やられたほうがセクハラだといえばセクハラ、なわけないでしょという話

やられたほうがセクハラだといえばセクハラだ」という言説は、ある程度広く信じられているようです。

しかし、そんなルールが存在するはずがありません。あるいは、そんなものはルールとは呼べないと言うこともできます。では、何がセクハラかは、どのように決まるのでしょうか。

 

ルールには一般に、典型的な事例と、限界的な事例があります。
例えば、思想・良心の自由について考えてみましょう。教育長が「反日思想を持つ教員がいないか調査し、見つかった場合には懲戒せよ」と指示し、校長がこれを実行した場合には、これは誰が見ても一発アウト、憲法19条にクリティカルヒットです。これが典型的な事例です。

それに対して、校長が卒業式を開催するにあたり、儀式の一環として、一般の教員に君が代を起立斉唱することを命じ、あるいは音楽専科の教員に伴奏することを命じ、それに従わなかった教員を懲戒した場合にはどうなるでしょうか。君が代は日本が外国を侵略した歴史と結びついており、起立斉唱・伴奏をすることはできないという考え方は、思想・良心の自由によって保護されることは確かです。一方で、卒業式では厳粛な雰囲気を演出する必要があるとか、教員は地方公務員として法令、通達、職務命令等に従わなければならないというのも確かです。いずれの結論も取りうる、限界的な事例です。

最高裁は、同様の事例で、比較的保守的な態度を取り、前者の場合には思想・良心の自由の侵害はあるが、正当化でき、19条に違反しないとし(最判平成23年5月30日民集65巻4号1780頁〔君が代起立斉唱事件〕)、後者の場合にはそもそも侵害がないとしました(最判平成19年2月27日民集61巻1号291頁〔君が代伴奏事件〕)。しかし、いずれの事件も19条に違反するとする考え方も十分に成り立ちうるところです。

 

セクハラも同じで、典型的な事例と限界的な事例があります。例えば職場の同僚にカップサイズを聞くことがセクハラにあたることは、誰の目にも明らかでしょう。また、「ブサイクが女性に「おはよう」って言うこと」がセクハラにあたらないことも、誰に目にも明らかでしょう。女性が嫌いな男性に声を掛けられて不快な気分になることはあると思いますが、それはセクハラではありません。その女性がセクハラだと言い張ることはあるかもしれませんが、彼女が勝手にそう言っているだけで、男性がセクハラをしたことにはなりませんし、それで男性の周囲からの評価が傷つけられるようなことがあれば、それはそれで名誉毀損という別のルールで処理すればよいことです。

限界的な事例として、次のような事例を考えてみましょう。

職場で女性がフロアの段差につまづいてこけそうになった。しかし女性は1枚のクリアファイルを持っていたにすぎず、周囲に物はなく、床もカーペットで、危険はなかった。同僚の男性が、女性を抱きかかえるようにして受け止めた。

この状況では、確かに女性を支える必要はあるかもしれません。少なくとも支えようとしたことが悪いとは言えないでしょう。しかし、「女性は1枚のクリアファイルを持っていたにすぎず、周囲に物はなく、床もカーペットで、危険はなかった」という状況では、抱きかかえるようにして受け止める必要まではありません。そうすると、これが許容されるかは、2人の関係まで考えて判断しなければならことになります。例えば男性と女性が上司と部下の関係にあったことは、この行為がセクハラだという方向に働きます。それに対して、男性と女性が日頃から親しくしていたとか、日頃から多少の身体的接触をしていたということは、この行為がセクハラではないという方向に働きます。

女性が社内でハラスメントの監視を担当する部署に被害を申し出た場合、第三者がその行為がセクハラだったのかを判断することになります。限界的な事例ですから、どちらの判断もありえ、セクハラだとされた場合、男性が納得できないことはあるでしょう。しかし、そのことは、どんな行為も被害者がセクハラだと言えばセクハラだということにはなりません。あくまで大半の行為はセクハラであること/ないことが明白なのです。「やられたほうがセクハラだといえばセクハラだ」は、納得できない男性の捨て台詞としてはありかもしれませんが、真に受けるには値しません。

