大阪地判平成20.1.31:司法試験の答案および素点を記載した文書の開示請求

対象裁判例は、大阪地判平成20年1月31日判タ1267号216頁。特に何か考えたとかではないのですが、読んでいて面白かったので紹介しておきます。

 

事案の概要

司法試験受験生が、法務大臣に対して、司法試験の答案および考査委員が付した素点の記載された文書の開示請求(行政機関個人情報保護法12条1項)をしたところ、開示により事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある(同法14条7号柱書)として不開示決定処分(同法18条2項)をした。不開示決定処分の取消しを求めて出訴。大阪地裁は、不開示を適法と認め、請求を棄却した(確定)。

 

関連規定

行政機関個人情報保護法14条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない。 
(一号から六号まで省略)
七 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

行政機関個人情報保護法は、個人の実体的権利として、開示請求権(12条以下)、訂正請求権(27条以下)、利用停止請求権(36条以下)を規定しています。 開示請求権は、行政機関が自己について誤った情報に基づいて自己を処遇していないか、言い換えれば、訂正請求・利用停止請求をする必要がないか判断するための資料を提供させるという目的で認められたものです。

 

判旨

見出しを太字にした。

1 法14条7号柱書の事務支障の「おそれ」の程度
 法1条は,同法の目的について,行政機関において個人情報の取扱いについての基本的事項を定めることにより,行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ,個人の権利利益を保護することを目的とすると規定し,同14条は,開示しないことに合理的な理由がある情報を不開示情報として具体的に列挙し,この不開示情報が含まれていない限り,開示請求に係る保有個人情報を開示しなければならないと規定している。
 このような法の各規定の趣旨からすれば,法14条7号柱書に定める「支障」の程度は,名目的なものでは足りず,実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が必要であると解される。
 なお,本件開示請求は,本件答案及び本件採点を対象とされたものであるが,仮に本件答案及び本件採点の開示が認められた場合,被告は,その余の受験者に対しても同様の対応を迫られることになるから,司法試験事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの有無は,このことを前提に検討すべきである。
2 新たな法曹養成制度の理念を覆すおそれの有無(争点〔1〕)について
(1)前記前提事実に加え,証拠(乙1,乙6,乙7,乙8,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,旧・新司法試験の実施状況に関し,以下の事実が認定できる。
ア 旧司法試験においては,受験生の間で受験予備校等が広く利用されていたところ,受験予備校等は,受験者から論文式試験の再現答案を集め,成績通知により上位の評価である「A」を得た者の再現答案を分析をし,高い評価を得る答案の共通点等を多数の受験生に示すなどの受験指導を行っていた。
 そのため,旧司法試験の受験生の中には,受験予備校等の指導に則り,論点ごとに整理された教材,あるいは過去の試験問題や想定問題についての解答例を集めた教材等を使用してその内容を覚えていくという勉強の仕方をする者が多く存在した。
イ その結果,旧司法試験においては,論点・解答を暗記する勉強方法を採る受験者による画一的な答案が増加し,論文式試験の答案は,考査委員らにより,「表面的,画一的,金太郎飴的答案」,「同じような表現のマニュアル化した答案」,「パターン化しており,それも同じ間違いをしている答案」等と評され,受験者の能力判定が年々困難になると指摘されていた。
ウ これに対し,新司法試験は,旧司法試験での反省を踏まえ,質・量ともに豊かな法曹を養成するため,法科大学院教育を中核とする,プロセスとしての新たな法曹養成制度の一環として位置づけられている。
 この新たな法曹養成制度は,司法試験の前段階の教育を法科大学院において行い充実させることにより,質の高い法曹を数多く養成しようとする制度である。
エ 新司法試験は,平成18年に初めて実施されたが,「受験新報」という司法試験の情報誌においては,同年11月1日発行の12月号において,「論文式試験 合格者はこう書いた!」と題して,合格者の科目別再現答案(受験直後に受験者らが作成したもの),科目ごとの得点(1問目と2問目の合計得点),上記再現答案作成者のコメントを掲載した。
オ 平成19年には,ある受験予備校は,短答式試験論文式試験それぞれにつき,新司法試験終了直後から,受験者らに対し,特典を供与して,再現答案の収集をするなどした。
(2)ア 上記認定事実によれば,答案の開示が認められていない現時点においても,旧司法試験と同様,新司法試験の受験者の答案の再現が試みられ,それに対する評価が加えられ,科目ごとの得点と答案内容との対比や自己の再現答案との対比もある程度可能な状況にあることが認められる。そして,答案の開示が認められれば,開示された答案の内容と当該答案に与えられた得点をより具体的に分析することができるようになる。
 ところで,司法試験の採点業務は,考査委員の高い専門的知見に基づいてなされるものであり,採点にあたっては,事例解析能力,論理的思考力,法解釈・適用能力等を十分に見ることを基本としつつ,全体的な論理的構成力や文章表現力等を総合的に評価し,理論的かつ実践的な能力の判定に意を用いるものとされている(乙2)が,試験である以上,受験者間の公平のため,一定の採点基準を設けている可能性が高い。
 そのため,受験予備校等が,対価を支払う等して,多くの新司法試験受験者の答案と得点の通知を収集することで,具体的な採点基準を探り,また,高い評価を得た者の答案を分析し,かかる答案の共通点等をパターン化して,多数の受験生に示すなど,受験技術の習得に特化した受験指導を行うことが十分に予想できる。
 また,受験生らが受験予備校等を利用しない場合であっても,司法試験に関する情報誌等において,合格者や高い評価を得た者の答案が掲載されることが予測できるところ,かかる情報誌や,受験生同士の交流の中で得た情報をもとに,受験生らは実際の答案を自ら容易に分析することができるようになる。
 そして,受験生の中には,法曹になるために必要な学識及びその応用能力を身につける勉強よりむしろ,断片的な知識の習得に走ったり,合格者や高得点の者の答案を無批判に暗記対象とするなどして,高得点をとるための受験技術を磨く者が出るようになることは経験則上明らかである。
 このような事態になれば,画一的でパターン化していると評され,受験者の能力判定が年々困難になると指摘されていた旧司法試験における弊害を新司法試験にもそのまま引き継ぐことになるのみならず,受験技術偏重の傾向がむしろより悪化することが予測されるのであって,新たな法曹養成制度の理念と真っ向から対立し,新司法試験に係る事務の適正な遂行に支障が生じることになる。
 原告は,試験問題を公開している以上,答案を開示しなくとも模範答案を作成することは可能であって,受験技術偏重の勉強方法がこれによって大きく変更されると認めることはできないと主張するが,考査委員による採点がされていない模範答案と,考査委員による採点も示された実際の合格者等の答案とは,受験生にとって重みや意味が異なり,これらを同一視することはできない。そして,答案の開示を認めると,答案の開示を認めていない現在に比べて,格段に受験技術偏重の勉強方法に拍車がかかることは,上記の検討からして十分な蓋然性をもって認められるものであり,原告の上記主張は採用できない。
イ 原告は,新司法試験は,旧司法試験の問題状況を織り込み,新司法試験の問題を変更することで旧司法試験の問題点を根本的に克服したのであり,受験技術偏重という旧司法試験の問題点を引き継ぐおそれはない等と主張する。
 確かに,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,新司法試験においては,多種多様で複合的な事実関係による設例が出題されていることが認められる。
 しかし,出題形式の多様化にも限界があることは明らかである上,新たな法曹養成制度とはいえ,新司法試験に合格しない限りは,法曹になれない制度であり,受験回数にも制限があることからすれば,合格のために過去問や合格者の答案を分析して受験技術を磨こうとする受験生が出てくるのが自然の流れであり,試験内容の改革だけで受験技術偏重の旧司法試験の問題点が全て解決したということはできず,原告の上記主張は採用できない。
ウ また,原告は,開示方法を工夫して閲覧に限ることで情報の流出を防ぐことができると主張する。しかし,開示される答案は,もともと自己が作成したものであるから,再現答案を一応作成した上で長時間閲覧したり,複数回閲覧することで写しとほぼ同様の再現答案を作成することは容易であるといえるし,上記認定事実からすれば,受験予備校等が対価を支払い,多くの受験生に上記の方法による答案の再現を依頼することも十分想定できることからすれば,原告の上記主張は採用できない。
3 質問及び照会による司法試験事務への支障の有無(争点〔2〕)について
(1)前述したとおり,個々の受験者の提出した答案を開示することになれば,成績通知による各科目別の得点を受験者相互で比較検討することが可能となり,各受験者や受験予備校等が,採点基準等につき分析することが予想される。
 そうなると,受験者の中には,自己の答案と他人の答案とを比較し,また,受験予備校等による採点基準についての分析結果等をもとに,自己の答案の点数が低いことについて疑問を持つ者が現れることは必至であり,その中には,司法試験委員会に対し,質問や照会をする者が出てくることも容易に予想できる。
 そして,このような場合,司法試験委員会が,当該受験者の疑問を払拭するために具体的な説明をすること,例えば,考査委員が当該問題において想定した論点,各論点ごとの配点(仮に採点基準があるとした場合)及び当該答案の各評点及びその理由を具体的に明らかにすることはできないし,それに至らない抽象的な説明だけで,その受験者の理解が得られる可能性は低い。
 また,答案ごとの素点は,採点格差調整前の点数であり,これを単純に合計したものが成績通知による各科目別の得点になるわけではない。
 したがって,答案ごとの素点を開示すれば,開示で明らかになった素点と成績通知による各科目別の得点との間で差が生じ,受験者に新たな混乱を生じさせる要因にもなる。例えば,論文式試験において最低ラインに達していない科目が1科目でもある者は,それだけで不合格となるとされているから,素点の合計点は合格最低点を下回ることはないのに,採点格差調整後は,合格最低点を下回り,結果として不合格となる者もいる一方で,素点の合計点では合格最低点を下回るのに,採点格差調整後は合格最低点を上回る者もいるわけである。このようなことが,自己の素点と司法試験委員会から通知された科目別得点とを比較する中で判明した場合,受験者の中に,疑問,不平,不満や不平等感を持つ者が出ることは予想されるところであり、多くの受験者が司法試験委員会に対して,質問や照会等をし,詳細な説明を求めることも十分に考えられるが,同委員会が答え得る一般的な説明の範囲で,受験者,特に不合格になった受験者が納得する可能性は高いとはいえず,長時間ないし複数回の説明が必要な場合も少なくないと予想できる。
(2)以上の検討からすれば,答案や素点の開示は,司法試験委員会において回答の困難な質問や照会を増加させることが認められ,同委員会が,本来の業務以外に,かかる質問や照会に対する対応に今まで以上に時間を割かれるようになることは明らかであるし,事柄の性質上,十分な時間を割いたからといって,受験者らが納得する回答ができるというものでもない。 
 しかも,司法試験委員会に対する上記のような質問や照会が増えた場合,考査委員らが,このような質問や照会が出にくい問題か否かという点も考慮して問題を作成し,採点することになると,本来の目的である法曹としての知識や応用能力を判定するための問題を作成し,高度な専門的知見に基づく多角的視点による採点をすることに困難が生じたり,新司法試験の本来の趣旨から外れた考慮を必要とする問題作成や採点に煩わしさを感じる考査委員も増え,優秀な学者や実務家からのなり手を探すことが難しくなることも十分に考えられる。
(3)原告は,司法試験事務の適正な遂行をするにあたっては,受験者等からの質問や照会に積極的に答えていくことが求められるし,受験者等からの質問や照会を受けることができなければ,司法試験委員会への質問及び照会に対し,回答しなければ済むことであると主張する。
 確かに,司法試験の適正な運営のためには,受験者等からの質問や照会に対し,必要な範囲で適正に答えることが望ましいとはいえるが,それは,受験資格や受験制限に関する教示等の手続についていえることであって,試験という性質上,採点内容についてまで及ぶものではない。
 また,司法試験の採点に関する一切の質問及び照会は遮断するという扱いは可能であるものの,開示をした以上,一切の質問及び照会を遮断することは実際問題として困難である上,質問や照会ができない理由などを尋ねる受験者やその取扱いに対する批判への対応も必要になるなど,司法試験委員会の事務量を相当程度増加させる蓋然性は高く,司法試験事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることに変わりがない。

