趣旨を含むと考えられるから、そのような立法を前提とすれば、被許諾者の保護に傾きすぎた解釈ということもない。移転登録は実際にはほとんどされていないようであるが、かつての特許法上の通常実施権の登録などと異なり、移転登録は譲受人の権利と考えられるから、そのような実態に配慮する必要はないと考えられる。

 

許諾者倒産時の処理

令和2年改正前により、被許諾者は、許諾者の倒産からも保護されることとなる。

倒産時において、破産管財人・再生債務者等は、双方未履行(双方履行未完了)の双務契約を任意に解除することができるが(破産法53条1項、民事再生法49条1項)、使用・収益を目的とする権利を設定する契約について、相手方が第三者対抗要件を備えた場合には、適用除外とされている(破産法56条1項。民事再生法51条で準用)。前者は財産関係の清算あるいは倒産者に有利な契約のみを残存させる手段を与えるものであり(議論がある)、後者は不動産賃貸借や知的財産権のライセンス契約がしばしば賃借人・ライセンシーの生活や事業の基盤となっていることを念頭に、彼らが賃貸人の倒産という自己とは関係のない原因によってその生活や事業の基盤を奪われることのないようにするものである。

著作権の利用許諾契約は、双方未履行(履行未完了)の双務契約であり、使用・収益を目的とする権利を設定する契約に当たるが、令和2年改正前は、第三者対抗要件を備えることができないことから、解除の適用除外を受けることができなかった。令和2年改正後は、当然対抗とされたことにより、常に第三者対抗要件を備えたものとして扱われ、したがって、常に適用除外を受けることができることとなった。

著作権法令和2年改正について

改正の概要

  • インターネット上の海賊版対策の強化
    • リーチサイト対策(113条2項〜4項〔みなし侵害の追加〕、119条2項4号、5号、第120条の2第3号等〔罰則〕)…リーチサイト等を運営する行為等を、刑事罰の対象とし、また、リーチサイト等において侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等を、著作権等を侵害する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問いうるようにする。
    • 侵害コンテンツのダウンロード違法化(30条1項4号、2項〔私的複製の例外〕、119条第3項2号、5項等〔罰則〕)…違法にアップロードされたものだと知りながら侵害コンテンツをダウンロードすることについて、一定の要件の下で私的使用目的であっても違法とし、正規版が有償で提供されているもののダウンロードを継続的に又は反復して行う場合には、刑事罰の対象にもする。なお、音楽・映像は改正前でも違法。
  • その他の改正事項
    • 写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大(30条の2)…・写り込みに係る権利制限規定について、生配信やスクリーンショットを対象に含めるなど対象範囲の拡大を行う。なお、録音・録画は改正前から権利制限の対象。
    • 行政手続に係る権利制限規定の整備(地理的表示法・種苗法関係)(42条2項)…権利制限の対象となる行政手続として、種苗法・地理的表示法(GI法)の審査等に関する手続を規定するとともに、これらに類する手続を政令で定めることができることとする。なお、特許手続は改正前でも対象。
    • 著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入(63条の2)…著作権者等から許諾を受けて著作物等を利用する権利について、その著作権等を譲り受けた者その他の第三者に対抗することができることとする。なお、特許法では平成23年改正で導入済み。
    • 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化(114条の3)…裁判所は、書類の提出命令の要否を判断するために必要があると認めるときは、書類の所持者に当該書類の提示をさせることができることとするとともに、当事者の同意を得て、専門委員(技術専門家)に対し、当該書類を開示することができることとする。なお、特許法では平成30年改正で導入済み。
    • アクセスコントロールに関する保護の強化(2条1項20号、21号、113条7項〔みなし侵害〕、120条の2第4号〔罰則〕)…著作物等の不正使用を防止するためのアクセスコントロール技術について、最新の技術動向を踏まえて保護対象の明確化を行うとともに、これを回避する機能を有する不正なシリアルコードの提供等を著作権等を侵害する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問いうるようにする。なお、不正競争防止法では平成30年改正で対応済み。
    • プログラムの著作物に係る登録制度の整備(プログラム登録特例法4条、26条等)…①プログラムの著作物に関し、著作権者等の利害関係者が、自らの保有する著作物と登録されている著作物が同一であることの証明を請求できることとする。②国又は独立行政法人が登録を行う場合の手数料の免除規定を廃止することとする。

 