基礎演習民事訴訟法 10 主張・証明責任:要件事実入門

1 本件訴訟の訴訟物は、Xの甲土地所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求権と、妨害排除請求権としての土地所有権移転登記手続請求権である。
2 本件訴訟の請求原因事実は、①Xの甲土地所有権取得原因事実と、②建物収去土地明渡請求についてはYが甲土地を占有していること、③土地所有権移転登記手続請求についてはYが甲土地の登記を保有していることである。
 ①について、Aの元所有については争いがないから、権利自白が成立する。したがって、XはAの死亡、Cが相続人となったこと、CX間の売買契約締結の事実を主張立証する必要がある。
 ②について、Yは甲土地上に乙建物を所有することにより甲土地を占有している。
 ③について、Yは甲土地の登記を経由している。
3 Yは、抗弁として、Aが死亡までに甲土地所有権を喪失したことを主張することが考えられる。
 YはAから代理人Bを介して買い取ったと主張している。その抗弁事実は、売買契約締結の事実(民法555条)、Bが甲土地売買について代理権発生原因事実、BがXのためにすることを示したこと(以上につき民法99条)である。仮にBの代理権発生原因事実が認められなければ、追認(民法116条)または表見代理(同法109条、110条、112条)に当たる事実がこれに代わりうる。
4 また、Yは、抗弁として時効取得を主張することが考えられる。時効取得の要件は、Yが、「①所有の意思をもって、②平穏に、かつ、③公然と他人の物を占有し」、④20年継続したこと(民法162条1項)、または、「⑤その占有の開始の時に、善意であり、かつ、⑥過失がな」く、⑦10年継続したこと(同条2項)、および、援用の意思表示である(同法145条)。
 ①〜③、⑤は186条により推定されるから(暫定真実)、Xがその不存在を主張立証しなければならない。
 ④、⑦については、占有のの開始時と終了時における占有が証明できれば、その間の占有が推定される(法律上の事実推定)。したがって、Yは両時点の占有を証明すればよく、Xは期間中の任意の時点における占有の不継続を証明しなければならない。
 ⑥については、規範的要件であるから、それ自体を主要事実と解すれば、当事者の主張・立証の機会が保障されない。評価根拠事実・評価障害事実を主要事実と解するべきである*。本件では、Yが無過失の評価根拠事実、Xが評価障害事実の主張立証責任を負う。

 

*即時取得においては、188条により前主の権利推定がされる結果、無過失が推定されるが(最判昭和41.6.9)、時効取得においてはそうではない(大判大正8.10.13、最判昭和46.11.11)。