自由選択主義・不服申立前置主義と原処分主義・裁決主義

自主ゼミで審決取消訴訟を担当したときのレジュメからコピペ。

 

行政事件訴訟法8条1項 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。

行政的救済を求めるか、司法的救済を求めるかは原則として自由であるという意味で、自由選択主義と呼ばれる。これに対するのが、不服申立前置主義である。

特許拒絶査定・特許査定に対する不服については、不服申立前置主義が採用されている(拒絶査定不服審判、無効審判)。他の例として、国税通則法(課税処分などについて国税不服審判所に対する審査請求を前置)、平成25年改正前独占禁止法(排除措置命令・課徴金納付命令について公正取引委員会に対する審査請求を前置。なお、改正により、金融商品取引法に基づく課徴金納付命令などと同様の事前審査型手続に改められた)がある。いずれも、専門的知識を有し一定の中立性を与えられた機関による判断を経由させる趣旨である。

 

行政事件訴訟法10条2項 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。

原処分の違法を主張するには原処分の取消訴訟を提起しなければならないという意味で、原処分主義と呼ばれる。ただし、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には」という文言から分かるとおり、裁決の取消訴訟のみを提起できる場合には、裁決の取消訴訟において原処分の違法を主張することができることとなる(例外としての裁決主義)。

 