コメント

実践的に意味がありそうなのは、リーチサイト対策、侵害コンテンツのダウンロード(全面)違法化、写り込み、利用権の当然対抗、アクセスコントロールあたりでしょうか。理論的に大きな意味がありそうなのは、当然対抗でしょう。これについては後に別にコメントします。

113条には、リーチサイト対策の2項〜4項、アクセスコントロールの強化(簡単にいうと不正なシリアルコードの公衆送信等です)の7項が追加されました。その結果、現行法制定時には2項だった名誉声望を害する利用は、なんと11項になります。

権利付与法は取引の対象にしやすい代わりに柔軟化できないと言われますが(cf. 行為規制法としての不正競争防止法)、みなし侵害で限定的に捕捉していくというのは、権利付与アプローチの相対化という感じがします(113条各項だけ見ると、不正競争防止法2条1項各号みたいですよね)。

なお、改正法律は1条でインターネット上の海賊版対策の強化、2条でその他の改正事項を規定しており、新旧対照表が2箇所に分かれているのでご注意ください(1条の表の113条にはリーチサイトの規定しかなく、2条の表にはアクセスコントロールの規定しかない。最終的な条文番号は後者です)。

本改正に全面的に対応した研究者による基本書等はまだないと思いますが(実務家によるものだと岡村先生のものがありますね)、島並先生ほかの『著作権法入門』が年度内に改訂予定と聞いています。

 

当然対抗

63条の2 利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

著作権法には、特許法における専用実施権のような物権的利用権が規定されておらず、債権的な利用権を許諾することしかできません(出版権という限定的なものはあるのですが)。

特許法では、同様に債権的利用権である通常実施権を許諾した場合、利用権者は当然に譲受人などの第三者に対抗できるようになっています(平成23年改正以後。それ以前は登録が要件でしたが、誰も登録していませんでした)。これに対して、著作権に基づく利用権には、登録制度も当然対抗制度もなかったので、譲受人等に対抗することができず、また、権利者破産時の破産管財人等による解除(破産法53条、56条。民事再生法等にも同様の規定があります)を免れることもできませんでした。

そこで、立法論としてはかねてから特許法と同様に当然対抗とすべきと説かれてきたのですが、これを採用したものです。

なお、譲渡(を含む移転)を第三者に対抗するためには登録が必要であり(77条1号)、このことに変更はありません。

 

資料

凍結受精卵を生物学上の父の同意なしに移植した場合の法的処理

報道

 別居中、凍結保存された受精卵を使って勝手に出産したとして、40代の元夫が元妻に慰謝料などの支払いを求めた訴訟の控訴審判決が大阪高裁であった。山田陽三裁判長は「夫が子をもうける自己決定権を侵害した」として一審・大阪地裁判決を支持。元妻に約560万円の賠償を命じた。判決は11月27日付。

 高裁判決によると、元妻は婚姻中の2014年、不妊治療を手がける東京都内のクリニックで夫婦で凍結受精卵をつくった。別居中の15年4月、移植同意書に夫の署名を記入してクリニックに提出。無断で受精卵を移植し、16年に女児を出産し、翌17年に離婚した。

 山田裁判長は「個人は子をいつ、誰との間でもうけるかを決められる人格権としての自己決定権を有する」と指摘。望まない女性に子を出産されたとして男性の自己決定権の侵害を認定。「移植の同意があった」とした元妻側の主張を退けた。

 ただし、夫の明確な拒否があったとはいえないことなどを踏まえて賠償額を880万円から減額した。

勝手に出産した元妻に賠償命令 自己決定権の侵害を認定:朝日新聞デジタル

(減額というのは一部棄却という趣旨でしょうか。まさか過失相殺ではないよね…?)

(我が国における精神的損害の賠償額は信じられないほど低いと思っているのですが、その中ではかなり高額ですね)

 

コメント

受精卵凍結後の移植と同意

受精卵の生成・凍結については、当然(生物としての)父・母の協力が必要なので、同意がないということは考えられません。一方、移植については、物理的には母親のみで可能ですが、法的にはやはり同意が必要と考えられており、臨床では同意を要求しています。

受精卵はお二人のものですので、たとえ保存期間中であっても、奥様の子宮に移植する際も、保存を延長する場合や保存期間中に破棄する場合も、お二人の同意が必要です。御夫婦のどちらか一方が同意しない場合、移植に使用することは出来ませんまた現在は、御夫婦のどちらか一方がなくなった場合、および離婚した場合には、その受精卵を用いて妊娠をはかることは認められていません。

一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ - 生殖医療Q&A(旧 不妊症Q&A):Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?