基礎演習民事訴訟法 9 釈明権

1 釈明権・釈明義務
 釈明権は法文上裁判所の権限であるが(149条1項)、その行使は適正・公平な裁判を行うべき裁判所の義務でもあると解される。その範囲は、事案により異なるが、次のように解するべきである。①当事者の主張が不明瞭であったり、矛盾している場合には、釈明権を行使しないことは原則として釈明義務に違反すると解する(消極的釈明)。②当事者が主張していない事実等を主張するよう示唆することは、裁判所の中立性を害する可能性があるから、勝敗転換の可能性、当事者が任意にそれを主張することが期待できるか、当事者間の公平を害することがないかなどを考慮して決するべきである(積極的釈明)。
2 ケース1では、裁判所は、投資契約の立証は不十分であるが、消費貸借契約とすれば請求を一部認容できると考えている。ここでする釈明は、積極的釈明に当たるが、勝敗転換の可能性があること、当事者は投資契約であることを前提に攻撃防御をしており、Aが任意に消費貸借契約を主張することは期待できないこと、裁判所の心証によればAがBに100万円を渡したことは確かであり、その返還請求権の構成を変えることによって返還が認められることになっても、当事者間の公平が害されるとはいえないことから、裁判所は、この釈明をするべきである。
 なお、訴えの変更は、事実ではなく請求を変更するものであるが、釈明権は「法律上の事項」についても行使することができるから(149条)、訴えの変更を示唆する釈明自体に問題はない。
 したがって、裁判所は、設問の釈明をするべきである。
3 ケース2では、裁判所は、Cが援用していない商事消滅時効を援用すれば、請求は認められなくなると考えている。ここでする釈明は、積極的釈明に当たり、勝敗転換の可能性があり、Cは消滅時効に気づいておらず任意にこれを主張することも期待できない。しかし、消滅時効は、当事者が争った結果認められた請求を一度に覆すものであること、本来その援用は当事者の意思に委ねられていること(民法145条)から、この釈明は当事者間の公平を害する。
 したがって、裁判所は、設問の釈明をすることはできない。
4 ケース3では、裁判所は、Fの請求が権利濫用にあたると考えている。法の解釈・適用は裁判所の専権であるが、裁判所が当事者が前提としていない法律構成を妥当であると考えた場合、それが示されなければ、当事者の弁論の機会が実質的に保障されないこととなる。そこで、そのような場合には、裁判所は、その法律構成を釈明しなければならない。
 ケース3において、当事者は権利濫用を争点としていないから、裁判所はそれを釈明しなければならない。
 なお、裁判所は、一度釈明をすれば、当事者が権利濫用を援用しない場合でも、主要事実たる権利濫用の評価根拠事実が主張されている限り(これが主張されていなければ弁論主義に違反する)、請求を権利濫用として棄却することができる。

基礎演習民事訴訟法 8 自白

1 自白とは、弁論としてされる相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述をいう。不利益性は、基準の明確さから、陳述者が当該事実について主張立証責任を負うかどうかによって判断するべきである。
 自白が成立すると、裁判所はその事実を判決の基礎としなければならず(審判排除効。弁論主義第2テーゼ)、当事者はこれを証明する必要がない(証明不要効。179条)。また、自白にこれらの効果が生じる以上、相手方当事者が自白を信頼して証拠収集・保管に注意を払わなくなっても責めることはできないから、この信頼を保護するため、自白をした者は原則としてこれを撤回することができないと解するべきである(不可撤回効)。
 Xの当初の主張は、弁論準備期日においてされている。その内容は、「AY間で本件土地をYが無償で使用することを認める合意がなされたこと、および、その合意に基づいてYは本件土地の引き渡しを受けたこと」であり、使用貸借契約(民法593条)締結の事実に関する主張である。これに対して、Xは使用貸借契約締結事実の存在を認めているから、相手方の主張と一致している。しかし、使用貸借締結の事実は明渡請求に対する抗弁であるから、Xにとってのみ不利益である。したがって、Yの当初の主張にYに自白は成立ない。
 そうすると、裁判所は、賃貸借の主張を、使用貸借の主張についてもYの自白を理由に却下しなければならないことにはならず、その存否を自ら判断するべきである。
2 もっとも、本件では、弁論準備手続において使用貸借契約締結の事実を前提として返還時期の定めの有無が争点となることが確認され、口頭弁論・証拠調べが行われており、最終口頭弁論期日になってYが賃貸借契約締結の事実を主張している。このような主張の態様は、「時機に後れて提出した…防御の方法」にあたり、かつ、「訴訟の完結を遅延させることとなる」と認められるから、Yに故意又は過失がある場合には、裁判所はこの主張を却下できる(157条1項)。また、そうしない場合でも、弁論の全趣旨の一部としてYの不利益に考慮することができる(247条)。