特許法178条6項 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

不服申立前置主義が採用される場合、同時に裁決の取消訴訟のみを提起できることとされることが多い(特許法178条6項。平成25年改正前独占禁止法77条3項にも同一文言の規定が置かれていた)。その場合、裁決主義となる(裁決の取消訴訟において原処分の違法を主張することができる)。専門的知識を有し一定の中立性を与えられた機関による判断を尊重する趣旨である。

 

特許法178条1項 審決に対する訴え…は、東京高等裁判所の専属管轄とする。

不服申立主義前置主義が採用され、かつ、裁決の取消訴訟のみを提起することができるとされる場合、同時に東京高等裁判所が一審専属管轄裁判所とされ、実質的に一審が行政審判に代替されることが多い(特許法178条1項、平成25年改正前独占禁止法85条1号)。

 

しかし、自由選択主義と不服申立前置主義、原処分主義と裁決主義は一方が他方の必然的帰結だというわけではない。多くの処分は自由選択主義かつ原処分主義(前提としていずれの取消訴訟も提起できる)であり、その対極にあるのが不服申立前置主義かつ裁決主義(前提として裁決の取消訴訟のみを提起できる)の場合であるが(特許法、平成25年改正前独占禁止法)、不服申立前置主義だが原処分主義(前提としていずれの取消訴訟も提起できる)という場合もある(国税通則法)。

WLSでの履修について

履修について聞かれたので、愚痴りつつメモしておく。なお、WLS入学予定者のための一問一答(?)というのもあるので、参考にされたい。

 

さしあたり、次の表を見るのが早い。

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2年次必修科目

  • 春学期:行政法1(作用法。なお、2は廃止されたようであるが、秋学期の行政法総合が実質的に対応している)、民法総合1(契約。消滅時効、損害賠償などを含む)、会社法1(機関)、民事訴訟法総合1(全分野の重要判例)、刑法総合1(総論)、刑事訴訟法総合(全部。4単位)、民事裁判実務の基礎、法曹倫理(合計18単位)
  • 秋学期:憲法総合(人権の重要判例)、行政法総合(救済法)、民法総合2(物権、不法行為家族法。取得時効を含み、担保を除く)、会社法2(資金調達、M&A)、民事訴訟法総合2(ケースブック。判決、複雑訴訟、上訴以外。ただし、一部請求、重複基礎を含む。)、刑法総合2(各論)、刑事裁判実務の基礎(合計14単位)

この時点で合計32単位。履修上限単位数は、年間36、各学期20なので、必修科目以外の科目を最大まで履修しようとする場合、①春学期に2単位、秋学期に2単位か、②秋学期に4単位を登録することとなる。

なお、必修科目以外の科目は、2年次に履修する必要はない:卒業に必要な総単位数は102であり、ここから既習者のみなし履修単位数30と必修科目単位数40を控除すると、自分で科目選択する必要のある単位数は32となる。3年次の履修上限単位数44から必修科目単位数10を控除すると34なので、全部3年次に回しても、最悪1コマ(=2単位)落としてもなおリカバリできる余裕がある。しかも必修科目は全て期末試験が行われるが、2年次はそのウェイトが大きい。

また、履修しようとしても、2年次で履修可能な選択科目はかなり少ない。例えば司法試験選択科目の入門的な科目で2年次配当なのは、租税法基礎、国際関係公法基礎、特許法著作権法、環境法1、国際私法1くらい。仮に2年次配当でも、必修科目とかぶっていることがほとんど。

コメント:この1年間、ほとんど全部が講義で、発言したり考えたりする機会がなく、本当に面白くなかった。演習だけやるコースを作って欲しかった。あと、実務基礎の中身の薄さにもブチ切れそうになった(以上につきWLSでの1年目が終わった)。理論と実務の架橋と言うが、実務部分で勉強になると思ったことはほとんどなかった(教員としてはレベルを下げているのだろうけど)。あんなに中身の薄い実務科目をやらせるくらいなら、どうせ実務に出てしまえば理論を勉強する機会がどれだけ取れるのか分からないのだから、理論を勉強させてくれと思った。だったら修士に行けばいいのだろうが、いい知り合いができたのでLSで失敗だったとは思わない。

選択科目については、私は春学期に国際私法1(特許、著作権は必修とかぶった)、秋学期に民法応用演習を履修した。いずれも評価はレポートで行われたため、負担はそれほど大きくはなかった。

 

その他の必修科目

3年次配当の必修科目として、次のものがある。

  • 春学期:民法総合3(担保、保証、相殺、債権譲渡)、会社法総合(薄く広く)、民事訴訟法総合3〔判決、複雑訴訟〕、民事実務演習
  • 秋学期:なし

また、選択必修科目として、次のものを履修しなければならない。

  • 基礎法、外国法基礎、国際関係基礎、隣接科目 4単位
  • 実務系基礎科目(エクスターンはここに含まれる) 2単位

追記:基礎法等は4単位取得する必要があるが、そもそも当該区分に属する科目の数が少ないため、その中から関心のあるものを、2年間の間に必修科目や司法試験選択科目を扱う科目とかぶらないように履修するのは至難の業である。そのため、2年次からそのことを考慮して履修科目を選ぶ(=必要に応じて2年次に基礎法等を履修しておく)ことが望ましいと考えられる。

 

即戦力法曹育成コースについて

高度な実務教育及び研究者と実務家による総合的学修の機会を与えることによって、より実践的な法律実務能力を涵養し、かつその技能を身に付けさせることを目的とします。本コースは、特に任官を支援しつつ、日本の司法制度の中核を担う人材を育成するコースです。高度な実務教育を行い、即戦力法曹の育成をめざします。

(科目登録の手引:学部ですらwebにあったのになぜかない。3月に送られてきます)

2年次の1月頃にMy Wasedaから申請し、その中で一定順位内の者が履修することができる。①必修科目の民事実務演習で、このコースの履修者のみから構成される特別クラスに入れられ、その単位を取得するとともに、②選択科目A群:民事法総合研究、刑事法総合研究、要件事実特別演習の中から4単位(ちなみに研究と言いながら担当者は実務家)と、③B群:エクスターンを含む実務科目から2単位を履修することで、修了認定を得ることができる(修了認定自体にどんなメリットがあるのかはよくわからないが)。なお、成績優秀者でもコースを申請しない人が一定数いるようである。

コメント:別に修習を免除してくれるわけではないし何が「即戦力」なのだろうかと思ったが、そもそも本学の既習者の一発合格率はわずかに41%なので(WLSの在学期間の1/4が終わった:平成30年司法試験における既習者の合格率)、(ほぼ)一発合格だというだけで本学の中では十分に「即戦力」であるのかもしれない。私は転勤したくないので任官には関心がないが、ちょうど1年次の実務科目の中身の薄さにブチ切れていたところだったので、優秀な人たち一緒に受けさせてもらえるなら少しはマシかもしれないと思い、申請した。

金融・倒産、知財、独禁などに関心があり、既に枠が足りないため、B群科目(民事法総合研究、刑事法総合研究、要件事実特別演習)は履修したくないのだが、これらの登録を強制されるのか(例えばこれらの中から2科目以上申請しなければ、科目登録がエラーになるのか)、それとも修了認定がされないだけなのかは、よくわからない。個人的には民事実務演習を特別クラスで受けさせてくれさえすれば、修了認定はしてくれなくてよいのだが…

 

ミスマッチについて

想定される履修者がかなり重複するのに同じ時間に開講される科目がわりとある:

もうちょっと考えて配置して…

WLSでの1年目が終わった

講義いらなくない?