しかし、どういう経緯なのかはよくわかりませんが、実際には同意なしで移植できてしまうことがあるようです。

 

同意なき移植の法的処理:親子関係と損害賠償

同意なしで移植してしまった場合、生物学上の父との親子関係はどうなるのか、また、その人は母に損害賠償を請求できるのか、という問題が生じます。

前者(親子関係)は、母と生物学上の父が婚姻関係にあった場合、嫡出推定を受けるか=親子関係不存在確認訴訟を提起できるか、また、推定を受ける場合、嫡出否認訴訟を提起できるかの問題になります。一方、そうではなかった場合、認知請求ができるかという形で問題になります。

最高裁は、昨年、母と生物学上の父が婚姻関係にあったというケースで、嫡出推定を受けるとして親子関係不存在確認訴訟を棄却した下級審判決を維持しています(凍結した受精卵を妻が無断移植して出産した子と父子関係があるか?。下級審は外観説によったようであり、そのことはどうかと思うのですが、結論としては妥当だと思います)。

後者(損害賠償)について判例は見当たりません。

 

本件について

本件は、後者(損害賠償)について判断したものです。

報道から分かるのは、子を(もうけるかどうか、もうけるとして)いつ、誰との間でもうけるかについての自己決定権が認められるという一般論だけですが、これについては、異論はないところだろうと思います。

親子関係が生じることとの整合性ですが、親子関係は子の福祉を最優先にすべきであり、生物学上の父は受精卵の生成に協力した以上、法律上の父としての責任を引き受けさせられてもやむを得ないと考えられるのに対して、生物学上の母との関係では上記自己決定権は保護されるべきと考えられるので、特に矛盾はないだろうと思います。

 

医師の責任

同意なき移植が自己決定権の侵害となるとすると、医師や病院もその侵害を回避するための一定の注意義務を負うこととなり、あまりに不注意で同意なき移植を実施してしまった場合には、損害賠償請求を受けることが考えられます。

どの程度の注意義務が必要か(≒医師・病院は最低限何をすれば免責されるか)ですが、基本的には移植時に(事前にでは足りない)、生物学上の父の同席と本人確認書類の提示を求めることだろうと思います。なお、生物学上の父でない男性を連れてくることも考えられますが、本人確認書類の提示を求め、カルテと照合することで十分であり、そこまでされた場合には医師・病院に責任を負わせるべきではないでしょう。

一方、同席しない場合、それは同意の拒絶という意思表示にほかならないわけですから、移植の実施は拒否すべきでしょう。例えば中絶手術の同意と違って、女性の自己決定権が夫の何らかの利益に優越するという状況にはありませんし、緊急性もないからです(人工妊娠中絶に関するメモ―特に同意要件に関して参照)。

生殖補助医療民法特例法―やる意味あった?

今回成立した生殖補助医療民法特例法についてのメモ。この改正、やる意味なかったよね?

 

報道

三者から精子卵子の提供を受けることによって生まれた子どもの親子関係を、民法で特例的に定める法律が、衆議院本会議で可決・成立しました。

法案は、第三者から精子卵子の提供を受けるなどして行われる生殖補助医療をめぐって、国内に関連する法律がないことから、議員立法の形で提出され、4日の衆議院本会議で自民党立憲民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

“第三者から精子や卵子の提供” 生殖補助医療法 衆院で成立 | NHKニュース

民法で特例的に定める」は、正確には「民法の特例を定める」です(単行法)。

 

条文

2条(定義)

1項 この法律において「生殖補助医療」とは、人工授精又は体外受精若しくは体外受精胚移植を用いた医療をいう。

2項 前項において「人工授精」とは、男性から提供され、処置された精子を、女性の生殖器に注入することをいい、体外受精とは、女性の卵巣から採取され、処置された未受精卵を、男性から提供され、処置された精子により受精させることをいい、体外受精胚移植とは、体外受精により生じた胚を女性の子宮に移植することをいう。

(カジュアルに「医療」という言葉が出てきており、医師法の「医療」概念(医業の一要件としての医療関連性における「医療」)に批判的な立場としては、いやそれ医療なのかよと思うところですが、それは置いておくこととします。なお、最決令和2年9月16日裁判所website(タトゥー医師法違反事件上告審)

 

9条(他人の卵子を用いた生殖補助医療により出生した子の母)