基礎演習民事訴訟法 7 弁論主義

1 弁論主義
 民事訴訟が対象とする私法関係には、私的自治の原則が妥当するのであり、訴訟による場合でも、可能な限り当事者の意思を尊重するべきである。そこで、裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないと解される(人事訴訟法20条参照。弁論主義第1テーゼ)。
 もっとも、この原則は、主要事実についてのみ妥当すると解するべきである。間接事実・補助事実は、主要事実を推認させ、あるいはその証明力に影響を与える点で、証拠と同様の機能を有しているところ、証拠については自由心証主義が妥当するのに(247条)、間接事実・補助事実の認定には弁論主義が妥当するとすれば、裁判官に不合理な事実認定を強いることになりかねないからである。
2 設問1
 XのYに対する請求は、本件英会話教材の売買契約に基づく代金支払請求権である。売買の事実は、その発生原因事実として主要事実である。弁済の事実は、債務の発生を前提とするものであるから、抗弁事実として主要事実である。
 裁判所が認定したBのAに対する15万円の代金支払いは、弁済の抗弁の主要事実にあたる。そして、X, Yのいずれもこの事実を主張していない。したがって、この認定は弁論主義第1テーゼに違反し、違法である。
 弁済を認定できないとすると、裁判所は、売買契約締結の事実が認められるとの心証を得ている以上、請求を全部認容しなければならず、弁済を理由に一部棄却することはできない。
3 設問2
 裁判所が認定した「25万円の支払いはドイツ語会話教材の代金である」との事実は、弁済の事実である、①BがYに15万円を支払った、②①の支払いは英語会話教材代金債務の履行としてなされた、のうち②を否定する積極否認事実(民事訴訟規則79条3項参照)である。積極否認事実は、主要事実の不存在を推認させるものであり、間接事実であるから、弁論主義第1テーゼの適用はない。したがって、X, Yのいずれもこの事実を主張しなくても、裁判所はそれを認定し、請求を一部棄却することができる。このことは、Xの訴訟代理人が標記の主張をしているか否かで異ならない。

基礎演習民事訴訟法 6 二重起訴の禁止

1 142条は、重複する訴えの提起を禁止している。相殺の抗弁は、訴えの提起ではない。しかし、同条の趣旨は、訴訟不経済の防止と、既判力の矛盾抵触のおそれの回避にある*。そして、本件のように、別訴で請求中の債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張する場合、相殺については既判力の拡張があるから(114条2項)、既判力の矛盾抵触のおそれがあるし、本訴でも別訴請求債権を審理・判断することになるから、訴訟不経済が生じる。したがって、そのような相殺の抗弁の主張は許されないと解するべきである。
 一部請求において、一部請求であることを示した場合は、訴訟物は当該一部に限られるから、別件訴訟における訴訟物は、BのAに対する8000万円の損害賠償請求権のうち3000万円の部分である。Bが本件訴訟で自働債権として主張したのも、同じ権利の同じ部分である。したがって、この相殺の抗弁は認められない。
2 別訴請求が一部請求である場合、別訴の訴訟物は当該一部に限られることは1に述べた。このため、別訴請求債権の残部を自働債権とする場合、既判力の矛盾抵触のおそれはない。訴訟不経済については、一部請求であっても、裁判所が審理する発生原因や消滅原因等は全部請求のときと異ならないから、避けることができないが、相殺が防御手段であり、簡易決済機能を有することからすれば、相殺の主張が権利の濫用に当たらない限り、正当化されると考えられる。
 別件訴訟における訴訟物は1に述べた。Bが本件訴訟で自働債権として主張したのは、別件訴訟請求債権のうち別件訴訟の訴訟物となっていない部分である。そして、Bが本件訴訟において相殺の抗弁を主張したのは、Aの経営状態が悪化していることを聞き、確実に再建を回収しようと考えたからであり、濫用的であるとはいえない。したがって、この相殺の抗弁は認められる。

 

*リークエ526は、訴訟不経済の防止と(既判力ではなく)判決内容の矛盾抵触のおそれとする。理論的にはそのほうが正当であると思われるが、最判平成3.12.17(百選38①)に従って既判力の矛盾抵触とした。