結局集中できなかった。やっぱり教科書レベルのことなら一人で教科書読めばいいじゃんと思ってしまう。興味がある問題もあるが、40人以上いるので発言もできない(スケジュール的にもそんな暇はないのだろう)。3年次は演習中心らしいので、2年コースだけじゃなくて1年コース、あるいは3年次を2回やるコースも設置してほしかった。

演習の授業はちゃんとやった。珍しく2年次以上配当科目で、受講者20人弱のうち2年生は3人だった。3年生を見ていていろいろ思うところはあった。将来債権譲渡についてレポートを出したところ、満点-2点の評価をもらうことができ、しかも「よく考えられ、説得力ある平明な文章で、良いレポートです。」とのコメントをいただき、学部時代からずっとその先生の本を読んでいたこともあって、とても嬉しかった。

 

期末試験

期末試験直前〜試験期間中にやったこと

先月まで先端科目マインドで、どうにも基本科目が面白くなかったが、3週間くらいで軌道修正できた。司法試験は平成30年度分だけ解いてやめてしまった(結局それが大当たりだったけど)。あとは優先度が高そうなところを当たりをつけて、テキストを読み込んだ。

  • 憲法:何もしてない(ほんとうに。直前の昼休みくらいやるべきかと思ったが、同日が締め切りの原稿があり、それに費やした)
  • 行政法:大橋・行政法IIの国賠部分を読んだ
  • 民法:百選1の物権部分、3の相続部分を読んだ
  • 会社法:田中・会社法の資金調達の章の株式部分、M&Aの章を読んだ
  • 民訴:リークエを通読した
  • 刑法:各論のコアカリキュラムを印刷して、キーワードを書き出して、山口・刑法で確認した
  • 刑事実務:司法研修所のプラクティス刑事裁判を読んだ。ほとんど無内容で、刑訴法の316条の後の枝番と刑訴規則199条の後の枝番だけ読めばよかったと思った。検察官のパワポを読んだ。犯人性の枠組みは役に立った。内容については小学生でも書けるんじゃないかと思ったけど。ていうか刑事訴訟法を春学期に4単位でまとめやるなら刑事実務もまとめて春にやってくれ。

 

試験の内容(全体として)

論点らしき論点がほとんど見当たらない科目もあったが、周りも似たようなことを書いたようであり、まあ沈むことはなさそう。特徴的な問題が多かった:

 

憲法

マッサージ師養成学校の設置不許可取消訴訟。ニュースで見覚えがあったものの、記事の中身はよく覚えてなかった。学校の職業選択の自由メインで書いた。健常者も他の学校を卒業すればなれるじゃんと思ったのだけど、学校の許認可を通じて需給調整されていること自体が問題だったようである。そういえば予備初年度の憲法ロースクールアファーマティブアクション)を思い出しながらも事案が違うと思ったが、思ったより近かったのかもしれない。

 

行政法

産廃施設の設置許可がされた事案で、主張制限(財政的基礎要件)、義務付け訴訟の訴訟要件、規制権限不行使の国賠(裁量ある規制/ない規制)。

主張制限は司法試験の関係で読んだので書けた。義務付け訴訟については、求める処分の一定性を忘れていた(明らかに一定性があったので…)。住民訴訟は、前週にちょっと調べて「公務員の個人責任について」を書いたところだったので助かった。

WLSの行政法は、春学期が実体法(作用法)、秋学期が訴訟法(救済法)なのだが、国賠の中で裁量が出てきたのには「そういうやり方もあるか」となった。

 

民法

不倫相手に対する慰謝料請求(不倫時からは3年経過しているが離婚からはまだ)、財産分与の性質決定(別に300万の慰謝料を払ってる、分与財産は親から相続したもの)、分与の意思表示をし、鍵を渡したが登記移転未了の間の工作物責任、遺産を配偶者に全部相続させる旨の遺言の方式要件、遺言が無効である場合の相続人(配偶者と子)の「法律関係」(遺産が不動産、預金、株式だったので、おそらく遺産共有の対象と配偶者居住権)、遺言が有効である場合に子がなしうる請求(遺留分侵害額請求)。

慰謝料の判決を知っていたのは助かった。工作物責任は、登記名義人に対する建物収去土地明渡請求の事案の射程を書いた。結論として元所有者に対する請求も認めてみたが、よく考えると工作物所有者責任には補充性があって、どれくらい意味があるのかよくわからない。

財産分与については、たまたま前月に最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁とその森田修評釈(法学協会雑誌118 巻11号1786頁)を読んでいたので助かった(Fをもらった一昨年の予備試験民法との関係で)。配偶者居住権、遺留分侵害額請求についても、先月改正法について調べたところだったので助かった。配偶者居住権について、試験後に大声で取得時効だという声が聞こえてきたのには大変愉快な気持ちになった。せめて使用貸借の推定ならね…

 

会社法

大塚家具をモデルにした事案。ただし、論点的な関係はない。裁判所が重要な判断をした事案ではないし。非公開会社である資産管理会社(ききょう企画がモデル)で、全員の承諾があるが譲渡承認していなかった場合の解任決議の有効性、コンペティター(TKPがモデル?でも家具売ってたっけ)からの帳簿閲覧請求、スポンサー(ヤマダ電機がモデル)が51%を出資する/重要財産の処分等に制限を加える/経営者の地位を保障するなどの内容の業務提携について、支配株主移転の新株発行の差止め。

最後の問題で書くことがなくて、ニッポン放送事件やブルドックソース事件との違い、取締役会専決事項との関係とかについてひねり出して書いたけど、割とみんな書くことはなかったよう。

 

民訴

先制攻撃的な債務不存在確認訴訟と給付訴訟、自己使用文書の文書提出命令、一部請求。

考えて修正する暇がなかったけど、先制攻撃的とはいっても普通裁判籍で提起しているところが気になった。ちょうどこれに関する三木論文をコピーした上で、テスト前だからとストックに加えたところだったので、読んでおけばよかった。後ろ2つは特に変なところはなかった気がする。

 

刑法

特にひねりはなかった。いつもどおり量が多かった。

 

刑事実務

犯人性(検察)、勾留中の弁護活動とその法的根拠(被疑者に対するもの、被疑者以外に対するもの)、証拠開示、別件逮捕中に得られた供述と証拠についての証拠意見とその根拠(以上弁護)、勾留の必要性、指紋の同一性に関する書面の性質と証拠調べの方法、物を提示して尋問する方法、供述制限(以上裁判)。