女性自己以外の女性の卵子(その卵子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産をした女性をその子の母とする

 

10条(他人の精子を用いる生殖補助医療に同意をした夫による嫡出の否認の禁止)

が、夫の同意を得て夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、は、民法第七百七十四条の規定にかかわらず、その子が嫡出であることを否認することができない

 

感想

条文は特に目新しいものではなく、平成15(2003)年に中断された法制審の部会の中間試案の一部を条文化したものです(法務省:法制審議会 - 生殖補助医療関連親子法制部会)。「分娩者=母」という定式が生殖補助医療との関係でも貫徹されることは、その後の判例で確認されており(最決平成19年3月23日民集61巻2号619頁卵子提供者を母とするネバダ州裁判所の裁判が我が国の公序に反し承認されないということの前提として)、嫡出否認の訴えについても訴権の濫用として十分に対応できると考えられるため(一般法理ですが、子の利益が関わるので比較的容易に適用されるでしょう)、立法は極めて確認的なものです。

前回の法制審の部会から17年が経過し、生殖補助医療も進歩し、また、法制審で検討の対象とされていなかった紛争も生じているいるので、それを考慮に入れて改めて規律を考えるというなら分かりますし、国民的な合意が必要なテーマなだから議員立法でやるというなら分かるのですが(前掲平成19年最高裁決定、死後認知に関する最判平成18年9月4日60巻7号2563頁凍結した受精卵を妻が無断移植して出産した子と父子関係があるか?参照)、どちらというわけでもなく、正直なところ、なぜ今さら議員立法でこんな立法をしたのかよく分かりません。ありうるとすれば、首相が不妊治療を推進しているからでしょうか(不妊治療、早期に保険適用 菅首相:時事ドットコム)。

現在法制審では家族法の改正の議論が進められており、そこでは生殖補助医療も議論の対象とされていますが(法務省:法制審議会 -民法(親子法制)部会)、それを待ってからのほうがマシな議論ができたのではないかと思います。

種苗法改正について―種苗法とは何か、改正関係条文

今回成立した種苗法改正について、そもそも種苗法とは何なのか、何が改正されたのか、条文ではどう書かれているのかのメモ。農業のことはよくわからないので政策論には立ち入りません。

 

報道

国に、新品種として登録された果物などの種や苗を海外へ無断で持ち出すことを規制する改正種苗法が、2日の参議院本会議で可決・成立しました。

種苗法の改正案は、2日の参議院本会議で採決が行われ、賛成多数で可決され、成立しました。

改正種苗法では、国に新品種として登録された果物などの種や苗が海外に流出するのを防ぐため、開発者が輸出できる国や国内の栽培地域を指定でき、それ以外の国に故意に持ち出すなどした場合は、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が科されます。

このほか、農家が収穫物から種や苗を採って次の作付けに使う「自家増殖」の場合も開発者の許諾が必要になることなどが盛り込まれています。

政府は、先の通常国会での成立を目指していましたが、新型コロナウイルスの対応などで十分な審議時間が取れず継続審議となる中、一部の農業関係者などからは慎重な審議を求める声が出ていました。

このため、衆参両院の農林水産委員会の付帯決議では、改正によって、農家が新しい品種を利用しにくくならないように、種や苗が適正価格で安定的に供給されるような施策を講じることや、農家に対して制度の見直しの内容について丁寧に説明することなどが盛り込まれています。

この改正種苗法は、一部の規定を除き、来年4月に施行されます。

(後掲・NHK

 

概要

種苗法について

種苗法については、さしあたり、次のことを理解してください。

  • 種苗法は、知的財産法の一つである。
  • 種苗法は、植物の新品種について(特許法における発明と同様に新規性が要求される)、品種登録制度を定める。
  • 品種登録出願人は、審査を経て品種登録を受けると、出願に係る品種について育成者権を取得する。
  • 育成者権者は、登録品種および当該登録品種と特性により明確に区別されない品種業として利用(定義語)する権利を専有し(cf. 商標法では同一または類似の商標)、これをこの権利を侵害する者に対して、差止請求損害賠償請求をすることができる(損害賠償請求について、損害推定・過失推定規定がある)。
  • 利用行為には、
    ①その品種の種苗を生産し、調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し*、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為、
    種苗について権利行使の機会がなかった場合**に、その品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為、
    種苗・収穫物について権利行使の機会がなかった場合に、その品種の加工品を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為
    が含まれる。