量が多くてびっくり。ただ、裁判は実質刑訴だったし、検察もオーソドックスだったから割とすぐ終わった。

弁護は(過去問からして)相変わらず意味不明だった。まず勾留中の弁護活動で面食らった。みんな面食らっているんだろうと思って気を取り直し、陳述拒否と署名押印拒否の徹底と、被疑者ノートを渡して違法捜査に備えること、勾留取消請求・勾留理由開示請求・準抗告と書いておいた。勾留されたということが書いておらず、いい加減だなあと思ったが、弁護人が被疑者国選であることから「善解」しておいた。

それはともかく、検察官が二十数個の証拠の中からどの証拠を取調請求したのか書かずにどうやって証拠開示させるかを聞いてきたのには「は???」としか言いようがなかった。類型証拠開示(316条の15第1項)の5号類型、6号類型は「類型」の定義中に検察官請求証拠との関係が参照されているし、開示の「法的根拠」(それが聞かれている)を厳密に解釈するなら、各号に規定される類型該当性を検討するだけでなく、柱書の検察官請求証拠の証明力を判断する上での重要性を検討する必要がある(「…次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて…」)。勝手にどれを取調請求したか仮定していいなら、適当に弁護人側の主張をでっち上げて主張関連証拠だと言ってもいいとということになってしまうのでは…?

ともあれ、3時間睡眠みたいな日が続いていたので、試験中にいっぱい寝た。退出する勇気はなかった。

 

百選の使い方

今まで百選を使ったことがほとんどなかったのだが、もしかしたらこれは試験直前にぱらぱらと復習するのにかなりよい教材なのではないかと思った。スキャンするのやめようかな。

 

3年次の時間割

基礎法・隣接科目で4単位を埋めなければならないのだが、興味のあるものがゼロで(唯一興味がある生命科学と法は後述の知的財産訴訟の実務とかぶっている)、困っている。

一方で、取りたい科目として、金融担保法、倒産法1, 2、特許法著作権法、国際知的財産法、特許紛争処理法、著作権等紛争処理法、知的財産訴訟の実務、独占禁止法1(独禁2は著作権とかぶった)を取りたいのだが、必修8と合わせるとこれだけでもう28で(しかもエクスターンを履修するのでさらに+2)、困っている。聴講するのはアリ。

 

春休みにやること

読む以外

  • TOEIC
  • エクスターン準備(公開資料300ページくらいの読み込み)
  • 司法試験過去問

読みたい

  • 三木・複訴訟論の再構築
  • 法教の連載「公法訴訟」
  • ジュリストの連載「担保・執行・倒産の現在」
  • 国際民事訴訟法(特に送達・司法共助部分)
  • 租税法入門
  • 基礎から学べる金商法
  • 倒産法概説の実体法部分
  • 和田・民執民保
  • 支払決済法(再)
  • 事例で学ぶ独占禁止法
  • 憲法判例の射程、憲法学読本(再)、判例から考える憲法
  • 情報法概説、情報法入門、ロボット・AIと法

時間がないが、地道に潰していきたい。

 

なお、「民事訴訟法の基本書、演習書等と使用法」を加筆した(主にリークエと「広義の民事訴訟法」)。

最判平成14年6月10日:弘法にも筆の誤り

「弘法にも筆の誤り」という言葉がある。

書の名人である弘法大師にも書き損じはある,の意で,その道にすぐれている人でも,時には失敗することがあるというたとえ。猿も木から落ちる。河童(かつぱ)の川流れ。(大辞林

 

さて、次のテキストを読んでいただきたい。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。
最判平成14年6月10日集民206号445頁

 

被引用判決の関係する部分は次のようになっている。

したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。
最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁

 

どうしてこうなったのか

平成14年判決の起案者は、平成3年判決をコピペしたのだろうが、平成3年判決は、昭和〜平成初期の判決にありがちな冗長な文章で、構造がわかりにくくなっている。

平成3年判決の「遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめる」(①)の意味上の主語は、相続させる旨の遺言だろう。つまり、その前の「このような遺言にあっては」というのは「このような遺言は」という意味に解釈すべきことになる。

これに対して、①に続く「当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」という部分(②)の意味上の主語は、当該遺言によって特定の相続人に相続させるものされた遺産だということになる。②との関係では、「このような遺言にあっては」は、「このような遺言がなされた場合においては」という意味に解釈すべきことになる。

このように、①と②では意味上の主語が切り替わっており、「このような遺言にあっては」というフレーズは、①の主語と思われたが、その曖昧さゆえに、②との関係でも一応整合的に解釈できた。

ところが、平成14年判決は、平成3年判決をコピペするにあたって、簡明な文書を書くという最高裁自身のトレンドに従って、次のような改変をしてしまった。

  1. 「このような遺言にあっては」を「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は」というはっきりした書き方に変えた(「特定の〜趣旨の」というくだりは「このような」という指示語の中身を補充しただけなので、実質的な変化は「にあっては」を「は」に変えた点)
  2. ②の中に、その意味上の主語である「当該遺産が」を文面上も書き足した。
  3. ①を削除した。

ここで矛盾が生じた。「このような遺言にあっては」が ①に対応する主語であることを明確化する方向で書き換えたのに、①を削除してしまい、それどころか②に主語を加えたことで、二重の主語が現れてしまったわけである。

公務員の個人責任について

報道

 仙台市泉区の市立小2年だった女児(当時8歳)と母親(同46歳)が2018年11月、同級生らによる女児へのいじめなどを苦にして無理心中した事件で、母親が加害側との面談を前に学校長に渡したメモのコピーを、学校長が無断で加害児童の保護者に渡していた。心中は面談の3カ月後で、40代の父親は、学校長の行為は地方公務員法守秘義務違反に当たるとして宮城県警刑事告発し、捜査が進められている。【吉田勝、藤田花】
 ◇父親が刑事告発
 父親によると、メモはいじめの実態や理由をただす内容。父親は「妻は学校長を信じてメモを託したのに、裏切られた。これをきっかけに、精神的に追い詰められ、地域からも孤立していった。妻と娘の無念を晴らしたい」と語った。
 父親によると、女児は18年春ごろ、同級生2人に仲間外れにされたり、殴られそうになったりするなどのいじめを受けるようになった。両親は同7月、加害者とみられる児童2人の保護者との面談を学校長に申し入れ、後日、母親が質問内容や表現などについてアドバイスを受けるため作成したメモを学校長に手渡した。女児が母親宛てに「しにたいよ」といじめを訴えた手紙も渡した。
 ところが、母親と加害側2人のうち1人の保護者との面談が行われた8月末、相手がメモのコピーを持っており、無断で渡されていたことが判明。相手側は態度を硬化させ、話し合いにならなかった。母親は学校長への不信感を募らせ、メモの原本とコピー、女児の手紙を取り戻した。
 仙台市教育委員会は取材に、学校長がメモのコピーを無断で渡したことを認めた。理由については、加害側の保護者から「面談でどのようなことを聞かれるのか心配だ」と言われたため渡したとしている。後日、女児の両親から抗議を受けた学校長は口頭で謝罪した。
 しかし父親によるといじめは改善されず、母娘とも体調を崩し11月29日、2人が自宅で死亡しているのを発見。県警は、母親が無理心中を図ったと断定した。市教委は第三者委員会を設置し、いじめの実態や、メモを渡したことと無理心中との関係などについて調査中としている。(母・小2娘心中 いじめメモ、加害側に渡す 校長認める - 毎日新聞

これをきっかけに、公務員全体の個人責任について考えたのでメモ。

 

公立学校行政の仕組み

議論の対象としたいのは公務員全体の個人責任であり、公立学校行政に限定する趣旨ではないのですが、一応公立学校行政の仕組みを見ておきたいと思います。

 

執行機関多元主義

地方自治体については、大統領制的な首長・議会の二元代表制がベースとして採用される一方、ブレーキとしてとして執行機関多元主義が採用されています(地方自治法180条の5。他に議院内閣制的な不信任制度や、直接民主制的なリコール制度など)。首長(都庁、市役所として一般にイメージされる機関)以外の執行機関としては、教育委員会選挙管理委員会公安委員会(都道府県のみ。警察を管理する)、監査委員などがあり、首長から独立して職務を行うことになります。

神戸市の市立学校で組体操による事故が発生したとき、市長が次のようなツイートをしていますが、このような言い方になっているのは、組体操をやめさせることが市長の権限に含まれていないからです(なお、最終的に教育委員会が自主的に取りやめを決定したようです:神戸市教委、組み体操を全面禁止に 小中学校で事故多発 :朝日新聞デジタル)。

 

教育委員会の構成と事務局

教育委員会は、教育長と4人の委員で構成されるのが原則的な形態です(地方教育行政法3条1項)。

教育長は、委員会の代表者であり(同法13条1項)、事務局(同法17条1項)の指揮監督権者です。教育長は、①首長の被選挙権を有し、②人格が高潔で、③教育行政(教育ではない)に関し識見を有する者のうちから、首長が議会の同意を得て任命します(3条1項)。実際には、教育委員会事務局職員が昇格するのがほとんどです。

教育委員(教育委員会の構成員で教育長でないもの)は、要件・任命方法ともにほぼ同じですが、③教育行政ではなく、③' 教育・学術・文化について識見を有する者のうちから任命されます(3条2項)。実際には、元知事部局・市長部局職員、元教員・教育委員会事務局職員、元アスリート、研究者、医師や弁護士などの専門職などが任命されることが多いようです。

会社のアナロジーで言えば、「監査役型の会社だが、代表取締役社長以外の取締役が全員社外取締役」という構成になっています(業務執行者が監督機関の構成員を兼ねるがマジョリティではない)。

 

公務員個人に対する損害賠償請求はできない

公務員個人の責任を追及したい場合、考えられるルートとしては、民事、行政、刑事があり、この順に重くなっていきます。

ところが、民事責任について、判例は公務員個人に対する請求を否定しています。

右請求〔注:国家賠償請求〕は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。(最判昭和30年4月19日集民18号287頁)

その理由として、一般に、国・公共団体は倒産リスクがない以上、国・公共団体を被告にしさえすれば、確実な救済を受けられるということが考えられます。しかし、それは使用者責任の場合も同じような場合があるわけですし(上場企業も倒産する時代になったと言われますが、それでも基本的には倒産しません)、そもそも執行可能性は本来被害者が請求の相手方を選択するにあたって考慮の一要素とすればよいことです。そう考えると、国家賠償法は、公務員を不当に手厚く保護していると言わざるをえないように思います。

特に判例は被害者救済のために公権力行使要件を拡大して解釈してきたこと(抗告訴訟と異なり、純粋な私経済的作用と2条の対象になる行為以外のすべて)を考えるときは、なおさらそうだといえます。典型的には、公立学校教員が私立学校教員よりも不法行為責任の点で手厚く保護される理由はないだろうということです。

 

訴訟告知で公務員個人を引き入れる?

請求の相手方とならない以上、共同被告にはできません。しかし、公務員個人を国・公共団体に対する訴訟に引き入れる方法がないではありません。故意・重過失が認められた場合には公務員個人―国・公共団体間で求償関係が成立するため、訴訟告知(民事訴訟法53条)ができます。

しかし、このことにあまり意味があるとは思えません。訴訟告知の主たる効果はみなし参加による参加的効力にあり(同条4項)、被告知者が実際に参加するインセンティブもそこにあります。参加的効力が生じる要件については議論がありますが、伝統的通説も有力説は、訴訟告知がされただけでなく、少なくとも補助参加の利益が必要であるとする点では一致しています。ところが、国・公共団体に対する請求の場合、どちらかというと被告側に補助参加の利益が認められます。そのため、告知を無視しても参加的効力が生じることはなく、告知を受けた公務員個人からすれば特に参加する意味はありません。

 

公共団体に損害賠償請求した上で、住民として公務員個人に求償するよう再提訴する?

国立マンション事件の名で知られる最判平成18年3月30日民集60巻3号948頁は、建築物撤去請求訴訟であり、景観利益は法律上保護に値するとしつつ、受忍限度論で請求を棄却したものですが、当該マンションの建設をめぐっては、さまざまな訴訟が提起されています。

国立市が当事者となった事件を大きく分けると、①高さ制限条例無効確認・反対から当選した市長の営業妨害行為についての損害賠償請求訴訟(損害賠償について請求認容)、②前記損害賠償についての住民の市に対する求償請求訴訟提起請求訴訟(請求認容)、③市の市長に対する求償請求訴訟(請求認容)の3段階であり、最終的に求償が認められています(東京高判平成27年12月22日判例地方自治405号18頁。上告棄却・不受理。国立市の資料:マンション訴訟の経緯等。また、政治的側面も含めて国立マンション訴訟 - Wikipedia)。

これと同じようなことを、被害者自らが住民として行うことは可能です(過労死した銀行員の妻が損害賠償請求した後に株主として代表訴訟を提起した例として過労自殺で株主訴訟 肥後銀元行員の妻 :日本経済新聞。なお、会社の場合、初めから429条の対第三者責任によることもできます:大阪高判決平成23年5月25日労働判例1033号24頁、東京地判平成26年11月4日判例時報2249号54頁など)。

…とはいえ、あまりに手間がかかりますし、国には使えません。

 

オレはあんたを刑事告発する。徹底的に糾弾するから覚悟しておくんだな!