*特許権と異なり、輸出が利用行為に含まれています(特許権については、輸出は実施行為に含まれません。立法が検討されたことはありますが、海外における市場機会の独占は属地主義に反するという謎理論でそうしないこととされています。しかし、必ずしもそうとは言えないことは、種苗法が輸出を利用行為としていることからも明らかであるように思います。上記「謎理論」と同様の理論で解釈上輸出を実施行為とすることはできないとした裁判例がありますが、その結論自体は不当とは言えないものの、その理由は、立法が、その当否はさておき、輸出は実施行為ではないという判断をしたということに求めるほかないように思います。)。
**権利行使の機会がある場合の典型は権利者が適法に生産・譲渡した場合で、それがない場合の典型は、権利侵害による場合です。侵害品の派生品に段階的に効力を拡張するわけです。

 

改正法について

改正法は様々な規定を含んでいますが大きいのは、自家増殖の権利制限の廃止と、指定地国・地域制度の導入(輸出規制の強化)です。特に前者については激しい論争がされていますが、私は知的財産法は(多少)分かっても農業のことはよく分からないので、立ち入りません。指定地国・地域制度の導入がなぜ輸出規制の強化になるのかは、下で引用する条文を見ればわかると思います。

詳細については、さしあたり次のものをご覧ください。

なお、種苗法は知的財産法の一つなのですが、日弁連は改正に賛成する意見書を提出しています(日本弁護士連合会:令和2年種苗法改正法案に関する意見書)。

 

属地主義と指定国・指定地域制度との関係

知的財産権の効力は、原則として付与国の領域内にしか及ばないようになっているため属地主義、日本で育成者権を取得しても、海外での利用行為(生産、譲渡etc)についてはその効力は及びませんし、日本で登録が認められたからといって海外でも実質的な審査をパスして登録が認められるということはありません。そうすると、海外での利用行為を止めるためには、独自にその国でも出願し、改めて実質的な審査を受けて、権利を取得しなければなりません*。

 *ただし、UPOV締約国に出願した場合、12か月の間は、優先権が認められます(UPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約Union internationale pour la protection des obtentions végétales)11条)。つまり、新規性や先願(出願の先後)等との関係で、最初の出願国での出願時に当該外国でも出願したものとして扱ってもらえます。

ただ、実際には、日本で新品種を開発した人が外国での出願・審査に対応するだけの費用を出せないということが多いですし、仮に権利を取得したとしても、当該外国が十分な知的財産権の保護制度を持っているとは限りません*。

*まあ叩かれがちな韓国などは、日本と比べても見劣りしない制度を持っているので、日本の開発者が費用を出せなかっただけなんじゃないか(そうである以上権利取得していれば止められた行為を止められなくなったとしても仕方がない)という気がするわけですが…

輸出規制の強化は、属地主義の枠内で取ることができる次善の策、ということになります。

 

条文

ここからは、条文上それらがどのように実装されているかを見ていきたいと思います。

 

自家増殖の権利制限の廃止

種苗法21条は、育成者権の権利制限を規定していますが、今回問題になるのは、2項の自家増殖です。

現行法21条2項は、次のような条文になっています。

現行法21条2項 農業を営む者で政令で定めるものが、最初に育成者権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗を用いて収穫物を得その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる場合には、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。

今回の改正では、この規定が廃止され(丸ごと削除)、原則どおり自家増殖にも育成者権が及ぶ=権利侵害となるようになります。

 

消尽の権利制限―指定国・地域制度の前提

指定国・地域制度は、育成者権の効力についての例外としての消尽の権利制限について、さらに例外を規定する(=原則に復する)という構造になっているので、指定国・地域制度を理解するためには、消尽の権利制限について理解する必要があります。

消尽による権利制限を規定しているのは、改正法21条2項です。

改正法21条2項 育成者権者、専用利用権者若しくは通常利用権者の行為又は前項各号に掲げる行為により登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種及び登録品種に係る前条第二項各号に掲げる品種(以下「登録品種等」と総称する。)の種苗、収穫物又は加工品譲渡されたときは、その譲渡された種苗、収穫物又は加工品の利用には及ばない
ただし、①当該登録品種等の種苗を生産する行為、②当該登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国に対し種苗を輸出する行為及び③当該国に対し最終消費以外の目的をもって収穫物を輸出する行為については、この限りでない。

その趣旨については、特許法に関する判例*の中で分かりやすく説明されているので引用されています。

*特許法には消尽の規定がないのですが、解釈上認めるべきだと考えられてきました。この判例は、それを最高裁として初めて正面から認めたものです。

特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。この場合,特許製品について譲渡を行う都度特許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げられ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保する機会が既に保障されているものということができ,特許権者等から譲渡された特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである…。このような権利の消尽については,半導体集積回路の回路配置に関する法律12条3項,種苗法21条4項において,明文で規定されているところであり,特許権についても,これと同様の権利行使の制限が妥当するものと解されるというべきである。
最判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁[インクタンク事件上告審])

 

指定国・地域制度

指定国・地域制度は、繰り返しますが、育成者権の効力についての例外としての消尽の権利制限について、さらに例外を規定する(=原則に復する)という構造になっています。

21条の2は、1項〜6項で指定やその公示の方法等、7項で消尽の要件を満たす場合でも指定国・地域への輸出等には権利が及ぶことが規定されています。

改正21条の2 品種登録を受けようとする者は、次の各号に掲げる場合において、当該品種登録に係る育成者権の適切な行使を確保するため、農林水産省令で定めるところにより、品種登録出願と同時に当該各号に定める事項を農林水産大臣に届け出ることができる
一 出願品種の保護が図られないおそれがある国への当該出願品種の種苗の流出を防止しようとする場合 次に掲げる事項
 出願者が当該出願品種の保護が図られないおそれがない国として指定する国(前条第二項ただし書〔=「当該登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国」〕に規定する国を除く。以下「指定国」という。)
 前条第二項ただし書に規定する国以外の国であって指定国以外の国に対し種苗を輸出する行為及び当該国に対し最終消費以外の目的をもって収穫物を輸出する行為を制限する旨
二 出願品種の産地を形成しようとする場合 次に掲げる事項
 出願者が当該出願品種の産地を形成しようとする地域として指定する地域(以下「指定地域」という。)
指定地域以外の地域において種苗を用いることにより得られる収穫物を生産する行為を制限する旨
 前項の規定による届出をした者(その承継人を含む。次条第一項及び第二項並びに第二十一条の四第一項及び第二項において同じ。)は、次項の規定による公示(第十三条第一項の規定による公示と併せてされたものに限る。)前に限り、当該届出に係る指定国又は指定地域の指定の全部又は一部を取り消す旨を農林水産大臣に届け出ることができる。
3 農林水産大臣は、第一項の規定による届出があった場合には、第十三条第一項又は第十八条第三項の規定による公示の際、これらの公示と併せて、それぞれ第十三条第一項第一号から第四号までに掲げる事項及び当該届出に係る事項(前項の規定による届出があった場合には、当該届出に係る変更後の事項。以下この項及び次項並びに第二十一条の四第三項において同じ。)又は第十八条第二項第一号から第三号まで及び第六号に掲げる事項並びに当該届出に係る事項を公示しなければならない。
4 農林水産大臣は、前項の規定による公示(第十八条第三項の規定による公示と併せてされたものに限る。)をした場合には、品種登録簿に第一項の規定による届出に係る事項及び当該公示をした年月日を記載するものとする。
 登録品種の種苗を業として譲渡する者は、農林水産大臣が前項に規定する公示をした日の翌日以後は、当該公示に係る登録品種の種苗を譲渡する場合には、その譲渡する種苗又はその種苗の包装に、第五十五条第一項の規定による表示に加え、農林水産省令で定めるところにより、その種苗が第一項第一号ロ又は第二号ロに規定する制限が付されている旨及び当該制限の内容について当該公示がされている旨表示を付さなければならない。
 登録品種の種苗の譲渡のための展示又は広告を業として行う者は、農林水産大臣が第四項に規定する公示をした日の翌日以後は、当該公示に係る登録品種の種苗の譲渡のための展示をする場合にはその展示をする種苗又はその種苗の包装に、当該公示に係る登録品種の種苗の譲渡のための広告をする場合にはその広告に、第五十五条第二項の規定による表示に加え、農林水産省令で定めるところにより、それぞれその種苗が第一項第一号ロ若しくは第二号ロに規定する制限が付されている旨及び当該制限の内容について当該公示がされている旨の表示を付し、又はこれらを表示しなければならない。
 農林水産大臣が第四項に規定する公示をした日の翌日以後は、前条第二項本文の規定にかかわらず、育成者権の効力は、当該公示に係る登録品種等についての第一項第一号ロ又は第二号ロに規定する行為(以下「輸出等の行為」という。)には及ぶものとす る。