民事責任がまともに使えないとなると、行政責任か刑事責任ということになります。行政責任が有効かは場合によるでしょうが、「上もまとめでダメだった」という場面では使えません(教育委員会もいっしょになっていじめを放置したケースなど)。そうなると、いきなり刑事告訴・告発ということになります。

もちろん、冒頭に挙げたような、きわめてセンシティブな情報を漏らしたような場合には、刑事責任を負わせることは検討してよいと思います。しかし、全ての事案がそうだとは思えません。

逆に、過失の場合、基本的には犯罪とされていませんし、生命・身体侵害のように犯罪とされている場合でも、組体操のような事案はともかく、一般には注意義務あるいは因果関係の判断が難しく、また、それゆえに検察がそもそも起訴しないことも多くあります。このような場合に責任追及の手段が何もないというのも、やはり問題があるように思います。

そうなると、やはり民事責任の追及はあったほうがよのではないかと思います。

 

しかし判例変更はしてくれそうにない

公務員個人に対して請求できないという原則は、解釈によるものなので、最高裁が解釈を変更してくれればそれまでです。しかし、その可能性は低いように思います。

最高裁は我が国の不法行為制度について、「カリフォルニア州の懲罰的損害賠償制度は我が国の不法行為制度の目的という実体的公序に反するから、懲罰的損害賠償を命じるカリフォルニア州裁判所の判決を我が国の裁判所が承認し、執行することはできない」という趣旨の判断を示した事件で(外国判決の承認については民事訴訟法118条4号、民事執行法22条6号、同24条)、その前提として、次のように述べています。

我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり…、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては・加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。(最判平成9年7月11日第51巻6号2573頁[万世工業])

誰を請求の相手方とするかは本来被害者の選択に委ねられるべきであるといっても、上記判決が言うような被害回復という観点から見る限り、特に個人を請求の相手方とする合理的必要性があるわけではありません。そうすると、個人請求の可否がオープンな論点である状態で(=昭和30年最判以前の時点で)議論する場合に、ことさらそれを否定するする解釈を取るべきでない理由にはなりえても、一度そのような判例ができてしまった状態で(=現時点で)、わざわざそれを変更する理由にはなるものではないと思われます。

(こういう世に阿るような議論をすると怒られそうですが、法解釈は道徳と違って判決・執行を通じて最終的には実力をもって実現されるわけで、先例拘束力があるかのような運用がされるのも、ある程度は仕方がないのかなあと思っています)

 

では改正

そうすると、法改正するのが筋なのだろうと思います。維新とか、公務員いじめが大好きなので(身を切る改革と称して部下を切る)、意外と乗ってくれるんじゃないでしょうか。

理論的には、損害賠償はエンフォースメントの手段の一つとして捉えられることが増えており(金融商品取引法違反、独占禁止法違反、個人情報保護法違反など。特許権侵害については、損害概念の変容は指摘されているもののなお損害推定にとどまっていますが、日本に似た法体系を有する韓国は懲罰的損害賠償を導入しています)、また、万世工業事件判決も立法は損害賠償を被害回復制度と位置づけていると読むべきだということを言ったに過ぎないので、改正可能な限界を超えるわけではないでしょう。

条文の形としては、さしあたり、2つが考えられます。1つは常に公務員個人に対して請求できるが(1項)、故意・重過失がなかった場合には逆求償ができるというものです(3項)。

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体及び公務員は、連帯して、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の規定により国又は公共団体が損害を賠償した場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

③ 第一項の規定により公務員が損害を賠償した場合において、公務員に故意又は重大な過失がなかつたときは、公務員は、国又はその公共団体に対して求償権を有する。

ただ、一般不法行為については、使用者責任の性質は代位責任であるという通説の帰結として、逆求償は認められていません。そして、国家賠償責任についてもその性質は代位責任だと解するのが通説なので、現行法では、仮に公務員個人への請求を認めるとしても、逆求償は認められないことになるのではないかと思います。これを変更することになります。

もう1つは、故意・重過失の場合に限り、公務員個人に対して請求できるというものです(現行法の解釈としてもそのような解釈が提案されていますが、多数説となるには至っていません)。

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、公務員は、国又は公共団体と連帯して、損害を賠償する責に任ずる。

③ 前項の場合において、国又は公共団体が損害を賠償したときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

こっちのほうがストレートな気はします。請求が認められるのは故意・重過失が認められた場合に限られますが、原告が故意・重過失を主張する限り、応訴は免れないことになります。

 

納税者訴訟を作る必要について

とはいえ、末端の公務員の責任を強化するだけでは、ただの公務員叩きです(大いに利用してやればよいと思いますが)。それと引き換えに、国にも納税者訴訟を作り、幹部公務員の責任も強化すべきでしょう。地方自治体幹部を住民訴訟リスクに晒し、企業経営者を株主代表訴訟リスクに晒しておいて、自分たちの責任を追及するルートだけは閉ざすのかという観点からも、そうすべきです。

地方自治体や企業経営者であれば検察もある程度機能するところ、国については必ずしもそうとは言えないことを考えれば、なおさらそうすべきです。

 

公務員の給与を上げる必要について

個人的には、以上に書いたような改正をすると同時に、公務員の給与を上げるべきだと思います。

一般に、公務員にまともな給与を払わないと腐敗すると言われますが、現に公務員の給料は低いにもかかわらず(比較対象は民間一般ではなく、同じような能力を持った人たちとすべきでしょう)、政治任用職はともかく、資格任用職の公務員についてそういうことが起こっているとは思いません。

しかし、より深刻なことが起こっているように思います。給料が低いとなると、能力のある人々が、一般的な傾向として公務員となることを避けるようになります。もちろんそこからすぐに定員が埋まらないということにはなりませんが、「金じゃない、やりがいだ」と考える人だけが集まるようになります。国民の中にはそれが望ましいと考えている人が一定数いるようですが(だからこそ政治家にとって得票のためには公務員叩きをするのが合理的なのでしょう)、これはよく考えると恐ろしいことです。

一つには、生産性が低下します。「やりがいだ」はともかく「金じゃない」とまで言える人はマイノリティなので、競争率が下がり、リクルート側から見れば能力の高い人材の獲得が相対的に難しくなるからです(この記事の読者各位は志願者側でことを見ることが多いのでしょうけれども、我々は主権者である以上、みな一面においてリクルート側です)。金銭的に言えば、税金の無駄遣いです。

もう一つには、企業・個人にとってのリスクが増大します。給料が低いとなると、「現状の運用は国民のためになっていないところがあるから、薄給だけど自分がそれを変えてやるんだ」と考えるような都合のいい志願者はいませんから、次第に志願先の実務に過剰に肯定的な人ばかりが集まるようになります。そうすると、多様性が失われ、意思決定にあたって多様な観点からの検討を加えることが難しくなり、意思決定の適正が確保できなくなっていきます。特に(特定の業規制などではないという意味で)一般的かつ企業・個人の重要な権利を制約するような活動を行う官庁であれば、その弊害は重大です。

(なお、上記二段落は集団の比較の話であり、個々の職員の能力の話ではありません。)

故人、生存中の人物、創作キャラクターの利用に関するメモ(AI美空ひばり、ナマモノetc)

問題になりうる場面と派生パターン

  • 故人をAI(ボーカロイド)で「復活」させて故人が歌っていた歌を歌わせてみる(e.g. AI美空ひばり)。
    • 故人をボーカロイドで「復活」させて故人が歌っていなかった歌を歌わせてみる
    • 故人をボーカロイドで「復活」させて故人のものでない考えを言わせてみる
    • 故人をCGで「復活」させて故人が言っていなかったことを言わせてみる(e.g. huluの淀川長治氏を再現したCM)
    • 生存中の人物を同意なしにボーカロイドで「複製」してその人が歌っていない歌を歌わせてみる(同意がある例として、がくっぽいど
    • 生存中の人物を同意なしにCGで「複製」させてその人が言っていなかったことを言わせてみる(同意がある例として、JUDGE EYES)
  • 創作キャラクターに性行為をさせる二次創作
    • 実在の異性愛者である人物に異性との性行為をさせる二次創作(実在の人物をモデルとする二次創作を「ナマモノ」と呼ぶ)
    • 実在の異性愛者である人物に同性との性行為をさせる二次創作
  • 死亡している場合
    • 織田信長(16世紀の人物)をゲームに登場させて、独自のキャラクター設定で描く(e.g. 戦国無双戦国BASARA
      • 性行為描写をする場合
    • 沖田総司(19世紀の人物)を…(以下同じ)(e.g. 銀魂FGO)(このへんまではほとんど議論はないと思うが、比較対象として)
      • 性行為描写をする場合
    • 吉田茂(20世紀の人物)を…(以下同じ)(ちなみに孫は麻生太郎である)
      • 性行為描写をする場合
    • 2010年代まで存命だった人物を…(以下同じ)
      • 相続人がいる場合/いない場合
      • 性行為描写をする場合
    • 故人(というか遺族)の人格権について、自衛隊合祀事件に関する議論を参照*1

 

どのような保護が考えられるか?

見た目の冒用とキャラクターの冒用が区別できる。

  • 見た目の冒用
    • 人:
      • 人格権的アプローチ:肖像権。「その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態…を撮影されない自由」(京都府学連事件)。
      • 財産権的アプローチ:パブリシティ権。「商品の販売等を促進する顧客吸引力…を排他的に利用する権利」(ピンクレディ事件)。ただし、「人格権に由来する権利」である(同)。
    • 飼育動物(法的には所有物):保護されない(パブリシティ権についてギャロップレーサー事件)。人格権はありえない。
    • 創作キャラ:著作権で保護される。ただし、侵害には依拠性、類似性が必要。人格権はありえない(著作者人格権は公表権、氏名表示権、同一性保持権などを内容とするので、今回の事案には使えなそう)。
  • キャラクターの冒用
    • 人:名誉権?(ブランドの冒用がブランドに対する社会的信用・評価を毀損すること(汚染;ポリューション)からすると、人に対する社会的信用の毀損として名誉の問題にできそう)
    • 飼育動物:保護されない。キャラクターという性質上、人格権しかありえないが、動物の人格権というのはありえないので。
    • 創作キャラ:保護されない(根拠は同上)。なお、理論的には著作権の保護範囲次第では財産的に保護されてもよいはずだが、実際にはそのような解釈は取られていない:著作物を構成するのは具体的表現であって、アイデアやキャラクターではない*2(アイデア・表現二分論。特許などとは異なる)。

 

松原先生のコメント

AI研究者の松原仁先生がコメントされていたので引用しておきます。

AI美空ひばりがレコードなどの記録媒体と異なるのは、新たな「歌唱」について、本人の意思や自己決定がない点だ。
「今後は音声や映像についても、臓器提供のように、生きているうちに意思表示するなど、コンセンサスが必要だという議論になるかもしれない」
新たなルール作りの必要性を示唆する一方、人の「意思」そのものを問い直す契機にもなると、松原教授は提起する。
「たとえばモノマネはこんなに非難されないですよね。『あの人にはマネされたくない』という意思があったかもしれないのに。機械がやると、だめなのか」
突き詰めていくと、そもそも人に意思はあるのか、という問いにぶつかる。
「私たちの判断もコンピューターのように、様々な外的要因で決定されているかもしれない。それは本当に自由意思と言えるのか」
AI研究は、人の機能の一部をコンピューターやロボットに担わせることを可能にし、人の存在そのものを見つめ直すことにつながると松原教授は考える。
「当然うれしいことだけではなく、見たくないものも目に入ってくる。違和感が出てくるのはまさしく、そういうときなのではないでしょうか」
AIひばり、歌声が問うもの 元人工知能学会長・松原仁さんに聞く:朝日新聞デジタル

 

*1:最高裁によれば、「人が自己の信仰生活の静謐を他者の宗教上の行為によって害されたとし、そのことに不快の感情を持ち、そのようなことがないよう望むことのあるのは、その心情として当然であるとしても、かかる宗教上の感情を被侵害利益として、直ちに損害賠償を請求し、又は差止めを請求するなどの法的救済を求めることができるとするならば、かえって相手方の信教の自由を妨げる結果となるに至ることは、見易いところである。信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものというべきである。このことは死去した配偶者の追慕、慰霊等に関する場合においても同様である。何人かをその信仰の対象とし、あるいは自己の信仰する宗教により何人かを追慕し、その魂の安らぎを求めるなどの宗教的行為をする自由は、誰にでも保障されているからである。原審が宗教上の人格権であるとする静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、これを直ちに法的利益として認めることができない性質のものである。」。
伊藤反対意見は、宗教上の人格権あるいは宗教上のプライバシーを認めるべきだとしており、個人的にはそれが妥当だと思う。なお、坂上意見は、伊藤裁判官と同様に近親者の宗教上の人格権を認めるべきだとしつつ、故人の父が合祀を望んでいるから受忍限度内であるとしているが、近親者にも優先順位があり、本人>配偶者>子>親>兄弟姉妹であるべきだろう。

*2:イデア・表現二分論について。著作権法著作権などの権利を創設する法律であるが、その目的は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」にある(同法1条)。つまり、文化の発展が最終的なゴールであり、著作権はそのためのインセンティブにすぎない。さらに言い換えると、排他的権利を与えることにより、創作に投下した労力に見合う対価を得る機会を与え(実際に得られるかは関係がない。それは創作に対する人々の評価しだいだろう)、それによって創作をしようという意欲をかき立てようとするわけである。ところが、あまりに著作権の保護範囲を広げてしまうと、創作の可能性が狭まり、かえって「文化の発展に寄与する」という目的を損なってしまう。そのため、具体的な表現にのみ著作物性が認められることになっている。例えばラフォーレのテプラの件( ラフォーレ原宿のテプラだらけの広告、見にくいと思いきやなぜか見ちゃう→しかし、パクリ疑惑が浮上し騒然 - Togetter)で言えば、テプラを使って表現するというのはアイデアの域を出るものではないので、少なくとも著作権侵害の問題にはならない。